ヴィータと不思議なお人形1話

「ここ…何処だよ…。」
ヴィータは一人見た事も無い空間を飛びまわっていた。
宇宙空間…の様にも思えるのだが、空気はあるし、重力? も感じる。
そして何より、周囲に色んな物が浮いて漂っている。
管理局の仕事で様々な世界を見て来たヴィータにとってもこんな世界は初めてだった。
「って言うか何で私こんな所にいるんだよ…。」
それ以上に分からないのがこれだった。何故自分がこんな意味不明の場所にいるのか。
分からない。とにかく気付いたらヴィータはここにいた。
しかも管理局に連絡を取ろうとも通信が繋がらない。
時空間通信が可能で当たり前の管理局の通信が…である。
「と…考えると…管理局の感知しない世界の一つ…と見るべきかなここは…。」
そりゃ管理局の感知する範囲内だけがこの世の全てでは無い事はヴィータにも分かる。
例えば、死者の霊が行く場所とされる死後の世界、俗に言うあの世の存在は
管理局の力を持ってしても未だ解明されていない。とそう考えれば
今ヴィータのいる世界もまた管理局の感知しない範囲の世界と考えるべきだろう。
「だが…何もしないワケには行かないな…。」

「はぁ…みんな…心配してるだろうな〜…。」
とにかくヴィータは彼方此方を飛びまわったが、皆と通信出来る目処は立たず、
ヴィータはほとほと困り果てていた。と、そんな時だった。
「あ〜ら〜こんなを一人で何してるのぉ?」
「誰だ!?」
突然背後から声がした。ヴィータが後を向くと、そこには銀髪で黒い服を着て、
何より黒い翼を生やした小さな少女の姿があった。しかし、彼女は人間では無い…。
「に…人形?」
それは人形。俗に言うアンティークドールと呼ばれる代物だった。
これが人形だとすれば、じゃあ先程ヴィータに話しかけたのは誰なのか…
「な〜に私の事ジロジロ見てるのよぉ…。」
「うわぁ! 人形が喋った!」
なんと目の前の人形が喋っているでは無いか。しかも表情まで人間と違わぬ位変わるのである。
これにはヴィータも驚いてつい後に下がっていた。と、それと同時に何か小さく黒い物が
ヴィータの頬を掠めた。そしてその黒い物はヴィータの背後に漂っていた物体に
まるでダーツの矢の様に突き刺さる。
「これは…羽!?」
先程の黒い小さな物とは黒い羽。そう、今ヴィータの目の前にいる銀髪で黒い服を着て
黒い翼を生やした少女人形から放たれた物だった。
「あ〜もぉ! 避けちゃダメよぉ。せっかく可愛い顔をもっと可愛くしてあげようと思ったのにぃ。」
「こらぁ! いきなり何をする!」
「あらぁ〜ごめんなさぁい…。私ぃ…赤い物が大嫌いなのぉ。だから…
全身赤ずくめの貴女を見てると…壊したく…ジャンクにしたくなっちゃうのよぉ!!」
少女人形はまるでムシケラを見るような凶悪な目で襲い掛かって来た。
確かにヴィータの髪の毛は赤いし、騎士服も赤い。目の前の少女人形が
本当に赤が壊したくなる程嫌いと言うのなら…襲われても仕方が無かった。
「くそっ! こんなワケの分からない所でやられてたまるか!」
ヴィータに襲い掛かる少女人形の黒い翼をグラーフアイゼンで振り払い、
今度は逆にヴィータが飛びかかった。
「最初に攻撃して来たのはお前だからな! ちょっと痛い目にあってもらうぞ!!」
ヴィータはグラーフアイゼンを振るうが…当たらない!
少女人形は軽やかにその一撃をかわしていた。
「何!?」
「無駄よぉ。nのフィールドで私に勝つ事は出来ないわぁ〜。」
「ん!? nのなんとか…!? 何だそりゃ!」
「nのフィールドよぉ。もしかして貴女それを知らなくてここに来たのぉ?」
「そ…そうだよ…。」
ヴィータは苦しそうに答えるが、それに少女人形は気を良くして笑い始めた。
「何なら私がここから出る方法教えてあげましょうか?」
「何!?」
「貴女がここから出る方法…それは死ぬ事よぉ!!」
少女人形は恐ろしい顔となってヴィータに再び襲い掛かった。が…突如少女人形は飛び退く。
そして先程少女人形のいた空間を赤い薔薇の花弁が切り裂いていた。
「何の関係も無い人間を襲うなんて…貴女らしいわね水銀燈。」
「真紅!」
突如として二人の間に何者かが割って入る。それもまた人形だった。
金髪で紅い服を着た少女人形。
「また人形が出やがった!」
しかし、この紅い服の少女人形は少々様子が違った。黒い少女人形とは人形同士で仲間なのかと
一瞬思ったが、そうでは無い。それどころかヴィータを守るかのように彼女の前に立っていたのである。
「お父様が仰っていた事を忘れたの? ローゼンメイデンは人間を傷付ける存在じゃないと…。」
「(ローゼンメイデン?)」
「うるさいわねぇ真紅…。貴女が私に意見するのぉ? でもまあ良いわ。ここは退いてあげる。
けど、次に会ったらその時こそ本当にジャンクにしてあげる…勿論そっちの人間もね!」
そう言い捨てると共に黒服銀髪の少女人形は何処へと立ち去って行った。
「もう大丈夫よ。」
「お…お前は一体何なんだ! 人形なのに喋るなんて!」
ヴィータは思わずグラーフアイゼンを構えていたが、紅服金髪の少女人形は恐れずに近寄って来た。
「怖がる事は無いわ。だからそれを下ろして頂戴。」
「う…。」
確かにその通りだった。黒服銀髪の少女人形からは殺気が放たれていたが、
こちらの紅服金髪の少女人形からは殺気の類は全く感じられなかった。
「私はローゼンメイデン第五ドールの真紅。貴女は…?」
「ヴィータだよ…。」
「そう…。ならヴィータ。貴女はどうしてここにいるの? 見る限りドールのマスターでは
無い様子だけど…。」
「そんなのこっちが聞きたいよ! 気付いたらここにいたんだからな!
それにさっきの黒い奴が言っていたnのなんとかって何だよ!」
「nの何とかでは無く…nのフィールドよ。説明しても貴女には分からないでしょうけど…。」
「それよりここから出る方法は無いのか!?」
「そう…なら付いて来なさい。」
真紅は何処かへと飛び始めた。しかし、ヴィータの心の中には疑いが少々残っていた。
「信用しても良いんだろうな? あの銀髪黒服の奴みたいに私をどうこうしようって
魂胆じゃないだろうな?」
「信用するか否かは貴女の自由よ。ただし…ここを出る事が出来ずに野垂れ死にたく
無かったら…私に付いて行った方が良いわね。」
「わっ分かったよ! 付いて行けば良いんだろ!?」
もうこの状況では真紅を信用する他は無かった。そして真紅の後を付いて行くまま
飛んで行くと、突然何も無い空間に扉の様な物が現れたでは無いか。
「ここが出口よ。」
真紅はそのドアを開くと共にその中へ入り込み、ヴィータもそれに続いた。
そして出た先は…薄暗い部屋の中だった。おまけにその部屋の中にある
大きな鏡から二人は出て来たのである。
「え!? か…鏡から出た…? どうなってるんだ?」
ヴィータはその鏡に手を当てるが、別に何か仕掛けの類は無いただの古い鏡。
だとするなら、管理局で使用されている次元移動方法とはまた別の方法だと
考える他は無かった。
「さ、付いて来なさい…って貴女…さっきと服が変わってなる様な…。」
「ああ、あんまり気にするな。」
ヴィータは先程までは赤い騎士服に身を包んでいたが、今はドクロマーク(?)の付いた
シャツや小さなスカート、シマシマのニーソックスなどの普段着に変わっていた。

[目次へ][次へ]
2007年08月01日(水) 10:02:24 Modified by beast0916




スマートフォン版で見る