白き異界の魔王10話

テント内:八神はやて
赤毛の少女を捕獲した後はやて達は戦場となった場所からどうにか飛べる程度に修理した内火艇で離れた。
少女に仲間がいた場合の再襲撃を警戒したためだ。
今はある山の中に身を隠していた。
テントを張り、外の内火艇にはネットをかぶせてカモフラージュしている。
はやてがクラウディアから届いた報告を読んでいる向かいでは、ティアナが上着を脱いだなのはに手当をしている。
「なのはさん、痛くないですか?」
「うん、もう平気。ありがとう」
外傷の他に骨折が数カ所、内臓にもダメージがあったが内火艇の救急箱とクロスミラージュにインストールしておいた初歩の回復魔法でかなり治っていた。
少なくとも外傷は見えない。
「ねえ、はやてちゃん」
制服を気ながらなのはが眉を寄せる。
「フェイトちゃんと・・・連絡は?」
はやてはそれに首を横に振る。
「できてない。通信機にも反応は無いんよ」
フェイトの念話は弱くはないが、それでも限度があり遠すぎると通じなくなる。
通信機があれば遠くからの微弱な念話を掴むこともできれば、逆に遠くまで念話を届かせることもできる。
しかし、その通信機にも反応はない。
「フェイトちゃんのことやから滅多なことはないとも思う。せやから、あたしらはあたしらで動こうと思う」
「そうだね。同じロストロギアを追っているんだから、行く先は同じはず」
テントの入り口が開く。
ヴァイスが入ってきた。
「どや?ヴァイス君」
「見てくれは悪いですが直りましたよ。戦闘機動だってこなして見せますよ」
内火艇の修理はかなり力を使ったのだろう。
体中から汗が噴き出している。
「ま、これでも飲んで休んどいて」
大した物ではない。ただの水だがヴァイスはやけにおいしそうに飲む。
「あとはスバルやな」
言った途端に入り口が開く。
「お待たせしました」
「お、きたきた。それでスバル。なんか聞けた?」
スバルが手錠をつけた少女と一緒に入ってきた。
「ええ・・・まあ、名前くらいは」
スバルは少女に苦笑いを向ける。
「・・・緋室灯」
少女はそれだけを良い、はやてをじっと見ている。
「じゃあ、灯さん、と呼ばせてもらうな。灯さんはそこにすわっといて」
灯はうなずいて椅子に座る。

スバルもその横に座った。
「みんな揃ったところでそろそろ始めようか。これからの方針と、それに関することについてや」
全員がうなずく。
「・・・私はここにいて良いの?」
灯をのぞいて。
「ええよ、むしろ聞いてもらいたいんや。あたしはな、灯さんがあたしらの敵じゃないかも知れないっておもっとる。せやから、もしそうだったり、あたしらを助けて良いと思ったら言って欲しいんよ」
灯はなにも言わない。
じっとはやてを凝視する。
はやては視線を巡らせた。
「まずは現状についてや。あたしらは今、どこにいると思う?」
ティアナに目を止める。
「え?あ、あたしですか?えーと・・・・第97管理外世界、地球。そこの日本ですよね」
ティアナには自信があった。
「それが違ってて、ここは第97管理外世界に似たあたしら時空管理局が初めて接触する新しい世界や、と言ったら?」
「そんなはず無いですよ」
調べたのは自分だし、出てきた確率は他の可能性を考慮しようもないほどに高かった。
「だって、ここまでパラメータが一致する世界なんてあり得ないですよ」
普通はあり得ない。
次元世界はそれぞれがそれぞれの状況の中である程度独立した過程を踏んでいく。
初期条件が違えば過程もかわる。
その結果、現在観測して得られる数値も変わってくる。
もし、初期条件が限りなく同じ世界があったとしても発展していく過程で偶然ほんの少しでも違いがでれば後の過程が大きく変わっていく。
文明が生まれるほどに長い過程を経た世界ならなおさらである。
第97管理外世界くらいの文明であればその違いが顕著になるには十分である。
「私もティアナと同じ意見だな」
なのはも口を開く。
「さっき、灯さんと戦った場所。どこの町かはわからないけど看板の文字や絵は日本のだったと思う。他にもたくさんそういうのがあった」
はやては視線で先を促す。
「それにここに来るまでに、見たことのある場所があった。はやてちゃんも見たでしょ?」
日本で誰もが知っているランドマークがあったのだ。
「そうやね。そうなんやけど・・・クラウディアから不自然なとこがあるって報告がきたんよ」
なのは達の目の前には、この世界の観測結果が映し出される。
「内火艇での分析やと誤差となってまうこの部分やけどな・・・灯さんが使った魔法のデータと合わせると誤差や無いかも知れないんや」
スバルが灯の方に自分の前に展開されたデータを移動させる。
「ほら、この部分だって」
指で問題の場所を示している。
「ここは魔力に関するとこやね。そこが灯さんの魔力の傾向と大まかに一致しとるんよ。つまり、そこの部分は誤差やなくてこの世界特有の魔力傾向をあらわしとるっちゅうことやね」
「それじゃあ、この世界は魔法に関してだけ第97管理世界とは違う世界なんですか?」
ティアナがつぶやく。
「ところがそれも断定できんのよ。灯さんの使った魔力に比べて数値が小さすぎるからな。で、クラウディアのスタッフが1つ仮説を出したんよね。魔力の観測を難しくする結界が張られてるんやないかって・・・しかもや、世界規模の」
観測は数回、場所を離して行われている。
観測が行われたのは世界のごく一部ではあるが、その結果から全体を予測できる。
だが、
「そんなの無理ですよ。だって、ものすごい人数が必要になるじゃないですか」
世界規模となると最低でも惑星規模となる。
それほどの結界を作るとなると膨大な人数が必要になる。
たとえ全員Sランクオーバーの魔導師だったとしてもだ。
膨大な人数で結界を作るには、当然それをバックアップする人員も膨大になる。
それは大規模な組織を作ると言うことだ。
しかもそれだけの手間をかけて作り上げたのが魔力の観測を難しくするだけというのはあまりにも意味がなさすぎる。
魔力の観測を難しくすると言うことは魔法の存在を隠すと言うことだ。
しかし、それだけの規模の組織を構築すれば魔力の観測を難しくしても魔法の存在が確実に明るみに出る。
そうなれば魔力の観測を妨害する結界に意味はなくなる。
存在自体が矛盾を抱えているのだ。
「そうなんよね。そんなの考えられないんよ。せやけど・・・」
なのはが後を継ぐ。
「無視できないデータが多くある。でも、出てくる結果は矛盾しすぎている。だから、ここがどういう世界かわからなくなってるんだね」
「そう。せやから、あたしはまずこの世界が第97管理外世界か、それともよく似た別の世界かをはっきりさせたいんよ。
第97管理外世界やとしたら、うちらは応援を送ってもらえる。第97管理外世界のつもりで他の世界やったら、あまりにも危険や。
しかもロストロギア・ステラを探さんといけんからなるべく早く確認せんといけん」
はやては再び視線を巡らせた。
「でも、どうやって確かめるんですか?」
スバルが首をかしげる。
頭の上に?マークが見えるようだ。
「海鳴市に行ってみるのは?」
「うーん、それなんやけど・・・」
なのはの提案にはやては銃弾を1つ出すことで答える。
「これ、灯さんがなのはちゃんを撃ったもんなんやけどな。どうやら、工業製品みたいなんや」
「あ・・・と言うことはそれを作る工場を運営する組織がバックにいる可能性があるってわけですね」
「そう。そういう組織と今は接触できんから・・・今、不確定の状況で接触したら、あたしらが相手せんといけんような犯罪組織やった、て可能性もまだある。で、そういうところがなのはちゃんの家族に目をつけたらまずいしなぁ」
全員黙り込んでしまう。
「それなら、いっそ応援を送ってもらうっていうのはどうですか?」
「インターネットで地図や衛星からの写真を見ることができたはずだから、それで海鳴市を見てみたらなにかわかるかも」
ティアナとなのはが同時に声を上げる。
「うん、それいこか。応援が第97管理外世界に行ってうちらを見つけられかったら、はっきり解る。それに、あたしらが知ってる海鳴市があるか無いかで判断もできそうや。インターネットにつなげるソフトは・・・クラウディアに送ってもらわんとな」
はやてが軽く机を叩く。
「せやけど、ちょっと危険になるな。どっちの方法もこっちから信号出しつづけんといけんしな」
応援が万が一にも別の場所に行ってはいけないので位置情報を発信続けなければ行けない。
インターネット接続については・・・説明の必要もないだろう。
どちらにしても自分たちの位置が襲撃者側に気づかれる可能性は十分以上にある。
その危険を考え全員うなずいた。
「なら、早速準備にかかろう」
灯以外は立ちあがり、それぞれが行動を開始する。
「灯さんは、そこにいてな。できたら早くあたしらを信用して欲しいんやけど・・・まだ無理やな」
灯の視線は、まだ変わらずにきつかった。

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2007年07月28日(土) 18:11:27 Modified by beast0916




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