NANOSING3-1話

 ここはローマ近郊のカトリック系孤児院『フェルディナントルークス院』。どういう理由かは知らないが、二人の子供が喧嘩をしている。
すると、騒ぎを聞きつけたのか責任者の神父らしき男が近づいてくる。
「ぷるぁ!二人ともやめなさーい!」
 …本人は「こらぁ!」と言ったつもりなのだろうが、「ぷるぁ!」にしか聞こえない。
その奇妙な怒り声に反応し、子供たちが喧嘩を止める。
「一体どうしたというのです?」
「マークの奴が先に殴ったんだ!」
「ちがわい!ネビスが僕の本を…」
「何だとコイツ!」
 ネビスの怒声が響き、再び喧嘩が始まるかと思われたが…
「やめなさいーーーーッ!!」
 神父『アレクサンド・アンデルセン』が一喝。驚いた二人は喧嘩を止める。
「友達に暴力を振るうなんていけません!そんな事では二人とも天国に行けませんよ!」
「えぇぇ〜っ…」
「神父様、ごめんなさい…」
 ようやく喧嘩が終わったようだ。それを確認し、アンデルセンが言う。
「いいですか?暴力を振るっていい相手は、化け物共と異教徒共だけです」

第三話『ANGEL DUST』(1)

「アンデルセン神父」
 眼鏡をかけた神父らしき男が近づいてくる。
アンデルセンが何かを察したのか、子供たちを孤児院の部屋へと戻し、神父へと話しかける。
「何の御用ですか?一体どうしたというのですか」
「まあ、待て。後二人来る。彼女らが来たら話そう」
 そう言ってから待つこと2分。二人の女性が近寄ってきた。
一人は神父服を着た女性。嫌がるもう一人をここまで引っ張ってきたようだ。
もう一人はシスターらしき女性。どういう訳かひどく嫌がっている。
「どうなってるの!?教会でミサだって言うから来たのに、ここ孤児院じゃない!」
 その一方であるシスター『高木由美子』が言う。
「ええ、ミサよ。でもその前に一仕事あるから、仕事の話をしにね」
 もう一方である神父服の女性『ハインケル・ウーフー』が答える。
「それじゃあ、そろそろ『由美江』を起こそうか」
 ――――いや『由美江』って誰ですか?
「もう嫌あっ、『仕事』はもう嫌よう」
 嫌がる由美子を無視し、左の拳に息を吐きかけるハインケル。そして…
「おやすみなさい『由美子』。おはよう『由美江』」
 由美子のアゴに左ストレートがクリーンヒット。そのままのびている由美子をひきずって、ハインケルがアンデルセン達と合流する。
「それで、話とは何ですか?」
 ハインケルと由美子が来たのを見て、「先ほど言っていた二人とは彼女らの事か」と判断したアンデルセンが再び問う。
「ここの所おかしな事件が頻発しているだろう。特に英国でだ」
「ええ、よく隠蔽しているようですが」
「吸血鬼だ」
 それを聞き、アンデルセンの目の色が変わる。
「ほう…」
「英国内で連続して吸血鬼が出現している。その数は明らかに異常だ」
「結構な事じゃないですか。英国のプロテスタント共が沢山死んだんでしょう?」
 アンデルセンが最高にいい笑顔で言う。プロテスタントが死んでそんなにうれしいか。
「そうでもない…『HELLSING機関』を知っているな?連中思ったより上手くやっているようだぞ。
現に被害は最小に抑えているようだ」
「はは…あんな素人集団、我々に比べればまるで幼稚園だ。
カトリックは!法王庁(ヴァチカン)は!そして『我々』は!!連中より遥か昔から『奴ら』と闘争を続けてきたのですから!!」
 …どうやら彼らはヴァチカンにおけるHELLSINGと同種の存在…いや、こんな事を言うと怒りそうだから訂正しておく。
どうやら彼らはHELLSINGと同種だが、HELLSINGより遥か昔から化け物退治を受けていたようだ。
「で、私達は何をすれば?英国内の事ならHELLSINGに任せればいいんじゃないですか?」
 ここまで黙っていたハインケルが口を開く。ここまでで核心といえる事は話していない。
もしこれが話の核心ならば、アンデルセンやハインケル達が聞く理由が無いからだ。
だがご心配なく。ここからが話の核心だ。
「…英国…ならだ」
「…というと?」
「今度起きた地点はアイルランドだ。北アイルランド地方都市ベイドリック。
HELLSINGが動き出している。我々とてそれを黙ってみているわけにはいかん」
「自領土だといわんばかりに土足で機関員を派遣するとは…
あいも変わらず厚顔無恥な連中ですな」
 ここまで言うと、神父が背を向け、帰ろうとする。
「あの地はプロテスタントのものではない。カトリックの土地だ。
吸血鬼どもは我々の獲物だ。奴らに先んじられるわけにはいかんのだよ」
「へぇ…で、あいつらと接触したらどうすんの?」
 先ほどハインケルにのされた由美子の声がする。だが、喋り方といい先ほどと雰囲気が違う。
「…あ、由美江。起きた?」
 …彼女は『由美江』。由美子の中にいるもう一人の由美子といったところか。
…つまり彼女は二重人格で、先ほどのハインケルの一撃は人格交代のために由美子を眠らせるためのものだ。
…もっとも、なぜ由美江を起こしたのかは不明だが。それはともかくとして、由美江の問いに神父が答える。
「…我々は唯一絶対の神の地上代行者だ。異端共の挑戦を引くわけにはいかん」

 その夜、ベイドリック近郊の家。吸血鬼が根城にしている家。
「グールどもめ…」
 アーカードはそう言いながら、グールの脳天をカスールでぶち抜く。
その表情はひどく面倒臭そうな顔だ…今動きが止まった。
『おい、魔導師AB』
 外にいる二人へと念話で話しかける。というか、指令を送る。
ちなみにAはティアナで、Bはスバルである。記号で分けるくらいなら名前で呼んでやれアーカード。
「え?はっ、はい!」
『面倒だ。お前たちで突入してザコを掃討しろ』
「え゛!?でも、中のグール達、凄い数ですよ!?」
『チェーダース村の時よりは楽なはずだ』
 確かに家が一軒満杯になる程度ならば、村中の人間がグールになっていたあの時よりは楽だろう。
さらには数だけではなく、廊下という狭い空間での戦いなので地の利もこちらにある。
つまりこちらの方がずっと楽というアーカードの言ったことは正しいようだ。
『さっさとしろ』
「「はい!」」
 二人そろって返事をすると、バリアジャケットを纏って突入する。
「吸血鬼って、魔導師じゃなくても念話使えるんだね…」

(相手は人形…ただの動く人形…弱点を狙って一発で終わり…)
 グールは元人間。それを知っているスバルは、こうやって暗示をかける必要があるようだ。
ティアナは吸血鬼化もあって多少免疫が出来たらしく、暗示をかけなくても大丈夫になってきているが…やはり元人間を撃つのは気が引けるようだ。
…迫るグールを魔力弾で撃ち抜き、仕留める。戦闘開始だ。
先ほどの魔力弾を合図に、スバルが突っ込む。それに応じてティアナが精密射撃で片っ端からグールの頭を、心臓を、撃ち貫く。
そしてアーカードはというと、その近くにある玄関で座って夜食の輸血用血液を摂っていた。
「二人とも、思ったよりやるようだな」
 血を飲み終える頃、アーカードのすぐ隣に上半身だけになったグールが落ちてくる。
奇声を上げ、苦しむグール。その頭をアーカードが撃ちぬいた。
「おい、魔導師コンビ。狙うなら確実に心臓か頭をぶち抜け。彼らとて好きこのんでグールになった訳ではない。
一度こうなってしまった人間を元に戻す方法は無い…速やかにぶち殺してやるのがこいつらの為ってもんだ」
「分かりました、マスター…!」
 気付けばグールも残り一体。ラスト一体を仕留めるべく、ティアナが歩き出す。
いつの間にか瞳が真紅に染まり、吸血鬼特有のオーラも漂わせている。
抵抗のつもりか、最後のグールが銃を撃つ。だが、グールが使うような狙いの不安定な銃ごとき、今のティアナならよく見れば確実にかわせる。
弾をかわしながら接近し、左足で蹴り上げて銃を弾き飛ばす。そして脳天にとどめの一撃を叩き込んだ。
「どうやら分かってきたようだな…我々『夜族(ミディアン)』というものが」
 いつの間にかアーカードが立ち上がり、後ろまで近づいてきていた。
「さあ、ザコは片付けたのだ。さっさと宿主である吸血鬼も探し出して片付けるぞ」
 とはいっても、一階は先ほどまでの戦闘であらかた回った。ならば二階か。そう思い、階段を上ろうとする。
だが、ティアナの様子がおかしい。先ほどから立ち止まって動かない。
顔や手、クロスミラージュなどについた返り血に対し、吸血衝動が突如湧き上がったのだ。
衝動に負け、血を舐めようとするティアナ。それを見たアーカードは嬉しそうな表情をしている。
…その時スバルが何かに気付いた。
目線の先には階段。そこから見えるのは、この状況には不似合いの鈍い光。
その光が動くのと同時に、階段の位置から強烈な殺気。それもティアナに向けられたものだ。
それを見たスバルは瞬時に判断。光は何かの投擲武器で、ティアナを殺すために構えられている、と。
「ティア、危ない!」
 判断してからのスバルの行動は早い。ティアナを突き飛ばし、自身もそこから離れる。
そしてその判断と行動の正しさは、一瞬後に証明されることになる。
「いきなり何…!?」
 いきなり突き飛ばしたスバルに文句を言おうとするティアナだが、自分がいた場所に突き立てられる銃剣『バヨネット』を見て戦慄した。
もしスバルが突き飛ばしていなかったら、今頃自分はバヨネットで貫かれていた。ティアナがその事実を理解するのに、時間はかからなかった。
その直後、今度は何かが書かれた紙と釘が飛来し、家中のドアというドア、窓という窓が封鎖された。
「!! 結界か!?」
 それが対吸血鬼用結界だと知ったときには時既に遅し。結界で家の出口という出口が塞がれた。
それと同時に、先ほどの殺気の主が階段から降りてくる。
見た目は中年といった感じの年齢。眼鏡をかけ、左の頬に傷があり、そして…血染めのバヨネットを2本持っている。
殺気の主…アレクサンド・アンデルセンはバヨネットを十字に構え、口上を述べた。
「我らは神の代理人。神罰の地上代行者。
我らが使命は我が神に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅すること…AMEN」

 その頃、HELLSING本部。
「局長!ヘルシング局長!ヴァチカンの情報官からの報告です!」
 眼鏡をかけた管制官の男が、一枚の紙を持ってインテグラの元へと報告に来た。
その様子から見ると、非常に切羽詰った状況になっているようだ。男が報告書を読み上げる。
「ヴァチカンが…特務局第13課『イスカリオテ機関』が動いています!」
「イスカリオテ…カトリックの絶滅機関か?兵力は?」
 先を促すインテグラ。そして男の口から、恐るべき報告が紡がれる。
「派遣戦力は3名!ハインケル・ウーフー、高木由美江、
そして…『聖堂騎士(パラディン)』アレクサンド・アンデルセン神父!」

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2007年07月13日(金) 22:46:28 Modified by beast0916




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