みどりの水母 | ミドリノクラゲ | 指示 | 速度 | 調性 | 拍子 | 備考 | |
1 | 睫毛のなかの微風 | マツゲノナカノソヨカゼ | Moderate | 4分音符=92ca. | ト長調 | 4/4 | |
2 | 夕暮の会話 | ユウグレノカイワ | Lento | 4分音符=52ca. | ト短調 | 3/4 | |
3 | 秋 | アキ | Andantino | 4分音符=80ca. | ト短調 | 3/4 | Solo |
4 | 雪のある国へ帰るお前は | ユキノアルクニヘカルオマエハ | Allegretto | 付点4分音符=108ca. | ニ短調 | 6/8 | |
5 | みどりの水母 | ミドリノクラゲ | Andante | 4分音符=72ca. | ハ短調 | 2/4 | |
6 | 汝がこえの美しさ | ナガコエノウツクシサ | Allegro | 4分音符=132ca. | ヘ長調 | 3/4 |
1976年に京都大学グリークラブのために作曲されたものに、終曲「汝がこえの美しさ」を加え、増補改訂版として新たに生まれ変わりました。(パナムジカ新刊案内より)
初演以来ほとんど演奏されていない幻の組曲「みどりの水母」が、三十年あまりの時を経て増補改訂されたもの。初稿版は作曲者も初演者もタイトル曲を終曲としたことが気になっていたとのことで、終曲として新たに『汝がこえの美しさ』を書き下ろし、既存の5曲も全面的に手が加えられている。特に「夕暮れの会話」の小節部分や「雪のある国へ帰るお前は」の拍子などが初演版と大きく異なる。
多田作品の中で大手拓次をテクストとして用いた唯一の組曲である。作風は立原道造もの(「優しき歌」や「ソネット集」など)に通ずる西洋的感傷に憂鬱さが増したものとなっている。特にタイトル曲の狂おしいほどのセンチメンタルなメロディーや最後の和声進行などは従来の多田作品には見られないものである。
初演以来ほとんど演奏されていない幻の組曲「みどりの水母」が、三十年あまりの時を経て増補改訂されたもの。初稿版は作曲者も初演者もタイトル曲を終曲としたことが気になっていたとのことで、終曲として新たに『汝がこえの美しさ』を書き下ろし、既存の5曲も全面的に手が加えられている。特に「夕暮れの会話」の小節部分や「雪のある国へ帰るお前は」の拍子などが初演版と大きく異なる。
多田作品の中で大手拓次をテクストとして用いた唯一の組曲である。作風は立原道造もの(「優しき歌」や「ソネット集」など)に通ずる西洋的感傷に憂鬱さが増したものとなっている。特にタイトル曲の狂おしいほどのセンチメンタルなメロディーや最後の和声進行などは従来の多田作品には見られないものである。
睫毛のなかの微風
そよかぜよ、
こゑをしのんでくる そよかぜよ、
ひそかのささやきにも似た にほひをうつす そよかぜよ、
とほく 旅路のおもひをかよはせる そよかぜよ、
しろい 子鳩の羽のなかにひそむ そよかぜよ、
まつ毛のなかに 思ひでの日をかたる そよかぜよ、
そよかぜよ、そよかぜよ、ひかりの風よ、
そよかぜは
胸のなかにひらく 今日の花 昨日の花 明日の花。
夕暮の会話
おまへは とほくから わたしにはなしかける、
この うすあかりに、
この そよともしない風のながれの淵に。
こひびとよ、
おまへは ゆめのやうに わたしにはなしかける、
しなだれた花のつぼみのやうに
にほひのふかい ほのかなことばを、
ながれぼしのやうに きらめくことばを。
こひびとよ、
おまへは いつも ゆれながら、
ゆふぐれのうすあかりに
わたしとともに ささめきかはす。
秋
ものはものを呼んでよろこび、
さみしい秋の黄色い葉はひろい大様な胸にねむる。
風もあるし、旅人もあるし、
しづんでゆく若い心はほのかな化粧づかれに遠い国をおもふ。
ちひさな傷のあるわたしの手は
よろけながらに白い狼をおひかける。
ああ 秋よ、
秋はつめたい霧の火をまきちらす
雪のある国へ帰るお前は
風のやうにおまへはわたしをとほりすぎた。
枝にからまる風のやうに、
葉のなかに真夜中をねむる風のやうに、
みしらぬおまへがわたしの心のなかを風のやうにとほりすぎた。
四月だといふのにまだ雪の深い北国へかへるおまへは、
どんなにさむざむとしたよそほひをしてゆくだらう。
みしらぬお前がいつとはなしにわたしの心のうへにちらした花びらは、
きえるかもしれない、きえるかもしれない。
けれども、おまへのいたいけな心づくしは、
とほい鐘のねのやうにいつまでもわたしをなぐさめてくれるだらう。
みどりの水母
まどかけのうへをすぎてゆく霊のあしおと、
それをはやくよびとめてください。
おまへはさびしいわたしの胸にうかびあがるみどりの水母である。
おまへはわたしの胸のなかをゆききするやはらかい駒鳥の羽である。
その、花粉のやうにひろまつてゆく足おとをよびとめてください。
わたしの眼はしろい蛋白石のやうにひえてゐる。
汝がこゑの美しさ
汝がこゑの したたる露
汝がこゑの ただよふ香
汝がこゑの ゆらめくひかり
汝がこゑの ひらく花びら
汝がこゑの ちらばふ星
汝がこゑの こぼるる蜜
汝がこゑの くれなゐのつぼみの瓊
汝がこゑの みどりの風
汝がこゑの 春の糸雨
汝がこゑの 銀色の衣ずれ
汝がこゑの いぢらしき君影草
汝がこゑの 夢をつつむ雛罌栗の花
汝がこゑの 黄色の耳飾り
汝がこゑの 宵のくちべに
汝がこゑの 水面の浮鳥
汝がこゑの 揚羽の蝶の朝の舞
汝がこゑの 水晶色の鈴のおとづれ
汝がこゑの うすあをき月草の物思ひ
汝がこゑの うまるる雛鳩
汝がこゑの
雪色の 心のこゑのうるはしさ
そよかぜよ、
こゑをしのんでくる そよかぜよ、
ひそかのささやきにも似た にほひをうつす そよかぜよ、
とほく 旅路のおもひをかよはせる そよかぜよ、
しろい 子鳩の羽のなかにひそむ そよかぜよ、
まつ毛のなかに 思ひでの日をかたる そよかぜよ、
そよかぜよ、そよかぜよ、ひかりの風よ、
そよかぜは
胸のなかにひらく 今日の花 昨日の花 明日の花。
夕暮の会話
おまへは とほくから わたしにはなしかける、
この うすあかりに、
この そよともしない風のながれの淵に。
こひびとよ、
おまへは ゆめのやうに わたしにはなしかける、
しなだれた花のつぼみのやうに
にほひのふかい ほのかなことばを、
ながれぼしのやうに きらめくことばを。
こひびとよ、
おまへは いつも ゆれながら、
ゆふぐれのうすあかりに
わたしとともに ささめきかはす。
秋
ものはものを呼んでよろこび、
さみしい秋の黄色い葉はひろい大様な胸にねむる。
風もあるし、旅人もあるし、
しづんでゆく若い心はほのかな化粧づかれに遠い国をおもふ。
ちひさな傷のあるわたしの手は
よろけながらに白い狼をおひかける。
ああ 秋よ、
秋はつめたい霧の火をまきちらす
雪のある国へ帰るお前は
風のやうにおまへはわたしをとほりすぎた。
枝にからまる風のやうに、
葉のなかに真夜中をねむる風のやうに、
みしらぬおまへがわたしの心のなかを風のやうにとほりすぎた。
四月だといふのにまだ雪の深い北国へかへるおまへは、
どんなにさむざむとしたよそほひをしてゆくだらう。
みしらぬお前がいつとはなしにわたしの心のうへにちらした花びらは、
きえるかもしれない、きえるかもしれない。
けれども、おまへのいたいけな心づくしは、
とほい鐘のねのやうにいつまでもわたしをなぐさめてくれるだらう。
みどりの水母
まどかけのうへをすぎてゆく霊のあしおと、
それをはやくよびとめてください。
おまへはさびしいわたしの胸にうかびあがるみどりの水母である。
おまへはわたしの胸のなかをゆききするやはらかい駒鳥の羽である。
その、花粉のやうにひろまつてゆく足おとをよびとめてください。
わたしの眼はしろい蛋白石のやうにひえてゐる。
汝がこゑの美しさ
汝がこゑの したたる露
汝がこゑの ただよふ香
汝がこゑの ゆらめくひかり
汝がこゑの ひらく花びら
汝がこゑの ちらばふ星
汝がこゑの こぼるる蜜
汝がこゑの くれなゐのつぼみの瓊
汝がこゑの みどりの風
汝がこゑの 春の糸雨
汝がこゑの 銀色の衣ずれ
汝がこゑの いぢらしき君影草
汝がこゑの 夢をつつむ雛罌栗の花
汝がこゑの 黄色の耳飾り
汝がこゑの 宵のくちべに
汝がこゑの 水面の浮鳥
汝がこゑの 揚羽の蝶の朝の舞
汝がこゑの 水晶色の鈴のおとづれ
汝がこゑの うすあをき月草の物思ひ
汝がこゑの うまるる雛鳩
汝がこゑの
雪色の 心のこゑのうるはしさ
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