過ぎし日 | スギシヒ | 指示 | 速度 | 調性 | 拍子 | |
1 | 源平将棋 | ゲンペイショウギ | Lento | 4分音符=52 ca. | ト短調 | 3/4 |
2 | 水ヒアシンス | ミズヒアシンス | Andantino | 4分音符=80 ca. | ヘ長調 | 4/4 |
3 | 糸車 | イトグルマ | Allegro | 4分音符=132 ca. | ニ短調 | 3/4 |
4 | 汽車のにおい | キシャノニオイ | Allegretto | 4分音符=120 ca. | ハ長調 | 4/4 |
5 | 見果てぬ夢 | ミハテヌユメ | Andante | 4分音符=72 ca. | ホ短調 | 4/4 |
6 | 秋の日 | アキノヒ | Andante | 4分音符=72 ca. | ニ短調 | 5/4 |
初演団体:慶應義塾ワグネル・ソサィエティーOB男声合唱団
初演指揮者:畑中良輔
初演年月日:2009年7月12日
藤沢男声合唱団第20回定期演奏会(於 藤沢市民会館大ホール)ゲストステージ
初演指揮者:畑中良輔
初演年月日:2009年7月12日
藤沢男声合唱団第20回定期演奏会(於 藤沢市民会館大ホール)ゲストステージ
春の夜の源平将棋、
あはれなほ思ひぞ出づる。
ただ一夜あてにをさなく
ほのかにも見てしばかりに。
その君はわれとおなじく
かぶろ髪、ゆめの眸して
紅の玉をとらしき。
われは白、かくて対ひぬ。
春の夜の源平将棋、
そののちは露だにあはず、
名も知らず、われも長じて
二十歳の春にあへれど。
などかまた忘れはつべき。
紅のとらす玉ゆゑ、
いとけなく勝たせまつりし
そのかみの春の夜のゆめ。
あはれなほ思ひぞ出づる。
ただ一夜あてにをさなく
ほのかにも見てしばかりに。
その君はわれとおなじく
かぶろ髪、ゆめの眸して
紅の玉をとらしき。
われは白、かくて対ひぬ。
春の夜の源平将棋、
そののちは露だにあはず、
名も知らず、われも長じて
二十歳の春にあへれど。
などかまた忘れはつべき。
紅のとらす玉ゆゑ、
いとけなく勝たせまつりし
そのかみの春の夜のゆめ。
月しろか、いな、さにあらじ。
薄ら日か、いな、さにあらじ。
あわれ、その仄のにほひの
などもさはいまも身に沁む。
さなり、そは薄き香のゆめ。
ほのかなる暮の汀を、
われはまた君が背に寝て、
なにうたい、なにかかたりし。
そも知らね、なべてをさなく
忘られし日にはあれども、
われは知る、二人溺れて
ふと見し、水ヒアシンスの花。
薄ら日か、いな、さにあらじ。
あわれ、その仄のにほひの
などもさはいまも身に沁む。
さなり、そは薄き香のゆめ。
ほのかなる暮の汀を、
われはまた君が背に寝て、
なにうたい、なにかかたりし。
そも知らね、なべてをさなく
忘られし日にはあれども、
われは知る、二人溺れて
ふと見し、水ヒアシンスの花。
糸車、糸車、しづかにふかき手のつむぎ
その糸車やはらかにめぐる夕ぞわりなけれ。
金と赤との南瓜のふたつ転がる板の間に、
「共同医館」の板の間に、
ひとり坐りし留守番のその媼こそさみしけれ。
耳もきこえず、目も見えず、かくて五月となりぬれば、
微かに匂ふ綿くづのそのほこりこそゆかしけれ。
硝子戸棚に白骨のひとり立てるも珍らかに、
水路のほとり月光の斜に射すもしをらしや。
糸車、糸車、しづかに默す手の紡ぎ、
その物思やはらかにめぐる夕ぞわりなけれ。
その糸車やはらかにめぐる夕ぞわりなけれ。
金と赤との南瓜のふたつ転がる板の間に、
「共同医館」の板の間に、
ひとり坐りし留守番のその媼こそさみしけれ。
耳もきこえず、目も見えず、かくて五月となりぬれば、
微かに匂ふ綿くづのそのほこりこそゆかしけれ。
硝子戸棚に白骨のひとり立てるも珍らかに、
水路のほとり月光の斜に射すもしをらしや。
糸車、糸車、しづかに默す手の紡ぎ、
その物思やはらかにめぐる夕ぞわりなけれ。
汽車が来た、――釣鐘草のそばに、
何時も羽蟻が飛び、
黄色い日があたる。
JOHN は母上と人力車に。――
頭のうへのシグナルがカタリと下る。面白いな。
もうと啼く牛のこゑ、
停車場の方に白い夏服が光り、
激しい大変の臭のなかを、
汽車が来る……真黒な鉄の汗の
静まらぬとどろき、とどろき、とどろき……
汽車が奔る……真面目な両の眼玉から
向日葵見たいに夕日を照りかへし、
焦れつたいやうな、泣くやうな、変に熱い噎を吹きつける。
油じみた皮膚のお化の
西洋のとどろき、とどろき、とどろき、とどろき……
汽車が消ゆる……ほつと息をして
釣鐘草が汗をたらし、
生れ変つたような日光のなかに、
停つた人力車が動き出すと、
赤い手をしたシグナルがカタリと上る。面白いな。
何時も羽蟻が飛び、
黄色い日があたる。
JOHN は母上と人力車に。――
頭のうへのシグナルがカタリと下る。面白いな。
もうと啼く牛のこゑ、
停車場の方に白い夏服が光り、
激しい大変の臭のなかを、
汽車が来る……真黒な鉄の汗の
静まらぬとどろき、とどろき、とどろき……
汽車が奔る……真面目な両の眼玉から
向日葵見たいに夕日を照りかへし、
焦れつたいやうな、泣くやうな、変に熱い噎を吹きつける。
油じみた皮膚のお化の
西洋のとどろき、とどろき、とどろき、とどろき……
汽車が消ゆる……ほつと息をして
釣鐘草が汗をたらし、
生れ変つたような日光のなかに、
停つた人力車が動き出すと、
赤い手をしたシグナルがカタリと上る。面白いな。
過ぎし日のしづこころなき口笛は
日もすがら葦の片葉の鳴るごとく、
ジブシイの昼のゆめにも顫ふらん。
過ぎし日のあどけなかりし哀愁は
こまやかに匂シヤボンの消ゆるごと
目のふちの青き年増や泣かすらん。
過ぎし日のうつつなかりしためいきは
淡ら雪赤のマントにふるごとく、
おもひでの襟のびらうど身にぞ沁む。
吹き馴れし銀のソプラノ身にぞ沁む。
過ぎし日の、その夜の、言はで過ぎにし片おもひ。
日もすがら葦の片葉の鳴るごとく、
ジブシイの昼のゆめにも顫ふらん。
過ぎし日のあどけなかりし哀愁は
こまやかに匂シヤボンの消ゆるごと
目のふちの青き年増や泣かすらん。
過ぎし日のうつつなかりしためいきは
淡ら雪赤のマントにふるごとく、
おもひでの襟のびらうど身にぞ沁む。
吹き馴れし銀のソプラノ身にぞ沁む。
過ぎし日の、その夜の、言はで過ぎにし片おもひ。
小さいその児があかあかと
とんぼがへりや、皿まはし……
小さいその児はしなしなと身体反らして逆さまに、
足を輪にして、手に受けて、
顏を踵にちよと挟む、
足のあひだにその顏の坐るかなしさ、生じろさ。
落つる夕日のまんまろな光ながめてひと雫。
あかい夕日のまんまろな光眺めてまじまじと、
足を輪にして、顏据ゑて、小さいその児はまた涙。
傍にや親爺が真面目がほ、
鉦や太鼓でちんからと、俵くづしの軽業の
浮いた囃子がちんからと。
知らぬ他国の潟海に鴨の鳴くこゑほのじろく、
魚市場の夕映が血なまぐさそに照るばかり、
人立ちもないけうとさに秋も過ぎゆく、ちんからと。
小さいその児がただひとり、
とんぼがへりや、皿まはし……
とんぼがへりや、皿まはし……
小さいその児はしなしなと身体反らして逆さまに、
足を輪にして、手に受けて、
顏を踵にちよと挟む、
足のあひだにその顏の坐るかなしさ、生じろさ。
落つる夕日のまんまろな光ながめてひと雫。
あかい夕日のまんまろな光眺めてまじまじと、
足を輪にして、顏据ゑて、小さいその児はまた涙。
傍にや親爺が真面目がほ、
鉦や太鼓でちんからと、俵くづしの軽業の
浮いた囃子がちんからと。
知らぬ他国の潟海に鴨の鳴くこゑほのじろく、
魚市場の夕映が血なまぐさそに照るばかり、
人立ちもないけうとさに秋も過ぎゆく、ちんからと。
小さいその児がただひとり、
とんぼがへりや、皿まはし……
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