藁科 | ワラシナ | 指示 | 速度 | 調性 | 拍子 | 備考 | |
1 | はつ鮎 | ハツアユ | Moderato recitativo | 4分音符=84 | ヘ短調 | 4/4 | |
2 | 筍 | タケノコ | Allegretto comodo | 4分音符=120 | ト短調 | 2/4 | |
3 | 西ふきあれて | ニシフキアレテ | Allegretto pesante | 4分音符=116 | ニ短調 | 4/4 | |
4 | めし | メシ | Allegro scherzando | 4分音符=152 | ト短調 | 4/4 | Bass solo, Tenor solo |
5 | 雨も悲し | アメモカナシ | Andante doloso | 4分音符=80 | ニ短調 | 2/4 |
『藁科』(山根書店、1951年)
各詩の制作年月日は次の通り。
「はつ鮎」……1944年6月1日
「筍」……1941年4月13日
「西ふきあれて」……1944年2月25日
「めし」……1940年7月4日
「雨も悲し」……1942年4月19日
各詩の制作年月日は次の通り。
「はつ鮎」……1944年6月1日
「筍」……1941年4月13日
「西ふきあれて」……1944年2月25日
「めし」……1940年7月4日
「雨も悲し」……1942年4月19日
藁科川に初鮎をつるかたがた
もしや脚絆わらぢの釣り支度で
竿をもたない年寄がいつたら
お邪魔でもすこし席をあけて
釣りを見せてやつてください
背の高い半身不随の
もののいへない年寄です
彼はわれとわが心から
淋しく 苦しく 不仕合せで
釣りのほかには楽しみがなく
これといつて慰めもありません
老衰のうへに病気もてつだつて
重たい鮎竿がもてないため
さうしてひと様の釣りを見てあるきます
そんな老人にお逢ひでしたら
私の伝言を願ひます
私はここにきてゐると
うきや糸まきおもりなど
かたみの品もあるから
ゆつくりよつて休むやうにと
どうぞ皆さんお願ひします
彼は私の亡くなつた兄です
もしや脚絆わらぢの釣り支度で
竿をもたない年寄がいつたら
お邪魔でもすこし席をあけて
釣りを見せてやつてください
背の高い半身不随の
もののいへない年寄です
彼はわれとわが心から
淋しく 苦しく 不仕合せで
釣りのほかには楽しみがなく
これといつて慰めもありません
老衰のうへに病気もてつだつて
重たい鮎竿がもてないため
さうしてひと様の釣りを見てあるきます
そんな老人にお逢ひでしたら
私の伝言を願ひます
私はここにきてゐると
うきや糸まきおもりなど
かたみの品もあるから
ゆつくりよつて休むやうにと
どうぞ皆さんお願ひします
彼は私の亡くなつた兄です
毘沙門堂から筍がきたぞう
山科の名物のよ
竹の子ヤーイ 竹の子
毘沙門堂の竹の子
荒目の籠に笹をしいて
細縄でからげてある
ゐのししのよな二十本
土まみれのころころ
竹の子ヤーイ 竹の子
毘沙門堂の竹の子
この竹の子はうまいぞ
毘沙門堂の竹の子
山科の名物のよ
竹の子ヤーイ 竹の子
毘沙門堂の竹の子
荒目の籠に笹をしいて
細縄でからげてある
ゐのししのよな二十本
土まみれのころころ
竹の子ヤーイ 竹の子
毘沙門堂の竹の子
この竹の子はうまいぞ
毘沙門堂の竹の子
南泉和尚のところへ
さる坊主がきよつて
「腹がへつてどもならん
飯をくはしてたばらんか」
南泉米をだし
「これをたいてたべなさい
わしは茅刈りにゆくけん
わしのぶんもたいとくれ」
いうて茅刈りにでたれば
坊主はぺろりふたりぶん
きれいに平げて
大の字に寝よつた
南泉帰つて見まはせば
なんと飯のけもない
ではわしも寝ようかと
ころがるとたんに坊主は
すつと立つていんぢもた
南泉も坊主も
いいきなやつさね
さる坊主がきよつて
「腹がへつてどもならん
飯をくはしてたばらんか」
南泉米をだし
「これをたいてたべなさい
わしは茅刈りにゆくけん
わしのぶんもたいとくれ」
いうて茅刈りにでたれば
坊主はぺろりふたりぶん
きれいに平げて
大の字に寝よつた
南泉帰つて見まはせば
なんと飯のけもない
ではわしも寝ようかと
ころがるとたんに坊主は
すつと立つていんぢもた
南泉も坊主も
いいきなやつさね
雨も悲し
風も悲し
照る日もまた悲しかりけり
四十年
嵯峨たる行路
われを守り
われを導き
沮喪する我を励まし
くづをるる我を起たせ
狂気より癒やし
死より救ひ
友となり
母となり
手を携へて歩みきし人
たぐひなき善良柔和の人は
ゆきて帰らず旅だちたれば
夜も悲し
昼も悲し
朝ゆふもまた悲しかりけり
風も悲し
照る日もまた悲しかりけり
四十年
嵯峨たる行路
われを守り
われを導き
沮喪する我を励まし
くづをるる我を起たせ
狂気より癒やし
死より救ひ
友となり
母となり
手を携へて歩みきし人
たぐひなき善良柔和の人は
ゆきて帰らず旅だちたれば
夜も悲し
昼も悲し
朝ゆふもまた悲しかりけり
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