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なんとなく思いついた

「あ、雨だ・・」

何の気なしに、誰かがつぶやいた。
平日の、しかも昼と夕方のちょうど狭間の時間帯に、客などそうそうにいない。
珍しく静かだった店内に、その声が響いて・・・。

「うそ!?雨・・・?」

フロアの一角で、見目麗しい青年が頭を抱えた。
彼-名を進藤ユータと言う-は、夕方からまた徒歩でバイト先のホストクラブに行かなくてはならないのだが、如何せん今日は傘を持ってきていない。
午前中は暑苦しいぐらいに晴れていたのだ、仕方ないといえばそこまでだが。

「雨に濡れて歩いて行かなくちゃいけないのか・・・。弱ったな・・」
「傘ぐらいなら貸しますけど」
「本当かい東田君!?」

頭を抱えていた青年は、東田と呼んだ少年の手を取って頭を下げる。
『嘘だよ』と言われる不安などない。
彼は多少歪んではいるものの、まだ実直ではあると思う。
      • 少なくとも、彼の幼馴染よりは。

「これで無事に行けるよ、本当にありがとう。・・今日は大事なお客様が来るんだ・・」
「・・・大事な・・・」
「うん、そう・・・って、志保ちゃん!?」

轟、と嫌な気配がしたのを、青年は確かに感じ取った。
長年虐げられてきた弱者の勘と、曲がりなりにも幼馴染であることが、それをより確実かつ顕著にする。

「大事って、どんなお客さんなのかしら・・」
「えっとね?・・確か大富豪の奥さんだったひとで、今未亡人らしくて・・」
「・・・・」
「その人が、少しの間恋人になってくれれば、志保ちゃんの家への借金を返してくれるって・・」
「・・・・・」
「でね?もし良ければ生活の援助もしてくれるらしい・・・」
「ユータ君の馬鹿!!」

突然の怒声。
青年は、その不幸な生い立ちから背負った業を己の魅力を駆使して回避しえることを喜んだだけなのだろうが、
彼へ想いを抱いていた少女には堪えられなかったらしい。
彼女が愛用の日本刀を取り出すのを、青年は如何な気持ちで見ていたのだろうか?

「ユータ君が身売りするなんて、許さないから」

少女の声が、店中に重く響いた。
2006年11月11日(土) 17:31:22 Modified by ID:Bgf4UKA6nQ




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