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ハートのリミット

もっとぎゅっと距離を」の続きです。



その日、ワグナリアは戦場だった。
あらかじめ忙しい日だとはわかっていたはずなのだが、
キッチンの相馬が原因不明の全身神経痛で早退。
(※流石に小鳥遊と伊波のキスシーンを盗撮して
伊波に100ヒットコンボを決められました、とは言えなかった)

普段は働き者の小鳥遊と伊波もいつになく動きが悪い。
急遽、真柴兄妹を召集して事なきを得たものの
店長である白藤杏子は苛立ちを隠さなかった。

「どうしたんだ、今日は。まるで山田が3人いるみたいじゃないか」

閉店後、白藤に呼び出される小鳥遊と伊波。
二人はいつもよりさらにさらに距離を空けて並んでおり
伊波の挙動不審ぶりや小鳥遊の表情の凍結っぷりからは
白藤にも何かあったことがわかる程の不自然ぶりだった。

当の小鳥遊宗太も混乱していた。
普段は冷静すぎるくらい冷静な小鳥遊だが、
流石に不意打ちでキスをされれば動揺する。
しかも、キスをされた当日も早上がりの予定だったため
小鳥遊は伊波が目を覚ます前に帰宅してしまい
それ以来顔を合わせていなかったことも混乱を増大させていた。

「で、どうしたんだお前ら」

白藤の聴取が始まる。

落ち着け、俺。
伊波さんの行動が良くわからないのは今に始まったことじゃないじゃないか。
ちょうどいい機会だ。伊波さんのあの行動はなんだったのか
本人の口から聞けるかもしれない。

「え、えーとですね」
白藤の問いに、もう一人の当事者、伊波まひるが答えようとする。

「・・・ゆ」
「ゆ?」
「夢を、そう、変な夢を見てしまって・・・」
「・・・はぁ?」
なんだそれは、と言わんばかりの表情で白藤が聞き返す。

「えーと、えーと・・・小鳥遊くんを殴りすぎて重傷を負わせてしまう夢を見たんですっ!!
それで、あの、怪我させるのが怖くて小鳥遊くんに近づけなくて・・・」
「・・・」

「・・・小鳥遊は?」
「え」

伊波の言葉に呆気に取られているところに
急に白藤から振られて、不意を突かれた小鳥遊。
何かを言わなければ、と思うあまり

「あ、俺も、伊波さんに殴り殺される夢を見まして・・・」

伊波に釣られたような、自分でも意味のわからない言い訳をする。
なんだか心にチクリとした痛みを感じた気がした。

「・・・そうか」

白藤はもはや諦めたような表情になっていた。
そして、頭を軽くかきながら続ける。

「まぁ、気持ちはわからんでもないが夢は夢だ。
現実に持ち込んで仕事をこなせなくなるようじゃ困るぞ」
「そ、そうですよね」
「すみませんでした」

白藤の言葉に、伊波と小鳥遊が謝罪を述べる。

「ま、今日は帰って良し。そんな夢とっとと忘れてしまえ」

お説教は終わり、二人は解放されたが
小鳥遊の心にはなんとも言いようのない違和感が残った。
が、その時はあまり深く追求せず、軽く挨拶をして別々に帰途についた。
違和感については、あるいは考えないようにしていただけかもしれない。

それからしばらくの間、
伊波と小鳥遊の間にはぎこちなさが残ったが
そのたびに伊波は合い言葉のように「夢」という言葉を繰り返した。

時間が経つに連れ、二人の関係は、元に戻りつつあった。
反面、小鳥遊の心の違和感は大きくなっていった。

    • なんだろう。なんだか、心がイガイガする。


  ***

白藤からのお説教を受けてからしばらく経った日、
閉店間際の休憩室の入り口で小鳥遊と伊波が鉢合わせする。

「うおっと!」
「きゃあ!」

小鳥遊が伊波に殴られるいつもの光景・・・
かと思われたが伊波が全力で飛び退いたような形で距離を空けたため
小鳥遊は殴られていなかった。

もちろん殴られないのは良いことなのだが、
小鳥遊の接近を拒絶するような伊波の行動に、
本人でも理解しがたい、苛立つような感覚を覚えた。

「ごめんね、最近は大丈夫になってきたんだけど・・・
もういい加減にいつも通りにしないとダメだよね」

はー、はー、と息を整えながら伊波が言葉を発する。

「いつも通りに・・・?」

独り言のように言葉を返す小鳥遊。
声には怒気のような響きがあった。
伊波も小鳥遊の妙な雰囲気を感じ取って、言い淀む。

「えっと、、、」
「伊波さん、どうして・・・」

言葉が詰まる。続きが言えなかった。
自分自身、一体何を言おうとしているのかわからなかった。
伊波が飛び退いた距離を、無意識に小鳥遊が詰める。

伊波は再び、小鳥遊から逃げ出すかのように距離を取ろうとする。
とっさに小鳥遊は手を延ばし、伊波の左腕を掴む。

「きゃ・・!」

一閃。
反射的に伊波の鋭い右フックが飛ぶが、それも小鳥遊の左手で防がれる。

姉の梢から仕込まれた護身術。
いまだ伊波に対して使った事は無かったが、
この時小鳥遊は意識してその技術を使用していた。
このまま伊波を立ち去らせたくない、その気持ちが頭を支配していた。
期せずして伊波の両腕を小鳥遊が押さえ付ける体制になる。

「た、たかなしくん・・・?」

伊波は思わず後ずさろうとするが、背中が壁に触れる。逃げ場がない。
伊波が軽く身体をよじるが、小鳥遊はその手を離さなかった。

「だ、だから言ったでしょ?変な夢を見ちゃったせいで過剰反応しちゃいそうだったから・・・って」

「夢・・・ね・・・」

    • 違う!
小鳥遊の中で何かが、弾けた。

熱い衝動が小鳥遊の背筋を駆け上がり、頭が真っ白になる。
伊波の腕を掴む両手に力がこもり、壁に押し付けるような体勢になる。

お互いの鼓動が聞こえそうなくらいの距離。
吐息が近い。すぐそこに伊波の顔があった。

小鳥遊の脳裏に昨夜の記憶が蘇る。

行動の先になにがあるのか何も考えられなかった。
焦燥感のようなものが頭を支配する

小鳥遊は、そのまま、
吸い寄せられるように伊波の唇に自分の唇を重ねた。




 ***

かち、かち、かち、、、

壁にかけられた時計の音が耳元近くで聞こえたような気がした。

急速に頭が冷えて来るのを感じる。
そっと唇を離す。
伊波はすぐに目を伏せてしまい、その表情を伺う事はできなかった。
掴んだままにしていた伊波の腕を解放すると、
伊波は半歩後ろに距離を取り、胸元で両手を合わせてきゅっと結んだ。

「ッ…」
短く息を吸い込む音。

殴られる、よな。そりゃそうだ。
それらを伊波の反撃の予備動作だと感じた小鳥遊はぐっと歯を食いしばる。

…が、伊波は背中が壁に触れると
そのままずるずるとへたりこんでしまった。

ぽたっ、ぽたっ。
瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。


「あ、あれ?」
伊波自身もその涙に戸惑っているようだった。
両手を胸元で固く結び、身体を縮こませている伊波の姿は
天敵の脅威に怯える小動物のようにも見えた。

小鳥遊は愕然とした。
何をやっているんだ、俺は。
何が男嫌いを治すために協力する、だ。
腕力で強引に押さえつけ、衝動に任せた力ずくのキス。
これじゃ伊波さんが恐怖した男性像と何も変わらないじゃないか!


言いたいことがあった。
聞きたいことがあった。
確かめたいことがあった。
でも、上手く言葉にできなかった。

時間が経てば何かが消えてなくなってしまいそうで、焦りを覚えた。
伊波の口から「夢を見た」と聞くと、いらいらした。
あの時の伊波さんは寝ぼけていたんだ、夢だと言うならそれでいいじゃないか。
そう思いもしたが、心のイガイガはどんどん膨らんでいき、爆発した。

その結果、

    • 伊波さんを、傷つけた。


「すみません。最低ですね、俺」

もはや小鳥遊は伊波の目を、涙を、直視することができなかった。

逃げてどうするんだ。
そう思いはするものの足は止められなかった。

***

翌日、小鳥遊はシフトよりも数時間早くワグナリアに足を運び店長室のドアと叩いた

そこには神妙な表情の小鳥遊と、
椅子に深く腰をかけた白藤が話をしていた

「もう一度言ってくれるか、聞こえなかった」
白藤が無表情で椅子から起きあがる。
「ですから、バイトを辞めさせて貰いたいと・・・」
「・・・ふむ」
言い直す小鳥遊の言葉を遮るように白藤が相づちをうつ。

白藤の目に鋭い光がともる。
「・・・伊波か」
「え」
小鳥遊の驚いた表情に納得がいったような表情を浮かべ、白藤が続ける

「伊波となにかあったのか」
「・・・」

小鳥遊は、懺悔するように、唾棄するかのように答える。
「俺は、伊波さんに酷いことをしました・・・
伊波さん係とか言いながら、俺が一番伊波さんのためにならない人間だったんです。
もう、これ以上このバイトで伊波さんに近づくわけには・・・」

ぽん。

白藤の手が小鳥遊の肩を叩く。
そして、いままで、八千代ですら見たことのないような優しい笑みを浮かべる。

「・・・小鳥遊」

「あ、、、まったれんなぁっ!!!!」

ドォォォン!!!

かつてない程の衝撃を受け、小鳥遊の身体が吹き飛ばされる。


数メートルは飛んだだろうか。
伊波の渾身のストレートや、姉達の折檻ですらここまでではない。

「あーあー、書類をぶちまけちまった。また音尾に怒られるな」

左頬がズキズキする。どうやら白藤に殴られたらしい。
「目ぇ覚めたか?」
かつてない威圧感を放ち、白藤が小鳥遊に近づく。

「詳しい事情は知らん。聞くつもりもない。
が、お前は伊波を傷付けた、と思ってるわけだ」
「・・・は、はい」
「だったら私に寝ぼけた事を言いに来る前にやることがあるだろう?」
言いつつ、さらに右腕を振り下ろす。

      • ぺちっ

小鳥遊のほおを叩いたのは小さなメモ帳だった。
「伊波のうちの住所だ。」

小鳥遊は驚き、きょとんとした
「え・・・なんで・・・こんなものを」
「お前らガキの行動なんか予想済みなんだよ」
「おら、とっとと行って来な」
心なしか白藤の口調が乱暴になっているようにも思える。
むしろ、これが素なのか?などと思いながら小鳥遊は立ち上がる。

白藤はやれやれ、といった表情で軽い溜息をつきながら声をかける。
「おい、この散らばった書類、片づけておいてくれよ。『戻ってから』の最初の仕事な。」

「はい!ありがとうございます、店長!」
小鳥遊は憑き物が落ちたかのような晴れた表情で
年増と嫌う白藤に対しては初めてかもしれない心からの礼を述べた。

深々と礼をする小鳥遊にしっ、しっ、と追い払うような仕草で白藤が応える。

    • 目は覚めたとも、覚悟も決まった。

小鳥遊は走り出した。
伊波に、伝えるべきことを、伝えるために。


==つづく==


ゴールデン・デイズへ。
2010年06月05日(土) 00:45:01 Modified by kakakagefun




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