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共通の笑顔

変な夢を見た。

・・・俺の好きな女が小さくなって、俺の家にいて、俺色々な奉仕をしてくれる夢。
・・・奉仕っていやらしい意味じゃねえぞ。普通に家事だ。
そいつは、小さくてあまり役に立てないくせに全部一生懸命頑張って。
俺が嫌味を言っても、何度も何か手伝おうとして。

朝起きて、色々と嫌になった。死にたいと思うくらい恥ずかしい夢だった。

でも、それでも・・・

俺は、嬉しかった。



「相馬。お前・・・どんな夢見る?」
「どうしたの? 突然」

勤務時間中、あまりに暇なので、そう尋ねた。
相馬は「うーん」とお玉片手に少し考えて、

「昔の事とかかな。あと、たまにいい脅・・・説得の話が夢に出てきたりとか」
「へえ。後者はさておき、お前もそれらしい夢見るもんだなあ」
「酷いなあ。・・・そういう佐藤君はどうなのさ」

夢の事なんか聞いたのは間違いだと思った。
尋ねた相馬の声が、後半ウキウキしているのが分かって、俺は無視しようと決め込んだ。

「まあ、どうせ佐藤君の夢なんて、予想できるけどねえ」
「・・・うるせえ」

・・・ま、予想できるだろうなあ。
恥ずかしい話だけど、俺が夢に思うほどの物、人は限られているからな。

「何? 夢でも見たの? いやあ、佐藤君も結構こどっ!」

相馬の腹に一撃拳を沈めると、相馬は黙り込んだ。相変わらず暴力に弱いな。

「この話は終わりだ。いいな相馬」
「何? どんな話?」

突然後ろから聞こえた声に、俺らしくもなく猛スピードで振り返る。

「ねえ、二人で何の話をしていたの?」

そこに立っていたのは、間違いない、俺の思い人。

「・・・八千代か。何だ、聞いていたのか?」
「ううん。たった今来た所だから聞いていなかったわ。ねえ、どんな話?」
「・・・何でもねえよ」
「あのね、佐藤君が轟さんっ!!?」

フライパンを横に相馬のデコに叩きつけると相馬は悶絶して黙った。誰でも黙るわな。
八千代は・・・あらあら、といった表情だ。俺の表現もまんまだな。

「私がどうしたの?」
「だから何でもねえって」
「・・・私に聞かせたくないような話?」

そう言って、八千代は少し悲しそうな顔をした。
胸が痛い。何時も笑顔のコイツにそんな顔をされると、弱い。男ってのは駄目だな。

「・・・そんなんじゃねえよ。ただ、男同士の会話って奴だ。な、相馬」

言いつつ、相馬の首をさりげなく絞める。
相馬は小さく苦しみながら、コクコクと何度も頷いた。



「あらそう? ・・・でも、折角佐藤君といいお友達になれたのに、少し寂しいわ」

・・・抱きしめてえ・・・
はっ、心とはいえ本音を漏らしちまった。危ない。八千代はともかく相馬なら心まで覗き込んできそうだ。
とにかく、俺なんかとのことで寂しそうに俯く彼女を見るのは俺にとって苦痛であり、勿体無いとも思う。
お前には笑顔が似合うんだ。お前は悲しい顔をする必要なんか無いんだ。
ただ、俺の心が弱いだけなんだ。

「・・・夢」
「え?」
「夢の話だよ。深くはいわねえけど、どんな夢をみんな見るのか気になったんだよ」

そう答えると、横で相馬が噴き出す声が聞こえたが、流石にこれ以上叩くのは相馬に対する僅かな良心が痛みそうだ。
八千代は、顔を明るく・・・何時もの笑顔に戻し、話し始めた。

「佐藤君も、夢とか見るのね♪」
「・・・お前までそう思うのかよ」
「ち、違うの。そうじゃなくて・・・佐藤君って、クールだから少し意外かな?って・・・」

困ったように指をもじもじさせる彼女もやっぱり可愛くて、俺はその一挙一動を見ていた。・・・いや、見惚れていたというのが正しいのかもしれない。

でも、同時に、一つの悲しさもあった。

「お前が見る夢ってのは、やっぱり店長の事か」

思わず言ってしまって、しまった、と思った。
この問いかけに対する八千代の答えは決まっているのに。
何故・・・俺は自分を追い詰める。
自分の余裕を失くす。

「うん! やっぱり、杏子さんの事を夢見るのが多いわ♪」

やっぱり、か。

「だろうな。お前の考えなんてすぐ分かるよ」

自分に舌打ちを漏らす。思いやりの欠片もない、自分の言葉に。

「そう? ・・・あ、でも、昨日ね?」

八千代が話し始めた所で、客が店に入ってきた。

「あ、私行くわね?」

今は小鳥遊や種島がフロアにいないので、八千代はすぐに接客へ向かった。
すぐに、いらっしゃいませー、という彼女の声が聞こえてきた。
自分達にもすぐに仕事が回ってくるだろうと、準備を始める。

「何を言おうとしていたんだろう・・・轟さん」

・・・確かに俺も気になるけれど。

「知らん」

とりあえず、そう答えた。



「結局、何だったんだ。あの夢は」

従業員入り口から店を出てすぐの所で、俺は煙草をふかしていた。
吐き出す煙が、すぐに冬空へと溶け込んで流れていく。

(俺の願望・・・なんだろうな。まあ、それらしい夢だったな)

心でそう納得しながらも、どこかイライラが募るのか、先ほどよりも勢いよく煙を吸う。
多量の煙を流しながら、八千代の顔を思い出した。

何時も満点の笑顔の八千代。こんな俺にも、好意的に接してくれる八千代。
でも、アイツの中の一番は俺じゃねえ。
俺に向ける笑顔よりも、ずっと輝いた笑顔を向けるのは、いけすかねえ店長。
働きもしないで、ぐーたらで、食ってばかりの店長。
何時まで経っても、俺とあいつだけの空間で、あいつが店長に見せる笑顔を俺に見せることは無いだろう。

「・・・ちっ!」

店の薄汚れた壁に拳を叩きつけた。
気分は、ちっとも晴れなかった。拳の痛みが残っただけだ。
叩きつけた拳を、そのまま額に持っていった。
汗だくだった。

(何で俺は・・・こんなに不安になっているんだ)

怖いんだ。
このままの関係がずっと続いて、結局、何の発展もないまま終わってしまうのが。
その時は、何日、何ケ月、何年と先なのかもしれない。
でも・・・不安なんだ。

真っ昼間だが、またあの夢を見たいと思った。
夢の中の、小さい八千代は・・・店長に見せるような笑顔を俺に向けてくれていた。
現実逃避? そんなのは言われなくても分かっている。
でも・・・俺は・・・

「佐藤君。休憩?」

本日二度目の突然のサプライズに、また猛スピードで入り口の扉を見る。
そこには、店のゴミを運んできた八千代がいた。

「・・・ああ」
「休憩室で吸えばいいのに」
「吸っているの、俺ぐらいだからな。悪いだろ、臭いとか付くと」
「・・・やっぱり、佐藤君は優しい」

やっぱり?

「やっぱりって何だよ」
「普段から佐藤君は優しいけど・・・ほら、さっき言いかけたことがあったでしょ?」
「ああ」
「その夢ね・・・佐藤君が出てきたの」



思わず落としそうになった煙草を持つ手に、慌てて力を入れた。
・・・今、何て?

「変な夢だったの。私がまるでぬいぐるみみたいに小さくて、色々と佐藤君の手伝いをしようとするの」

自分で、目が見開いているのが分かった。
・・・何だ、その夢は。

「でも、失敗ばかりで。それで、夢の中でまで佐藤君にノロケを聞かせて」

ふふっ、と笑いながら、八千代は俺を見ながら話している。
俺も、無意識に八千代と目を合わせ、話を聞き続ける。

「でも、佐藤君は優しいの。ありがとう、とか。もういいよ、とか」
「・・・それで、やっぱり、か・・・?」
「そう。・・・もしかしたら、夢に、杏子さん以外の人が出たの初めてかもしれない」

笑顔で八千代は俺に微笑んだ。
俺は、はっとして、ずっと合わせていた視線を無理矢理外し、そっぽを向いた。

「変な夢だな」

相馬が聞いていたら、自分だって似たようなものじゃない、と言われていただろう。
でも、真面目に聞いて返事をするのもあまりに馬鹿馬鹿しすぎて。

「本当にね。・・・でも、気のせいかもしれないけど・・・」
「・・・けど?」
「夢でだけど・・・私、初めて、佐藤君の笑顔を見た」
「・・・!!」
「普段、一回も見たことないのに、夢の中の佐藤君は私に笑ってた」

微笑んでいるであろう彼女の顔なんか見られるわけがなくて、
ただ、聞くことしかできないわけで、

「綺麗な笑顔だったわ。・・・そうだ、佐藤君、笑って! 笑って!」

八千代のいきなりの発言に、俺はむせかけたが、

「馬鹿言ってんじゃねえぞ。とっとと仕事もどれ」

と、八千代の顔を見ずに手を払った。

「残念・・・。じゃあ、佐藤君はどんな夢を見るの?」
「・・・内緒かな」
「ずるい! ねえ、一個でいいから!」
「うるせえなあ。ほら、店長が待ってんぞ」
「後で教えてね?」
「・・・ああ」

そう言って、彼女は店の中へと戻って行った。
・・・気づくと、煙草はもうほとんど灰になっていて、灰を地面に落とし、踏みしめた。
そして、もう一本取り出し、火を付け、また吸い込んだ。

「・・・ばっかじゃねえの」

少し震えた声を絞り出した。
店の中に戻るわけにはいかなかった。

この、赤い顔で帰ったら、相馬に笑われらぁ。


あいつが店長に向けるような笑顔を、俺は二人だけの空間で見ることはできないのかもしれない。
でも・・・夢だけど。ただの、妄想だけど。

俺は、あいつの最高の笑顔を。俺だけにくれる最高の笑顔を。
あいつは、俺の見せたことのない笑顔を。

昨日、同じ時間で。

俺達は、笑って顔を合わせていたんだ。

馬鹿らしい、本当に馬鹿らしい夢だけど。

俺達は昨日、同じ場所で・・・笑ってたんだ。






2007年05月19日(土) 01:15:39 Modified by kakakagefun




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