お品書き
 netgame.mine.nu:10017/
lpbbs/f1173696302/index.php
 (18禁
  アドレスコピー後、
  先頭に
  http://をつけて
  URL欄に貼り付けて
  ください)
Wiki内検索
最近更新したページ
最新コメント
山田は伊波のために by awesome things!
なずな来店 by awesome things!
山田ベット3 by stunning seo guys
VS小姑(後編) by awesome things!
ジャンル別まとめ by check it out
姫ちゃん登場 by awesome things!
山田は伊波のために by check it out
No.16氏の絵 by stunning seo guys

二日酔いの朝に

いつもの気だるい朝、見慣れた室内に異変があった。

 自分の見ている光景が信じられず、佐藤は半ば呆然と己の頬を引っ張った。
「む」
 痛い。しかしこれは誰がなんと言おうと絶対に夢だ。
 佐藤は頑固に現実逃避をはかった。

「ん……」
 逃げたい現実そのものである張本人が寝返りをうった。床が固くて寝苦しいのか、少し苦しそうだ。
 佐藤の思いをよそに、彼女は悪戯でも仕掛けたくなるような無防備さだった。

 八千代は私服を着たまま、佐藤の隣で横になっている。ブランケットをめくると、下の着衣にも乱れはないようだ。強いて言えば、スカートがめくれて脚が見えているくらいか。
 触れたら柔らかそうだな、と邪な感情が首をもたげてきて、佐藤は慌ててブランケットから飛び出した。

 八千代から出来る限り距離を取ってから、佐藤はため息をついた。
 ――なぜ八千代が俺の部屋で眠っているんだ。
 しかも隣で。床で。

 佐藤は昨夜からの記憶を脳内検索した。バンド仲間達と飲んでいたのは覚えている。
 帰る途中、バイトを終えてた相馬と出会った。既に酔っていたこともあって、相馬の口八丁に流され二人で軽く飲み直した。

「……」
 そこから記憶がない。

 佐藤は頭を抱えた。多分、いや間違いなく相馬だ。今のこの状況は奴が作り出した罠に違いない。
 動揺する佐藤の姿にほくそ笑みながら、一眼レフを構え、シャッターチャンスを狙っている相馬がどこかにいる。と佐藤は決めつけた。
 悪の同僚は面白さ追求の為になら何でもやるとはいえ、洒落にならないことはしない。基本的には世話好きで優しいのが相馬だ。だが何故だろう、信じきれない何かがあの男にはあった。

 おそらく八千代は相馬に呼び出されて、酔った佐藤を介抱するように頼まれたのだろう。それでこの状況になるのは謎だが、そこは相馬が上手く誘導したのだと佐藤は思った。
 このアホ娘を騙すのは鳥が空を飛ぶより簡単だ。

 冷静になればカラクリは解ける。感覚からいっても八千代とは何事もなかった。ここまで考えると、佐藤は現実を受け入れた。

 煙草はないかと見回すと、八千代の腕の中にそれを発見し、佐藤は短く舌打ちをした。理由は分からないが、彼女は大事そうに煙草の箱を抱えこんでいる。
 こんなことになったのは相馬のせいだ。八千代に煙草を奪われたのも奴が悪い。お節介め。理不尽に相馬を責め立てながら、佐藤は脱力して壁に寄りかかった。
 こうして佐藤が動揺するのも、正しい現実を導き出し落胆するのも、相馬にはお見通しだと思われた。

「う……ん」

「……わざとかコラ」
 八千代は夢を見ているのだろうか、身動ぎをしては艶めかしい吐息をもらす。その度に佐藤は息を飲み、それから渋面になった。彼女の見ている夢はたやすく想像がつく。
 どうせあの店長の夢だろう。雛に餌を運ぶ親鳥のように、せっせと飯を食わしているのが眼に浮かぶようだ。そこに佐藤の入り込む余地はない。

 この後の予定は決まりきっていた。
 幸福な夢から目を覚ました彼女はけろりとしながら、佐藤の具合でも尋ねる。二日酔いで気分が悪いだけだといえば、八千代は安心して帰る。
 後ろ姿を見送りながら、佐藤は虚しい気分に襲われるに違いない。

 それなのに佐藤は八千代から目が離せないでいた。
 腕を伸ばせば届きそうな位置に、八千代は少しまるまった姿勢で眠っている。口元に軽く握られた指が押し付けられていて、時折ぴくりと動いていた。

 寝乱れた長い髪を引っ張って、お前はアホか、いやアホだったな。俺は男だぞ、このバカ! 鳥! と怒鳴りつけてやりたい。
 そしてとっとと、この悪夢のような状況から抜け出したい、と佐藤はやや荒んだ気持ちになった。

 八千代を包むブランケットからは、たおやかな曲線を描く肩から足の先まで、女らしい身体のラインが見てとれて、居たたまれない。先程見たばかりの白い脚がちらちらと頭に過ぎる。
「八千代」
 起きろと密やかに呼びかける。
 しかし返ってくるのはかすかな寝息ばかりで、八千代が目を覚ます気配はない。

 顔の前で掌をハの字に構え、佐藤は慎重に声をかけた。
「……朝だぞー起きろー」

 いいや、いつまでも目を覚ますな。そのまま寝ていろ。起きるな、起きるなよ……。
 呼びかける言葉とは裏腹に、佐藤は懸命に願っていた。

 嫌な汗をかいて、鼓動が早いのが分かる。心の中までポーカーフェイスというわけにはいかない。動揺を誘うのはいつも八千代だ。そう思うと佐藤は妙に悔しい。

 素直に認めるならば、自室に八千代がいるのはまぁまぁだった。胸の中に暖かいものが広がって、ちりちり切ない幸せを感じる。そこだけは相馬に感謝したい。
 だがこれでは何もできないし、ただ寝顔をみているだけの生殺しでしかない。空腹なのに、好物を目の前にして味見すらできないとは。

「野郎、覚えてろ」
 相馬への復讐を呟くと、八千代が何事かを返した。目覚めが近いのかもしれない。のん気な寝顔がいっそ憎らしい。

 つねってやろうか。佐藤は不貞腐れながら考えた。つねれば八千代はたちまち目を覚ますし、起こせば多少楽になれる。
 ならばつねってしまえ。
 それは駄目だ。

 つねろ派と眠らせておけ派の争いは膠着して、結論は永久に出そうにない。八千代が自然に目覚めるまで、佐藤は部屋の片隅でじっと固まっているだろう。
 二日酔いの所為ばかりとは言えない。佐藤は朝から頭痛がしてきた。
2010年06月05日(土) 00:36:35 Modified by kakakagefun




スマートフォン版で見る