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貰った勇気を君に

 何で俺はここで働いているんだろうな

「じゃあね佐藤君」

「おう」

 私服姿で更衣室を出て行く相馬を見送る。

 もう店は閉店時間だ。更衣室には俺しかいない。
というか、更衣室から出ても本当に数人しか残っていないだろう。
タバコを吸っていたため大分時間を食った。・・・今日は遅くなるな。

 白いバイトの制服を脱ぎ、畳む。一瞬でできる辺り、長い間バイトをやっているということを実感できた。
私服に着替え、更衣室を出た。

(本当に・・・何でだろうな)

 ハッキリ言って、このレストランは変だ。
何が変か? 当然、働いている人間がだ。

小さい物大好きの変態高校生
超小さい女子高校生
男を見ると殴る暴力女子高生
いるのかいないのか分からないマネージャー
特技が脅しのキッチン仲間
何だか素性の分からない女
でかくて乱暴で大食いの店長

 そして・・・・

「あ、佐藤君今から帰るの?」

帯刀しているフロアチーフ

「ああ」

「私もこれからなの。色々してたら遅くなっちゃって」

 少し困ったような顔で、ソイツは俺に話しかける。
その姿はまだ制服で、これから着替えるようだ。
どう答えればいいかはよく分からないが、とりあえず

「そうなのか、仕事熱心だな」

 と、無愛想に答える。


 あまりよくないというのは分かっているが・・・優しい言葉なんか出てこない。いや、出してない・・・の方が正しいんだろうな。

「昔からやっているから、もう家事みたいなものよ?」

「・・・ま、俺もキッチンの仕事は全部分かるしな」

「そうでしょう? 佐藤君もバイト長いしね」

「・・・そうだな」

 本当、何で何年もバイトしてるんだろう。

「まあ、俺は行くからな」

「ええ、気をつけて帰ってね」

「・・・あんがとよ」


 轟に背を向け、俺はレストランへの入り口へと向かう。
そして、自動ドアを開き・・・レストランを出た。

 立ち止まり、そこでまた考えてみた。


 何で、ここでバイトしているんだろう?

 時給が凄くいいわけではない。

 何だか毎日楽しいことでいっぱいというわけでもない。

 確かに、種島をからかうのは面白いといえば面白いが・・・

「結局は、アイツだよな」

 頭に最初に浮かぶのは、帯刀チーフの顔。

 今まで何回も同じことを考えた。
そして、最終的に行き着くのはある女性。

 そして、その笑顔。

「・・・俺も・・馬鹿みたいだよな、ガキみたいに」

 毎日のように相馬にからかわれるが、自分だって分かってる。
 でも・・・勇気がねえな。
 ハッキリと自分の想いを伝える勇気が。

 ・・・うわ、俺何考えてるんだ。恥ずかしい。


「・・・馬鹿みてえ」

 閉店したレストランの入り口で、タバコを1本くわえた。
ライターで火を点け、すっかり慣れた煙を吸い込む。
空気中に吐き出すと、外灯などで煙は予想以上にハッキリと見えた。

 こうやって、考えて、詰まったら煙吸って。
 何やってんだろうな俺。
 大学もつまんねえしなあ。
 ・・・俺、もしかしたらここが憩いの場なのかもな。
 仕事してれば嫌なことなんてあまり考えなくていいし。
 それに・・・会えるしな。
 やっぱり間違いねえな。俺がバイトしている理由なんて、電車で一目惚れした女にまた会いたくて電車に乗る学生と同じだ。

 会いたいんだ。ひたすら、彼女に。
 俺は・・・会いたいんだ。

「あれ、佐藤君?」

 横から聞こえたその声に振り返る。
 そこにいるのは、外灯の光に金髪が輝いている、彼女。
私服で、少し困惑したように俺の顔を見ている。

「・・・タバコ吸ってた」

「もう、ぽぷらちゃんも言っていたけど、ほどほどにしないと体に悪いわよ?」

「20歳過ぎているから問題ねえよ。お前は早く帰れ」

「冷たい言い方・・・」

 よよよと悲しむ様子の彼女を見て、溜息が一つ漏れる。
 何で惚れたんだろうな。いや、何となく分かるけどよ。

「なあ轟。お前店長のために何年もバイトしているんだよな?」

「そうよ〜? 杏子さんのために尽くすのが私の生きる道だもの♪」

「そうかい」

「何でそんなこと聞くの?」

 そう聞き返され、しばらく黙り込んだ。

「なんつうかな。何で俺はここで長い間バイト続けていんだろと思って」

「? 別におかしいことじゃないと思うけど・・・」

 おかしいのはお前らだ、とはとても言えず、続ける。

「なんつうかな・・・俺もよく分かんなくなってきた」

「そう? ・・・でも、私は佐藤君がいるこのレストラン、好きよ?」

 そう、確かに言った彼女の顔に目を向ける。
彼女はほんの少し照れくさそうに顔を俯けて続けた。


「いつもぽぷらちゃんは佐藤君の事色々言っているけど・・佐藤君はいつも優しいわ」

「優しい・・・? 俺がか?」

「さっきだって、荷物運んでくれたでしょ?」

「・・・」

「だから、そんなに悩まなくてもいいんじゃないかしら? 佐藤君は佐藤君よ?」

「・・・そうかもな。まさかお前にそんなこと言われるなんて思ってなかったけど」

「私だって、たまにはこういう話するわよ?」

 首を傾げながらこちらを向く彼女を直視できなくて、俺は正面に視線を移した。
こういうところまでガキくせえな。

「・・・そうだな。少しはやる気出た」

「ありがとう♪」

「礼言われる筋合いはねえけどよ」

 ふと空を見上げた。
そこには、夏の星が空いっぱいに散らばっていて綺麗だった。
 轟を見ると、俺が見たのに気づいてから、空を見上げた。
そして、口を開けて笑顔で、

「綺麗ね・・・佐藤君」

 お前ほどじゃねえけどな。なんちゃって。

「ああ。すげえ綺麗だ」

「佐藤君も星とか見るのね?」

「見ちゃ悪いか」

 そう聞くと、轟はゆっくりと首を振った。

「そんなことない。・・・星を見ていた時の佐藤君の目、凄い澄んでいたわよ?」

 何の戸惑いも無くそう言われ、また視界をすぐに空へと戻す。
星空は生きているように、点滅して、世界を全て包んでいるかのように広がっている。
真っ暗なはずの夜が、その星の存在で、影ができるほどに明るい。
コンクリートの地面に、二人分の影が濃く映っている。

(そういや、真面目に星空なんか見るの何年ぶりだろうな・・・)

最後に見たのは、恐らく中学生か高校生の時だろう。
 何だか・・・悩んでいたのが馬鹿らしくなってきたな。

(久々に見る星空が、コイツと二人きり・・・)

 いいシチュエーションだ。
 でも、俺に告白とかそういうでっけえ勇気は無い。
せいぜい、これから一緒に帰るとかそんな程度だろう。いや、それでも俺は満足だけどな。


「あ、そろそろ帰らないと・・・じゃあね、佐藤君!」

 ほらな。そうそう人生甘くない。
 別にいいんだ。俺はこのままで。
 バイトを続けてれば、いつでも会える。今焦ることは無い。

 でも・・・

「おい、轟・・・いや、八千代」

 気が付けば呼んでいた。

 八千代は振り返った。振り返った時の髪の揺れ方が綺麗だった。

「何〜?」

 オイオイ何呼んじゃってんだ俺。青春真っ盛りの中学生か。
 言葉なんか考えてねえぞ。何だ、今呼んだのは誰だ。違う、俺じゃない。きっとドッペルゲンガーだ。あ、俺だ。

 言え、「やっぱ何でもない」って。楽勝だろ?
 言えば楽になるだろ? 言え、言うんだ俺。
 そうだ。俺はコイツに会う為にバイトしてんだ。だったらまた後で・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 やなこった。

 1回しか無い人生、ちょっと焦っても・・・バチはあたらねえだろ

「来週、空いている日あるか?」

 満開の星空に勇気付けられた。

 ほら

 1歩、踏み出せた






2007年05月19日(土) 01:15:10 Modified by kakakagefun




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