SHOTGUN MARRIAGE!
「えっと……アレが、来ないんだが……」
「そうだろうね。 じゃあ結婚するか」
SHOTGUN MARRIAGE!
──ゴーン、リンゴーン、リンゴーン
気が付くと花嫁だった。
「──なあ東田」
「なんだ東田」
控え室で純白レースのひらひらにコブラツイストをかけられている私を、同じく上下真っ白な東田(全く似合ってない)が、面白そうに見下ろしている。
「……なんで私が東田なんだ」
「馬鹿だな。結婚するからだろ」
「誰と」
「俺と」
「なんで」
「──そもそもおよそ4ヶ月前」
「? ずいぶん前の話だな」
「俺の推測では、二人で土砂降りに遭ったあの晩だ」
ああ、あの日もお前エロかった──って!?
「いやわかったもういいっ」
なにを言い出すかこの男は!
焦る私を無視して、東田は呑気に眼鏡を拭きはじめる。
「お前が俺のシャツを借りて」
「いい、ききたくないヤメロ」
「ナチュラルに誘惑するから俺も──」
「ひがしだー」
立ち上がろうとしてドレスの裾を踏む。つんのめった私を支え、彼は有無を言わさずソファーに戻した。
「暴れるな妊婦」
「誰のせいだ!」
「──そもそもおよそ4ヶ月前」
「東田あ!!」
「そう興奮するな。中身が出るぞ」
「こ、コワいこというな!眠れなくなるだろ!」
「大丈夫、毎日一緒に寝てやる」
「なんでだよ!」
「結婚するからだろ」
……ふりだしにもどる。
これではラチがあかない。私は東田の気
を引くように、ジタバタと手を振った。
「だ、大体だ!私はなんにも相談されてないぞ!」
「したろうが。相談」
「ウソつけっ」
「──2ヶ月前」
突然オデコを弾かれ、私は慌てて身をひいた。
「な、なにすんだよっ」
「俺が掻き集めた式場パンフレット12冊を、うわーどれも綺麗だなあ、の一言で済ませたのは誰だ」
「……お、覚えてない。そんなの」
「半月前」
わざわざ手袋を外した指で、鼻を摘まれる。
「ふがー!」
「下見に連れていった中央チャペルガーデンで、
ここでキャンプファイヤーしたら盛り上がるな、とほざいたのは誰だ」
「……覚えてな」
「しかもウェディングプランナーの前で」
「い……」
「あの時の彼女の愉快な顔を、俺は一生忘れないだろう」
「ひ、……東田」
「まだあるぞ。 買ってやったブライダル雑誌の専門用語が読めなくて、“たのしいけっこんえほん”状態になってたのはだれ──」
「相談されたされましたマジで」
「わかればいい」
手袋をはめなおし、満足げにうなずくエロ公務員。
なんとコイツが、今日から旦那様なんだそうだ。
いつもいつもこんなふうに、からかってばかりのコイツが──。
不意に泣きたいような気分におそわれ、私は下を向いた。
考えたら私たち、ぜんぜんつり合ってないじゃないか。
学力も、収入も、性格も、……料理の腕も。
だから、コイツは私がいなくたってきっと大丈夫。
私は、コイツがいないと……。
なんで、私を選んだんだろうか。
一体どこが良かったんだろう──?
「……華」
キュッと手を握られて、我に返る。
「あ、……な、なに?」
「いや、思ったんだけどな」
掴んだ手のひらを持ち上げ、東田はまっすぐ私を見た。
「──良かったな。俺に貰われて」
「……!……」
──そんな顔して、笑うから。
何様だとか、こっちのセリフだとか、胸のモヤモヤとかが、全部どこかへ消えてなくなって。
私はただ黙ったまま、小さくうなずいた──
「二人とも、そろそろ時間だってー」
扉の向こうから、おきゃくさ……もとい柳葉さんらしき声がする。
「だとさ。ほら、行くぞ」
「……ん」
彼の手に掴まって、ゆっくり立ち上がる。
ようやく少し目立ってきたおなかに手をやると、東田はちょっと横を向いて首筋を掻いた。
「なに、照れてるのか?」
「まあな」
「セイゾウシャの自覚はあるんだな」
「お前、今の漢字で書けるか?」
……………。
バレンチヌス様。私は少し早まったかもしれません。
──ラブアンドピースじゃよ──
チャペルの鐘の音が響き渡る中、どこか遠くで、そんな声が聞こえた気がした。
2006年11月10日(金) 03:49:38 Modified by ID:Bgf4UKA6nQ