BBSPINKちゃんねる内で発表されたチャングムの誓いのSS(二次小説)を収集した保管庫です

   チャングム×ハン尚宮  −尽・未来際− 2/3       壱参弐様


[水剌間の一角]
 ハン最高尚宮は最近のチャングムの振る舞いに戸惑い、チャングムの姿を目で追った。
 チャングムは、チャンイと一緒に見習いを教えながら水剌を作っている。いつもの光景で、
特に変わった様子は無い。ミン尚宮が、今日も自分の部屋に、チャングムとチャンイを
呼んでいたことを除いては。
 「チャンイがよく遊びに行くのは判るが、どうしてチャングムまで。」
 ハン最高尚宮は少し不可解に感じた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[ミン尚宮の部屋]
 今日もチャングムはミン尚宮の部屋に来る。チャンイは座って待っていた。
 もうすっかり先生気分のミン尚宮が、話し始める。
 「いよいよ愛撫といわれるものを教えるけれど、手でやるにしても口、つまり舌とか唇、
 そして歯でやるにしても、最初は優しくよ。触るか触らないかから始めるの。このとき
 重要なのは相手の反応を確かめながら行うこと。自分が興奮してるからって、
 齧(かじ)り付くようにしちゃ駄目。痛くないように爪の手入れも忘れずにね。これは直接は
ちょっとできないから、服の上からでいいから。」
 とりあえず、肩や胸を触る二人。
 「そう、そんな感じ。できれば身体中撫で回した方がいいわね。それで、相手が
 嫌そうな顔をしなかったらどんどん強く掴んだりしてもいいんだけど、でもあんまり
 表情に出さない人もいるから(ハン尚宮様のことよ、チャングム)、その細かな表情を
 見てなくちゃだめよ。だから相手を愛撫するときは、最初は目を開けてなきゃね。
  痛がらせないように、だんだん強くしていくの。そして、ここで十分相手を
 いい気持ちにさせること。」

 「いよいよ第1段階も大詰めね。感じやすいところは、胸とかお尻だけれど、
 出っ張ってるからやってる方は掴みやすいけど、慣れてない相手だと急に触られると
 抵抗感があったりもするの。だからもう一度優しくゆっくりから始めて、表情だけで
 なく身体の変化を観察すること。特に胸、乳首は緊張しているときは平坦だけど、
 興奮すると尖ってくるわ。だからといって強く噛んだり吸ったりしては駄目。それは
 最後の方でやること。じゃ、胸の代わりに私の指先を触ってみて。」
 いわれたようにミン尚宮の指を触ってみる二人。

 「チャングム、それじゃ駄目。そんな、最初っから摘まむようにしちゃいい気持ちに
 なれないの。あっそうだ、あなた達見習いの頃松の実刺しをしたでしょ。あれも指で
 強く摘まんで強引にぐいぐい松葉を押し込んでも入らなかったでしょ。あれと一緒よ。
  松の実のようにそっと指にはさんで、方向を確かめるために軽くコロコロと転がす。
 あんな感じ。じゃ、やってみて。」
 やってみる二人。確かにさっきよりは指先が温かく、湿っぽく、指同士吸い付くような
感じがする。
 「そうそう。吸い付く感じ。今は指先だけでやっているけど、これを身体全体で感じ、
 感じさせるようにするのが目標ね。
  で、今日教えたことをまず自分の身体で試してみて。そうすれば自分はどこが
 いいのか判るし、自分の反応を覚えておいて、相手とするときにも応用できるから。」
 「自分でやってみる?」
 「そうよ。恥ずかしがることは無いわ。特にチャンイ、あなた今独り部屋でしょ。」
 チャンイの同室のクミョンもまた、太平館に遷(うつ)されたままであった。
 「そうなんです。一人で寂しいんです。ですから、ミン尚宮様、添い寝だけで
 いいですから・・・、いえ、添い寝だけじゃなくって、どうか特訓をお願いします。」
 「だから駄目って言ってるでしょ。だいたい、そんなこと、ああだこうだと説明
 しながらしても、興醒めじゃないの。こういうことは、愛し合う者同士でやるのよ。」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[チャングムとヨンセンの部屋]
 ヨンセン、既に休もうとしているところへ、チャングムが戻ってくる。
 「チャングム、遅かったのね。」
 「ミン尚宮様のところにいたの。」
 「そうなの。何かご指導を受けたの?」
 「ううん、別に。おしゃべりされるのを伺っていただけ。」

 ヨンセン、寝息を立て始める。
 「チャングム〜。チャングム〜。行かないでチャングム〜。」
 と、いつものようにチャングムの布団側に寝返りを打ち、胸元をまさぐり始める。
 「また、寝ぼけて。そうだわ、ちょっとヨンセンで試してみようかしら。えっと
 この当たりかな。胸は松の実を転がす感じで、と。ここら辺は・・・。」
 「ああっチャングム、大好き。」
 「困った子ね。あと、太ももに脚を絡めて、脚全体で擦り、相手の反応を見ながら、
 肌が吸い付くような感じに・・・なってるかな? それで言葉をかける。『ママニィ・・・』。」
 「チャングム〜。 ハン尚宮様、チャングムを連れて行かないで。」
 「! (何で知ってるんだろ。)ねえ、ヨンセン、私どこにも行かないわよ。」
 「チャングム、嬉しいー。」
 「ああびっくりした。でも、触るときの感覚が、なんとなく判ったわ。」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[ミン尚宮の部屋]
 再びチャングム、チャンイが来ている。
 「今日は、愛撫の仕方その2。これは体の中を愛しむ方法ね。これはさすがに
 あんたたちにやれとは言えないわ。だからこの本で説明するわよ。
  女の身体で特に感じやすいのがここ。でもここは普段はあまりはっきりわからないの。
 場所は判るけどね。だからこのあたりを指で、乳首みたいに軽く転がしていくの。
  ただ、そのままだと痛い時があるのね。だからさっき説明したように口付けしたり、
 体表を愛撫したりして感じさせておけば、このあたりが濡れてくるの。だからそれを
 指に付けてから触った方がいいと思うわ。濡れてなかったら、唾(つば)を付けても
 いいし。
 「もちろん、舌で舐める場合は痛みの心配はないけど、慣れていない人の場合は、
 する方はぎこちなくなるし、される方も相手の顔が見えなくて不安になったりするから、
 最初からお勧めはできないわね。この時も、相手の様子に注意してね。
  痛がるようだったら、一旦止めて、別のところからやり直しね。
  うまくできているときは、ここがだんだん大きく熱くなって、で、ちょっと触った
 だけで、相手の反応もよくなってくるの。こうなるとこっちのものよ。相手は自分に
 首っ丈っ、ていけばいいけど、ここでちょっと注意すること。」

 「つまり、ここからが秘法なんだけど、そのままやっていると、相手がどんどん昇り
 詰めていくけど、あっさり終わってしまう危険もあるわ。それは気持ちいいけど
 単純な味ね。だからどうするかというと、相手と会話しながら行うのね。
 もちろん会話といっても言葉じゃなくて、身体でよ。」
 「会話か・・・。難しいんですね。」
 「そうよ、難しいのよ。だからなかなかうまくいかないし、逆にうまくいけばすごく
 仲良くなれるの。」
 「ミン尚宮様と私はいっつもおしゃべりしてますから、きっとうまくできますよね。」
 「だからおしゃべりは喩え話よ。あたしを口説こうなんて思うんじゃないの。」

 「それで、次にここに指を入れて愛撫するんだけど、ここもほぐれてないと痛いだけなの。
 やってる方はあったかくて気持ちいいんだけどね。だからついつい力を入れがちだから、
 自然とできるようになるまでは気持ちを鎮めて、集中すること。相手を気持ちよくするのって、
 本当に難しいんだから。
  最後にこの中に、気持ちよくなるツボがあるらしいの。でもこれは人によって違うようだから、
 やってみるしかないの。」

 「ミン尚宮様はその時どんな感じがするのですか?」
 チャンイが好奇心を丸出しに聞く。
 「身体がふわっと浮くような、痺れるような。とにかく気持ちがいいものよ。身体も
 気持ちいいけど、気分が穏やかになるわね。そうね、誰かが直(じか)に自分を必要と
 してくれているんだ、って身体中で感じることができるというか。でも説明は難しいわ。
  それでね、そんな風に感じられる人を見つけることができたら、とっても力が湧いて
 くるわね。この人のために頑張りたい、とか、この人のためだったら何でもできる、とか。」
 チャンイが言う。
 「私、尚宮様のために頑張ります! 尚宮様、私を守ってください。」
 「そうね、そういう時がきたらね。
  これで手解きの基本は終わりだけど、あと道具を使って良くするとか、いろんな方法が
 あるの。でもそれはもうちょっと後で教えることにするわ。それじゃ終わります。」
 「ミン尚宮様、ありがとうございました。」
 とチャンイ。
 「尚宮様、ありがとうございます。私なんだか判ったような気がします。それに私、
 いい方法を思いつきました。」
 チャングムはそう言って、瞳を輝かせて部屋を去った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カン・ドックの家]
 「おじさん、お酒を分けていただけませんか。」
 「どうしたチャングム。酒は飲まなかったんじゃないのか。」
 「いえ、ハン最高尚宮様のお料理に使いたくって。」
 「そうかい、感心だな。いつも最高尚宮様のお役に立つことを考えているんだな。
 わしらにとっても大切な方だから、よろしくお伝えしてくれよ。そうだ、最近評判の
 百歳酒はどうだ。最高尚宮様お得意のチャプチェにも合うんだぞ。詳しい説明は
 ここに書いてあるから読んでおけよ ttp://www.bekseju.co.jp/。」
 「おじさん、ありがとう。」

 「ねえあんた、チャングム見たかい? ちょっと見ない間にきれいになったね。」
 「何言ってるんだ。チャングムは昔からきれいな子じゃないか。」
 「いや、私には判るね。たぶんいい人ができたんだろう。眼差(まなざ)しが艶っぽく
 なったね。」
 「そうかなあ。俺にはそんな風に見えないんだけどな。 えっ、でもそれって。男か?」
 「たぶん違うね。蔭(かげ)がないもの。相手は誰だろうね。内人様じゃないかね?」
 「チャングムが対食してるのか。」
 「そりゃ私だってどうかとは思うけど、宮の中、殿方と温もりを交わすこともなく一生
 過ごすんだから、それぐらい大目にみてやりなよ。でもどうせだったら、ハン最高尚宮様
 だといいんだけどね。だったら家は一生安泰だよ。」
 「ハン尚宮様と? なんて羨ましいんだ。わしも一度でいいから・・・。」
 「あんた! 何言ってんだよ!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[チャングムとヨンセンの部屋]
 「チャングム、どうしたのそのお酒?」
 「新しい料理に使おうかと思って。最高尚宮様にも試していただこうと考えているの。」
 「今日も最高尚宮様のお部屋に行くの?」
 「うん。どうして?」
 「最近よく行くわね。それに帰ってくるのが遅いわね。そんなにお話しして差し上げる
 ことがあるの? 私とはちっともお話ししてくれないくせに。」
 「ヨンセン、毎日行っているわけではないわ。あなたともこうやっておしゃべりしてる
 じゃない。」
 「ねえ、チャングム、ずっと仲良くしてね。」
 「うん、もちろんよ。あなたがいなかったら、寂しいから。」
 「そう? そうよね。私も寂しい!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[ハン最高尚宮の部屋]
 定例の懇話の場に来たチャングム。酒壜を抱えているのにハン尚宮は気付いた。
 「チャングム、それは何?」
 「これはペクセジュと申します。おじさんの所で手に入れて参りました。このお酒の
 特徴として薬草を使用し、おいしく、また身体に優しいことが挙げられます。
 口当たりはまろやかで、まるで異国のぶどう酒のような趣きです。すっきりとした
 飲み心地、そして果物のような香りが、お料理の味を引き立てると思います。基本の
 材料であるもち米と、薬草は、甘草、枸杞、五味子、朝鮮人参、山査、葛根などの
 10種類が入っており、もち米は蒸さずに生のまま発酵させ、より栄養が残るように
 造ってあります。だから健康的で、次の日に残らないお酒なのです。このお酒にあう
 料理は参鶏湯(サムゲタン)、味噌チゲ、チャプチェ、チヂミ、豆腐の串焼きだと思い
 ます。」
 「そう。そんなに風味が良くて、身体にもいいなら王様の御膳にお勧めしようかしら。」
 「はい。それで今日最高尚宮様に味見をしていただきたくって、お持ちしました。」

 「ありがとう。そういえば、お前とお酒を戴いたことはなかったわね。」
 「はい、私も尚宮様がお飲みになる姿を存じ上げません。」
 「そうね。昔は口にすることもあったけど、飲むのを止めたの。戴くのは先の最高尚宮様と
 ご一緒する時ぐらいだったわ。チョン尚宮様は、お酒がとてもお好きだったから。
  じゃ、せっかくだから戴こうかしら。」
 「はい、尚宮様、どうぞ。」

 チャングムが注いだ酒を、ハン尚宮、一息に飲み干す。結構いい飲みっ振(ぷ)りだ。
自分が知らないハン尚宮の姿を発見したようで、チャングムはとても嬉しくなった。
 「ありがとう。 そうね、確かにおいしく戴けるわね。そして、ほんのり甘いわね。
 お料理の味付けは、少し辛めの方が合うかしら。お前も味見してみなさい。」
 「いえ、私は遠慮いたします。尚宮様に召し上がって戴きたくてお持ちしましたので。」
 「遠慮しないで。」
 「それではお言葉に甘えて、戴きます。」
 ハン尚宮の真似をして、ぐいぐい飲んでみる。注がれるとまたぐいぐい飲んでいく。

 だがチャングムは、酒というものを今までほとんど飲んだことがなかった。宮中でごく稀に、
祝いなどの席で出される他は、おじさんの家で内人になった報告をした時、戴いたぐらいだ。
 普段、料理に使うことはあるが、調味料や材料の臭み抜きとして使っており、
酒そのものの味を考える必要はなかった。
 だから飲み方も知らず、今日は特につまみも用意していなかったので、飲むたびに
目眩(めまい)がするような妙な感覚に囚われた。・・・。

 ハン尚宮も心配になって言った。
 「チャングム、もうこのぐらいにしておきなさい。」
 「いいえ尚宮様、もっと。」
 こう言って、勧めたはずの酒を、手ずから注いで飲んでいく。もう完全にできあがって
いる。

 「尚宮様、私、尚宮様のことがだ〜い好きで〜す。もっと褒めて欲しいし、もっと
 可愛がって欲しいし、もっと厳しく教えて欲しいし。」
 「そう、じゃそうするわね。」
 「それだけじゃ嫌なんです。も〜っと抱いて欲しいし、そして、私も抱きたいのに。
 ち〜っとも受け止めてくださらないんです。尚宮様〜。」
 こう言うと、チャングムは寝息を立て始めた。

 こうならないように、酒の練習を先に友としておくべきであり、上司、特に好意を持つ
上司の前で、いきなり試すのは無謀であった。
 だが、もしヨンセンと飲んでこんなことを洩らしたら、ヨンセンに襲われたかも
しれない・・・。


 仕方なく、ハン尚宮はチャングムを寝かしつけた。寝顔を見れば、その表情に
心和むものがある。そうだった、昔は時々こうやって、この子の寝顔を見続けていたっけ。
そっと頭を撫でてやる。こうして見ると、まだまだ子供ね・・・。
 「お母さん。」
 チャングムが寝言を言った。ハン尚宮は思った。
 この子は幼い頃に恐怖を目の当たりにした。まだ、母が恋しい時分に、二度と
手の届かぬ処へ引き裂かれたのだ。訳の判らない内に、全てを自分のせいだと思い込んで。
 この子も恐らく私と同じことを感じてきたのだろう。自分は生きていていいのか、
楽しんでいいのか、笑ってもいいのか、と。
 なのに、この子は何故こんなに明るく振舞えるのだろう? その辛さを何故感じさせ
ないのだろう。

 チャングムにしても私にしても、互いの艱難は比べられるものではない。そして私が
この子と違うのは、物心付いてからミョンイと共に成長してきたことだ。その時々の
喜びや悲しみを、分ち合ってきたのだ。その意味ではこの子よりも幸せな年月を過ごせた
のだと思う。
 だから尚、処決された友の姿が、私を束縛し続ける。

 「チャングム、私の心にいつまでもミョンイが住み続けることを許しておくれ。
 お前にミョンイの面影を見てしまうことを許しておくれ。」

 母を求めるかのように、チャングムの手がハン尚宮の方に伸びてきた。今、この子は
安らいで眠ることができているのだろうか?
 ハン尚宮は、彼女の手を自らの胸にあてがい、眠りについた。
 「剛毅な子・・・。だけれど剛毅なお前を抱くと、私の心は柔らかくなるのよ。
 ゆっくりお休みなさい。」

 翌朝、チャングムは目覚めて驚いた。内人になって以来、初めて師と一つ布団で
眠ったのだ。ハン尚宮はまだ休んでいた。久しぶりに見る師の寝姿。子供の頃、普段は
厳しい表情の師が、休んでおられる時にはやさしいお顔をされていた。チャングムは
暫らくの間、その姿に見惚(みと)れた。
 そして大人の広い背中を頼もしく感じたことを思い出していた。チャングムは
ハン尚宮の背中にそっと手を触れると、静かに部屋から出ていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[チャングムとヨンセンの部屋]
 部屋に戻るとヨンセンはもう起きて、心配顔で待っていた。チャングムが帰って
くるのを見て言った。
 「いったいどうしてたの。帰ってこないなんて、私とても心配で。」
 「ヨンセンごめんなさい。ハン尚宮様にお酒の味見をお願いしたんだけど、
 勧められるまま戴いて、そのまま寝てしまったようなの。」
 「まあ、そんなことが。最高尚宮様怒っておられなかった?」
 「大丈夫みたい。今は休んでおられるけど。後で謝りに行った方がいいかしら。」
 「もちろんそうしなきゃ。」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[ハン最高尚宮の部屋]
 「・・・尚宮様、申し訳ありませんでした。見苦しい姿をお見せしてしまいました。」
 「そうね。でもお陰で、お前の寝顔を久しぶりに見ることができたわ。それにお前の
 思いも聞けたし。」
 「! 私、失礼なことを申し上げたのでしょうか。」
 「もっと厳しくしてくれとか言っていたわね。いいでしょう。これから更に厳しく
 躾けます。」
 「尚宮様・・・。申し訳ございません。」
 「いえ、それがお前の望みでしょう。なら、その通りにしましょう。」
 「・・・。」

 「・・・それに・・・、私のことを抱きたいと言っていたわ。どうして? お前
 この頃ちっとも求めてこないのに。何故なの? 何が不服なの?」
 「そんな、そんなことありません。・・・でも・・・尚宮様は私をなかなか受け入れて
 くださらないので・・・、それで・・・。」
 「それで、何?」
 「それで、あの・・・お酒をさし上げれば、ひょっとして・・・。」
 「私を酔わせて抱こうと思ったのか! けしからん。余計なことはせずともよい。」
 「尚宮様、お許しください。尚宮様はいつも私をお抱きになるばかりです。
 私、尚宮様をもっと・・・。どうして私に触らせようとされないのですか。」

 「・・・お前の言うとおりかもしれない。私はお前に触れられるのを好まないようだ。」
 「私が稚拙だから、受け入れていただけないんですか。」
 「お前が問題なのではない。」
 「では、どうして駄目なのですか。尚宮様は母を受け入れておられたのでしょう?」
 「だから、だからできない。
  初めてお前を抱こうと決めたとき、そしてお前に抱かれたとき、私はお前を見ようと
 した。感じようとした。でも、私はお前のお母様、ミョンイを感じてしまった。
  お前とそうする時・・・、お前を抱くときは、私の手の中にはお前しかいない。
  だがお前が私を求めるとき、私はミョンイとのことを思い出してしまう。それで、
 知らず識らずのうちにお前の手を避けてしまうのだ。」

 「お前がミョンイの娘と知って、ミョンイに対する煩悶は幾分和らいだ。
 それはありがたく思っている。
  けれど・・・私はあの人しか知らない。あの人は私の身体を開き、昇り詰めさせ、
 奈落に引き込んだ。そしてあの人に酔い痴れる私の全てを味わった。味わい尽くした。
 その感触は、私の身体に染み込んでいる。今でも私を捉えて放そうとはしないのだ。」
 「では、私も母と同じようにします。尚宮様の好まれるようにします。母がどのように
 尚宮様を愛されていたのか、私に教えてください。」
 「私はそうはしたくない。したくなかったからこそ、お前が幼かった頃から今まで、
 何も教えずにいたのだ。
  もしもお前がミョンイと同じようにするなら、私はその慈しみを受け入れてしまう
 だろう。感じてしまうかもしれぬ。しかしそれではミョンイに抱かれているのと
 同じことになる。お前自身を感じているのではない。
  また、もしもお前がミョンイとは違うやり方で私を求めるなら、それも私にとっては
 辛い。私の中のミョンイの思い出が、剥ぎ取られてしまうように思えるのだ。
  だから、私は受け入れることができないのだ。私はお前を抱きたい。しかしお前を
 受け入れてやれない。
  もし、それが、こんな私がお前の意に染まないなら、いや、私がお前を玩んで
 いるのに過ぎないなら・・・。そうね、愛でているとは言えないようね。」
 「尚宮様。」
 「今日はもう帰っておくれ。そしてしばらくここに来ずともよい。」
 「尚宮様。」
 「悪いけれど、しばらく考えさせておくれ。」

 チャングムが不承不承立ち去った後、ハン尚宮は一人呟いた。
 「ミョンイ、あなたは私の全てであり、なき後も私を縛り続けた。今またあなたの娘が
 私を悩ませているわ・・・。」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[チャングムとヨンセンの部屋]
 チャングムが戻ってくる。やや暗い表情。
 「ねえチャングム、やっぱり何か心配事があるんでしょ?」
 「・・・。」
 「ハン尚宮様のことじゃないかしら?」
 「・・・。どうしてそう思うの?」
 「最近、あなたに違う薫(かお)りを感じるの・・・。」
 「・・・。」
 「好きなの?」
 「うん。」
 「尚宮様もそう思われているの?」
 「う、うん。」
 「そうか。ま、ハン尚宮様なら仕方ないわね・・・。立派なお方だし。私も尊敬して
 いるわ。それにあの方はチョン尚宮さまのお弟子さんだったから、私にとっては
 お姉様にあたる方。だから私は何も言わないわ。」
 「ヨンセン・・・。」
 「ねえチャングム、幸せ?」
 「とっても幸せよ。」
 「そう。良かった。」
 「ヨンセン。」
 「何?」
 「ありがとう。」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 数週間が過ぎた。ハン最高尚宮とチャングムは、水剌間にいる時は、何事もなかったかのように
過ごした。

[ハン最高尚宮の部屋]
 夕刻、チャングムが来る。
 「何か用なの? 呼んだ覚えはないが。」
 「尚宮様、お許しを戴きに伺いました。」
 「何もお前が悪い訳ではない。私に迷いがあるだけなの。」
 「しかしハン尚宮様、尚宮様が今でも母を想ってくださることを幸せに感じます。
 でもそれ故に、私を受け止めていただけないのなら、大変悲しく思います。
 私は尚宮様のその嘆きを和らげたい。少しでも安らいでいただきたいのです。」
 「お前に抱かれて安らぐ・・・か。そうであればどれほど快いことであろうか。
 お前を手の中に置くとき、私は十分安らいでいる。だから心配せずともよい。
  だが、・・・私は、お前に抱かれることで、ミョンイの思い出に向き合うのを・・・
 恐れている。向き合えば私はひ弱な姿・・・そんな無様な姿をお前に曝(さら)け出す
 ことになるだろう。私は、お前の前では師匠としてありたい。弱い自分を見せたくはない。」

 「だからといって私はお前を拒みながらお前の身体を求め、お前を慰み者にするのか。
 お前を拒むのと同様に、己もお前に触れるのを戒めるのか。
  それともまた、煩悶と合い舞いながら、ひ弱な姿を晒(さら)しながら、お前に愛でら
 れるのか。
  何(いず)れの道にしても、我が歩を進めることができかねる。」

 「そして、これは私自身が片付けることだ。お前を巻き込むことではないのだ。
  この話しは、もう終わりにしよう。私がいいと言うまで、ここには来てはならぬ。」
 「尚宮様。」
 「出て行ってちょうだい。」

[ハン最高尚宮の部屋]
 数日後の夜半、チャングムが来る。
 「尚宮様、どうかお願いします。尚宮様のお苦しみを分かち合えないということ、
 その上私がその痛みを弥増(いやま)してしまうことを心苦しく思います。
  それでもハン尚宮様にお願いいたします。もう私が尚宮様を癒すなどと出過ぎた
 ことは申しません。ただ、ただ、私の願いを聞いていただきたいのです。
  私自身が、勿体ないことですが、尚宮様を感じたいのです。どうか、どうか、
 私を受け入れてください。」
 「チャングム・・・。」
 「尚宮様は私に、『二人の身体が熔け合い一つになったとき、心も一つになれる。』と
 おっしゃいました。それが情を交わすということだとおっしゃいました。私も尚宮様を
 熔かしたいのです。熔け合いたいのです。
  私が尚宮様に受け入れて戴くことで、尚宮様がどのようにお感じになっても・・・、
 母をお感じになっても、母を想われても私は構いません。私はただ、尚宮様と情を
 交わしたいのです。身勝手なお願いと承知しておりますが、それでも私の我が儘を
 お許しください。」

 求め、求められる関係。あの人とはそうだった。そんな時間に戻れるというのだろうか。
戻っていいのだろうか。
 しばらく思案した後、ハン尚宮は話し始めた。
 「・・・ミョンイはどう思うでしょうね。たぶんあの人なら、こう言うのじゃないかしら。
  『あなたがいくら私のことを思っても、もう私はあなたの傍にはいられない。
  あなたが悲しみを忘れられなくても、それでもあなたは生きていかなくてはならない。
   生きていくなら、あなたに少しでも幸せになって欲しい。だから、今あなたを
  想う人のことを大切にしなさい。そして恐れず一歩を踏み出しなさい。』
  きっとお前も同じ思いでしょ?」

 「私もお前と離れたくはない。そんなことは考えられない。お前と過ごす時の全てが
 私の喜びなのだから。」

 「お前がそれほど望むなら、私も覚悟を決めなくてはならないわね。
  お前と抱き合うことで、私は煩悶するかもしれない。お前に弱弱しい姿をさらけ出す
 かも知れない。そんな姿がお前を落胆させるかも知れない。そんな私でも、受け止め
 られるのか。」
 この子は、ただ直向(ひたむ)きに私のことを思っているのだろう。情の深い子なのだから。
 しかし、チャングムはこう言った。もう師匠が許していることを、承知しているのだ。
 「私はただ、尚宮様を感じたいと思っています。」

 チャングムは、瞳をキラキラさせながら見ている。この瞳。本当にミョンイ譲りだ。
この奥行のある瞳で無邪気に見つめられ、甘く囁かれたら、いつだって押し切られて
しまう。魔性、そんな言葉が頭を過(よ)ぎる。
 「相変わらず、頭に何にも入っていないのね。でもいいわ。お前に委ねてみましょう。
 それがどんなことになろうとも、お前の思うようにさせましょう。」

 「でも残念だけれど、明日から暫く、朝早くから御膳を整えなくてはならないの。
 だから5日後に来てちょうだい。それと、この前のお酒おいしかったわ。お前も
 お酒の嗜み方を知らなくてはね。またカンおじさまのところで買ってきて。」
 「はい尚宮様。飲み方を教えていただけるなんて、本っ当に嬉しいです。
 では失礼いたします。」

 「ちょっとこちらへ来なさい。今夜は口付けだけ・・・。」
 久しぶりに柔らかさを味わう二人。
 「ねえ、チャングム。私の中に入れてきなさい。最初は小さく・・・。」
 今までチャングムは、舌を吸い上げられたことはあったが、意識して自分から入れるのは
初めてだった。
 チャングムはどきどきした。だがミン尚宮の言葉を思い出し、落ち着け落ち着けと
繰り返し、そっと少しだけ、柔らかく、舌をハン尚宮の口に挿し入れた。
 そうそう、そういえば手を握れ、肩も触れってミン尚宮様がおっしゃってたっけ。
片手でハン尚宮の手を取り、指を絡める。片手を肩に回し、優しく擦る。それから
何だったっけ? あ、言葉ね。口付けの合間に、「ママニィム」と囁く。

 ハン尚宮が変化し始めた。
 絡めた指を擦る度、肩を撫で回す度に吐息を洩らす。チャングムはハン尚宮の口内の、
歯の裏にまで舌先を伸ばす。舌の表裏を舐め、先を絡め、そしてもっと奥まで入れる。
 ハン尚宮の身体は上気し、微かに震えている。口内が暖かく、柔らかく熔け始めるのを
感じる。ハン尚宮はチャングムを引き離そうとした。しかしチャングムは腕に力を入れ、
しばらく続けた。
 そしてチャングムが、耳元や項(うなじ)に舌を這わせようとすると、
 「今日はだめ・・・。もうお帰り。」
ようやくチャングムから離れると、ハン尚宮はやっとの思いでそう言うのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[水剌間の一角]
 チャングムの姿を見かけたミン尚宮、周りに人気(ひとけ)のないのを確認する。
 「チャングム、この頃どう? うまく行ってる?」
 「ミン尚宮様、実は、しばらくお会いできなかったんです。でも昨日久しぶりに。」
 「久しぶりってことは燃えたのね。」
 「いえ、時間がなかったので口付けだけでした。」
 「ふーん、残念ね。で、どうだった?」
 「すごく良かったです。何かこう、今までとは全然違って、甘みを感じました。」
 「いい傾向ね。同じ人とでもその時々によって味が変わってくるから。
 落ち着いて、できたのね。」
 「はい、今までは無我夢中でしたが、ちょっと冷静になってみると、逆に熱くすることが
 できるように思います。」
 「そう、その調子よ。じゃ頑張ってね。また何かあったら言ってね。」
 「はい、ありがとうございます。」
 チャングムは礼を言って、立ち去った。

 「これ、ミン尚宮。」
 そこへハン最高尚宮が通りかかり、二人の会話を小耳に挟んで呼び止めた。
 そういえば、私を求めなかった時、妙にミン尚宮の部屋に通っていたようだった。
もしや・・・。チャングムが他の者と接することなど、考えられない・・・こともない・・・。
 でもまさかミン尚宮と・・・そんな風には見えないけれど。まさかチャンイと? 
それとも他の子と? とにかく聞いてみなければ。
 「甘いって何のお話し? 何の味が変わるの?」
 「いえ、そのー。」
 「熱いってどういうこと?」
 「あのー、それはその・・・(何か言い訳を考えなくっちゃ。そうそう)、川魚の飴炊きの
 工夫を教えていたのです。砂糖醤油を熱々に溶かして手早く一気に絡めないと、
 味がうまくのりませんので、加減よくするにはどうするかと。」
 「そうなの?」
 今ひとつ納得出来ない顔のハン尚宮。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 チャングム×ハン尚宮 −尽・未来際−1/3 チャングム×ハン尚宮 −尽・未来際−3/3


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