BBSPINKちゃんねる内で発表されたチャングムの誓いのSS(二次小説)を収集した保管庫です

   チャングム×ハン尚宮×チェ尚宮 (13) −星望−2/3       壱参弐様


「あの人……ミョンイに抱かれて、私は深く満たされた。身体が燃え上がり心が震えた。
そしてお前も私を満たしてくれた。
 でも今夜は、もっと満たして欲しいし……私もお前を満たしたいって願っていい
かしら?」

 チャングムは黙って私の背中をさすっている。
 ―――ミョンイはね。私のことをとっても大事にしてくれた。それまで……皆から
   蔑みの目で見られるばかりだった私のことを、いつも見守ってくれて。
    そして私を、私の気持ちを判ろうとしてくれたわ。
    そして私も……お前に同じように愛情を注ぎ続けてやれるだろうか?
 時折、ぽんぽんと軽く背中を叩かれる。何にも言わないけれどもそれが、安心して
いいのですよと伝えていた。

 チャングムの肩から寝巻きを滑り落とすと、以前より厚く感じる胸板や太くなった
二の腕が現れた。
「ずいぶんたくましくなって。
 懸命にやってくれたって、前の尚宮様が褒めてられたわ」
「こちらに来てしばらく……どうにも我慢できない時には、薪割りをさせてもらった
のです……。
 いえ、炎の加減が知りたいなって。炭も作ったりしたんですよ」
「そう。どこにいても研究熱心ね」
「ええ。木の種類とか大きさによって、ゆっくり長く燃えるものや激しく瞬間的に火が
上がるものや……いろいろ勉強になりました」
「私は料理を精進しろと書き送ったはずだったわね。
 まああなたらしいんだけど。そうやって何かに捉われずいろんなことを学び取ろうと
するのが」
「へへ。それと、この前ご一緒したような山歩きも沢山しましたから」
 チマをたくし上げて見せてくれる脚には以前見たよりはっきり、ふくらはぎの筋が
浮かんでいた。
「本当に頑張ったのね。そして苦労させたわね」
 肩や脚の全部を撫でながら言った。
「いいえ、私は平気でした。ハン尚宮様がご無事でいらっしゃるかそれだけしか」

 チャングムの話しを心地よく耳に入れながら、チマの結い紐と、そして身を覆う全てを
解き去り、もう一度その身体を眺める。次々に現れる肌が光り輝く。張りのある胸に
触れると、ふにゅりとした感触が手のひらに広がった。
 私のまだ肩にかけたままの寝巻で包み込むように抱きしめた。温かくて柔らかくて。

 崩れるように布団に倒し、その心地よい触感を唇で味わい舌先で楽しんだ。
 私が触れる度に胸が揺れ、吐息が漏れ、脇腹からくびれた腰、腿、首筋……無限に
広がる愛しさの海で、目にするもの手にするもの全てに口付け、堪能していく。
  ふぅ
 小さく溜息が聞こえた。
 背中を手で支え反らし気味にして、豊かな乳房をさらに強調し頬で楽しむ。チャングム
も私の胸を手で撫でて応えた。
 焦りすら感じながら内股のもっと柔らかな部分に指を添わせると、下から上へ、上から
下へ何度も撫で擦る。擦るたびに指は柔肉を掻き分け、ぬめりと共に深みを増していく。
 それから。
 入り口を探り中指をすっと、温もりに差し入れた。
 吐息に切なさが入り混じる……感度のいい、美しい身体。

 片脚を脇で掲げ腿裏を胸で支えて開き、中指を浅めにとどめたまま、くちゅくちゅと
入り口あたりをかき回したり、ゆっくりとほぐしていく。更に潤いが増え、その潤滑液を
塗りこめて愛撫を続けると、弾力に押し返されるようになった。
 それと共に肩に回された手に力が入り、唇が求めていた。求められるままに舌を含ま
せる。吸い込まれる力につけ根が痺れ、唇の合間からちゅっちゅという……響きが部屋に
こだました。

 甘い口付けではなくて。
 卑猥……で。
 少し痛い。

 そんなに強く引き寄せなくても、私はお前から離れはしない。
 お前が真の心であり続ける限り。
 その気持ちが伝わったのか。接点がどろどろと溶け始め、そして溢れる唾液をもう
拭いもせず、ひとつになった口元からチャングムの首筋にまで流れていく。
 そして別の場所からもぬめりが流れだした。
 腰が軽く浮き上がり始め、さらにその奥へと誘う。既に入れている中指に、人差し指も
添える。
 けれどそこはしばらく……ぶりのせいなのか、思ったより狭い。それとも慣れ親しんだ
感触――いやいけないいけない、そんなことを考えては――。
 チャングムの表情を眺めながらほぐし、ほぐしながら少しずつ奥へと進めていった。
 この子は時折大きく口を開いて息を継ぎ、それと共に嬌声が漏れ、それに自分で驚いた
のか、また口を固く結ぶ。それが面白く、私の動きにつれ変わる表情を楽しみながら
感じる場所を探していった。
 そして息を継ぐたびに……指が強く挟み込まれる。

 たまらず埋めていた指を離し、脚を開いてその間に身を置いた。ほんの一瞬身体を
離しただけなのに、お前は手を伸ばし私を捜し求めた。
 片方の手で柔らかな唇に触れ、指で舌を絡め取る。こうすれば寂しくないでしょ。口の
中を犯す指はしかし、すぐにいいように噛まれ舐められている。
 そうしながら下の方の薄い色の毛の間を掻き分けて、顔を寄せていく。近付くにつれて
甘い香りだけではなくやや蒸れたような……海の匂いが淡く漂った。
 久しぶりに見るそれは、先ほど見た八重桜のような花弁が愛らしく重なっていた。
 辺りを唇に含ませながら舌を沈ませる。唇で吸い上げると、いつもどこか強気な子が、
無抵抗に身を震わせる。
 差し入れた舌を包み込む柔肉にほんのり塩味が浮かび、それもまた桜茶を思い出させた。
 舌先に反応する花弁と、そして自分の舌とこの子が一体となって、唾液とかすかに
渋いような酸っぱ味もある、汗の味にも似た愛液が混ざり溶ける。
 時折むっとする体臭がかすめる。けれどそれも含め愛おしく、この子の何もかも全部を
受け入れたいと願う。
 滲み出すしたたりの量もだんだんと増え、とろとろ流れ出すのをすいっと吸うと、
柔らかな温もりが一団となって舌の上から喉に滑り込んだ。

 その間、私の髪の毛は両手で掻き上げられ、そしてその部分に幾度も押し付けられた。
それは苦しくもなくむしろ甘美で、そして次々溢れる液体をちゅぱちゅぱと音を立てて
吸い取り……私も昂っていった。

「ここがいいの?」
 関節の二つめの深さで下方に押し付けると、くぐもった声を出す。
 少し指を立て気味にして左右に細かく震わせる。すると腰が撥ね馬のように大きく動き、
腿に何度も鼻をぶつけるくらいの勢いで荒ぶる。
「あっ ああ いきそうです」
 指先の力を抜くと、また切なげにくねりだす。
「尚宮様、私……うぅ」
 そしてまた指を立ててこの子の内側を愛しんでいく。
「いいわよ」
  くぁ ひゃ はぁっ
 昂りを増す声に上目遣いで様子を眺めると、唇は半開きになり震えている。
  いや あっ 駄目 あぅ
 体内の収縮が、もう近いことを教えている。
「ねえ、いっていいから」
 そして尚宮様と呼ぶとも喘ぎとも聞き分けられない言葉を口走り……時折眉根をしかめ
……足指が開き気味に硬直し、背中をぐっと仰け反らせたかと思うと……どうした訳か
肘のあたりまでにこの子から分泌された液体が飛び散っていた。

 ややあって大きな息を繰り返し、まだ熱っぽい唇を舌で味わう。小刻みに震え続ける
肩や上下する胸を頬で愉しみ、快楽の名残にキュっと縮み留める乳首を軽く噛んだ。

「激しいって、それは私が乱れるのが激しかったってこと? それともお前をこんな風に
したってことかしら?」
 耳元で囁くと胸の鼓動がまた早まり、そして胸の谷間に溜まった汗から濃厚な“女”の
匂いが漂った。
 すっと腕が伸びてきて私の首に巻き付き、首筋や背中を撫でまわしている。
「もう一度、ほら」
 汗は首にも浮かび、脇の下から滴りだす。時折それを舐め取りながら、心持ち膨らんだ
乳輪を手のひらで愛でる
 再び荒ぶる息遣い。私も再びその中に指を送り込み、今度は腹側を緩急をつけて撫でた。
私に身を任せ腕の中でとろける愛しい身体から、小さな呻き声が数回聞こえた。
「いきたいんでしょ?」
 私が撫でさすっている部分……下の毛が、手の中で急に逆立ち指に絡みつく。
 胸の頂を強めに吸い上げ口の中で転がしていくと、数度の硬直の後、腕の力は徐々に
弱くなっていった。

 まだ荒い息が収まっていない。
 ぐったりしたそこから、とろとろと流れ続けるのを指ですくい取っては楽しむ。

 重ねていた自分の身を脇にずらすと、チャングムは余韻の強さに耐えきれないかの
ように、背中を向け身体を縮こませた。

 お前、久しぶりだったから……。
 向けられたチャングムの背中をしみじみと眺めた。あの人はどうだっただろう? これ
が、私が幼い頃から共に過ごしてきた人の背中だったのだろうか。
 風邪ひとつひかない強い子だったから、他の女官がよくそうしていたように、看病
したり着替えを手伝ったりしたこともなかった。
 さすがに親子だけあって、背格好はよく似ている。でも背中をこうやってじっと見た
ことはなくて。いくら仲がよくても、何度身体を重ねても、それは夜具の中でのことで
あったし……感触しか。

 それにあの人の昂った姿を私はあまり……ほとんど。全く無防備な格好。ミョンイも
その時はこんな感じになるのかしらね。
 ひょっとしてチェ尚宮には見せていたのかしら。
 だったらもし今会えたなら、きっと私はあなたを……こんな風にしたいって。こんな
あなたを感じたいって願うでしょうね。
 そう思いながら肩に腕を回した。そして肩甲骨の形を指で確かめ、脇から腰のくびれを
愛でる。
 チャングムは背中で私を受け止めていた。
 艶やかな髪を撫で、その香りを嗅ぐ。

 身体に布団をかけてやる。
 この身にまだ纏っていた寝巻きを脱いで、同じ布団に潜り込んだ。
 そしてまだ汗の残る背中や腿に身を絡め、その感触を楽しみながら目を閉じた。


 明り取りの障子越し、月明かりが部屋に注いでいる。ほの明かりの中、半身を起こして
久しぶりの寝顔を眺める。
 こうしてずっと見続けていたい……。

 また浸ってしまう。甘美な思いに。
 そう確か……夜半同じようにこの子の温もりを感じて、それで……気が付くと
チャングムは私の手を軽く握っていた。
 その手に指を絡めて感触を楽しんでいると、チャングムは私の手を肩に回したから、
私の胸も自然とチャングムに押し当てる格好になった。
 密着したままもう片方の手は口の中へ含まされ指が絡み取られ……唾液が絡んだそれを
腰から前の方へと回される。ほとぼる中に浸し……次の動きをねだるように。

 たまらなく欲しい。
 さっきしたばかりなのに、また欲しくなる。
 今はただ、あなたの全て、あなたのその命のときめきを感じたい。

 チャングムの身体を引き寄せて布団の上にうつ伏せて跨り、背中のあらゆる場所に舌を
這わせ唇で吸い歯で噛み、また手で味わう。
 徐々に息が荒くなり、軽く歯を立てる度に呻く声を背中に耳を押し当てて聞いた。体に
響く息遣いが漲(みなぎ)る命の力強さを私に伝えている。

 過ぎし日々、あの人との時。
 あの人には……愛情を常に注がれて。それが心地よくて、でも自分はどうしたらよい
のか判らず……いや何かを返さなくてはなどと考えもしなかった。分かち合うのが
当たり前過ぎたから。

 あの人がいなくなって、守られ与えられていたものの大きさにやっと気付き、何が
できるだろう、何かしなくてはと考え。
 それがお給金を米に換え、お父様にお送りすることだった。何のたしにもならない
けれども、今までのご家族の生活を支えていたあの子の代わりに、少しでも私がお父様を
お支え出来ればと願っていた。
 けれどお父様の嘆きは深かった。私も一応ことの顛末をお伝えして、ひょっとしたら
どこかで、とお慰めしたものの、そうだとしても二度と会えないだろうことは覚悟されていた
ご様子だった。
 そして情の深い娘との別離が……いくら私がいたとしても、あの子の代わりにはなれ
ようはずもない。

 ミョンイは連れ去られる時、子連れだと聞いた。きっとその時にチャングムのことを
私に教えて、そしてお父様にも伝えてくれって言いたかったのでしょう。
 もっと早くにそうと判っていれば。こんな可愛い子がいることや、そして私の手元で
育てていることをご報告できたとは思うけれども。お前にもお父様のご様子を話した
かった。
 いや、それも仕方ないと諦めるしかないのでしょうね。
 あの厳しい追っ手の中、この子を守り抜くために、そうするしかなかったのだろうから。
 でもあなたがチャングムを信じていたように、お父様もあなたの、ミョンイとその子が
生き抜く力を信じていらっしゃったのよ。

 チャングム。だからお前のそのたくましい命はね、決してお前だけのものではなくてね、
お前のお母様やそのお父様、お前にとってはおじい様のお気持ちがあってこそ。そして
また、私は一度もお会いできなかったけれども、お前のお父様のお心も、お前という賜物、
となり私に新しい人生を与えてくれた。
 この輝く命がいまここにあって。私はそれを愛しむことができる。
 眼下に置かれたぷっくりとした白桃にかぶりついた。
 激しくなるため息と腰のうねり。
 甘ったるい中に酸っぱさも含むこの子の香りと共に己から醸し出される生臭さい汗も
自分の鼻に届き、それがはしたなくも、さらに情念を高める。

 脚を広げその合間から指で……溢れ出す蜜を、はれぼったく、けれど鋭敏に尖った
部分に塗しつけて丹念に愛撫を重ね、時折反る身体を背後から押さえ……喘ぎ……微かに
歪む顔は淫靡に美しく、吐息がひときわ大きくなり私の手を強く握り締めると……くくっ
と力が抜ける。その身体を抱えて仰向けにし、自分の脚と交差させて中心部を重ね
合わせる。既にトロトロになっているそれを自分のと押し付け擦り交わった。
 時折胸を味わい唇に燃え盛る炎を感じ合う。

 滑りは腿にまで広がり、この子の腰も私の動きにつれ、いやそれ以上に激しくなる。
脚が脚に絡まり、背中を爪が這いずり回り、私が強く抱きしめるとチャングムは私の
耳を噛んだ。
  あっ もう ぅ
  ……いっしょに……尚宮様
  私も……チャングム……
 呼び交わす声が月夜に響き、唇と舌を深く絡ませながら沈み込んだ。
 鼓動が重なる。

 あったかい。心置きなく味わえるぬくもりが心地よい。


 ミョンイ。あなたがこの子に最高尚宮という寄る辺を与えたのは。二人の誓いを疑わず、
そしてどうにかして。どうにかして最高尚宮をと願い続けた私が、きっとこの子と巡り
合う時があるだろうと。

 いや、この子を見て、そして自分の道を定めろと。

 あなたの、そして私の宝。
 私をここまで変えた子。


 夢うつつまた別の顔。私にさらに変化をもたらした女が現れた。

 あの者に愛情を感じたことはほとんどなく、快楽を与えられたことは、今でも吐き気がし
……だけど互いへの憐憫の情が抱き合う中で溶け合ったのを否定もできず……。
 ソングムとの日々で……あの者の心中にも不実のみではない心根があること、そして
私の中にも同じように、誇れるものばかりではない様々な感情があるとを知り得たのは
……ある意味感謝しなければならないのでしょう……ね。

 何と言えばいいのか。やはりあの者の方が、人あしらいには長けていたことを素直に
認めよう。もちろん、生まれや実家の威勢が背景にあるとは言え。
 料理の腕や思いやりがあっても。
 ひとりで水剌間の全部を回せるわけではないことを身に染みて思い知らされた。
 その上身分の卑しい私がどう思われているかなんて、他の尚宮たちの本音を垣間見る
など、苦く、知りたくもない。どうしようもないことって、宮に来た時から判っていた。
 でもミョンイがいれば、あの人の側で私は……その辛さを直接浴びることはなく。

 だからあれもいい経験だったのかも知れないと今は思う。
 私がそうであったように、各々が背負うそれぞれの事情がある。

 中でも……ソングムのことを何一つ思えず。
 子供の頃から一番長く、共に時間を過ごしてきたというのに。それが否応無くで
あるにせよ私にとっていくら疎ましくても、知っておき知ってやる必要があった。
結果的に同じように敵対したとしても。


 この子に望むのは、己の運命も相手の立場も知った上で。その鬱屈する思いを秘め、
それでも相手を思いやれる……そんな人に…………チョン尚宮様のように。
 思えばあの座を受け入れられた時から、いやそれよりも前から、宮のありようや大勢の
女官の生まれや気立てや柵をご存知であったと思う。
 火傷を覚悟で敢えて火中の栗を拾い、そして同じ宮の中で共に暮らす皆を、我慢強く
温かく導こうとされた……。

 それに比べて私はどうだ。昔はミョンイを頼り、独りになってからは目を閉じ耳を
閉じて嫌なことから逃げ続けてきた。ただ料理を精進すればそれでいいのだと、ある意味
わがままに振る舞ってきたのではないか。
 そしてやっと柵に立ち向かおうとしても、やはり私は至らないことばかりで、人を
動かすことが不得手な未熟さ、頑なさに………………歯噛みした。


 そんな私がどこまでこの子に、私の轍を踏むな、しっかり眼を開き苦しさを受け止め、
なお人に寛容であれ、その上真心を忘れるなと言えるのだろう。チェ一族の処分はお前が
最高尚宮になって、そして決めろと……そんな長い重い、辛い道のりを。

 できることならあなたには、真の意味で強く強くあって欲しいが。


 いやそうではない。ミョンイがどう願おうが、この子がどう歩もうが、私は私のやるべき
ことをしていくだけ。今のようにいびつな形で支配された宮の、せめて受け持つ水剌間
だけでも、王様に安らいでいただけるひとときを差し上げる場所にしたい。チョン尚宮様の
お志を継ぎできる限りのことをし、考え。
 そしてチェ尚宮のことは私が決着をつける。

 チャングム。少なくともこれから先、私はそうしていく。
 そのためには、私は手段は……選ぶけれども、少なくとも今までのようなきれいごと
ばかりは言わない。


 ああミョンイ、もう一度会いたい。

 そして頷いて欲しい。それでいいのよって。


 ミョンイが私を。布団に包み込んで、私の目を覗き込んでいる。私は少しドキドキ
しながら温かい胸に身を寄せた。そんな私をただ、ぎゅっと抱きかかえ、そして背中を
軽く撫でてくれる。
「ねえ、ミョンイ」
 ねだるように囁いた私をミョンイはじっと見つめた。そして言う。
「ペギョン、あなたなら大丈夫よ」
「大丈夫? でも私はこれから」
 いっつも詳しくは答えてくれないで、それが不満でまた話しをねだっても、微笑む
だけだったけど。
「ソングムとも……」
 そう話しかけても、面持ちは変わらなかった。
 そして本当に幸せそうにしている。突如連れて行かれた時から見ることができなかった
この素敵な笑顔。
 久しぶりにあの人の笑う顔を見ることができて私も幸せ。

 ミョンイ、ありがとう。


 目覚めたのは、これが初めてではないような気がする。

 気が付くと、チャングムが私を撫でていた。頭を起こした私を見てこちらに身体の
向きを変えた。
「うなされていらっしゃいました」
「そうなの?」
「でも、時々笑ってられたり」
「また……昔を思い出して」
 チャングムの顔が少し歪んだような気がした。しかし何も言わず、首筋をぺろっと舐め
取られる。
「……少し塩辛いです」
 密着させた乳房は粘りを帯び、身体中がべとべとしている。夢の中で思い悩み、汗を
かいてしまったのだろう。チャングムの背中からも、幾筋かが流れ落ちている。さすがに
このままでは気持ち悪い。
 引き出しから手拭いを取り出してチャングムの身体を拭こうとした。
「私がして差し上げます」
 そう言うと、廊下から火鉢と一回り大きな鉄瓶を部屋に運び入れた。
「こんなものまで用意してたの?」
「えっとですね、これも実はミン尚宮様にご指南いただいて。使うかどうかわからない
けれど、一通り用意だけはしておこうと」
 そういえば夜も更けて、戸の隙間から吹き込む風に寒さも感じるようになってきた。
汗の跡が少しひやりとする。

 宮なら各厨房の竈の熱が絶えることなく温突(オンドル)の床を温めてくれる。けれど
ここは元々暖かで、夜通しの火番も冬を過ぎた今はいない。
 だから急に冷えた夜には、各々小さな火鉢を使って暖を取る。
 後は火鉢と言えば……宮でも、手元に火があると何かと便利で、夜更けまで勉強する
時など夜食に干し烏賊や餅をあぶったりお茶を飲んだりとか。
 食べ盛りの時には炭をがんがんに熾して、こっそり皆と猪鍋をしたことも。

 チャングムは持ってきた火鉢の炭を火種が絶えない程度に均し直すと、変わった形の
炭を中心からやや離れたところに置いた。
「これ、いがぐりなの? こっちは柿?」
「ええ」
「きれいにできたわね。元の形のままに」
「ついつい楽しくなって、普通の木と一緒にいろいろ焼いてみました。顔も服もすすだらけ
にしたものだから、戻ってから前の尚宮様に怒られましたけど。
 でもハン尚宮様に見ていただきたくってお持ちしました」
 また屈託なく笑う。
「本当にあれこれ、いろんなものを試してみてるのね」

 鉄瓶から盥に注ぎ入れた湯を適度に冷まし、そして手ぬぐいを絞り身体を拭いてくれた。

「尚宮様は、以前と違って……変わられました……」
 拭われてさっぱりとする。
「そうかしら?」
 置かれた盥に目を落とすと、乱れ髪の顔がやや上気して浮かんでいた。
 照れくさくなり火鉢に顔を向け、チャングムが作った飾り炭を手にした。
 ふわりとした巾着の形が美しいほうずきは、結構おいしくて、子供の頃よく口にした
ものだった。そしてこの根が咳を鎮めるからと、ミョンイが煎じてくれたことも
あったっけ。
 赤く点った炭を眺めながら懐かしく思い出し、指先をかざす。

「私が思いを致すことなんてできないとは存じますけれど……前よりずっとお心を
お見せになるような気がいたします」
 何度か湯で濯ぎ、そしてチャングムも自分の身体を拭き取り終えると、また手拭いを
持って今度は私の足の片方を膝に抱えた。されるままにしていると、血の巡りがよくなり
疲れが取れるのだと言いながら、改めて足の指まで丹念に清めてくれた。
 お互いほとんど……腰に適当に掛け布を巻きつけたりしている程度だったが、時折
白い灰を吹き上げる炭が寒さを感じさせなかった。
「太平館においでになってお教えをいただき、また諭していただいて。そして今こうして
時を共に過ごさせていただいて。そう感じました」
 今度は櫛を持ち出し髪を梳いてくれる。

 全て終え、チャングムが背中にくっついてきた。
「『私はどうしたら? これでいいのよね』って。そう何度も口にされてましたよ」
 先ほどと異なり、触れ合う背中と胸がさらさらとして心地よい。
「まあ、いろいろあったから」
「そのお悩みは、お話しいただけないのですか?」
 耳に寄せようとする口元を引き離し、正面から向き合った。
「話さない。ただ……私の後姿を見て……自分で考えて……」
「尚宮様。ずっと尚宮様のようになりたいと思っていました。その気持ちは今でも
変わりません」
「こんな中途半端な私を受け入れるのもいい。それは違うと私を乗り越えるのもいい。
でもね、自分で決めなさい」
「そう言われるなら今はこれ以上はお伺いしません。だけど、もしお聞かせいただける
時が来たならば。教えてくださいね」
「そうね、いつかは話せるかもしれない」
「でも尚宮様、今は」
 促された布団に目をやると、枕や周りにまで幾筋もの長い黒髪が名残を留めている。
私が手を伸ばすより先にチャングムも気付いて丁寧に取り去ってくれた。

 きれいになった敷布に先にチャングムが座った。
「どうぞ、この上に」
 上? 戸惑っていると、私の手を引いて両脚をさっさと広げられ、向き合って太腿の上に
座らされた。
 胸同士が微妙に触れ合う。チャングムはにっこりと微笑み、私のおとがいを指で支えて
軽く唇を触れ合わせてくる。小鳥がついばむように、軽く。
「私の憧れだったのです。私の大切な方なのです。その方が、こうしてこの手の中に
いらっしゃるのです。
 だから……」
 そう言いながら頬ずりを繰り返す。

「ねえ。お願いがあるんだけど」
「何でもおっしゃってください」
「あのね……ゆっくり……」
「ゆっくり?」
「して欲しいの」
 軽く頷いた後、しばらくしてそっと抱かれて胸同士をくっつける。
 そのままじっと。
 ほとんど動かず向き合い、時折位置を変えて背中から重なり合った。
「尚宮様の背中が大好き」
 背後から強く抱き締められ、息の詰まりそうな圧迫感と充実感。心地良い苦しさ。
 力を緩めてまた頬ずりしてくる。私を大事に大事にしてくれる。

 そっと首筋に唇が当てられ。
 私も、背後から回されたこの子の腕を抱きかかえる。

 この子が強く触れようとするたび、抱き締めて首を小さく横に振った。強く抱かれれば、
何度も遂げることができるかもしれないけれど、それぞれは一瞬の昂りで終わるから。

 ゆったりと時間が流れて。
 なのに身体の位置を動かすような、ほんの少しの動きが身体に染み渡り少しずつ汗ばみ、
息遣いの一つ一つ、柔らかな愛撫の一つ一つが、気持ちを昂らせて、体の深く骨まで
愛撫していく。
 このひとときこの一夜。一生分、それ以上に愛したい。少しでも長くこの肌を
味わいたい。
 小さな動きにも胸の二つの蕾が固くなり、またそれが相手の蕾を固くしていく。
 目と目が合うと、真っ直ぐな眼差しで心の底まで覗き込まれることに陶酔し、愛しい
瞳を舌で愛撫する。
 軽く互いの胸を触り合う。
 うなじを舌でなぞり、くぐもった吐息を耳で楽しむ。
 徐々に互いの情欲が募っていくのが判り。
 ただ互いの感触に浸る。


 この子の腰の後ろまで巻きつけていた脚をやや離し、出来た間に手を滑り込ませ、
そしてチャングムの手を取り私の中に誘った。

 私の手はこの子の中にあり、この子は私の中にいて、こうして繋がっている。

 時間をかけて体奥の感じる部分を探り、そして口元も結び合ったまま全身の変化を
満喫した。


 心地よさは頭の中で感じるものなのだろうか? それとも肌の表で感じるものか?
 確かにチャングムに触られる、その手や肌や唇から受ける刺激は快感だ。けれど、
それだけではない。これだけ求められること、無心に私にしがみ付き、私を……身体だけ
でなくて、心までも全てを欲しがる気持ちが、堪えようのないほどたまらないほどに、
身も心も痺れさせていく。深く満たされていく。
 このままこの子の全てを剥きだしにし晒し、私の全部をこの夜に放ちたい。

 そう、存分に愛したい。愛し合いたい。
 そっとチャングムの身体を寝かせて、その脚の合間を唇で包み込んだ。
 少しずつ膨らむそれを、舌でまた柔らかくくるむ。その周囲の襞も厚みを帯びてきて、
できた襞の隙間に舌を潜り込ませた。

 この子のお腹が上下し、まるで息をしているかのようにその部分も口を開けている。
「ああ気持ちいい」
 ただ舌を置いただけなのに、敏感な場所はもう大きく充血して唇の上であばれている。
「尚宮様にも……」
 そう言うと、チャングムは私の身体を横たえ……そして……身体を反転させて逆の方向
から……私の脚を掻き分け腿を押し上げると、その中に頭を潜り込ませた。
 そして同じように私のそこに舌を押し付けたり、一本の指で軽く中をくすぐったり、
その部分を裏側から持ち上げたり。

 たまらなく気持ちいい、ゆったりした深い愛撫。
 そして私は目の前にあるこの子の桜花に、また舌を潜らせ唇で包んでいった。
 じわじわと深まる愉悦。

 息が互いに荒くなり、その時が近いことを知らせた。

 最後はさすがに口や指の動きが激しく……喉の奥が締め付けられるような声が
数度、どちらともなく上がり……逆さまの身体を抱き締め合う。
 荒々しかった息が、短く早く、そして細くなったかと思うと、チャングムはびっくり
するような大声を一度だけ上げた。
 入れていた指がぎゅっと強く締め付けられる。と共に、敏感な部分がもっとぷっくりと
口の中で膨れた。
 私を抱く手から力が抜け、だらりと滑り落ちていく。
 けれど体内に残した指だけはひくひくと動き続けて、この子の命の滾(たぎ)りを感じて
いた。

 指を伝う滴りを拭い取り、また元の形……顔を同じ向きにして息が整うまで頭を撫でた。

 火照りの残る身体を抱き寄せる。
 チャングムも私の背中をさすってくれる。
「やっぱり変わられました……お気持ちだけじゃなくて……その……」
 潤んだ瞳で見つめられる。
「こうやって抱いていただいて…………とっても気持ちいいんです。前よりずっと」
「でも……それは再会できて……あなた久しぶりだったから……そんな風に感じるのでは
ないかしら?」
「いえ、そうじゃないって思います。なぜだか判りませんけれど。
 すごく満たされるのに、また抱きしめて欲しくなるのです。なんだか身も心も安らぐ
感じがして」

 私が変わったかって……そうねえ。気持ちの面では。
 きっといろんなことがあって、自分の至らなさをはっきりと知ったこととか、世情を
知り怖れを知り、でも反面相手の弱さも見えて、無闇に怯えずともよいと判ったこととか
だろうか。
 でもひょっとして……。

「生意気な物言いですが、なんだか大きくなられたなあって。そんな尚宮様にいつまでも
包み込まれていたくって」
 ―――ああよかった。ひょっとして、単に床上手になったってことだったらなんて
    思って……ちょっとそれは。

「ありがとう。そう思ってくれるなら私は幸せよ」
 ―――まあでも、これまでは何にしてもだけれど自分の思いや感情を、拙く表現
    することしかできなかったから。
     あのソングムとの時間に。様々なことで激しくぶつかり合った経験が。今の私を。

「でもねチャングム。
 ……私は今までみたいには……ただ真っ正直では……いられない」
 チャングムはじっと見ていたが、しばらくして言った。
「尚宮様からお教えいただいたお心。何より大切な志。それが変わろうはずはありません。
だから私は、尚宮様を信じています」
 そう何よりこの子の存在に、この子となら運命を共にしようと思える覚悟が私を強く
支えている。

 危難の時に人の本性は現れる。それまでずっと強く振る舞っていた者も、時として
弱気になることもある。多くの者はその時々で従うものを変えていくし、変えざるを
得ないのだけれど。でもこの子は私を決して裏切らない。そんな安心感、いつまでも
無条件で愛し続けてくれる信頼。それをこの太平館で過ごす中で、改めて……確信できた
から……。

 横に寄り添って寝、手指を深く絡めた。
 この子ならきっと判ってくれる。私の心も、何もかもを。いつまでも、きっと。

「ねえ、だけどもうあなたとは。辛いだろうけれど忘れなさい」
 また頬を軽く齧られたり、赤子のように胸を吸われたり。相変わらず本当に嬉しそうに
している。そんなお前の背中を撫でた。すべすべした肌が気持ちよかった。
「尚宮様、忘れられなかったらどうしましょう?」
 おどけたように言う。
「馬鹿なことを言わないでよ」
 そのうち小さな寝息が聞こえてきた。


 身を捩るお前もこうやって私の前で安らぐ姿もどちらも愛しくて、なお深く愛したく
なる……私だって離したくない離れたくない。以前のように、今のようにずっとお前と
二人きりでいられたらどんなに幸せだろう……けれどこれからそれは。
 自分に許してはいけない。

 だからこれで……。


  身体中が柔らかい肉に包まれている。
  胸が甘美に痺れる。
  そして下腹がどんより鈍く、けれど甘ったるく。

 ぼんやり夢見心地、先ほどまでのを思い出しているのだろうなと思う。
 こういうことはよくある。深い交わりの後はしばらく余韻が残るもの。
 それにしても、やたら息が睫毛を掠めてくすぐったいのだけれど……。

 目を開けたのと、口を割り込んだ舌で私の舌が絡み取られるのとは同時だった。

 いきなりのことに息が詰まる。
 チャングムは構わず、そして私が目覚めたのを幸いとばかりに身体に覆いかぶさり
手首を両手で押し付けて胸や首筋に愛撫を繰り返した。
「……やめ……」
 聞こえないかのように耳の辺り一帯や脇の下も次々に。
「ねえ」
「夢でしたことを全部するって申し上げました」
 真顔で言う。そしてにこっと微笑んだ。
「まだ私はその夢から覚めていないのです」

 抱き締められまた耳たぶを舐められ、大きく脚を広げられ、背中いっぱいを貪られた
ような気がする。
 そんなことが幾度も……繰り返されて。

 手が下腹部を弄り、もう何度も腫れ濡れそぼったそこに添えられる。
 自分でもはっきり判るほど熱くなり、指の動き一つ一つに腰が勝手に応えてしまう。
 その姿態を見て更に激しく擦り付けようとする。このままではもうすぐにでも我を
失くしてしまいそうだ。
「ゆっくりして」
 諌めるように制した。
「駄目です。
 あの方は私の大切な尚宮様を……このお身体を……背中も乳房も……全てを味わい、
尚宮様はそれに悦びを感じられたのです。どんな事情があったとしても、私から奪われた
のです。
 だから私はチェ尚宮様が触れられた全部を」
「よしなさい」
「そして今でもその時のことを思い浮かべておられて」
「違うのよ、そうじゃないわ」
「頭では判っています。尚宮様の言われることは、亡くなった母と同じ大切なお教え
であると。だからお言付けを守らねばならない……心を真っ直ぐに……真心を持ち
これからを目指せ……そして……そして……過ぎたことを思い返すな…………けれど
いくらお言付けでも、この感情は抑えられません。
 私にお感じになればなるほど、悔しくて仕方ないのです。
 そして尚宮様から愛しみをいただいてますます、逆に激情が噴き出します」
「ああ、チャングム。さっきまで穏やかにしてくれたじゃない」
「この大きく温かいお心を感じれば感じるほど、チェ尚宮様にも同じように優しく
なさったのか、そしてチェ尚宮様は私と同じように、この心地を味わわれたのかと!」
 必死な形相だった。

 私もこの子の気持ちは判ってやりたい。応えてやりたい。
 でもどうしたら納得してくれるのか。あれほど抱き合っても愛し合っても、それでも
拭えぬ不信感が心の底に沈殿しているのなら。
「これから私の好きにさせていただきます。そしてチェ尚宮様をお想いになったお心も。
その全部を私の手に取り戻します」

 こうまでなったなら全て委ねるしかないのだろうか……いやまだ身を任せるには
早かったのか、などと思いながら混乱の中、求めを拒み続けた。
「もう。そんなにされるならこうします」
 そう言うとチャングムは、テンギ(髪飾り)で私の両腕を結わえた。
 束ねられた腕を頭の上で軽く抑えられ、身体に唇が寄せられ、耳の辺りにべとべとと
した唾液が絡みつく。

 嫌、いくらこの子に……好きにさせるとしてもこんなことまで。
 言おうとする唇は引き裂かれ、舌を吸い取られた。

 不思議な子だと思う。幼い頃から身体一杯に自分の思いを表現し、そしていつしか私の
頑なな心を溶かしていった。
 今も、私はこの子の師匠でありその立場を忘れまいと、己をどこか高みに置いておき
たいといった取り澄ました気持ちの最後の壁が、この熱情、そして生々しい感覚の前に
ぼろぼろと残らず崩れていく気がした。

 チャングムはさっきから私の身体中を舐めている。耳や胸は言うに及ばず、おへその
中も、そして手指の先までを自分のものにしていく。

 今はどこを……されているのかも判らない。力の抜けた腕は既に放置され、私の身体は
横に向けられたりうつ伏せにさせられたりして、ひっきりなしの愛撫をぼんやりと受け止め
ていた。
 時折口に押し付けるかのようにこの子の乳房があてがわれ、その感触を楽しませて
くれたりするものの、それも遠い世界のできごとのようだ。

 幾たびも……稲光(いなびかり)が。甘美で、でも少し痛みも伴う感覚が通り抜ける。堪え
きれずに漏れる喘ぎに、やはりあてがわれたこの子の指を噛み締めて押し留める。

「お辛いのですか?」
 酔いしれている耳に聞こえた。いいえ、そんなこと。
「さっきから、何度も首を振っておられたので」
 崩れ落ちたはずの心の壁に、羞恥心だけは残っていたようだ……。
「それとも、続けていいのですか?」
 自分の口からは答えられない……恥ずかしい
「やめた方がよさそうですね」
 だめ、それは。そんなことされたらおかしくなりそう。
 声を振り絞った。
「ねえ…」
 その間も背中を爪先が往復する。
「聞こえません、尚宮様。お望みをはっきりおっしゃっていただかないと」
 この子だって、私がどう感じているか知っていて。
「判ってる……でしょ」
 狂おしい誘惑の渦に、私はまんまと引きずり込まれていく。
「お願い…」
「でも尚宮様は私が何度お願いしても、全然お許しいただけませんでした」
「意地悪…言わないで」
 チャングムの背中にしがみついた。
「そのお顔、尚宮様のいじらしいお姿を見るとたまりません」
「……」
「そそります」
「……品の無い」
「すみません。でも……可愛くて仕方ないです」
「そう思うなら……」
「もっと愛したくなります」
「……ねえ…………して」

 ようやく手が放たれたが、すっかり力を失った身体はなすがまま。

 もう脚の表や裏や足首、そして膝の筋にいたるまで、この子に味わわれなかった部分は
無いといっていいだろう。
 そして両手で包み込まれた踵や足先に頬ずりを何度も繰り返し……くるぶしが
齧られ…………ひゃっ、と。
 親指が口に。
 ああこんなことまで。

 足指は含まれ、指と指の間に舌が前後する。意外にくすぐったさはなくて柔らかい
温かい感触。
 そして時折……。
「尚宮様のここ、タコができていますね」
そう囁きながら足の裏まで大きく舐めまわし、また指を口に運ぶ。
「立ちっぱなしのお仕事だから」
 もうそれは、包み込まれるというより引きずり込まれるといった感じだった。

 気持ちよくなると腰が抜ける……のはよくあり、山歩きをすると膝が笑うという経験も
ある。けれどこんな足首が抜けるというか。力が全然入らず、軽く甘い薄衣に……足先
から膝も腿、そして腰まで全てが覆われていく。
「こんなに硬くなって」
 口に含みながら、チャングムの手が胸を撫でた。
 上は馴染んだ心地よさに疼き、そして足先には感じたことのない……特に指を
しゃぶられると意識がふっと軽やかになる。
「こんなに力が入って」
 快楽のあまり縮こまった指を揉み、そして親指小指中指とばらばらにほぐしては広げ
一本一本をまた口の中で弄び、ちゅっちゅと吸い付かれる音を聞いた時には鳥肌立った。
 身体の上と下からさざ波が押し寄せる。二つの波がぶつかる場所。それは……。
「でもここは溶けるように柔らかい」
 そう言うと脚の間に……。

 またしばらくの愛撫に耐えた。しかし。

  ああぁ  あぅ いいぃ

「そんなにお声を上げられたら、ご病気かと駆けつけて来るかもしれませんよ」
 何を口走ったか、とにかく次々に声が出てしまったようだ。
「誰かに見られたらどうしましょう。このお姿を」
 そうよ、普通に抱き合っているだけでも破廉恥……なのに。尚宮が内人に責められ、
しかもこんなあられもない姿で。そう思うと、でもなぜかますます身体の奥底から……
じゅんと。

「いっぱい垂らして」
 脚や腰はチャングムに掲げられれば上がり、下ろされて裏返されて大きく広げられたり、
かと思うと身体を横に向けてまた持ち上げられ、あらゆる角度から責め苛まれる。
「急にお具合が悪くなられたので、介抱していましたって言うしかないですね」
 なおも脚を広げて生暖かな愛撫が繰り返され、それは手指と舌の共同作業へと変わって
いった。
「尚宮様、どんどん湧き出しています」
 責めに加わった舌が体内を侵蝕する感覚に悶え、唇が私から滴る液体を吸い上げる音に
震え、同時に敏感な部分に残された指が翻弄し続ける。
「きれいにしないといけませんよね」
 そう言いながら……さらに後ろ……の部分まで……侵蝕しようとするのを、無意識の
うちに肩を掴んで押し戻したようだ。

「素直でいられないんだったら。もう一度、失礼します」
 ちょっと怒った顔をして、でも何の躊躇も無く今度は後ろ手に縛られ、うつ伏せに
寝かされた。
「して欲しいっておっしゃった、そのお言い付けを守っているのに」

 双丘を撫で回した手が両脚を開いていく。その後ろにチャングムが陣取った。
「どこから見てもおきれい」
 痛いほどに視線が突き刺さる。
 背後から回された手が腰を支え、私を無防備にさらけ出していく。そして指が……
何かを確かめるかのように、軽く、くるくるとなぞっている。

「ひょっとして、ここもチェ尚宮様が?」
「いえ、違うわ! いいえ!」
 羞恥に震えながらも、それだけは否定した。
「それなら……よかった」
 指は一旦源泉に沈められ、私を獣性の海に耽溺していく。
 そして。
「私が全部を……お許しいただけますよね」
 そう囁くと共にぬめりが。初めてされる場所への感触。悪寒にすら似た震えが腰から
兆した。
 けれど気持ち悪さの反面、なぜか背筋がゾクゾクする。
 あの、白魚のような指が……私の……遠慮もなく。
 口を吐(つ)く声は、叫び声に近いのではなかろうか。
「お声も素敵です」
 言いたくて言っているのではないのだけれど、とにかく身体が反応し、そして勝手に
吐息が声となっている。
 更に舌まで加勢したものだから……。
 蠢きがねばねばを増すにつれ崩れ落ちそうになり、その度腰に回された手に力が込め
られ、また愛という名の下で蹂躙されていく。

「先ほどから、嫌っておっしゃってますけど……こんなに感じて」
 からかうように言い、腰一帯全部を舐め回され愛しみを与えられる。腰が本当に砕けて
しまい、いいように好きなようにされている。

 もう身体の力が抜け切って、引き起こされても自分を支えることができなくなる。
 ようやく――腕は縛られたままであったが――身体を起こされ、後ろに座るこの子に寄り
かかるようにして座ることを許された。
 しかし脚はそれぞれチャングムの脚に絡められ広げられ、間には手のひらが、もう片方の
手は胸を、そして髪の毛の合間からうなじをついばまれた。

「いい匂い……母もこの香りに包まれたのかしら」
 ふんふんと鼻をならしながら、独り言のように言う。
 私はまた抗うこともできず、身体中をあますところなく愛されていく。

 でも何度もその時を迎えようとしても、その度動きが緩慢になる。あともう少しで……
昇りかけては鎮められて、でも後ろからの責めに……私の手も……身動きもままならない。
「ねえっ」
 身を捩って求めても、同じことが繰り返されるだけだった。
「こんな染みまで作られて。明日私が洗いますね」
 下を見ると、股の間からだらしなく零れたぬめりが敷布に冷たく広がっていた。指との
間に糸まで引いて。

「尚宮様、さっきからもじもじされてますけど、本当にどこかお具合でも悪いんですか?」
 そうじゃなくって、と言いたかったが、相変わらずはっきりとはしゃべれない。
「熱っぽいし、息も荒いです」
 だってあなたがそうしているのよ。心まで弄ばれ、おかしくなりそう。
「だったらずっとこうやって介抱しなくては」
 そしてまた淡々と行為を続け、けれど焦らされ続ける。
 ますます力が定まらなくなって、自然とチャングムの胸にぐっと寄りかかるように
なっていた。
「そう、尚宮様。力を抜いて」
 チャングムの手が髪の毛を掻き上げ、耳たぶを唇で挟まれ耳中に濃厚な愛撫が繰り
返される。
「私のするままに」
 もう……チャングムの頭が傾けられ、私の頭もやや後ろ向きにされ、そして深い口付け
を受ける。
「もっと気持ちよくして差し上げます」
 腰の前に回された両手は私の反応を見ながら敏感な部分を丁寧に探り出し、その部分を
指で更に剥き出ししていく。
 ぴたぴたと与えられる刺激に、くちゃくちゃという音で応える身体は、もう自分のものか
どうなのかも知れず。背後のこの子と一体となり、この子自身、あたかも自涜している
かのように、時折うめき声を上げている。

 そしてやっとその時が……。

 遂に来たのか……来なかったのか……判らないくらい、普段と何一つ変わらない感じで、
とろとろと心地よく身体が溶けていった。

 私は大きな息を繰り返し、背中に当たる胸にもたれかかり身を捩り続けている。
 再び三度四度と口付けを受けてもカラカラで、互いの息も妙に粘っこい。


 チャングムはふっと微笑むと障子を開け、素焼きの壷を部屋に運んだ。
「それ何?」
 壷の中身を新しい湯飲みに注ぐと、チャングムがまず一口飲み干した。そう言えば私も
喉が渇いた。私の分を入れてはくれ
「尚宮様」
先ほどのように後ろから、いや、やや斜めに抱き寄せられ口付けをされ、そっと開いた
唇の間から注ぎ込まれた。口の中に広がる液体が次第に喉の奥に達する。
「お嫌ですか?」
 嫌という以前に、驚いている。何も言えずにいるとまた口に含み、私を抱く腕に力が
入った。そして零れぬようにゆっくりと流し込まれた。
「お声をあげてらしたので」
 次々と流れ落ちる水はほどよく冷え、乾いた喉を潤していく。

 この子と出会った頃の、水を持ってこいと命じた時のやりとりが、チラっと頭を掠め、
こみ上げる笑いを堪えたが……結局堪えきれずに口の端から零れた。
「何を笑ってらっしゃるのですか?」
 言えることではないわね。だって、どうしたら私の気持ちに添えるのか必死だった子が、
今は私の意を聞くこともなく、けれど望みを叶えているのだから。

 唇越しに含まされていく。それが数回繰り返される。最後に送り込まれるいくぶん温く
粘度も感じる甘露、その最後の一滴まで啜る。

 そしてやっとまた、手が解かれ横たえられた。

「まだ満足できないのじゃないですか?」
 未だに全身が敏感で、どこを触れられてもすぐ反応してしまう。それなのに汗ばんだ
肌に、やはりしっとりとした肌が重ねられる。
「ほら、欲しがっていますよ」
 その言葉が下腹部あたりに、甘い疼きを醸し出す。
「本当は……尚宮様って……とってもいやらしいんですね」
 昂りが収まり切らないその部分に指が添わされ、穏やかな愛撫が繰り返されている。
「こんなにされて」
 溢れた粘液を指にすくい取り、見せ付けた。
「ほんとうにかわいいお声でした。もっと聞かせてください」
 ぬらりと光る指をチャングムは自分の口に含ませると、またその指を私の中に
とっぷりと沈める。

「全然辛抱できなくて。年上なのに」
 上から見下ろす顔が意地悪を言う。
「それに……以前は、されるままに任せられることも多かったのに……待ちきれないと
ばかりに、次々お求めになる……なんて。
 やっぱり変わられましたね……というか、変えられてしまったのですね」
 続けられる指の動きに胸の動悸が強まり、またすぐに次の高みへ曳かれていく。
「だって…………」
 腕に軽く触れた。
「こんなに私を……こうして……」
 愛撫を続けるチャングムを撫でた。
「……気持ちよくしてくれる……前よりずいぶんと……それに……」
 その手を取って、逆にチャングムの潤いに浸してやる。
「お前もこんなに……ほら。柔らかくて」
 指を敏感な部分の上で往復させた。
「熱いでしょ。そして中は……吸い付くように……もっと温かいのよ」
 中指を奥に誘ってやる。
「だから私も欲しくなる……こんな風に、とても」
 この子自身のぬかるみにまぶされたチャングムの指先を……そっと咥えると、醸された
風味が漂った。
 中指の爪先を噛み、指の腹に舌を這わせ、人差し指との合間に移る。二本の指を含み
ながら、その間を往復させ、今度は人差し指の背を強く噛み、次は小指から順番に指の股
近くを噛み啜って……ゆっくりと味わった。

「尚宮様……」
 チャングムが深く息をつき少し首を傾けたものだから、髪が肩から前の方にしなだれ
かかった。
 この子の肩の髪を後ろに流そうとしたけれど、うなじや耳の後ろまで張り付いている。
さらに手を伸ばし、汗を指に感じながら額まで掻き分けてやる。と。
 ―――ミョンイ?
 面影? ではない。美しいあの人がいる。
 こんなこと空想の産物に過ぎないと判っているのよ。いいえ、判らなければ。
 だけど。

 ミョンイ以外には見えない……。

 またこの子に取り憑いているの?
 いや……。私の中にまだ恋焦がれる気持ちが残っていて。
 今この子と抱き合い、肉の感触、息遣いや汗ばみ、眼差し。この子の全てを手にし、
そして私の全部を与えているというのに、現実の生々しい感触よりも過去の思い出が
勝ってしまうなんて。
 今度は私が夢の中にいるのかもしれない。
 ―――抑えようとしても、抑え切れない懐かしさ。そして安らぎ。


 ミョンイに抱かれる夢を見たことはなく、かつての夜を思い浮かべることもあまりない。
 己に強いたのではないけれど、きっかけが無かったというか、そうしたいとはちっとも
思えなかった。
 ソングムとの時、思う振りをしたことはあっても、それは振りというだけ。
 あの別離と、そして再会してまた行方知れずとなって。無事生き伸びたにしても……
かなわないにしても、いずれにしたって辛い時を過ごしているのは間違いない。なのに
私が勝手にあの人と、たとえ夢の中とはいえ幸せなひとときを過ごしていい訳はなく、
まして嫌な思いから逃れるための道具ではないのだから。
 知らず知らずのうちに、心を封じ込めていたのだと思う。

 でも……この子がミョンイの子だと判ってからはどうだったのかしら? 思い起こせば
何度かこの子に面影を感じて葛藤もあったけれど……いいえ、それはあくまでもこの子
自身の温もりを感じてのことで……あの人の代わりにしてはいけないと……時折ひょいっと
面影がかすめてその度、自分を戒めてきたのだったっけ。

 代わりにするつもりもないけれど。
 抱き締められる力の加減も、時折私の頭を撫でる手の動きも、足の先まで触れ合わせる
肌の柔らかさも。
 あの人以外には思えなくて。

 ああ、思いっきり抱いて欲しい。
 あの人に愛された、あの日に帰りたい。


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