BBSPINKちゃんねる内で発表されたチャングムの誓いのSS(二次小説)を収集した保管庫です

   チャングム×ハン尚宮×チェ尚宮 (3)  −企望−       壱参弐様


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「はあっ はあっ」
 見れば見るほど愛おしさが募る。
 初めは肌を寄せるだけでおののき、時折涙を浮べていたが、この頃は私を抱き締める
腕にも、少しずつ力がこもってきた。良くなってきているようね。それにしてもあなたの
肌、触れるだけで私の身体も火照ってしまう。
 どれだけ長く憧れただろう。あの胸に顔を埋めてあなたの鼓動を聞きながら、その鼓動を
昂らせながら、手の中で蕩けていくのを夢に見ただろう。

「ああ。うっ……ミョンイ……許して……はぁはぁ……あぁ……ミョンイ……助けて……」
 まだ忘れられないのか。私がこうして愛しんでやっているというのに。
「もうミョンイはいないのよ。あなたが触れるのは私の身体だけ」
「ううぅ……ミョンイィ」
 その名を聞くだけでいらいらする。もっと激しく責めてあげる。そして身体で判らせて
あげる。
「ミョンイはいいから! 私を呼びなさい」
「ふぅ、はぁ、はぁ。……ソングム……ああぅ……ソングム……ひっ」

 そうそれでいいのよ。
 邪魔者は全て始末した。今は何の心置きなく、あなたを味わうことができる。無理も
したしミョンイたちには悪いけれど、でも私は嬉しいわ。
 さあ、もっと良くしてあげるから。そして頭の中に巣食う邪魔者も、消してあげる。

 時折理性を取り戻そうとするのか、快楽に溺れるのが怖いのか、私の身体を引き離そうと
するけれど、それもまた楽しい。お前の誇り高い顔が、このように溶けていく。その落差が
愛おしい。
 でもそろそろ、はっきり判らせてあげなくては。
 脇にある姿見の掛け布を引き剥がした。
「見て。あなたを今抱いているのは誰。誰に抱かれて、甘い声を出しているの」
「嫌ぁ」
「目を開けて御覧なさい。ほら」
 姿見に写し出される二人の姿。あなたの上気した顔が見えるでしょ。
「なんていやらしい顔をしているんでしょうね」
「ああ、ソングム、私……恥ずかしい」
「そのいやらしいあなたに、私が巻きついているのよ。こうやって舐め、さすり、あなたを
変えているのよ」
 望まぬ行為を強いられながら、愛撫一つ一つの動きに身を捩じらせるあなた。
 肘を突いた四つん這いの姿に,乳房が揺れている。背後から、腕を回し柔らかな
ふくらみをまさぐっているのは私。
「艶めく肢体の隅々まで、私が味わっているのよ」
 背中に舌を走らせると、大きく身悶えする。
「あ、ああっ! い…いやっ……」
「うっとりした顔を見せているのよ。その顔をずっと見続けているのよ」
「うぅ」
「そうよ。判ったでしょ。私が抱き締めているのよ」
 そうよ、恥ずかしいことをしているのよ。あなたの中にまで、その全てを……そんな
私を、あなたの身体が包み込んでいるでしょ。


 しかしクミョンが……最近、妙にハン尚宮に懐いている様子。気に入らない。
 この者の腕が確かなのは認めるが、しかし変に真似するせいで、伝統の味が失われないか
心配になる。
 今度よく言い聞かせておかねば。お前が慕う者は、私に全てを奪われ喘がされている
存在に過ぎぬ。尊敬になど値しないということを。唇も胸も腰も、あの大切な場所も、
私の気持ち次第でどうにでもなるのだ。
 今もハン尚宮を見下して、喘ぎ声を聞いているのは私なのよ。
 ほら、もっとよくしてあげる……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 しかし、姿見を持ち出してきた時は驚いた。あんな風にしているのか。今度チャングム
にも……っとそれはともかく、身体は振りが出来ても、目はまだ甘い。薄目の間から己の
冷静なまなこが光っていた。この者は私にねっとりとした視線を絡みつかせているという
のに。これから気をつけなければ。さてそろそろ……。
「あああ、ソングム、いいぃ」

 はい終わり。
 ミョンイを口にすれば口元を歪め、一層愛撫を深めて必死になる。そして私は果てる。
これで満足でしょ?

 最近は、行為の後にそのまま朝まで迎えることも多い。ちょうど寒いから、互いに行火
代わりといったところか。
 お陰で、だいぶこの部屋の中も判ってきた。どこに何があるのか。大事なものはどこに
しまってあるのか。そして鍵はどこに置いているのか。
 ヨンセンにはクミョンやヨンノたちの行動を逐一報告するように言ってある。それが
チャングムの為だと判っているから、真剣にやってくれている。
 ミン尚宮には、私が居ないときのチェ尚宮の行動を見晴らせている。

 またミン従事官からは、いざとなったらチェ商団を家捜ししてでも、とのお言葉を
いただいた。

 そしてカン熟手。いろいろなことを知っているから、いつもあてにしている。
 この前、合鍵を作るにはどうしたらいいか尋ねたら、柔らかい飴か、蝋で型を取れば
いいと言って、材料をくれた。早速自分の鍵で試してみたら、なかなかいい感じだ。
それを今こっそり袂(たもと)に忍ばせてあるのよ。
 チェ尚宮が深く眠っているのを確かめて、三本ほどの鍵の型を取る。とりあえず、手洗いに
行く振りをして自室に隠す。明日熟手に渡そう。

 しかし……。
「尚宮様、蝋燭と言えば、こんな形のものを手に入れたのです」
「なんですか? そのきゅうりのようなものは」
「倭国で野菜の見本と称して売っているらしいのですけれども、実は別の使い方がある
そうで」
「別の?」
「はい。そのー、大きな声では申し上げられませんが、倭国では度々戦が起こり、戦に
出られた旦那様をお待ちの奥方様や、お気の毒なことに軍場で旦那様を亡くされた若い
後家様たちが、そのー、お慰めに」
「はあ?」
「いえ、ほかにもいろいろな形をしたものがございまして、こんな二股とか、くまちゃんが
付いていて可愛いですよー」
「ごくろうさまでした。またお願いしますね」
 いつものことながら、どこで見つけてくるのだろう。
 それに、あんなものを見せられたら、興味が湧いてくる……しかし、直に買っていろいろ
思われるのも不愉快……ミン尚宮あたりに……。

 それはともかく、次にすべきこと、それは……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 もう二日ほど会えなかったわね。だから今日はいっぱい可愛がってあげた。そしてその
ままあなたの隣で眠りについた。
 あなたの寝顔を、時々眺めるの。いつ見ても端整な面立ち。そっと頬に触れてみる。
ずっと憧れていた人を、指先に感じる。
 私のもの。もう私以外この寝顔を見る者はいない。

 だけど……この子は私の愛しみに、反応はする。けれど、いく時は独り……。私にその
昂りを分かち合わせようとはしない……。時々私の胸に手を宛がわせたりしているけれ
ども、それはただ、嫌がる手がそこにあるというだけ。
 いや、私にして欲しいのではないのよ。そんなこと、内心嫌っているのは判っている
から、無理にさせてこれ以上嫌になられるのは辛い。
 そうじゃなくって、感じてはくれているのだろうけれど……。

 この子がミョンイに抱かれていた時は、輝きがあった。心に張りが感じられた。
独りになってからというもの、話しかけても、以前のような手応えはなくなってしまって。
 チャングムを得て、再び輝きを取り戻したわね。だけど、私がいくら抱いても、同じ
ように輝かせることはできないようね。
 仕方ないのね、こんな関係じゃ。悪いのは私だもの。

 ああ、あなたの瞼に写るミョンイやチャングムを消したい。私に抱かれているとき
ですら、あなたはあの子たちに包まれている……。
 美しいけれど、鳴きもせぬ鳥。それをただ、籠に閉じ込めておくしかできないのか。
  :
  :
  :
「ソングム、どうしてあんなことをしたの。友達だって信じていたのに」
 また私を呼ぶ声がする。ペギョンを抱いてしばらく聞こえてこなかったのに、再び
蘇ってきたのか。
「ソングム……ひどい人、今だって」
 お願いだからもう許して。あなたの代わりにペギョンのことを大切にしていくから。
「私から何もかも奪って……」
 チャングムは、生かしてあげたじゃない。
「あの子の手紙……」
 手紙はまだ置いてあるわ。捨てるのが怖くて。
「手紙……私の手紙……」
 大切にしまってあるから。ずっと大切に。
「返して……」
 それはできないの。それは……。
「私のものなのよ。チャングムのものなのよ」
 だけど今は私のものよ。
「ソングム!」
「だから手箱に。本当に持っているのよ」
「ミョンイ……」

 ハッと目が覚めた。背中がぐっしょりと冷たい。寝汗? 私はどうしたのだろう? 
今のは夢……誰がミョンイなんて?
 ああそうか、昨夜はペギョンと一緒に寝たんだった。それでペギョンはどうしているの
かしら。身を起こして隣を見る。寝ているようね。けれど涙が幾筋も頬を伝っている。

 可哀想に。この子も夢を見ていたのか。同じ夢、ミョンイの夢を見ていたのか。
 そんなに恋しいのか? 私では満たすことができないのか? これだけよくしてやっても? 
これだけ愛しんでも?
 でも、もう時の流れには逆らえないのよ。諦めて……ゆっくりお休みなさい。

 朝になった。行灯の微弱な光に揺れるあなたの姿は妖艶だけれど、朝日に居住いを
整えるあなたもきれいね。
「おはようございます、チェ尚宮様。今週は夜当番なさいますよね。それに次の週は
お出向きになりますので、しばらくお会いできませんね」
「おはよう、ハン尚宮。当番は、代わってもらうことにしたの」
「そうですか……」
「何よ、残念そうね」
「いえ、そういう訳では」
「だから今晩もいらっしゃい」

 しばらく会えない。だから思い残すことのないよう、この数日存分に抱いた……つもり
だが、まだ……。それに……この頃だいぶ良くなってきたのに、会えない間にまた前の
ような冷めた様子に戻って欲しくない。あと七日ほど、その間に少しでも私に気持ちを
向かせたい……。あなたの頭の中から、ミョンイを追い出してやりたい。
 でもどうしたものか。いっそクミョンと二人がかりで……いやいや、もうあの身体に
誰も、指一本たりとも触れさせたくないし。
 秘薬とやらを医女に調合させて飲ませようか……しかしそれと知れたら、あの子は
激怒するだろうなぁ。脅しても賺しても、もう二度と身を許してはくれないだろうなぁ。
 どうしたものやら……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……ここがいいの?」
「 う、 くふっ 」
「感じているんでしょ」

 もうすぐ別れとなるせいか、いつもより激しい。私のちょっとした反応……所詮振りに
過ぎないが……一つの喘ぎも見逃さず、責め立ててくる。
 しかし、こうあれこれされてしまうと、私も喘ぎ所というか、調子を合わせるのがなんだか
……面倒だわね。
 じゃ、いつものを言って、終わってもらおうかしら。
「ああ、ミョンイィ」
 あれ? ぱたっと止めたわ? 着衣を整え、布団をかぶって向こう向きに寝てしまった。
効果はてきめんだったけれど。
 でもねえ。途中で止められるのも辛いのよ。

 まあ仕方ない。私も寝ましょう。

 うつらうつらしていると、背中が生暖かい。何かしら? 顔を向けると、私の背中を
さするソングムと目が合った。寂しそうな顔をして、ちょっと目元が潤んでいる。私が
起きたことを知り、手を止めて慌ててまた布団をかぶってしまった。
 私も布団に入り直し、天井を見つめた。しばらく様子を伺うと、寝てはいるようだが
寝息は立てていない。まんじりとしているのだろう。
 そのまま朝を迎えた。お互い、ちょっと眠そうな顔をしていて、可笑しい。

 その夜も、私はソングムの部屋に行った。一応お決まりごとの物語を聞かせようとした
とき、突然引き寄せられる。そしてしばらくの間、ただ強く抱き締められた。何も言わ
なかった。痛いくらいに抱き締められた。
 そして口付けをされながら服を剥ぎ取り、いつものように胸元に唇を寄せてくる。
「ふぅ !」
 ため息をあげようとした時、口を塞がれた。塞がれたまま、首筋を舐められ、耳たぶ、
耳の中まで舌を差し入れられる。耳の中に響くぴちゃぬちゃとした音に総毛立ち、本当に
声を出したくても、くぐもった音が出るだけ。
 口を塞ぐ手から指が離れ、一本、また一本と中に入れられ舌を蹂躙する。声に解き放て
ない気持ち……たぶんそれは不快感が強かった……が身体の中にこもり、動悸が徐々に
高まっていく。指を出すとその代わりに舌が侵入し、私の舌を絡み取る。そして生暖かな
液体が舌と共に与えられ、顎がだるくても離してくれないから、私はどちらも、ただ
受け入れざるを得ない。そして……ゴクッ……飲み込まざるを得なかった。

 胸の尖りを触られた時も、喘ごうとすると同じように口を塞がれた。だから今日は、
この者が身体を嘗め回す音と、口で吸う響き、ときおり脱いだ衣類に身体が当たる音しか
しない。
「ちょっと、ねえソングム、止めてってば!」
 身体を引き離そうとしても、強い力で抑え付けられられる。手のひらを合わせて、指の
股をさすられる。その内、徐々に力が抜けていった。けれど時折、本気で抵抗したし、
足を無理に開かせようとしたときも拒もうとした。けれどいつものように、力を抜いて
くれない。どうやら今日は……甘えるでもなく、機嫌を取ろうとするのでもなく、凄む
でもなく。強い……意志と力で押さえ付けようと。そして、ただ愛撫を繰り返した。私は、
やはり口を塞がれたまま……昇りつめた。


 また今夜も呼ばれるのだろうか。水剌間で思った。
 ちょっと嫌だ。昨日かなり強く触られ、手の甲に引っかき傷までできて、少しひりひり
する。
 それに胸を、何度も強く吸われてしまい、鈍く痛い。
 あんなに最初から最後まで、激しくされたこと……なかった。ミョンイは、気持ちが
昂ってから、少し激しくなることはあったけれど。

 やはり呼び付けられる。
 話もそこそこに、私の身体を求めてくる。そして強く吸いつかれる。苦痛に、振りでは
なくて顔をしかめても、甘噛みに変えようとはせず、激しく責める。ずっとそれが続く。
そうしてただ快楽を植えつけられていく……。拒むことも、自分の思うように導くことも
一切許されない。この者の思うままに、本当に思うままに、私を果てさせていく。
 言葉を掛けてもくれず、ただ黙々と一方的に私を愛していく。
 ……私は……喘ぎ、羞恥にのたうち、痛がり、そして感じさせられた。

 身勝手な一方的な感情。身体の上を嵐が吹き荒れ通り過ぎていく。私は収まるまでじっと
待っているだけ。

 その後は私を横に置いて、激しい行為を詫びるかのように、優しく背中を撫でる。そして
最後に、本当に愛おしそうにそっと、私の背中に口付けた。

 汚らわしい、お前なんかに。不実の世界にいる者に、触れられるだけで嫌だ。終わった
のならそれ以上触らないでほしい。

 けれど……私だけがたった一つの宝物であるかのように、こうして背中を撫でて……
私を慈しんでいる。それだけは確かなことだ。

 この者の心には私しかいないのか。それは、誠の心と思っていいのか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 身体中をまさぐり、舐め回し、喘がせる。
 お前を抱けるのも、今日明日まで。

 どれだけ気を遣っても……最初の頃は抱きたいのを我慢していたのに。お前の嫌がる
様子に、無理強いはしたくなかったから。
 だからまず私に馴れてもらいたくて、なるべく優しくしてきたのに。思うようにさせて
きたのに。

 私に抱かれる姿を見せたって、あなたはその現実を受け入れてはくれない。

 どうしたって応えてくれないなら、もう私の好きにするしかないじゃないの。どうせ
言うことを聞いてくれぬなら、羽を毟って、二度と飛べないようにしてしまいたい。

 その痛みに、泣き叫べ。怒りでも悲しみでも何でもいいから、私に感情をぶつけてよ。
 ミョンイが見ていようとチャングムのことを考えていようと、抱いているのは私。
今あなたを感じさせているのは私なのだから。

 果ててぐったりした身体を、優しく抱き締める。お願いだから、せめて今だけは私を見て。

 でもごめんなさい。辛かったでしょう。
 心の中で詫びながら、背中にそっと唇を寄せた。

 次の日。
 今日が最後か。
 悦びの声、果てる直前のあなたの顔、官能を刺激する女の匂い。
 ……ミョンイが夢中になったのも判る気がする。こうしていると本当にかわいい。
きれいな身体。誰にも触れさせたくない。そしてずっと感じていたい。離れたくない。
 しばらく会えないから、今晩は起き上がれなくなるぐらい愛したい。

「ミョン…」
 それは駄目よ。そう言っている限り、あなたの思いはあの子の元に飛んでいくのだから。
 そうよ、だいぶ息が荒くなってきたわね。もっと身体を密着させてあげる。私を感じて、
ほら、いいでしょ。気持ち良くなってきたんでしょ。
 そろそろね……身体が少し震えてきたようね。いくときは抱き締めてあげるから。


 あれ? 今日はなんだか……様子が違う……さっきから、私の方が抱き締められて……
私の動き一つ一つに強く応えて……ああ、いったのか……いつもより息が深い感じ……
身体の震えもずいぶん長いし……喘ぎながら口付けまで! 求めてくる……。
 それに私のうなじや背中を、さっきから撫で回している。これって、ひょっとして?

 いつものように背中を撫でてやりたかった。そして、聞いてみたかった。今日はいつもと
違うんじゃないかって。
 けれども、明日は朝当番とのことで、終わるとペギョンは自室に戻っていった。
 私も出立の用意をしなければならず、引き止めることができなかった。

 次の日、立つ前にハン尚宮を呼び付ける。こうしていると、昨夜の醜態はどこへやら、
いつもの端正なあなたがいる。
「これから出かけるわ。後のことはよろしくね。また帰ってきたら来なさい」
「はい。それでお戻りになったら間もなく、宮でも翁主様たちの誕生祝が続きますので、
しばらくこの部屋の資料など、拝見させていただいてよろしいでしょうか?」
「いいわよ。しっかり考えておいて」

 聞きたい。昨日のことを。ひょっとしてあの時あの場所には、私とあなただけだったの?
 じっと見つめていたが、答えは判らない。口に出して聞くこともできない。
 昼間はそのような話しは、部屋の中であっても一切しないこととしていたから。出入り
する下働きたちの耳に入るやも知れぬ。
 最高尚宮とすぐ下の尚宮があらぬ仲であるなど、許されるものではない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 チェ尚宮はしばらく帰ってこない。その間、水剌間の仕事は、私が代行することになって
いた。周りの者は、二人の関係を知らない。一時は座を巡り争った間柄。なのに、素直に
従う私を大したものだと思う者もいれば、それが宮仕えなのだと言う者もいた。
 その、どちらでもないのよ。

 今しばらくは代行として、献立作りの振りをしながら、私は頻繁に最高尚宮の部屋に
向かった。
 この窮状から脱するためには、あれを取り戻すしかない。

 ヨンセンは、チャンイやヨンノから聞いた話として、クミョンの部屋には特に何も
なさそうだと言っていた。
 念のため、私からも直接クミョンに聞いてみたいと何度も思ったけれど、やはりどれだけ
懐いていても、この話しだけは別だろう。聞くとしても、あくまでも最後の手段だ。

 とりあえず見当のつく場所を調べようと思うが、ミョンイみたいに用心深く隠して
いたら困るけど。

 ミン従事官にたまたまお会いしたとき、探し物の方法を教えていただいた。本格的に
調べる場合、天井裏をぶち抜いたり、壁を壊したりもしなくてはならないらしい。
 さすがにそれは私一人では無理だ。しかし取りあえずは、できることからやっていこう。

 まず押入れをくまなく探し、手箱とやら……ああ、きっとこれだ。少し大きめの物入れ
を見つけ出した。
 カン熟手に渡された鍵を差し込む。  開いた!

 けれど肝心の物はなかなか見当たらない。

 物入れの引き出しを全部抜く。慎重に、一つ一つ、中身をそのままの形で取り出して。
 箱の奥も、側面も見てみた。引き出しの横や後ろ、裏まで見る。
 ない。
 これではなかったのか。手箱って、私の聞き違えだろうか。それとも他にあるのか。
出て行くとき、そんなに大きな荷物は抱えていなかったけれど。
 時間があるとは言え、そうゆっくりもしていられない。

 ふと、引き出しの厚みを見比べてみた。一つだけ底が浅いような気がする。よく見ると
端に目打ちで開けたような小さな穴があった。自室の裁縫箱から目打ちを取ってきて、
引っ掛けてみる。と、意外と簡単に板がはずれた。

 あった! 証文のような紙と一緒に、あれがしまってあった。

 献立用に用意した紙に、ちょっとしたことを書いて、と。それを代わりに……。

 また元のように一つ一つ中身をしまって。

 全てが終わった。
 後はチェ尚宮の帰りを待つばかり。
 もうこれであの者に抱かれることもない。
 もうこれでチャングムと引き裂かれることもない。
 もうこれであの者に、無理やりあの者のことを思わされることもない。
 もうこれでいつでも、自分の好きにミョンイとチャングムを思うことができる。

 そういえばチャングムからも手紙が来ていた。元気そうで、料理の研究も怠って
いないと書いてきた。私は精進しろと書いたのであって、研究はそこそこにして欲しい
のだけれど。
 あの子のことだから、さぞや尚宮様のお手を煩わせているだろう。けれど、あのような
比較的自由な中で今一度、時間をかけて料理に向き合うのもいい経験になる。なんでも
良い方に考えなくては。
 私のことをずいぶん心配しているようだったが、チェ尚宮との関係については、何も
知らないようだ。ある意味、側にいないのが幸いだ。近くにいて、気付かぬはずは
ないから……。

 その大切なものは、早速カン熟手にお願いしてミン従事官へ託した。ナウリからは、
念のため御実家とはまた別の御邸宅にて保管した旨、言伝てを戴いた。これで安心だ。


 それから後も、本当に宴の準備のために、何度も最高尚宮の部屋に出入りした。最初の
頃はチェ尚宮の残り香がしていたが、だいぶ薄まってきたようだ。

 思えばここは……歴代の最高尚宮様たちが居られた場所。
 ミョンイを殺めた先代のチェ尚宮様もいた。

 そしてチョン尚宮様とお別れを告げたのもこの場所だった。
 チョン尚宮様、私は結局役目を果たすことができませんでした。お骨折りいただいた
のに……申し訳ございません。けれど私は諦めたわけではないのです。今一度、お志を
果たそうと考えているのです。どうかお見守りください。

 それから私が座り、そしてチャングムと共に過ごしたっけ。あの頃は良かった。手近に
あの子を置き、チェ尚宮は追いやり、何の気遣いもなく愛しみ合えた。
 なのに……私が腑甲斐無いばかりに、あの子にも苦労をかけてしまった。

 今はチェ尚宮がこの座にいて、私を籠の鳥にしている。意に沿わぬ交わりを強いられ、
私の大切なものを心の中からも奪い取ろうとする……あんな不愉快な思いなど、お前を
ここから追いやれば……すぐにでも終わる。
 偽りとはいえ、どれだけこの天井を見上げて、喘いでやっただろう。お前だって、
もう充分でしょ。
 けれど……。

 いつもあの者が腕を置く肘掛に手を置いてみる……表面は冷たく、あの温もりは残って
いない。
 ふと、一尺ほどの髪の毛を一本見つけた。そっとつまんで、手のひらに乗せてみる。
 なぜだか……あの者の舌が私をまさぐる感触を……両の乳房に思い浮かべた。そして、
終わった後の背中への優しい口付け。背中に痺れが迸る。

「ソングム」
 小さな声であの名を口にした。

 拭えるものなら拭い去りたい……けれど甘美な記憶……でもある。それが忌々しい。

 しばらくたたずんだ後、髪の毛を書付に挟み込み、自分の部屋に戻った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――終―――――


  * (1)−宿望− (2)−渇望− (4)−想望− (5)−非望− (6)−観望− (7)−思望− (8)−翹望− (9)−顧望− (10)−闕望− (11)−属望− (12)−競望− (13) −星望− 1/3 2/3 3/3


  作品一覧 カプ別分類 に戻る

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

管理人/副管理人のみ編集できます