BBSPINKちゃんねる内で発表されたチャングムの誓いのSS(二次小説)を収集した保管庫です

   ヨンノ・チャングム  (再会)       見習尚宮様


目を覚ましたヨンノは脇腹に鈍痛が走り、その部分を手で押さえて思わず呻いた。
ここはどこなのだろうか? 粗末な小屋に布団が敷いてあり、そこに寝かされていた。

「やっと気がついたか? 幸い傷は浅かったから、しばらく休めば大丈夫だ」
男の声が聞こえたので、ヨンノは声の主の方を見やると、浅黒く日焼けした男が
すぐ側に座っていた。ヨンノが怯えたような目で見つめるので、男は安心しろと
言って、何か食べ物を用意してくるからと小屋を出て行った。

ヨンノは痛む身体を庇いながら、必死で記憶の糸を辿っていた。
オ・ギョモとチェ一族の双方から脅され、自分の保身のためにチャングムを訪ねたが、
自らの罪を認めることだけが、己を救う道だと諭された。知っていることを全て
話そうと決意して役所に向かう途中に、さらわれてチェ・パンスルの屋敷に連れて行かれ
また脅されたのであった。自分はチャングムのように、一度宮中から追い出されたのに
また舞い戻って来られるような強い人間ではない。所詮、宮中でしか生きられない
弱い人間なのだ。チェ女官長の、事が収まったらまた宮中に呼び戻すという巧みな言葉を
愚かにも信じて、身を隠すつもりで山中を歩いている最中に刺客に襲われたのであった。
さっきの男は自分を助けてくれたのだろうか? 考えを巡らせていると、再び傷口が痛み
出したので、ヨンノは目をつぶって耐えていた。

やがて男が、お粥と野菜を柔らかく煮た物を手にして戻ってきた。ヨンノは全く食欲が
なかったのだが、男に強引に食べさせられたので、むせながらも少しずつ口に入れた。
「悪く思うなよ。三日三晩何も食っていないから、本当に身体が弱っちまうぞ」
男は乱暴な口調で言った。
「貴方様が私を助けて下さったのですか」
「ああ。偶然通りかかったら、男がお前さんを刺そうとしていたので、石を投げたら運良く
急所を外れたようだ。こんなむさくるしい所で悪いが、お前さんは何やら訳ありだし、
安全だから治るまでここに居るがいい。これから、お前さんの世話には女を寄越すから、
変な心配はするな」
その言葉通り翌日からは女がやって来て、泊り込みで食事の仕度をしたり、着物を取り
替えるなど身の回りの世話をしてくれた。

男も時々、薬を持ってやって来て様子を尋ねてはまた帰って行った。


それから一月ほど経って、すっかり傷口も塞がり痛みも消えたのだが、ヨンノは
これから自分はどうすればいいかと考えると、目の前が真っ暗になった。
まさか宮中に戻れるわけではないし、下手に動くとチェ一族の息のかかった者に
捕らえられて、今度こそ本当に命はないだろう。ヨンノは男に懇願した。
「私は宮中の女官で、王様に御膳をお出ししていたこともあります。食事の用意でも掃除でも
何でもしますので、お側に置いていただけませんでしょうか」

「宮中の女官か……。だからあんな高価な着物を着ていたというわけか。俺の一存では決め
られねえから、お頭に頼んでみるか。ところでお前さん、名は何だ」
「ヨンノと申します。お頭というと、貴方様は何をなさっているのですか」
「なさっているってほどのもんじゃねえが、一応倭寇の端くれだ」
「わ、倭寇ですか」 ヨンノはがたがたと震え出した。
「大きな声を出すんじゃねえ。宮中で呑気に暮らしていたお前さんと違って、この世で
生きていくのは大変なんだよ。これからは何でもやってもらうから覚悟しな。
俺はヒョンスだ」

ヒョンスがヨンノを頭領に会わせると、器量が良いから居酒屋で給仕でもさせろと
頭領は命じた。頭領は好色そうな表情で、ヒョンスにヨンノとはもう関係を持ったのかと
尋ねると、ヒョンスは真っ赤な顔をして否定した。
こうしてヨンノは居酒屋で働き始めたが、如何せん客のあしらいには慣れておらず、
来る客も荒くれた男達ばかりなので、酔ってはヨンノの身体を撫で回したりして
その度に、ヨンノは誇りが踏みにじられる屈辱で泣きそうになった。そんな時は、用心棒
代わりに店の隅で飲んでいるヒョンスが酔客を取り成してくれた。
「女官のお前さんには辛いだろうが、大丈夫か」
「はい。早く慣れるように頑張ります」

初めは泣いてばかりいたヨンノであったが、次第に客の扱いにも慣れてきて
また、腕前は下位から数えた方が早かったが、一応はスラッカン出身の女官である。
作る料理も評判を呼んで、居酒屋は大儲けして頭領は笑いが止まらなかった。
ある晩、ヒョンスは頭領と自分の兄貴分の男が話しているのを偶然耳にした。


「おい、例の妓房はもうすぐ完成しそうか」
「はい、お頭。来週には商売が始められそうです」
「新しい店には目玉が必要だからな。ヒョンスが連れてきたあの女を置くとするか。
可愛い顔をしているし、身体つきも男をそそるしな。ヒョンスに聞くと元は女官だった
らしい。ということは、男を知らないかもな。その前に俺が頂いておくか、ヒヒヒ」
「お頭もお盛んですな」
ヒョンスは暗い気持ちになった。妓房に売られた女は男達の慰みものになり、客が取れ
なくなったら、阿片漬けにされ廃人同様になって、路上に捨てられるのだ。

ヒョンスはヨンノを逃がそうと決心した。仕事帰りのヨンノを待ち伏せし、
突然目の前に立ちはだかった。
「どうかなさったのですか」
返事をする間もなく、ヒョンスはヨンノを背負うと走り出した。
「どこへ行くのですか? お願いですから降ろして下さい」
無言で走り続けていたヒョンスは、傷を負ったヨンノを寝かせていた小屋に辿り着くと
ようやくヨンノを降ろしてやった。

「驚かせて悪かった。だが、お頭がお前さんを妓房に置こうとしている話を聞いちまってな。
妓房がどんなところか、お前さんにはわかるか」
ヨンノは力なく頷いた。叔父のマッケが経営していたので、そこに妓生として置かれる
意味はわかっていた。
「女官のお前さんに、そんな仕事が出来る訳がない。それに店に出る前に、きっとお前さんの
身はお頭や兄貴に……。俺が何とかしてやるから、ここから逃げろ」
「ヒョンスさんも一緒に来て下さい」
「俺は…… お頭や兄貴を裏切れねえ」
「ここから逃げても、私には行くところがありません」
ヨンノは泣きながらヒョンスにしがみついた。
ヒョンスも思わずヨンノを抱き締めると、柔らかい身体から立ち上る香りに、
鼻をくすぐられた。ヒョンスは堪らずヨンノを組み敷くと、着物を剥ぎ取ろうと
したのだが、ふと我に返って手を止めた。

「済まねえ。助けた時、お前さんには手を出さないと言ったのに、約束を破るところだった」
「私はそんな約束はしていません」
ヨンノはゆっくりと着物を脱ぎ始めると、ヒョンスの首に腕を回した。


ヒョンスも心を決めると、自分も着物を脱いでヨンノに覆い被さり
濡れたように艶めく唇に自分の唇を押し付けた。
舌が差し込まれると、ヨンノも夢中で自分の舌を絡ませ、辺りには二人の
口付けの音だけが響いていた。やがてヒョンスは唇を離すと、ヨンノの胸元に目が釘付け
になった。豊かに実った果実のような、見事な膨らみに手を伸ばすと、息を弾ませながら
強弱をつけて揉み込んだ。自分の手の中で柔らかく形を変え、うっすらと紅潮していく
両の膨らみに、ヒョンスは高まる興奮を押さえられず、夢中でこね回していた。
ヨンノは、ヨンセンに愛撫された時のことを思い出していた。あの時とは違う、男の
無骨な大きな手に掴まれて揉みしだかれ、初めは痛いぐらいであったが、次第に身体が
熱く火照り、腰がどうしようもなく動くのを止めることが出来なかった。

ヒョンスの指が膨らみの先端を捉え、そっと擦り合わせるように弄ぶと、固く尖って
更なる刺激を求めているかのようであった。
「あぁっ」
ヨンノは身体が痺れるような感覚に襲われ、思わず悲鳴を上げてしまった。
固く尖った先端を、今度はヒョンスの舌と唇が愛撫する。音を立てて吸い上げられたり
舌で転がされたりすると、ヨンノの頭の中は靄がかかったように朦朧としてきた。
「はぁ、あぁ…… あぁん」
むしゃぶりつくようなヒョンスの愛撫に、ヨンノの艶やかな唇から漏れる、すすり泣く
ような甘い喘ぎが止まらなかった。

ようやくヒョンスは胸から顔を上げると、ヨンノの脚の間にそっと手を滑らせた。
そこは既に熱く充分すぎるほど潤っており、ヒョンスを迎え入れるのを待って
いるかのようであった。しかし、この身体は男を知らないのだ。ヒョンスが
ヨンノの中にそっと指を挿し入れ、優しくほぐすように動かしてやると、ヨンノは喘ぎ、
中からしとどに溢れる蜜が指を濡らした。ヒョンスはヨンノの脚を開かせると、ゆっくりと
しかし力強く身体を沈めていった。
「うぅっ」
ヨンノはまるで熱い楔を打ち込まれ、身体を引き裂かれるような痛みを感じながら、
ヒョンスを奥まで受け入れた。ヒョンスはしばらくじっとしていたが、やがて
ヨンノの細い腰を掴むと、ゆっくりと身体を押し付けるように動かし始めた。

ヨンセンもこんな痛い思いをして、王様を受け入れたのかなどと思いながら、ヨンノは
ひたすら痛みに耐えていたのだが、次第に痛みだけではない不思議な感覚に身体を支配
されていくのを感じた。そして自分の腰を掴むヒョンスの手に、自分の手を重ね合わせた。


「あっ、あぁっ はぅ……」
ヒョンスが、両の乳房をわし掴みにして激しく揉みしだきながら、腰の動きを早めたので
ヨンノは声を出さずにはいられなかったが、今は苦痛よりむしろ、身体が浮き上がるような
感覚に襲われていた。ヒョンスはヨンノの両脚を掴んで、自分の肩に担ぎ上げると
身体の奥へ奥へと突き進んだ。大きく喘ぎながら、夢中で腰を上げて自分を受け入れる
ヨンノに、溺れていく自分を予感しながら、ヒョンスは何度も突き上げて果てた。
「幸せに出来るかわからねえが、それでも俺と逃げるか」
ヨンノの目に溜まった涙を拭ってやりながらヒョンスが言うと、ヨンノは頷いた。

それから二人の逃亡生活が始まった。草の根をかき分けてでも、裏切り者は探し出す
頭領の気性を知るヒョンスは、ヨンノを連れて何年も必死で逃げ続けた。一日たりとも
気が休まる日はなかったが、ようやく安心して身を隠せる村が見つかり、二人は白丁と
して暮らし始めた。やがて子供も授かり、親子で貧しいながらも幸せに暮らしていたのだが
第二子の出産を間近に控えたヨンノに悲劇が襲い掛かろうとしていた。
出産の予定日まではまだかなり日があるというのに、急に産気づいたヨンノが倒れた。
ヒョンスは慌てて村の産婆を呼んで来たが、赤ん坊はなかなか産まれないばかりか、
ヨンノの意識も混濁してきた。このままでは母子ともに生命が危ないと言う産婆に、
ヒョンスは叫ぶように命請いをした。
「私の手には負えませんが、隣村に腕の良い医女様がいらっしゃると聞きました」
「誰だ? 教えてくれ。俺が今からすぐに呼びに行って来る」

その頃チャングムは、少し早いが昼食の仕度でもしようかと娘のソホンに言った。
その時、男が息を切らせて家に駆け込んできた。
「お前さんが医者様か? 俺の女房がお産で死にそうなんだ。お願いだから助けてくれ」
「死にそうですって? 奥さんはどこですか? すぐに行きましょう」
チャングムはソホンに留守番しているように言うと、急いで出て行った。
家に案内されるとチャングムはすぐに診察の準備をして、母親の側で泣いている
幼子を安心させるように抱き締めてやった。チャングムに言われて、ヒョンスは
子供を連れて部屋から出て行った。母親の容態を確めようと、チャングムがその
顔を覗き込むと、驚きのあまり自分の目を疑った。

「ヨンノ!? ヨンノなの」
意識が殆どなくなっているヨンノは、チャングムには気付かず、苦しそうに息をするだけ
であった。自分の感情に心を乱されてはいけない。今はヨンノと赤ちゃんを救うことだけ
を考えなければ。チャングムは落ち着きを取り戻すと、産婆に指示を与えながら治療を始めた。
夜中になっても治療が続いていて、ヒョンスは家の外で待ちながら、もう駄目なのかと
何度も絶望感に苛まれた。



長い夜が明けて空が白々としてきた頃、赤ちゃんの元気な泣き声が響いた。
「産まれた」
ヒョンスは家に飛び込んだ。チャングムが赤ちゃんの身体を産湯で洗って、
真っ白な布に包んでやると、そっとヒョンスに手渡した。
「ほら、元気な男の子ですよ。奥さんも無事ですよ」
「ありがとうございます。ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
ヒョンスは泣きながら何度も頭を下げた。

「チャングムなの」
意識を取り戻したヨンノは、驚きで目を丸くしていた。
「ええ、そうよ。ヨンノ、おめでとう。赤ちゃんは無事に産まれたわ」
「チャングム… 私… あなたにひどいことばかりしてきたのに、私や子供の命を助けて
くれたのね。今更お詫びをしても許してもらえるかわからないけど、本当に申し訳ないと
思っている」
「どんなに謝ってもらっても、亡くなった人は帰ってこない。でも、ハン尚宮様はきっと
あなたをお許しになると思う。母親として子供たちを立派に育て、しっかりと生きていく
ことが償いになると仰るでしょう。だから私もあなたを許す。志を同じにすることはなかった
けれど、共にスラッカンで学んだ、かけがえのない仲間だから……」

チャングムは、処方した薬をヒョンスに渡すと、二人に一礼して家を後にした。
ヨンノは涙が溢れて止まらなかった。ヒョンスの妻として、子供たちの母親として
暮らしていける喜び。母親のように慕っていたハン尚宮を亡くした、チャングムの悲しみ
の深さ。そして我が子のように愛しんだ、チャングムを遺して逝かなければならなかった
ハン尚宮の無念。それらが今になってようやくわかり、ヨンノは心の中で詫びながら
泣き続けた。

それから数年後、ヨンノは更に子供をもうけて、大家族を切り盛りしていた。
おまけに決して暮らし向きは楽ではなかったが、ヒョンスの理解も得て、親を亡くした
子供たちを何人も引き取っては、実の子供のように大切に育てていた。
やがてヨンノは孤児院を設立し、子供たちに字を教え女の子には料理を教えるように
なった。自分が犯した罪は決して消えることはないが、少しでも償いたい。
ヨンノはそういう思いで、献身的に子供たちに尽くし、巣立った子供たちからは
「お母さん」と、終生慕われ続けたのであった。

( 終 )



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