その彼女と目的地であるディズニーランドへ訪れてから、時が経つのは早く、気が付けば夕日が辺りを包んでいた。

「お待たせ。ソフトクリーム、買ってきたよ」

私は両手に一つずつ持っていたソフトクリームのうち、彼女に頼まれていたチョコレート味の方を差し出すと、
彼女はそれを遠慮がちに受け取った。

「ごめんなさい。甘いものが食べたい、だなんて、急にわがまま言って。あの、お金渡します」

彼女が肩にかけていたトートバッグから財布を取り出そうとしたので、私はそれを制した。

「いいんだ、気にしないで。今日は楽しかったし、そのお礼だよ」

私がそう言うと、彼女は少し悩んでいたが、しばらくすると、それじゃお言葉に甘えて、とはにかんだ笑顔を見せた。
それから、彼女はおいしそうにソフトクリームを舐め始めた。

ここへ来たことで、彼女はすっかり元気を取り戻してくれたようだ。

それにしても、と私は思った。
初めて会った女の子をその場でいきなり遊園地に誘うなんて、私はいつになく大胆になっていた。
何かを期待していたわけじゃない。
私は、ただ彼女を元気づけてあげたい、と思ったんだ。
泣きたいのは、私も同じだったから。

私にも、突然の別れが訪れたばかりだったのだ。
理由も分からないまま、私は長年付き合っていた女の子と別れた。
あまりにも唐突だったので、やり場のない苛立ちもあった。
半ば自暴自棄になりかけていたということも、認めたくはないが事実だった。

「さゆみの顔、何か変ですか?」不意に彼女と視線が合う。

「えっ?あ、いや」

気が付けば、私は彼女にいつの間にか見惚れてしまっていたようだ。

実際、彼女はとても美しかった。

見た目に派手さはなく、どちらかといえば、古風な風貌ではある。
と言いつつも、顔の造形やスタイルは、まさに今風の女の子、といった感じで、
白地に目の細かな花柄が綺麗にちりばめられたワンピース、そこから覗く、すらりと伸びた長い足に、古めかしい印象はない。
血管が透けて見えそうなほど白い肌や、艶やかな黒髪とも相まって、それはまるで現代向けにアレンジされた日本人形のようだった。
彼女とここへ訪れるまでに道をすれ違った人々は皆、振り返って彼女の美しさに目を奪われていた。
今だって周りの視線が彼女に向けられているのを、私は感じていた。
周囲の他の客たちから見れば、私は彼女の彼氏だと思われていることだろう。
私はそのことを誇りに思う一方で、多少の後ろめたさのような気持ちもあった。
彼女が自分のことを『さゆみ』と呼んでいるのを聞いてはいたが、私はまだ、彼女のことをそれ以上何も知らないのだ。

「もうそろそろ日が沈むよ。帰りが遅くなってもいけないし、戻ろうか」

私は、魔が差した、とも言える状況から始まったこの楽しい時間を、いい加減終わらせなければならなかった。
これ以上は私自身、変な欲が出てしまいそうになる。
私は彼女の彼氏ではなく、彼女は私の彼女ではないのだ。
互いに、今日一日限りの身代わり。
そういう約束だった。

「待ってください。まだ、帰りたくないです」

そう口にしたのは、彼女の方だった。

「この時間を終わりにしたくないの。一人になってしまったら、さゆみ、また泣いちゃうかもしれません」

「大丈夫だよ。君はもう、あの彼のことは忘れられるさ」

私が安心させるように言うと、彼女は素早く首を横に振った。

「そんなことありません。あの、あなたは、どうなんですか?」

彼女のそれが唐突な質問のように思えて、私は少しの間、答えに窮した。

「私だって、気持ちは変わらないよ。
 今は君のおかげで忘れられているけれど、心の奥では彼女への気持ちがくすぶっていて、いつまたぶり返すか分からない。
 不安だよ、今日という一日が終わってしまうことは」

「まだ、ナイトパレードがあります。もう少し、二人で一緒にいましょう」

彼女がそう提案する。私は私の言葉で、私自身の説得に失敗したようだった。
私は嘘をつくのが苦手だった。

「でも、あれは確か、開始時間が二十時以降だったよ。そんな遅くまで、君といるわけにはいかないよ」

詳しいんですね、と彼女が笑った。

「下調べくらいはするよ。もちろん、彼女と行くつもりでね。
 彼女は本当にここのテーマパークが好きだった。
 二人で会う度に、ナイトパレード、ずっと見たいって聞かされてたから」

「そのあとは、予約しておいたホテルに行くつもりだったんですね」

「そう、そうだよ。よく分かったね」

私はまるで、私の恋人だった人に言い聞かせるように言った。

「パークの外にある、パーク客用のホテルだ。
 夜になれば、ライトアップされたパーク全体を、窓から一望できるんだよ」

「素敵なデートプランですね。そこなら、イヤなことなんて全部忘れて、最高の夜が過ごせそう」

彼女の表情に愁いと、それから期待のようなものが交互に現れては消えた。
その意味を測りかねているうちに、私は彼女に対し、劣情と言い換えられてしまうような、背徳的な感情を抱き始めていた。

「でも、私と君は本当の恋人ってわけじゃ――」

「ええ、そうですね」私の逡巡をよそに、彼女はあっさりと言い切った。

まるで、こうなることを始めから予想していたみたいに、蠱惑的な笑みを浮かべて。

「さゆみは、あなたの彼女の代わりです。だから遠慮しないでください。
突然彼女に振られて、気持ちの整理が付かないんですよね?
まだその彼女のことが、好きなんですよね?」

だったら、と彼女が言った。

「その彼女にしたかったこと、さゆみにしてください」


結局、私と彼女の二人は、パレードを見ることはなかった。

「ん…んちゅっ…」

ホテルの部屋に入るなり、二人は服を脱ぐことも忘れ、すぐさま互いを求め合った。
貪るように唇を重ね、舌を絡める。

「んっ…ぷはっ…」

息が苦しくなって、私は彼女から離れた。

「キス、上手だね。どこで覚えたの?」

「やだ、そんなこと聞かないで…ぁむっ」

一秒の間も惜しいと、彼女がまた吸い付いてくる。
ここまで激しい口付けを交わしたのは、初めてのことだった。
私も負けじと彼女の口腔に舌を這わせ、唾液を全てかき集めるようになめずり回した。

「ちゅ…ん、っ…」

彼女の方が十センチ近く身長が高いせいか、立ったままのキスでは、主導権は彼女に握られていた。
それがもどかしくなって、私は強引に彼女をベッドに押し倒した。

彼女が、きゃっ、と可愛らしい声を上げる。

「軽蔑するかい?私のこと」

私は彼女の上に馬乗りになって、ブレザーのボタンを外し、ベッドの下へ脱ぎ捨てた。

「今日初めて会った女の子に、自分の不満をぶつけようとしているんだ。別れた彼女の面影を重ねてね」

ネクタイも外した。

「軽蔑なんて、しませんよ。さゆみがあなたを望んでいるんですから」

彼女のワンピースの、上半身にだけ付いている前ボタンに手をかけていく。
彼女はベッドに身体を預けたまま、指一つ動かさなかった。

「やめて欲しいなら、今のうちだよ。今ならまだ間に合う。
 君が望んでいることなんて、何も出来そうにない。
 どうか、私を拒んで欲しい。君を無理矢理に傷付けて、失望させてしまう前に」

「いいんです。今日のさゆみは、あなたを振った、あなたの彼女です。
だから何も心配しないで。今夜はあなたの気が済むまで、乱暴に犯してください」

彼女の前をはだけさせると、形の良い乳房と、それを包み込む薄いピンク色のブラジャーが目に飛び込んできた。

理性はもう働かなかった。
私は、彼女の白く柔らかな胸元に吸い付いた。
その感触は、マシュマロのようだった。



「あんっ…あっ・・・」

自然に声が出ちゃう。胸にキスをされるのなんて、初めてなの。

「はぁ…りさ…、りさっ…」

その人は、誰か知らない人の名前をうわ言のように呼んでいた。

「りさ…、どうして…?こんなに、愛しているのに…っ」

それを聞いても、何も思うことはないの。
そもそも、理由なんてどうでもいい。
相手だって、誰でも良かった。
さゆみの相手はいつだって、絵里君なんだから。

「いいよ、絵里君…大好き…もっと、もっと、さゆみにシてっ…」

さゆみはそうやって声を出してみた。
すると、その人は、さゆみのブラジャーの前ホックを外した。
優しい手つきで、優しく、優しく、さゆみの胸を揉んだ。
手の平で乳首をこね回されて。
びりびりと快感が広がっていく。

「はぁっ、あんっ…」

また自然に声が出ちゃう。
絵里君とエッチしてるときには、出したくても出せない声色になってた。

「りさ…好きだよ、りさ…っ」

その人の愛し方は、絵里君とは違っていたの。
頬や首筋にキスを散らしたあと、耳たぶに歯を立ててくる。

「絵里君っ…!あっ…、ああん!」

絵里君の名前を呼ぶ度に、さゆみの中で違和感が生まれた。
それは拭いきれずに、どんどん膨らんでいく。

その人は、さゆみの乳首を口に含んだの。
舌で、ころころと弄ばれる。

この人は、絵里君じゃない。

「ああっ、絵里君、ちくび、気持ちいいの…っ」

絵里君は、さゆみに、こんなに優しくなかった。
そもそも、さゆみは絵里君に愛撫らしい愛撫をされたことがなかったの。

その人はさゆみの足下へ移動すると、ゆっくりと自分のズボンをずり下げた。
充血したその人のペニスは、見てて痛いくらいに大きくなってた。

彼女とずっとエッチできなくて、溜まっていたのかも。

さゆみはその人を受け入れるために、下着から片足を引き抜いて、四つん這いになって、お尻を突き上げたの。
絵里君とは、いつもそうしていたから。
それが、さゆみの知ってるセックスだったの。

でも、その人は、さゆみのワンピースをめくり上げることも、さゆみの腰を手で掴むこともしなかった。

「りさ…違うんだ」と、その人が言った。

「君は、りさじゃない。さゆみちゃん、こっちを向いて」

その人が何を言ってるのか、何が起きてるのか、よくわからなかった。
さゆみは動けなかったの。

「さゆみちゃん、ごめん。君のことを何も知らないまま君を抱くなんてこと、私には出来ないよ」

なんで、とさゆみは思わず口にしたの。

「いいの、理由はどうでも。さゆみを抱いて。さゆみを、あなたのものにして。
 じゃないと、さゆみ、さゆみは、また――」

兄のものになってしまう。

「こっちを向いて、さゆみちゃん」

「さゆみじゃ、だめなんですか」さゆみは仕方なく、振り返ったの。

「そんなことないよ。さゆみちゃん、君は綺麗で、かわいくて、私なんかにも気を遣える、優しい女の子だ。
 今日だって、君と話してるだけで、なんだか幸せな気分になれた。
 君と出会えたことで、私は彼女のことを忘れられそうだよ」

さゆみと、その人は向かい合うように座った。

「だから私は、君を抱きたい。それは私の本音だよ。
 彼女を忘れるために、りさの代わりとしてじゃなくて、さゆみちゃんを、さゆみちゃんとして抱きたい。
 君と、一つになりたいよ。だからさ」

真剣な眼差しで見つめてくる。

「後ろからじゃ、嫌なんだ。よく顔を見せて。もっと君のことが知りたい。趣味とか、好きな食べ物とか。
 そうだ、名前は?上の名前は、なんて言うの?」

胸が、ドキドキしちゃう。

「えっ。ええと――」さゆみは答えたの。

「みちしげ、です。道重、さゆみ」

「道重、さゆみちゃんか。じゃあ、さゆって呼ぼうかな。いいよね、さゆ」

その人は笑顔を見せてくれた。

「今日さゆに会って、ここへ来れて、本当に良かった。
 ねえ、さゆ、やっぱり成り行きでこんなことするのはやめない?今からでも、パレードを見に行こうよ」

この人は、優しいんだ。

「でもここ、まだこんなに大きくなってるの」

さゆみが、その人のおちんちんに触れる。
その人は、慌てて腰を引いた。

「ずっと、してなかったからかな。さゆみたいなかわいい女の子と、同じベッドにいるってのもあるかも」

その人が照れながら言う。さゆみも、自然に笑顔になっていたの。
だから。
さゆみも、絵里君の代わりとか、そういうのじゃなくて。

この人のものになりたい。
そう思ったの。

さゆみは、ベッドに仰向けになって、衣服の裾をまくり上げた。
あらわになったさゆみの秘部を見て、その人はごくり、と息をのんだ。

「いけない、さゆ。そんなかわいい姿を見せられたら、私は――」

「いいですよ。さゆみだって、続きがしたいです。あなたに見つめられただけで、もうこんなに切なくなって」

さゆみは脚を広げて、恥ずかしいくらい、その人に見せつけた。

「ごめんね、また気を遣わせちゃって」その人は、そんな淫らな私を覆い隠すように、さゆみに身体を預けてきた。

「でも、これは一時の感情なんかじゃない。信じて。今日のこと、絶対に後悔なんてさせないから」

「あぁっ…はぁん…あっ…」

ゆっくりと、その人のおちんちんが、さゆみの中に入ってきた。
奥まで到達すると、それは一気に出し入れを開始した。

「ああ…、さゆっ、さゆ…っ」

その人の、彼の吐息が肩にかかる。

高橋、愛。
それが彼の名前だった。
彼が、自分でそう名乗ったの。

「は、あっ、すごいよ、さゆ。気持ちよすぎてたまらない。意識が飛びそうだ」

「さゆみも、腰が、勝手に動いちゃうのっ」

違う学校の制服を着た生徒が、なぜ校内にいたのかということ。
彼がさっきまでさゆみのことを、りさ、と呼んでいたこと。
今はそんなこと、考えたくなかったの。

初めての、正常位。
抱き合ったままするエッチが、さゆみには幸せすぎたから。

愛しいの。
腰を振るたびに、彼のことが愛しくなるの。

高橋、愛。

「うっ…イきそうだよ、さゆっ」

喘ぎながら、さゆみの名前を呼んでくれる。
さゆみだって。

「ああっ、愛くんっ、あ、んっ。愛くんのが、おっきくてっ」

愛君、愛君。
頭が真っ白になって、もう何も考えられない。

「さゆみも、もうイっちゃうのっ。ねえ、愛くん、一緒に…一緒にっ」

さゆみのそれを合図に、愛君が抽送のスピードを速めた。
さゆみは、愛君の腰に両足を絡ませる。
愛君はそれに気付いたけど、腰を動かすのを止められないみたいだった。

「さゆっ…出ちゃうよ、このままじゃ、中に…」

「いいの、いっぱい、愛くんの精液ちょうだい。さゆみの、さゆみの中に出して…っ」

愛君が精を吐き出す。
火照ったペニスが、さゆみの膣内でびくびくと震えた。



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