C-704は、中国航天科工集団公司（CASIC）傘下の航天第三研究院（海鷹機電技術研究院）が開発した対艦ミサイル[1][2]。C-704はCASICが1990年代末に実用化したC-701の発展型であり、2006年の珠海航空ショーでその存在が公にされた[1]。
CASICでは、C-701/C-704を短射程対艦ミサイル、C-705/C-802/C-802Aを中射程対艦ミサイル、C-602を長射程対艦ミサイルとして、ユーザーの多用な要望に応じることが可能なラインナップをそろえて各国への輸出を図っている[3]。
この内、短射程ミサイルに当たるC-701対艦ミサイルはイランへの輸出に成功したが、実際の運用に際して様々な問題点が指摘されることになった[2]。1つは、対艦ミサイルとしては短い15kmという射程（派生型のC-701Rは最大射程25km）であり[2]、これは運用における制限を増すものであった。もう1つは、弾頭が小型（弾頭重量15〜30kg）のため、C-701の想定攻撃対象である排水量1,000〜4,000t級の艦艇に対する破壊力が十分ではないと指摘された点である[2]。上位クラスのC-802/C-802Aであれば1,000〜4,000t級の艦艇への破壊力は十分であるが、4,000t級以上の艦艇への攻撃を前提に設計された大型・高コストのC-802/C-802Aを小型艦艇への攻撃に使用するのは不経済であると考えられ、C-701よりも射程と威力で上回る小型艦艇攻撃用対艦ミサイルの実用化が求められることになった[2]。この要求に基づいて開発されたのがC-704である。
【性能】
C-704はC-701の拡大改良型であり、射程と威力の向上を主眼として大型化が行われている。最大射程はC-701（15km）の倍以上になる35kmに延伸（参照[2]。2013年の珠海航空ショーにおけるCASICの展示ではその射程は38kmとなっている）。弾頭重量はC-701より100kg以上重い130kgとされ、その破壊力は大幅に強化されている[2]。
C-701では任務に応じて誘導システムの異なる各種派生型（TV誘導型：C-701T、セミアクティブ・レーダー誘導型：C-701、ミリ波レーダー誘導型：C-701R）が開発されていたが[4]、C-704でもその方針は踏襲されている。基本となる対艦攻撃型はミリ波レーダーシーカーを用いたアクティブ・レーダー誘導システムを採用しているが、TV誘導システムや画像赤外線誘導システムを備えた対地攻撃型の開発も当初から想定されている[1][2]。
CASICでは、C-704は、小型艦艇、地上車両など各種プラットフォームへの搭載が可能であり、高い命中精度と電子妨害に対する抵抗力を有し、導入の準備や整備の負担も抑えられている等の利点があるとしている[1]。
【派生型】
2008年の珠海航空ショーでは、誘導方式を画像赤外線誘導システムにした空中発射型C-704KDが出展された[2][5]。KDは「空地（空対地）」の略称であるが、C-704KDは地上目標だけでなく艦船への攻撃能力も備えている[5]。画像赤外線誘導システムはフレアなどの妨害に対する抵抗力が強く、レーダー波反射率を抑えたステルス性に配慮した目標に対しても有効性が高いとされている[2][5]。
C-704KDも誘導システムの変更が可能であり、レーザー誘導システムや衛星航法システムを搭載したタイプの存在が伝えられている[2]。
CASICでは各地で開催される兵器博覧会などでC-704の売込みを進めており、これまでにバングラデシュとイランでの採用が確認されている[6][7][8]。
CASICは１９９０年代以降イランへの対艦ミサイルの輸出と技術移転を進めてきたがC-704も例外ではなく、2010年には「NASR/NASR 1（ナスルはペルシャ語で勝利の意味）」の名称で現地生産が開始されたことが報じられている[7][8]。生産が開始されたのは艦対艦/地対艦型であるが、イランではヘリコプターや潜水艦からの発射が可能な派生型の開発も行う意向を示している[7][8]。
なお、イランの報道を見るとミサイルに記載されている名称に「ナスル」と「ナスル1」の2種類があることが見て取れるが、両者が同じものを指すのかタイプの違いを指しているのかは現時点では不明[7][8]。
■性能緒元（C-704）
| 全長 | |
| 直径 | |
| 全備重量 | |
| 弾頭重量 | 130kg |
| 弾頭重量 | |
| 推進装置 | 固体ロケットモーター |
| 最大速度 | 高亜音速 |
| 射程 | 35〜38km |
| 飛翔高度 | 15〜20m |
| 誘導方式（対艦攻撃型） | ミリ波・アクティブ・レーダー誘導 |
■性能緒元（ナスル1）[9]
| 全長 | 3.5m |
| 直径 | 28cm |
| 翼幅 | 90cm |
| 全備重量 | 350kg |
| 弾頭重量 | 130kg |
| 推進装置 | 固体ロケットモーター |
| 最大速度 | マッハ0.8〜0.9 |
| 射程 | 8〜35km |
| 誘導方式 | （中間）自動制御/（終末）アクティブ・レーダー誘導 |
▼試射を行うC-704
【参考資料】
[1]CASIC公式サイト「防体系之C704等海防导弹」
[2]止戈国防百科「C-704反舰导弹」
[3]腾讯网「C705KD空对地导弹：重量轻巧威力射程不减」（2012年11月15日）
[4]青木謙知『軍用機ウエポン・ハンドブック（ミリタリー選書8）』（イカロス出版/2005年）98〜99ページ
[5]石江月・張錦「国産新型反艦導弾縦覧」（『兵工科技 2008増刊 2008珠海航展専輯』/兵工科技雑誌社）40〜45ページ
[6]Bangladesh Defence「Bangladesh Navy Large Patrol Vessel BNS Durjoy」（2013年2月）
[7]Al Jazeera電子版（英語）「Iran unveils new cruise missile」（2010年3月7日）
[8]Payvand「photos Iran launches short-range cruise missile production line」（2010年3月7日）
[9]Modlex Export Centre公式サイト「Nasr Anti Ship Missile」
中国海軍