96 名前:エリオとキャロのファ〜ストキッス♪ [sage] 投稿日:2009/08/12(水) 18:09:28 ID:7BrQZYSY
97 名前:エリオとキャロのファ〜ストキッス♪ [sage] 投稿日:2009/08/12(水) 18:10:51 ID:7BrQZYSY
98 名前:エリオとキャロのファ〜ストキッス♪ [sage] 投稿日:2009/08/12(水) 18:11:24 ID:7BrQZYSY

エリオとキャロのファ〜ストキッス♪


 逆立った赤毛の少年、エリオ・モンディアルは息を飲んだ。
 目の前の少女の姿に魅入られて。
 少年の対面には一人の少女がいる。
 ふわりと肩まで伸ばされた桃色の髪を持つ女の子、ライトニング分隊でエリオの相棒を務める召喚師、キャロ・ル・ルシエだ。
 キャロは落ち着きなく自分の指を絡め合わせて、モジモジと動かし。
 そして顔は僅かに俯き気味で、上目遣いにこちらを見ている。
 眉は困ったように下がり、頬は真っ赤に染まっていた。
 そこにあるのは羞恥の二文字。
 恥じらう少女に、少年は問う。


「あ、あのさ……キャロ、その……良い?」


 問われ、乙女は答える。
 言葉はなく、小さく顔を頷かせて。
 それは堪らなく愛らしかった。
 ほんのりと紅潮した頬で、まるで小動物のように身体を小刻みに震わせる様は見る者の保護欲を狂おしいほどにそそる。
 エリオは胸の内で鼓動がワルツのように踊るのを感じた。
 いつも見慣れた少女の筈なのに、近くで恥らう姿を見ただけでときめく心が抑えられなくなりそうだ。
 少年はもう一歩、目の前の少女に近寄り、そっと手を伸ばした。
 触れるのは、小さな少女の小さな肩。
 儚さすら感じるキャロの両肩に、少年は自分の両手を重ねる。
 触れた瞬間、小さく震える乙女の身体。
 そしてゆっくりとキャロは顔を上げる。
 少し潤んだ、濃いインディゴの瞳がこちらを見つめる。
 綺麗だ。思わずそう言いそうになった。
 この色を見ていれば、それだけで心が満たされる。
 と、少年は思う。
 いつまでも曇りなき双眸で見つめて欲しい、そんな事まで考えた時だった。
 少女の表情に動きが生まれた。
 エリオを見つめていた瞳がそっと細められ、閉じられる。
 この意が分からぬ彼ではない。
 これからせねばならない事を思い、頬が熱くなってきた。
 恥ずかしい、だが引く事はできない。
 キャロが決意を決めているのだ、男の自分が怖気づいてどうする? そう自責する。
 そして、おもむろに自分の顔を彼女に寄せていった。

 瞬間、横合いから野次馬の声。


「おらおらぁ〜! はやくチューしろぉ〜!」


 酒臭いスバル・ナカジマの声。
 それに続くように他の女性陣、ティアナやシャーリー、ロングアーチの面々から、そうだそうだ、とはやし立てる声も続く。
 これら外野の声に、エリオは辟易とした顔をする。


「あぁ……なんでこんな事に」


 と、嘆きを呟きながら。





 事の始まりはシャリオ・フィニーノ、通称シャーリーという少女の言葉だった。
 明日は休日だし、久しぶりに皆で集って騒ごうよ。
 と、彼女は言った。
 集ったのは6人の少女と1人の少年、機動六課のフォワードメンバーとアルト・ルキノ・シャーリーといったロングアーチの面々。
 とりあえずスバルとティアナの部屋に集った7人は、お菓子やジュースを手に姦しく騒いだ。
 日常のささいな事を話したり、ゲームをしたり、年相応の少年少女らしい事を。
 そんな中、混沌をもたらしたのはアルトの持って来た飲み物だった。
 曰く、ヴァイス先輩から貰った、というそれはどこかアルコール臭がした。
 というか、実際にアルコールだった。
 甘めのリキュールの為、全員はそれを単なるジュースと思い込んでいたようだったが。
 酒が入った瞬間、状況は一変した。
 酔っ払い、理性のタガの外れた面々は王様ゲームを始めたのである。
 最初のわきあいあいとした雰囲気はどこへやら、一気に場はカオスとなった。
 スバルがティアナの足を舐めしゃぶったり、シャーリーがアルトの微乳をモミクチャにしたり。
 ともかくカオスだった。
 そして、その命令は発令された。
 2番と5番がキスをしろ、と。
 エリオが持っていたのは2番で、キャロは5番だった。
 かくして今に至る。


「ぐずぐずしないでチューしろー!」

「それでもおとこかー!」

「ヴァイスせんぱいとちゅーしたーい!」


 と、少女らは姦しく囃し立てる。
 若干自分の願望を叫んでいるだけの人もいた気がするが、きっと気のせいだ。
 ともかく、囃し立てられた方は堪ったもんじゃない。
 なにせ、二人はまだ手を繋ぐだけでも恥ずかしがるようなお年頃だ。
 それをいきなりキスである。
 そう簡単にできる訳がない。


(うう……恥ずかしいよ)


 目を瞑り、口付けを待つ少女の様を前に少年は思う。
 頬が燃えているかのように熱く、頭の中は羞恥心でグチャグチャだ。
 目の前に差し出されたキャロの唇に目が釘付けになる。
 薄い桃色の、柔らかそうな乙女の唇。
 異性との口付けなど一度も経験した事のない、穢れなき聖域だ。
 そこに自分が触れるという事が、酷く罪深いような気さえする。
 少年は躊躇し、羞恥し、戸惑う。
 そんな風にエリオが硬直していると、おもむろに少女の瞳がそっと開かれた。


「エリオ君」

「ふえ!? な、なに?」


 いきなり声を掛けられ、思わず調子の外れた声を漏らすエリオ。
 慌てる少年に、キャロはふわりと微笑んだ。
 恥ずかしげに、でもそれ以上に優しげに、柔らかい微笑を浮かべる。
 ほんのりと朱色に染まった顔で見上げながら、乙女はそっと囁いた。


「私も、その……恥ずかしいけど……大丈夫だから」


 天使の笑顔と共に、心地良い残響は続く。


「エリオ君となら、全然嫌じゃないから」


 とくん、と胸の奥で鼓動が一つ高鳴るのをエリオは感じた。
 今までの緊張とは違う、甘やかな旋律を心臓が奏でた。


「キャロ……」


 少女の肩に置いた手に、僅かに力が込められる。
 もう迷う事無く少年は目を瞑り、顔を寄せた。
 少女も彼に習い、また瞳を閉じる。
 静かに、音もなく近づき合う唇と唇。
 今正に、少年と少女の初めての口付けは成され……


「あうッ!?」

「いたッ!」


 ゴチンッ、と音を立てた。


 まあ、仕方ないだろう。
 なにせ生まれて初めてキスをするという二人だ。
 目を瞑り、顔を寄せ合って唇を重ねる。
 たったそれだけの事でも、エリオとキャロにとっては未知にして至難極まる行為だった。
 ならばこうなるのは自明の理。
 歯と歯がごっつんこ、するのもまた然り。
 突然のハプニングに、あうあう、と口元を押さえて痛がる微笑ましい二人に周囲は笑う。


「ハハハ! かわいー♪」

「初々しいわねぇ」

「二人とも大丈夫?」


 問われ、二人はコクコクと頷く。
 だがしかし、そこでエリオは一つの事実に気付いた。


「キャロ! 口元から」

「ふえ?」


 少年の声に、疑問符を浮かべるキャロ。
 エリオに指摘された通り、そっと口元を指でなぞる。
 すると、指先には一筋の朱色が付いていた。
 鮮やかな乙女の鮮血だ。


「あ、ちょっと切れちゃったみたい」


 良く見れば、キャロの桃色の唇には縦に裂けた小さな傷が出来ていた。
 歯と歯がぶつかった際に切れてしまったのだろう。
 可愛い唇が傷を負う姿は、見ていて少し痛々しい。
 少年はこれに即座に動いた。


「大丈夫? 痛くない!?」


 口付けに恥らっていた事が嘘のように、顔を寄せて問うエリオ。
 彼の勢いに少しびっくりしたのか、目を丸くしながらキャロは答えた。


「だ、大丈夫だよ。そんなに痛くないし……」


 そう言うが、案外に傷が深いのか血は止まらない。
 さて、ところで小さな傷を負った際どうするだろう。
 状況にもよるだろうが、多くの人はその場合、傷口を舌で舐めるのではないだろうか。
 エリオもそうだったし、ならば今もまたそうだ。
 故に少年は、考える事もなくそれを成した。
 言葉もなくキャロに顔を寄せたかと思えば、朱色の鮮血を流す唇にチロリと舌を這わせる。


「ひゃぁッ!?」


 愛らしい乙女の、半ば悲鳴染みた声が上がる。
 だがそんな事などお構いなしに少年は続けた。
 桃色の唇に出来た赤い傷口を、まるで子犬がミルクでも飲むように何度も何度も舌で舐め上げる。
 こそばゆい、されど心地良い唇への愛撫に、幼い少女は甘やかな声を上げ、細やかな肢体を震わせた。
 流血の残滓が消え去った頃、ようやくエリオは舌の奉仕を止めた。
 後には愛らしい桃色の唇と、そこにうっすらと残る傷跡だけがあった。


「もう大丈夫かな。痛くない?」

「……うん」


 恥じらいに頬を真っ赤っかにしながら、キャロは小さく頷いて答える。
 まるでリスかなにか、小動物のような愛くるしい所作。
 少女の答えに、エリオは優しげな微笑を浮かべて、良かった、と漏らした。
 微笑ましく、初々しく、愛らしい。無垢なる少年と少女のやり取り。
 それは、見ている方が恥ずかしくなるような甘さだ。

 そして、それを間近で見た者達は死んでいた。

 いわゆる一つの糖死である。
 あまりの……空前絶後の甘すぎるストロベリーワールド。
 思わず背中がむず痒くなり、悶絶したくなるような世界。
 それが目の前で織り成されたのである。
 耐性のない少女らが耐え切る事ができよう筈もない。
 彼女らは次々に口から砂糖やハチミツを吐き、悶絶し、倒れたのであった。

 翌日からしばらくの間、機動六課隊舎の食堂では激辛メニューが大人気だったという。



終幕。


著者:ザ・シガー

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