113 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/08/08(金) 01:23:32 ID:Xcn6MBq+
114 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/08/08(金) 01:24:08 ID:Xcn6MBq+
115 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/08/08(金) 01:24:45 ID:Xcn6MBq+
116 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/08/08(金) 01:25:19 ID:Xcn6MBq+
117 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/08/08(金) 01:26:01 ID:Xcn6MBq+
118 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/08/08(金) 01:26:51 ID:Xcn6MBq+
119 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/08/08(金) 01:27:24 ID:Xcn6MBq+



「絶対に駄目です」
 
 スバルの言葉に嘘はなかった。なのはもそれは認めるしかない。
 ギンガも同じ気持ちだ、とスバルは言う。
 マリエルが、シャーリーが、皆が一睡の時間すら惜しんで研究を重ねている。必ず、治療法は見つかる。たとえ見つからないとしても、そのときはそのときだ。

「スカリエッティと取引するなんて、賛成できません。……たとえ、私の命と引き替えでも」
「私に、返事はできないよ」

 スバルの言葉にうなずくのは、今のスバルに死ねと命ずるに等しい。
 なのはにそんなことが出来るわけがなかった。
 しかし、この選択を他人にゆだねることもまた、できない相談だった。

 

 戦闘機人の寿命。それに気づいたのはナンバーズのメンテナンスをしていたマリエルだった。
 設計思想の違いがあれど、ナンバーズとスバル、ギンガには共通点も多い。それはナンバーズも知っている。
 ある日、一人が尋ねた。スバルとギンガの生命維持はどうなっているのかと。
 聞き返すマリエルにチンクが答える。
 タイプゼロ、成長する戦闘機人の制作をスカリエッティが断念したのは、生命維持に不可欠なメンテナンスがあまりにも手間を食うためだったと。
 確かに、執拗なメンテナンスは兵器としては欠点だろう。しかしスパルとギンガは兵器ではない。
 マリエルの言葉にチンクは感銘を受けたようだったが、それでも疑問は消えなかった。
 正確なメンテナンスを受けなければ兵器以前に生命維持が困難になる、と。そして、正確なメンテナンスがドクター以外に可能なのかと。
 ドクター自身が手間を嫌って開発を中止したのに、ドクター以外の人間にメンテナンスができるのか、と。

 スバルは別として、ギンガはすでにドクターに手を加えられている。
 それを念頭に置いて、マリエルはもう一度ギンガを検査してみた。
 すると、違いがあった。これまで累積されたギンガのデータからは考えられないほどの整ったデータが出力されたのだ。
 捕らえられたときに、ドクターにメンテナンスをされたのだろう、とチンクは言う。
 整っていないデータは生体パーツの多さ故、とマリエルは考えていた。それが間違いだったのだ。
 スバルはドクターのメンテナンスを受けていない。そして、出力されるデータは相変わらず整っていない。

「……保って一年だな」

 スバルのデータを眺めたスカリエッティは、映話先のフェイトに無表情に答える。

「いや、私の手を煩わせずにここまで稼働させた手腕は見事だ。しかし、この辺りが限界だろう」
「もし、助けていただけるなら減刑も考慮に入れます」
「いや、結構だ。どうせこんな事が続けば、なし崩しに管理局監視下という名目で自由の身になるだろう。君や八神はやてのように。急ぐ必要はない」
「スバルを助けないのなら、そんなことにはなりませんよ。いえ、させません」
「私を説得する時間はまだたっぷりある。せいぜいがんばりたまえ、フェイト嬢。
…………おっと、一つ忠告しておこう。私と交渉を続けるつもりなら、君は力不足だ。人員の交代をお勧めする」
「残念ですね、貴方と直接の会話が許される人員は非常に限られているんです」
「エースofエースが除外されているとは思えないが」

 フェイトは即座になのはに連絡を取った。
 そして、冒頭のやりとりである。


「スバル・ナカジマの治療をお願いします」
「…単刀直入だな。管理局のエースは雑談を好まないのかな?」
「貴方と雑談をする気はありません。したいと思ったこともありません」
「私はしたいんだ。できるなら、お茶でも飲みながらね」
「何が望みなんですか」
「美しい女性とひとときの逢瀬を楽しむ。それが不思議かね?」

 なのはは何も答えない。スカリエッティの目的がわからないのだ。
 フェイトやはやてが相手ではスカリエッティは話そのものを聞こうとしない。少なくとも、自分なら何らかの形で話はしようとする。
 しかし、身のある話は全くないのだ。
 スバルは今のところ身体の異常はない。しかし、それがいつまでも続くわけではない。治療は早いに越したことはないだろう。

 何度目かの話し合いで、ついになのはが切れてしまった。

「いい加減にしてっ! 何がしたいかはっきり言って! スバルを助けるつもりがないのなら、そう言って! その代わり、スバルが死んだら絶対に貴方を許さないから!」

 スカリエッティが目を見開いている。
 驚いているのだ。なのはの剣幕に。
 逆に、なのはから見ればスカリエッティの驚く理由がわからない。

「待ってくれ。高町なのは。私は何か誤解をしているのか?」

 ますます意味がわからない。何が誤解なのか。何をどう誤解するというのか。

「君の世界では、男性が女性を何度も呼び出すというのは、好意を示すことではないのか?」

 腹立ち紛れにレイジングハートを振り回していたなのはの動きが止まった。
 好意? 呼び出す? 男性が女性を?
 まさか……

「まさか、これ、デートのつもりだったの?」
「そ、そうだ、デートだ。そうだよ」
「恐喝相手を呼び出す極悪人にしか見えないわよっ!」
「それが誤解だと言っているのだ!」

 モニターしている六課本部では、はやてが笑いを堪え、フェイトが愕然とし、ついでバルディッシュを握りしめて震え出す。

「フェイトちゃん、怒ったらあかんよ?」
「大丈夫だよ、はやて」

 モニターの向こうではスカリエッティが…
 
「高町なのは。こうなったからには正直に言わせてもらうが。次は直接会えないか?」

「はやて、あれ斬ってもいい?」
「スバル治すまでの我慢や」


「スバル・ナカジマの治療は引き受けよう」

 スカリエッティは引き替え条件を持ち出さなかった。ただ、治療するとだけ宣言する。
 なのはの問いにも、治療するとだけ答える。
 はやて、フェイトともになのはは協議するが、スカリエッティの狙いが何であれ、治療者がスカリエッティしかいないというのは間違いのない事実だった。

「術式の課程はすべてモニターして記録する。モニターの方は私とリィンとフェイトちゃん。その場にはギンガとなのはちゃん、ティアナが立ち会う。
ヴォルケンリッター四人は隣室で待機。それでええな?」
「そうだね、それでいいと思う。でも、スカリエッティが何かやるつもりなら、本当に気をつけてね、なのは」
「うん。わかってる。でも……」

 正直、スカリエッティが何かしでかすとは、なのはにはどうしても思えなかった。
 だから、なのははもう一度スカリエッティに面会した。

「本当に、任せられるの?」
「もちろんだ。君も私の技術を疑っているわけではあるまい? これは、君と対等に話すために私が払う代償と思ってくれていい。
しかも、見返りなしかもしれないという可能性も考えているつもりだ。スバル・ナカジマを治療したから、私のことを考えてくれ、
などと言うつもりはない。そんなことをするくらいなら素直に脱獄して、未だに私を慕ってくれるナンバーズとともに反旗を翻し、君を奪う」
「それだけは絶対にさせない」
「もちろんだ。私にもそのつもりはない。暴力をもって君をものにするつもりなどない。そんなのは無意味だ」
「一つ聞きたいの」
「なんなりと」
「何故、私を?」
「まず、強いからだ。我が娘たち…ナンバーズを退けた君だからだ」
「ナンバーズを撃退したというなら、フェイトちゃん、はやてちゃん、ティアナ、スバル、シャッハさん、シグナムさん、シャマルさん、ヴィータちゃん。私以外にもたくさんいるはずよ」
「もちろん、それだけではないよ」
「どういう意味?」
「確かに強さもある。だがそれだけではない。今あげたすべての女性の中で、私の心を動かしたのは君しかいない。単純だが重要な事実だ」
「私には好きな人がいるんだよ」
「横恋慕か。面白い。私がその男以上の男だと証明すればいいのだな」
「いい加減に…」
「惚れた女に惚れたと告げて何が悪いっ! 私は確かに犯罪者だ。しかし、人を愛することはできる、違うか!?」

 六課本部では、なのはによって名前を出された六課隊員のほとんどがモニターを見つめていた。

「……これは…随分ストレートな告白ですね」
「相手がスカリエッティでさえなかったら…これは揺れ動きますよ…」
「あの男がこれほど男らしかったとは…」
「大丈夫だよね、なのは」
「た、多分。なんぼなんでも、ユーノ君もおるんやし、ほだされはせんと思うけど…」
「ユーノがあれくらい熱く告白してたらね…」
「とっくにゴールインしてるだろな…」


 スバルの手術が始まった。
 スカリエッティは麻酔は使わないと宣言する。
 局部麻酔で充分であり、そもそも自分が疑われているのは百も承知なので、スバルも意識をはっきりとさせておきたいだろうとの配慮だ。
 てきぱきと処置を勧めるスカリエッティを挟むようになのはとギンガが。そしてスバルに寄り添うようにティアナが付き添っている。

「そんなに心配なの? 大丈夫だよ、ティア」
「うっさいっ! 私は貴方なんか心配してないんだから。スカリエッティを見張っているだけなの! ほら、馬鹿言ってないで処置に集中して。おかしいと思ったら我慢せずにすぐに言うのよ」
「すまないな、ミス・ランスター。デリケートな処置が必要なので、静かにしてもらえると助かる」

 スカリエッティにそう言われ、ティアナは苦虫を飲み込んだような表情で口を閉じる。

「ふむ。少々予想とは違っているな」
「どういう事です?」
「タイプゼロファーストとは微妙な違いがある。これは…元来のものではないな」

 スバルに直接繋がれた端末から数値を読みとるギンガ。ギンガは自分がスカリエッティに改造されたときのデータを一通り見せられている。
 確かに、そこに記されていた自分のデータとスバルのデータの違いはわかる。

「…これは八神はやてにもモニターされているはずだな。八神はやて! 君には局内にも敵が多いと聞くが、この処置を台無しにしてまで君を陥れる理由はあるのか?」
「“こちら八神。そちらの予想通りモニターはしてる。それは、どういう意味や”」
「スバルナカジマを亡き者にしてまでも、君に嫌がらせをするような人物に心当たりは?」
「“ありすぎて特定できんよ”」
「面白い。何者かがタイプゼロセカンドに仕込んでいるようだ」

 ティアナのとっさの制止は間に合わず、スバルの腕が持ち上がった。驚いたのはスバル自身も同じだ。彼女自身、自分の動きに全く気づかなかったのだから。
 渾身の力で振り回される左腕。ティアナがとっさに飛びつこうとして、ギンガに引き倒される。生身でスバルの拳を止めるのは自殺行為だ。
 しかしなのはがレイジングハートをかざした瞬間、スカリエッティがスバルの左腕を受け止める。
 モニターを見ていたフェイトは、ザンバーを受け止めたスカリエッティを思い出していた。
 見ているうちに、スカリエッティの額に血が流れ始めた。さすがに、片腕でスバルの手を止めるのは無理があったのだろう。
止めきれずに、頭部に一撃を与えられてしまっている。

「今のなら、よけられたでしょう」
「よければ、高町なのは、君に当たっていたかもしれん、そう思った。……処置を続けよう」

 言いながらスカリエッティは、無造作にタオルを巻いた。まるで汗を止める鉢巻きのように。
 なのはは、そのタオル越しに傷口に触れた。

「何の真似かね?」
「じっとして。いずれ必要かもしれないと思って、ユーノ君に治癒魔法を習っていたの。下手だけど、血止めくらいはできるはず。
……まさか、貴方に最初に使うとは思わなかった」
「光栄の極みだね」


 土下座どころか、自害しかねない勢いのマリエルをはやてとフェイトはなんとか食い止めた。
 スバルの処置が始まったと同時にラボから姿を消した課員がいるというのだ。まず間違いなく、それが犯人だろう。
 確かに、このタイミングでスバルが暴走してスカリエッティが死亡すれば、はやてのクビ一つでは追いつかない大失態だっただろう。
 もっとも、スカリエッティの言を信じるなら、スバルに仕込まれていたのは昔彼自身が開発したウイルスの変異だったらしい。故に自業自得とも言える、とスカリエッティは結論していた。
 逆にそんなものを持っているということは、かつてスカリエッティとつながっていた裏管理局の残党が犯人なのだろう。
 
 処置を終えて、スカリエッティは尋問室に通されていた。
 はやてがシグナムとヴィータをつれて出向く。はやて自身は一人で行くと言ったのだが、シグナムとヴィータが無理矢理についてきているのだ。

「借りができたな」
「借りなどとは思わなくて結構だ。私が好きでやったことだからね。ただ、高町なのはを喜ばせたかっただけだ」
「それを信じてええんか?」
「……ちょうどいいメンバーが揃ったようだから、逆に聞きたい。八神はやて、君は何故闇の書の騎士を信じる?」

 シグナムとヴィータがはやてを守るように身構えた。

「過去において悪鬼羅刹とまで並び称されたヴォルケンリッターを、何故信じる?」

 スカリエッティはシグナムに目を向けた。

「烈火の将よ。どうして君は今世においては悪鬼とならない? 今までと何が違うと言うんだ?」
「我らは主の名に従い動く者だ。我らを知っているのなら、それもまた知っているだろう」
「八神はやてに出会うことによって君たちは変わった。それでいいのか?」
「当たり前だろっ!」
「失礼、鉄槌の騎士。しかし、それならこう考えてはくれまいか? 君たちが八神はやてに出会ったように、私は高町なのはに出会ったのだと」

 フェイト・テスタロッサが高町なのはに出会ったように。
 エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエが、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンに出会ったように。
 スバルとギンガが、クイント・ナカジマに出会ったように。

 当然、これらの出来事は機密である。
 だが、無限書庫の長と提督には機密など、あってなきがごとしなのだ。

「なるほどね。そこを否定すると、自分たちまで否定することになる、か」
「よく考えたものだ。後付の理屈としては最高だな。真実かどうかは別として」
「それに関しては僕も同感だ」
「しかし、嘘とは言い切れない」
「それも同感だ」
「自分の意見はないのか、密猟者におびえる獣」
「えらーーーーーい提督様のご意見だから、僕には逆らえないよ」
「だったらその偉い提督から命令しようか。僕の目の前から永遠に消えてくれないか?」
「職権乱用か。管理局も堕ちたものだ。ああそうか、君がスピード出世できる組織だものね」
「なのははさっさとスカリエッティを選ぶべきかもしれないな」
「スカリエッティは嘘はついてないと思う。本当になのはに惚れたんだと思うよ」
「何故言い切れる?」
「なのはには、それだけの魅力があるから」

 さすがにクロノは絶句した。


 プロポーズは論外。
 このタイミングのプロポーズは、「スカリエッティが嫌だから結婚する」と言っているようなものだ。
 それは嫌だ。
 やっぱり、「好きだから、一緒にいたいから、結ばれたいから」プロポーズ。それに憧れるのだ。

 ユーノにとっても事情は似たようなもの。
「スカリエッティよりはマシだよ」と言われて結婚したくない。
 やっぱり、「ユーノ君にそう言ってもらえるなんて」と感激されたいのだ。

 結構見栄っ張りなカップルは、そうやってチャンスを逃し続ける。


 それに……正直に言うと、なのはも少し心が揺れた。
 ユーノにはあれだけの激しい台詞はないだろう。
 無限書庫の仕事を捨ててまでなのはと一緒になるか、と言われると疑問符が付きそうな気がする。
 スカリエッティの場合は野望をあっさりと捨てている。
 だからといってスカリエッティを好きになったと言うことはない。それは断言できる。しかし…………
 情熱的な求愛というものには、女である限りは流されてしまうのだ。

 考えていると、ユーノからの連絡が来た。
 このタイミング。なのはは機密について一瞬考えたが、相手は無限書庫の長である。そのうえ、はやて、フェイトの友人なのだ。
この件に関しては機密など完全に忘れられてそうな気がする。


「僕は、スカリエッティには負けないよ」

 結婚はまだできないけれど。と続ける。
 それで充分だ、となのはは思った。
 何故知っているのか、もどうでもよかった。

「私、待ってるよ、ユーノ君」



 某所にて。

「……高町なのはとユーノ・スクライア? 私は彼女がバツイチでもいっこうに構わないよ。釈放されたら、奪ってみせるとも」
 


著者:野狗 ◆gaqfQ/QUaU

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