最終更新: nano69_264 2012年09月02日(日) 14:11:19履歴
335 名前:幸せの在り処 [sage] 投稿日:2012/03/29(木) 18:32:47 ID:bYvwtC1U [2/5]
336 名前:幸せの在り処 [sage] 投稿日:2012/03/29(木) 18:33:33 ID:bYvwtC1U [3/5]
337 名前:幸せの在り処 [sage] 投稿日:2012/03/29(木) 18:34:13 ID:bYvwtC1U [4/5]
始まりは、一冊の週刊誌からだったのだ。
ママンのペット奮闘記
「ペットはお子様の情操教育に最適!一家に一匹、ペットを飼いましょう」
何気なく読んでいた週刊誌の一文を目にしたとき、私は天啓を受けたとすら感じた。
(そうだ、アリシアのためにペットを飼ってあげよう)
研究者という仕事上、どうしても家を空けてしまう日がある。今まで、最愛の娘を、一人家に残してしまうことを非常に悔やんでいたが、もしペットがいれば、あの子も寂しくないだろう。
しかも、情操教育もかねることができるのだ。
(そうだ、そうしよう!)
とりあえず、まずはアリシアがどんな動物が好きなのか聞いてみよう。
明日は、折りよく休みの日だ。早速ペットショップへ連れて行こう。久々の娘とのお出かけになるし、一石二鳥とはまさにこのことだ。
私は、自分の思いつきにすっかり満足し、鼻歌を歌いながら研究に戻っていった。
そう、私はこの考えが最高だと考えていた。
「山猫がいい!」
娘が、そんなおおよそ不可能なことを言い出すまでは。
どうやら、今、テレビに写っている番組に影響されてしまったらしい。
「…猫じゃ…駄目なの?」
実現可能な方に誘導しようと、おそるおそる提案をしてみる。
「いや!山猫なの!!山猫ってすごいんだよ。とってもおりこうで………」
目を輝かせながら、テレビからの受け売りを話す娘を見て、明日は大変な一日になるであろうことを覚悟した。
(それにしたって、山猫なんてペットショップに売ってるのかしら)
「すいません、普通の猫ならいろいろな種類を置いているのですが…」
案の定だった。
山猫を飼うことができないと知り、アリシアはずいぶんとおかんむりだ。他のペットなんていらないと言う。
泣いている娘を、なんとかペットショップから連れ出し、テラスで外食をすることで機嫌をとることにした。
(どうしたものかしら)
自分としても、できる限り娘の望みを叶えてやりたい。しかし、山猫を手に入れるつてなど自分が持っているわけではない。
なるたけ山猫に似ている種類の猫で妥協してもらうしかないだろう。
そんなことを考え、隣で涙目のままハンバーガーを食べている娘に目を移すと、いつの間にか姿が消えていた。
顔から血の気が引き、慌てて辺りを見回すと、少し離れた場所で、何かをあやしている娘の姿が見えた。
「どうしたの、アリシア?母さん心配しちゃったじゃない」
遠くへ行ってはいなかったことに安堵しながら、そう小言をもらすと、アリシアはあやしていたそれを手の中に抱き、わたしに見せてきた。
「見て、山猫!!」
「へっ?」
われながら間抜けな声を漏らしたものだと思う。
それもしょうがないだろう。ここは都会のど真ん中である。どう考えても山猫が住んでいるような場所ではない。
しかも、娘が手に抱えている動物は、間違いなく山猫だった。
首輪もついていない。山猫が、一人で街中にこれるはずも無い。心無い人間に捕獲され、そして捨てられたのだろう。
ぼろぼろになっているその姿は、痛ましさと捨てた人間への怒りを思い起こさせた。
「ねえ、ママ、この子飼ってもいい?」
不安げに、自分を見上げてくる娘に、私は笑顔で了承した。
後悔は無かった。
その夜、私の寝顔の上を駆け回るまでは。
それからは、後悔の連続だった。
お尻から、自分の二の腕ほどの長さもある虫を取り出した日は、食事をする気がしなかった。
毎日のように、糞とゲロの後始末をしていると、自然と涙があふれてくる。
貴重な本が、何冊か、つめを立てられてビリビリに破かれた。
夜、顔の上で暴れられ、たたき起こされるなど日常茶飯事だ。
風邪を引いたときいて、薬を手に入れるため走り回り、怪我をしたと聞いては、獣医に頭を下げた。
リニスと名付けられたその山猫を飼ってから、私の怒鳴る機会が千倍に増えたと思う。
研究の疲れに、ペットの世話が増えるというのは、正直耐え難い。
それでも、捨ててしまおうとは思わなかった。
それは、その子と一緒にいるときの娘の、アリシアの本当に心からの笑顔と―――
―――幸せそうに擦り寄ってくるリニスの姿のおかげだったのだろう。
そんな時は、いつも怒鳴りつけていることも忘れ、頭をなでてしまう。
どれだけ暴れられると分かっていても、一緒に寝るときに、同じ布団に入れてあげていた。胸に顔をうずめ、私のあごをペロペロとなめてくるリニスを見ると、それまでの疲れが無くなってしまったように感じられた。
(お休み、私のもう一人の……)
「ねえ、プレシア……私はやっぱり……幸せでしたよ……?」
「リニス」が、いつものように愚かなことを言っている。
幸せであったはずが無い。私はこの子を捨てたのだから。
以前のリニスの飼い主がそうしたように。
あの時は、ボロボロになっていたあの子を見て、怒りすら覚えていたのに―――
―――今は自ら傷つけている。
(私は、どこから道を間違えたのだろう)
やってきたことを悔やんでいるわけではない。
ただ、あの頃の、アリシアとリニスがいた頃の幸せが遠ざかってしまっていることが悲しかった。
(フェイトや「リニス」を認めていればよかったのかしら)
それは、それだけはできなかった。
フェイトの性格はともかく、顔立ちは、アリシアに瓜二つといっていい。「リニス」も、リニスを元にしているのだ。似ているのが当然である。
だからこそ、あの子達を認めることはできなかった。
もし、認めてしまったら、あの頃の幸せを、否定してしまうのだと思っていたから。代替品でも補えるのだと、そんなことを言われているようだったから。
だから、幸せになることを全力で否定した。フェイトを、「リニス」を無視し続けた。アリシアが、リニスが、あの子達でなければ、私の幸せは訪れないのだと、そう信じ続けた。
でも、間違っていたのかもしれない。
認めることはできなくても、割り切ることはできたのかもしれない。
……自分の幸せはもう手に入らないのだと。
結局、私の幸せは過去にしかありえないのだから。
フェイトと「リニス」の二人を、あの子達の形見として幸せにしてあげることもできたのだろうか。
(まあ、もう叶うことは無いけれど)
最後の一息だけ、まだ言葉をつむぐことができそうだった。
フェイトには叶えてあげることはできない。でも、「リニス」には、この最後まで自分を主として尽くし続けた使い魔には、報いてあげることはできるかもしれない。
「私は……」
でも、何を言えばよいのか分からなかった。
言葉に詰まっている内に、その一息すら尽きてしまった。
(私らしい最期ね)
結局、してあげたかったことなど一つも叶わなかった私らしい。
ただ、それでも私の顔を、泣きながら、笑いながら見つめてくる使い魔を見ることができたことは救いであったのかもしれない。
言葉として残すことはできない。
だから、ただ心の中で労った。
(あなたがいて本当に良かった、ありがとう)
精神リンクで通じたのだろうか。それともそんな力はもう残っていなかっただろうか。
それを確認することもできないまま、私の意識は風に吹かれて消えていった。
「アリシア、この子の名前はどうする?」
「う〜ん、それじゃあ、リンクス!」
「男の子っぽい名前じゃない?この子は女の子よ」
「え〜、じゃあ、ママはどんな名前がいいの」
「それじゃあねー、リンクスを少し変えて―――
―――リニスっていうのはどうかしら」
著者:113スレ334
336 名前:幸せの在り処 [sage] 投稿日:2012/03/29(木) 18:33:33 ID:bYvwtC1U [3/5]
337 名前:幸せの在り処 [sage] 投稿日:2012/03/29(木) 18:34:13 ID:bYvwtC1U [4/5]
始まりは、一冊の週刊誌からだったのだ。
ママンのペット奮闘記
「ペットはお子様の情操教育に最適!一家に一匹、ペットを飼いましょう」
何気なく読んでいた週刊誌の一文を目にしたとき、私は天啓を受けたとすら感じた。
(そうだ、アリシアのためにペットを飼ってあげよう)
研究者という仕事上、どうしても家を空けてしまう日がある。今まで、最愛の娘を、一人家に残してしまうことを非常に悔やんでいたが、もしペットがいれば、あの子も寂しくないだろう。
しかも、情操教育もかねることができるのだ。
(そうだ、そうしよう!)
とりあえず、まずはアリシアがどんな動物が好きなのか聞いてみよう。
明日は、折りよく休みの日だ。早速ペットショップへ連れて行こう。久々の娘とのお出かけになるし、一石二鳥とはまさにこのことだ。
私は、自分の思いつきにすっかり満足し、鼻歌を歌いながら研究に戻っていった。
そう、私はこの考えが最高だと考えていた。
「山猫がいい!」
娘が、そんなおおよそ不可能なことを言い出すまでは。
どうやら、今、テレビに写っている番組に影響されてしまったらしい。
「…猫じゃ…駄目なの?」
実現可能な方に誘導しようと、おそるおそる提案をしてみる。
「いや!山猫なの!!山猫ってすごいんだよ。とってもおりこうで………」
目を輝かせながら、テレビからの受け売りを話す娘を見て、明日は大変な一日になるであろうことを覚悟した。
(それにしたって、山猫なんてペットショップに売ってるのかしら)
「すいません、普通の猫ならいろいろな種類を置いているのですが…」
案の定だった。
山猫を飼うことができないと知り、アリシアはずいぶんとおかんむりだ。他のペットなんていらないと言う。
泣いている娘を、なんとかペットショップから連れ出し、テラスで外食をすることで機嫌をとることにした。
(どうしたものかしら)
自分としても、できる限り娘の望みを叶えてやりたい。しかし、山猫を手に入れるつてなど自分が持っているわけではない。
なるたけ山猫に似ている種類の猫で妥協してもらうしかないだろう。
そんなことを考え、隣で涙目のままハンバーガーを食べている娘に目を移すと、いつの間にか姿が消えていた。
顔から血の気が引き、慌てて辺りを見回すと、少し離れた場所で、何かをあやしている娘の姿が見えた。
「どうしたの、アリシア?母さん心配しちゃったじゃない」
遠くへ行ってはいなかったことに安堵しながら、そう小言をもらすと、アリシアはあやしていたそれを手の中に抱き、わたしに見せてきた。
「見て、山猫!!」
「へっ?」
われながら間抜けな声を漏らしたものだと思う。
それもしょうがないだろう。ここは都会のど真ん中である。どう考えても山猫が住んでいるような場所ではない。
しかも、娘が手に抱えている動物は、間違いなく山猫だった。
首輪もついていない。山猫が、一人で街中にこれるはずも無い。心無い人間に捕獲され、そして捨てられたのだろう。
ぼろぼろになっているその姿は、痛ましさと捨てた人間への怒りを思い起こさせた。
「ねえ、ママ、この子飼ってもいい?」
不安げに、自分を見上げてくる娘に、私は笑顔で了承した。
後悔は無かった。
その夜、私の寝顔の上を駆け回るまでは。
それからは、後悔の連続だった。
お尻から、自分の二の腕ほどの長さもある虫を取り出した日は、食事をする気がしなかった。
毎日のように、糞とゲロの後始末をしていると、自然と涙があふれてくる。
貴重な本が、何冊か、つめを立てられてビリビリに破かれた。
夜、顔の上で暴れられ、たたき起こされるなど日常茶飯事だ。
風邪を引いたときいて、薬を手に入れるため走り回り、怪我をしたと聞いては、獣医に頭を下げた。
リニスと名付けられたその山猫を飼ってから、私の怒鳴る機会が千倍に増えたと思う。
研究の疲れに、ペットの世話が増えるというのは、正直耐え難い。
それでも、捨ててしまおうとは思わなかった。
それは、その子と一緒にいるときの娘の、アリシアの本当に心からの笑顔と―――
―――幸せそうに擦り寄ってくるリニスの姿のおかげだったのだろう。
そんな時は、いつも怒鳴りつけていることも忘れ、頭をなでてしまう。
どれだけ暴れられると分かっていても、一緒に寝るときに、同じ布団に入れてあげていた。胸に顔をうずめ、私のあごをペロペロとなめてくるリニスを見ると、それまでの疲れが無くなってしまったように感じられた。
(お休み、私のもう一人の……)
「ねえ、プレシア……私はやっぱり……幸せでしたよ……?」
「リニス」が、いつものように愚かなことを言っている。
幸せであったはずが無い。私はこの子を捨てたのだから。
以前のリニスの飼い主がそうしたように。
あの時は、ボロボロになっていたあの子を見て、怒りすら覚えていたのに―――
―――今は自ら傷つけている。
(私は、どこから道を間違えたのだろう)
やってきたことを悔やんでいるわけではない。
ただ、あの頃の、アリシアとリニスがいた頃の幸せが遠ざかってしまっていることが悲しかった。
(フェイトや「リニス」を認めていればよかったのかしら)
それは、それだけはできなかった。
フェイトの性格はともかく、顔立ちは、アリシアに瓜二つといっていい。「リニス」も、リニスを元にしているのだ。似ているのが当然である。
だからこそ、あの子達を認めることはできなかった。
もし、認めてしまったら、あの頃の幸せを、否定してしまうのだと思っていたから。代替品でも補えるのだと、そんなことを言われているようだったから。
だから、幸せになることを全力で否定した。フェイトを、「リニス」を無視し続けた。アリシアが、リニスが、あの子達でなければ、私の幸せは訪れないのだと、そう信じ続けた。
でも、間違っていたのかもしれない。
認めることはできなくても、割り切ることはできたのかもしれない。
……自分の幸せはもう手に入らないのだと。
結局、私の幸せは過去にしかありえないのだから。
フェイトと「リニス」の二人を、あの子達の形見として幸せにしてあげることもできたのだろうか。
(まあ、もう叶うことは無いけれど)
最後の一息だけ、まだ言葉をつむぐことができそうだった。
フェイトには叶えてあげることはできない。でも、「リニス」には、この最後まで自分を主として尽くし続けた使い魔には、報いてあげることはできるかもしれない。
「私は……」
でも、何を言えばよいのか分からなかった。
言葉に詰まっている内に、その一息すら尽きてしまった。
(私らしい最期ね)
結局、してあげたかったことなど一つも叶わなかった私らしい。
ただ、それでも私の顔を、泣きながら、笑いながら見つめてくる使い魔を見ることができたことは救いであったのかもしれない。
言葉として残すことはできない。
だから、ただ心の中で労った。
(あなたがいて本当に良かった、ありがとう)
精神リンクで通じたのだろうか。それともそんな力はもう残っていなかっただろうか。
それを確認することもできないまま、私の意識は風に吹かれて消えていった。
「アリシア、この子の名前はどうする?」
「う〜ん、それじゃあ、リンクス!」
「男の子っぽい名前じゃない?この子は女の子よ」
「え〜、じゃあ、ママはどんな名前がいいの」
「それじゃあねー、リンクスを少し変えて―――
―――リニスっていうのはどうかしら」
著者:113スレ334
- カテゴリ:
- 漫画/アニメ
- 魔法少女リリカルなのは
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