266 名前:守護の獣と雷刃と 1/3 [sage] 投稿日:2011/05/28(土) 23:45:24 ID:Gg91Tfuw [2/5]
267 名前:守護の獣と雷刃と 2/3 [sage] 投稿日:2011/05/28(土) 23:49:24 ID:Gg91Tfuw [3/5]
268 名前:守護の獣と雷刃と 3/3 [sage] 投稿日:2011/05/28(土) 23:50:25 ID:Gg91Tfuw [4/5]

「でええええええい!!」
 気合一閃、猛る声と共に蹴り出される脚。
「むっ」
 予想を上回る速度で放たれた一撃。一言の呟きと共に満足げに頷きながら、愛弟子ミウラの攻撃をザフィーラは受け止める。
「それまで!」
 ザフィーラがその攻撃を受けきった所で、少し離れた位置で審判役をしていたシグナムが時間終了の合図を告げた。
「はぁ、はぁ……ど、どうでした!? 師匠!!」
「………最後の蹴りは悪くない。軸足の運びも出来ていた」
「ホントですか!?」
 目を輝かせて、自分を見上げるミウラにザフィーラは僅かに微笑みながら、ああ、と頷く。
「えへへへ! やったああああ!! 上手くいったああああ」
 教わったことが実践出来たのと褒められたのが嬉しいのか、練習場である海岸を飛び跳ねるようにはしゃぎ回るミウラを眺めながら、ザフィーラから不意に苦笑が漏れた。
「弟子の成長が嬉しいか?」
「まぁ、それもある」
 シグナムが傍にやってきながら、そう声を掛ける。振り向きもせず、ザフィーラはそう答えた。
「それも?」
「………少し、昔を思い出した」
 ザフィーラが懐かしげに笑うのを見て、シグナムがああ、と合点がいったように声を漏らす。
「あの娘のことか」
「ミウラを見ていると、時々思い出す。良くも悪くも似ている部分はある」
「違いない」
 口調もそうだが、性格を見てもテンションの高さは似ている部分は確かにあるかもしれない。
 かつて、自分たちが対峙した相手、闇の欠片、マテリアル。雷刃の襲撃者。
「いつ頃だったかな。最後の発現は」
 シグナムの言葉にザフィーラは首を横に振った。
「よくは覚えていないな」
 闇の欠片事件と呼ばれた一件。実はそれは一回だけには止まらなかった。
 海鳴の地に拡散した闇の書の魔力の断片は周期的に復活を繰り返し、その度に騒動を起こした。
 何度目かの末、拡散した魔力が集まることが無くなり、やがて終息していったが、度々目覚めるたび、雷刃の襲撃者はザフィーラを執拗に追い狙った。
「当時、俺に負けたのが、余程悔しかったのだろうな」
 思い出して可笑しくなったのか、クックッと笑うザフィーラにシグナムが苦笑する。
「それ程までに、当時しつこかったのか」
「………ああ。目覚める度に俺を見つけては、「今度こそボクが勝つ!!」などと、張り切って襲い掛かってきた」
 しかし、結果はザフィーラがここにいる時点で明白だろう。
 確かにパワーは力のマテリアルと呼ばれるだけあって、大したものだったのだが、如何せん雷刃は戦闘の運び方がお世辞にも上手いとは言えなかった。
 能力の高さに任せた正に力任せの戦闘方法。そんな戦い方では百戦錬磨と言えるヴォルケンリッターには通用しない。
 敗れる度に悔しがり地団駄を踏みながら、消滅する雷刃を見ては、ザフィーラは正直、勿体ないと思ったものだった。
「………だが、面白かったよ」
「段々、強くなってくる事がか?」
「ああ」
 シグナムの言葉に頷き、そう言ったザフィーラの脳裏には当時の事が浮かんでいた。

               ◆◇◆

「でえええええい!!」
 力任せにオリジナルであるフェイト同じ形状のザンバー、バルフィニカスを振るい、ザフィーラを執拗に攻め立てる雷刃。
「…………早いが、やはり軽い」
 ザフィーラに易々と受け止められ、カウンターの一撃で吹き飛ばされる雷刃。
「くっ、くやしーーーーー!! また負けた〜〜〜!!」
 空中で地団駄を踏んだり、寝転んでバタバタするような器用なことをする雷刃にザフィーラは呆れながら、溜息を吐く。
「だが、最後の一撃は多少マシになってきた」
「ホント!?」
 ザフィーラの言葉にガバッと起きあがると、雷刃が傍まで飛び寄ってきて、ザフィーラを見上げる。
「ホントに、ホントに最後の一撃、悪くなかった!? 守護獣!」
「ああ」
 襲ってきた敵を相手に何をやっているのだろうな、とザフィーラは自嘲するが、嬉しそうにしている雷刃を見ていると、何故かそれも悪くない。そんな風に思ってしまった。
 闇の書の再生という呪縛に囚われているとはいえ、マテリアルは三者三様、その性格は個性的なものだ。
 特にある意味では雷刃の襲撃者という存在は他のマテリアル達より、純真とも言えた。
 世間一般的には足りない子と言われるかもしれないのだが。ともあれ。
「最初の頃に比べれば、随分と立ち回りも良くなった」
「へへーん。ボクだって、ちゃんと勉強してるんだい! 次こそは勝ってやるから、覚悟しろ、守護獣!!」
 負けたのに何とも態度は大きい雷刃が、ビシッとザフィーラを指差しながら、テンション高らかに声を張り上げる。
「って、あーーーーー!! もう時間がーーーー!?」
 指差した手の先が薄れていくのに気が付いて、途端に雷刃が慌て始める。
「えーと、えーと」
「言いたいことがあるなら、落ち着いて言え。まずは深呼吸しろ。そのくらいの時間はある」
 この落ち着きのなさが無ければ、もう少し戦士として完成度は高くなるというものを。
 そんなことを内心ザフィーラが思っていたら、雷刃はおきまりとも言うべき、負け口上を言い出していた。
「―――で、次こそ、お前を闇に葬って、ボクは更に高く飛ぶんだ!! 覚悟しておけ!」
 再びビシッと指をザフィーラに突き付けながら、決めポーズとを取る雷刃。本人としては決まったという所なのだろうが、負けた相手に向かってやっているのだから、いまいち決まっているものではない。
「だから………絶対、次は勝つから待ってろ」
 本人も一応、それは分かっているのだろう。最後は尻すぼみになりながら言っている辺り、まだ多少羞恥心というものはあるらしい。
「………分かった。次はもっと早さに磨きを掛けてこい。お前のオリジナルはもっと鋭く早い」
「むー、………分かった」
 駄目出しが気に入らなかったのか、頬を膨らませながら、不機嫌な顔をする雷刃。
 これもまた、この者だからこそ、だろう。同じ顔だろうと、オリジナルであるフェイトは、こんな風にコロコロ表情の変わる娘ではない。
 うっすら消えていく手を握ったり開いたりしながら、雷刃が顔を上げる。どうやら本当にタイムリミットが来たようだった。
「消えることは怖くはないのか?」
「………うーん、怖い! けど、怖くない」
「…………どっちなんだ」
 ザフィーラの言葉に一瞬だけ考えて、雷刃はにぱっと笑いながら、ザフィーラにそう返した。
「だって、消えるとき、いっつも傍に守護獣がいるから。他にも王様と星光と一緒だったら、怖くないよ」
「………そうか」
「だから。次、また遊ぼう。約束だよ、守護獣!」

 闇を求める者にはあまりにも似つかわしくない、そんな笑顔。日の光の元であれば、それはどれだけ眩しいだろうか。
 そんな笑顔を見せる雷刃。形さえ違えば、この娘達もまた自分たちのように歩めたかもしれない。
 そんな可能性を排除したのはシステムを切り離した、自分だ。リインフォースは事件の後、いつかそんなことを口にしたことがある。
 勿論、ザフィーラはそれを否定した。リインフォースだけが悪いわけではないのだから。
 自分は楯の守護獣。形は違えども、彼女ら、マテリアル達もまたかつては自分たちと同じ物だった、言えば同胞。
 なら、自分にとっては、やはり彼女らもまた護るべき者なのではないか?
 対峙する度、ザフィーラはそう思っていた。
 雷刃は先ほど、消えるのに自分が傍にいるから怖くないと言った。それならば、雷刃達を救ってやる術を本当なら探してやるべきだ。
 自分の無力に苦笑するしかない。だから、今の自分に出来ることをしよう。
「………分かった。約束しよう」
「へへ、じゃあ、またね。守護獣」
 手を振りながら、笑顔で消え去る雷刃を見送ってザフィーラは一人、その場で、消え去った雷刃の残した魔力光を静かに見上げる。
 結局。それが雷刃との最後の会話となった。

               ◆◇◆

「―――しょう、師匠ってば!!」
「ん………、ああ。すまん」
 物思いに耽り過ぎていたのか。一頻りはしゃぎ終えたのか、ミウラが傍にやってきていた。
「師匠、どうかしたんですか?」
「いや、何でもない」
「? 変な師匠。それより、稽古の続きお願いしますよーー」
 気合十分、フンと両の拳を握り込む元気一杯のミウラにザフィーラは苦笑する。
 自分は護ることが務めだ。だが、考えてみれば、当時も今も。自分もまた、護る者に護られているのかもしれない。

 自由奔放な雷刃の襲撃者。

 結局、救うことは叶わなかったが、最後は雷刃も満足していた。
 相対する中で、自分もまた雷刃とのやりとりに救われていたのかもしれない。

「じゃあ、いっきますよー、師匠!!」
「ああ、いつでも来い」

 自分を倒すという目標は果たせなかった雷刃。
 ミウラを見ていると、何となくそんな雷刃を思い出させる。なら、ミウラがどこまで行けるか、自分を超えられるのか。
 今度は最後まで見届けてやろう。

 シグナムの開始の合図と共に口元に笑みを浮かべながら、ザフィーラはミウラの一撃を再び受け止めるのだった。




著者:Tellus@(;´Д`)

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

メンバーのみ編集できます