[269] 胎教大作戦 sage 2007/09/13(木) 02:52:35 ID:wmbn1TcE
[270] 胎教大作戦 sage 2007/09/13(木) 02:53:20 ID:wmbn1TcE
[271] 胎教大作戦 sage 2007/09/13(木) 02:54:03 ID:wmbn1TcE

 レリック事件は無事解決、スカリエッティは死亡し、ナンバーズは
スカリエッティに洗脳されていた犠牲者として保護された。
 普通ならばこれでハッピーエンド、となるのだが…ここにひとつの
問題が残された。

 スカリエッティの分身とも呼べる存在が、ナンバーズの胎内に宿っ
ていたのである。

「さーて、どないしたもんやろな」
 機動六課部隊長、八神はやてがうなった。
「うーん、普通なら問答無用で堕胎ってことになるんだろうけ、ど…」
 ヴェロッサがそう言ったとたん、ナンバーズはもとより、その場に
いた女性陣全員からの冷たい視線が浴びせられた。
「い、いや、あくまで一般論だよ、一般論」
 査察官、陥落。
「けど、ただの子供ならともかく、スカリエッティの話じゃ記憶も受
け継いでいるっていうし……しかも、それが12人」
 フェイトの言葉に、押し黙る一同。
 そこが一番の問題なのだ。記憶があるなら、いずれまた今回のよう
な事件を起こさないとは言い切れない。むしろ、起こす可能性のほう
が高い。
「で、でも、あたし……この子を殺すなんて嫌っす!」
 ウェンディが叫んだ。それと同時に、ナンバーズ全員が身構える。
それは、製作者の命令を遂行しようとする機械の動きではない、紛れ
も無く、子を守ろうとする母のそれだった。
「みんな、落ち着いて。私たちだってそんなことはしたくないから、
こうして話し合ってるんだよ」
 なのはが間に立って、ひとまずはみな肝を…じゃなかった、頭を冷
やした。
「えっと、つまり、生まれてくる子供たちが悪さをしなければいいっ
てことだよね」
「まあね…って言っても、どうすればいいのか」
 スバルやティアナも頭を抱える中、ギンガが進み出た。
「あの……胎教っていうのはどうでしょう?」
「胎教?」
 胎教とは、まだ母親の胎内にいる胎児に、クラシックを聴かせたり
して情緒ゆたかな子供に育てることをいう。
「記憶があるといっても、胎児のうちからはっきりと覚えてるとか、
周りのことを把握しているとかは無いと思うんです。だから、今から
なら、胎教である程度性格を矯正できるんじゃないかって」
「なるほどー」
「さすがギンねぇ!」
 感心している一堂の中、ティアナが恐る恐る手を上げた。
「あの、それって……洗脳っていうんじゃ」
 するとギンガは、笑顔でこう答えた。
「大丈夫よ。自分の知らない間に勝手に改造されてるなんて良くある
ことだって、この人が一番良くわかっているでしょうから」
 サメのような笑顔だった。
「あ、お腹の中でドクターがビクっと震えあがったっす」


「ほんなら、とりあえずギンガの案を採用するってことで……具体的
には、どうしよか?」
「そうだね、普通の胎教じゃなくて、もっと積極的に性格に影響を与
えたいからね。愛情とか、優しさを育めるような」
 すると、キャロが手を上げた。
「あの、赤ちゃんにずっと、夜中に耳元で『人生って素晴らしい』っ
てささやき続けるとかはどうでしょう」
「ふむ、なら試してみよか」

 翌朝、目の下にクマをつくったクアットロが何かをぶつぶつ言いな
がら部屋から出てきた。
「駄目でした、夜中の4時ごろにはもう喉がかれちゃって……」
「テープに録音したらいいんじゃないの?」
「駄目ですよ、胎教なんですから愛情こめて自分でささやかないと」
「ほんなら、キャロの喉のためにこの作戦は没やな」

「振・動・破・砕!」
「うぎゃ〜!」
 スバルの必殺技を受けて、クアットロが宙を舞った。
「何をしてるんだ、スバル」
「あ、ヴィータ副隊長。愛のムチです!」
 得意げに言うスバルに、ヴィータは眉をひそめた。
「愛のムチ?」
「はい! 悪いことをすると報いを受けるって今のうちから体に覚え
させておこうと思って! 振動だから、ちゃんと胎児にもダメージい
くんですよ!」
「おっかねえなあ、おい」
 でも、口元は笑っているヴィータだった。
 ちなみにスバル発案のこの胎教(?)は適用されるのが4番だけだっ
たため没となった。
 4番以外のナンバーズは基本的にいい子だった。

「……で、ティアナ? これは一体どんな胎教なのかな?……かな?」
「は、はい! えっと、世の中には絶対に逆らっちゃいけない人がい
るって教えようと思っただけで……」
「『ちょっと、頭冷やそうか』」
 モニターの中の白い魔王と、目の前にいる白い魔王の声が唱和した。
 クアットロは、この日からなのはの言うことに逆らわなくなった。

「それで、スバルとティアナさんの失敗を踏まえたうえで、考案してみ
たんですけど」
 ギンガの前にあるモニターでは、どこかで聞いたような声の「ミカン」
というキャラが死ぬところが延々リピートされている。
「ほら、悪いことするとああなっちゃうのよ、ふふふ」
 クアットロのお腹を撫でながらギンガは「ミカン」の断末魔を聞かせ
続けた。
 たまたまこの様子を見たヴィヴィオがマジ泣きしたため、これも没に
なった。


「ていうか、みんなわかってないよね。愛情をもつ子に育てようって言
ってるのに、悪い子に罰を、みたいなことばっかり言ってるんだから」
 効果をあげるどころか、むしろ心身ともに衰弱している母体(クアッ
トロ)を見ながら、なのはがため息をついた。
「最初に一人だけで試してみたのは正解だね。あやうく、ナンバーズの
みんな全員ノイローゼになるところだったよ」
 フェイトの言葉にうなづくと、なのはは決心したように言った。
「やっぱり、私がやるしかないかな」
「え、なのはが?」
「うん、私にいい考えがあるの」
「ほんなら、ここはなのはちゃんに任せてみようかな」
 はやてのお墨付きをもらい、なのはは力強く微笑んだ。
「任せといて。みんなに、愛の素晴らしさを全力全開で教えてあげるから」

 それから、数日。
「んー、どした、ルールー」
「……みんなが食べてるの、私たちと違う」
 ルーテシアの言葉に、アギトが隣のテーブルを見ると、たしかに自分た
ちが食べている献立と違うものが出ている。なんだか真っ赤で、ひどく辛
そうだ。
「ああ、ナンバーズのみんなの食事だね。なら、心配要らないよ」
 ルーテシアとキャロに挟まれて食事をしていたエリオが言う。
「なんでも、つわりって言って、妊娠した女性は一時的に味覚が変わって、
酸っぱいものとか、普段は食べないようなものが食べたくなるんだって」
「へー、なんか大変だな」
「……でも、素敵」
 そういうと、ルーテシアはエリオを見つめていった。
「私も赤ちゃん欲しい」
「ぶっ!?」
「ええっ!?」
 エリオが壮絶に噴出し、キャロが激しく動揺、すわ、修羅場かと思われ
たその時――
 隣に座っていたナンバーズが、いっせいにルーテシアを取り囲んだ。
「やめとくっす! 妊娠なんかするもんじゃないっす!」
「おまえはまだ若い、この苦しみをあじわうには早すぎる」
「私……今、はじめてドクターを憎んでいます……なぜ、私たちに子供を」
 ものすごい勢いで壊れ始めたナンバーズ、そのとき、新たな声が響いた。
それは、けして大きくは無いのにその場にいた全てのものの脳裏に響く、
さながら魔王のような声だった。
「みんな、もう食事は終わった? じゃあ、午後の胎教を始めるよ」
「サー、イエッサー!」
 冷や汗だらだら流しながら、それでもなのはに続いていくナンバーズ。
 そう、彼女たちはすでに知っている、もはやこの魔王から逃れるすべは
無いのだと。
「午前中はどこまで話したっけ。ああ、闇の書事件が終わって、みんなに
魔法のことを話したってところかな。あのとき、『娘に危険な仕事をさせ
るのは』って渋るお父さんたちに、『なのはは僕が必ず守ります!』って
言ってくれたんだ、ユーノ君。かっこよかったなあ……それでね、その後
のセリフが――」
 母体の外から聞こえてくる声に、スカリエッティズは叫んだ。
「お母さん、糖分はもう結構です」

著者:28スレ268

このページへのコメント

品のあるパロディをありがとうございました。ふと、私はこの話を読んで『おもしろまじめ』という言葉を思い出したりしてます……

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Posted by 時代遅れの追随者 2009年09月15日(火) 22:43:31 返信

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