69 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/09/23(火) 21:16:49 ID:zGzSkyi6
70 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/09/23(火) 21:17:33 ID:zGzSkyi6
71 名前:野狗 ◆gaqfQ/QUaU [sage] 投稿日:2008/09/23(火) 21:18:12 ID:zGzSkyi6

   

 ある非番の日、ゲンヤが自宅でのんびりしているとスバルが泣きながら帰ってきた。

「お父さんは、お父さんだよね」

 訳のわからないこと言って泣きじゃくるスバルに、ゲンヤは首を捻って考える。

「あ、ああ、当たり前だろ。どした、スバル。父さんは父さんだぞ」
「あたし、お父さんの本当の子じゃないから、いつか捨てられるって……」
「な……」

 その瞬間、ゲンヤは自分の中で血液が沸騰して逆流して、とにかくめちゃくちゃに暴れ回るのを確かに感じた。

「ど、どこの糞野郎だ、そんなデマ流しやがんのはっ!!」

 許さない、絶対に許さない、ゲンヤは誓った、誰に誓った、自分に誓った。
 こんな子供にそんな残酷な言葉を投げかける権利など、どこの誰にもない。そんな人間は最低の人間だ。決して許してはならない恥知らずのクズだ。

「ただいま」

 ギンガの声。動けないゲンヤはすぐにギンガを呼ぶと、泣いたままのスバルをしっかりと抱きしめる。

「いいか、スバル。俺はいつだって、いや、いつまででもスバルの父さんだ。スバルが嫌って言っても父さんなんだからな。心配するんじゃねえ」

 そして入ってきたギンガを見て…………

 ギンガも泣いていた。

「お父さんは、お父さんだよね」

 ゲンヤは何も言わず手を伸ばし、ギンガを引き寄せる。そして、スバルと一緒に抱きしめた。

「二人とも、誰がなんて言ったって俺の娘だ。俺は、おめえらの父さんだっ! 絶対に、絶対に何があったって父さんだ!!」

 ゲンヤは、自分の頬が濡れていることに気づいていた。
 泣いている。
 自分が涙を流すなんて何年ぶりだろう。
 妻の葬儀でも、自分は涙を流さなかったような気がする。二人の娘を残した彼女が心配しないように、涙は絶対に見せない。
あのとき、自分はそう心に決めたのだ。



 犯人探しは自己満足に過ぎない、とゲンヤは理解していた。
 仮に見つけたとして、言葉を封じたとして、それでどうなるというのか。
 心ない者はどこにでもいる。そのたびに言葉を封じなければならないのか。いや、それは違う。
 肝心なのは、その心ない言葉が確実に嘘であると知ることなのだ。そして、嘘を嘘だと笑い飛ばせる強さを持つことなのだ。
 
 だから、ゲンヤはギンガを叱った。

「次にスバルにそんなことを言う子がいたら、私が仕留めてやる!」と言ったギンガを。

 それは間違ってもシューティングアーツの使い手の言葉ではない。だから、ゲンヤはギンガを叱った。
 相手の言うことは紛れもない嘘なのだ。だから気にすることなどない。
 嘘つきのあからさまな嘘など、本気にする方がおかしいのだ。だから、スバルもギンガも気にすることはない。

「それとも、二人とも俺が信用できないのかい? おめえらの父さんは、平気でおめえらを捨てるような最低な人間だと思うのかい?」

 二人はまた、泣いた。泣きながら謝り、謝りながら泣いた。
 ゲンヤもまた、泣いていた。それほど自分を信用してくれる二人に礼を言いながら泣き、泣きながら礼を言った。
 三人で泣いて、泣いて、もうこれ以上泣くと干からびてしまうと思うくらい泣いて。
 たっぷり泣いてから、三人は涙を拭いた。

「確かに、俺たちにゃ血の繋がりなんてねえよ」

 ゲンヤは、誇らしげに自らの胸を示す。

「けれど、ここでしっかり繋がってるだろうよ」

 スバルがまじまじとその指先を見つめ、同じポーズを真似する。

「うん。ここで繋がってる!」

 まるで隠されていた宝物を見つけたかのように、スバルは力強く宣言した。

「お父さんと、ここで繋がってるんだ」
「ああ。俺とスバルとギンガと。そして、ここにはいないけど母さんもな」
「うんっ!」

 ギンガは何も言わない。だが、ゲンヤとスバルを見てうなずいていた。何度も、何度も。



 そんなこともあったな……。
 ゲンヤは、しみじみと当時を思い出していた。

「どうしたの? 父さん」
「ん? いや、ちょっとばかし、昔のことを思い出してな」
「……こんな時に?」

 不満そうなギンガの言葉に、慌ててゲンヤは取り繕う。

「いやいや、おめえを見ていると、つい昔を思い出してな」
「私のこと?」
「ああ、ほら、スバルとおめえが泣きながら帰ってきたときのこった」
「そんなこともあったかしら。結構、いろんな事言ってくる子供が少なくなかったから」
「俺たちゃ、血は繋がってねえが、心は繋がってるってな」
「思い出した。そうね、あったわね、そんなことも」

 ギンガは微笑むと、動きを早める。

「今だって、血は繋がってないけど、心は繋がってる」
「お、おい、激しすぎだっ……うっ」
「身体も繋がってるけどね」

 騎乗位でゲンヤのソレを搾り取りながら、ギンガは意地悪そうに笑った。
 


著者:野狗 ◆gaqfQ/QUaU

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