47 名前:『HappyLife HappyEnd』 [sage] 投稿日:2012/02/25(土) 02:00:03 ID:ZTq6Jrfs [2/4]
48 名前:『HappyLife HappyEnd』 [sage] 投稿日:2012/02/25(土) 02:00:46 ID:ZTq6Jrfs [3/4]

「お帰りなさい、あなた」
 彼女の言葉に、彼は軽く頷きを見せるだけで、答えを返してくれない。 
 それが少し寂しくて、けれど、彼女はその寂しさを堪えて笑みを浮かべた。
 籍を入れて、四年半。
 思い返せばその時間はあっという間で、それでも傍らに居られるのは嬉しかった。
「夕食を先にしますか、それともお風呂っ!?」
 その言葉を遮ったのは、彼の強引な抱擁だった。
 抱き寄せられ、強引に唇を押し付けられる。嫌だと、僅かでもその気振を見せれば、素っ気なく身を離して、また触れ合うことのない時間が来るだけ。
 だから彼女は、身体の力を抜いて彼に全てを預ける。
 無骨な手が、全身をなで回してくる。
 自身、かなり自身のある豊かな乳房を、服の上からこねくり回され、そのたびに喉の奥から甘い吐息が漏れた。
 もう、数え切れない程繰り返した愛の営み。快感を覚える場所を、的確についてくる動きは、なじみきったもので。
 彼女はただされるがままに甘い声を上げ続ける。
 彼が求めるまで、動いてはいけない。それが、長い間の睦み合いで染みついたルールだったから。
 胸をせめていた手が下に伸びて、スカート越しに秘処を撫でてきて。
 一気にせり上がってきた快感に思わず腰を引いてしまった。
 じゅくりと、蜜があふれたことを自覚して、潤んだ瞳で彼を見つめる。早く愛して欲しかった。一気に貫いて欲しかった。
 けれど、彼の手は緩やかに、布越しのままなで回すだけ。
 ぞくんと、その手が動く度に、せり上がってくる熱に、我慢が出来なくなりそうで。
 ……やっと彼の手が、彼女の服を脱がすように動き始める。
 熱く火照った肌に――空調が効いていても――冷めた空気は、すこし辛くて。
 彼が、無言のままズボンのファスナーを下ろした。
 ぼろんと、黒光りするそれが、こぼれでた。彼もその気になってくれた。
 それが、嬉しくて、彼女は膝立ちになって、いまだ柔らかいままのそれを口に含んだ。
 青臭さとアンモニア臭が僅かに臭い、今はその臭いですらも、昂奮を高める微香となって、熱を作り出した。
 ねろりと、口の中にあるものを舐める。雁首の辺りをゆっくりと、……亀頭全体を覆うように、唇を締めて竿を擦りながら。
 ゆっくりと頭を上下に動かす度、口の中のそれが徐々に硬さと大きさを増していくのが解る。
 それが嬉しくて、上目遣いで彼を見上げた。
 彼の口元が、楽しげに緩んでいる。それも嬉しくて。
 彼の視線が胸元に向いていることに気付いて、彼女は一度口の中からこわばりを解放する。
 ひくんひくんと震えるそれが、愛おしくて。
 軽く頬擦りしてから、胸の谷間に挟み込んだ。

 ……胎の中に、散々に精を注がれ、彼女はぐったりした身体をそれでも何とか起こした。
 今度こそ、子供が出来て欲しい。その願いを抱いて、自身の下腹部をそっと撫でる。
 愛した人の子供。
 きっと、三人で、幸せに、平和に暮らしていけるはずだから。
 椅子に座った彼の、物憂げな問い掛けに、笑みを返して食事の準備にかかった。


 それから、少し時間が経った。
 彼女は頬を弛めて、産婦人科から出てきた。
 やっと、妊ったのだ。愛し子を授かったのだ。
 涙が出そうなほどの嬉しさに、今日は少し豪華な食事を用意しようと決意して、そんな自分に微笑みが浮かぶ。
 そして、彼が帰ってくる時間。
 ……今日は残業もないし、飲み会もないと言っていた彼が、帰ってこない。
 せっかく用意した食事が冷めていくのが、わびしくて。
 けれど、きっと彼にもなにか急な用事がはいったのだから、しかたないと思って。
 テーブルに突っ伏して、彼女はゆっくりと夢の縁におちていく。
 不意に、肩を揺すられて彼女は目を覚ました。
 どこか不機嫌そうな彼に、慌てて謝りながら身体を起こす。
 彼が普段とは違う食事の用意に、不機嫌そうな声を投げつけてきて。
 子供が出来たのだと、そのお祝いをしたかったと素直に答え……、久しぶりに見た彼の笑顔に、ほっとした気分になる。
 だから、きっと、彼も望んでくれていると、そう思えた。

 産声が上がった。
 体力を使い果たし、汗みどろの顔に、それでも彼女は優しい笑みを浮かべる。
 医師の母子共に健康だと彼に告げる言葉を聞きながら、少し身体を起こす。
 看護婦が笑みを浮かべて、女の子ですよ、と告げながら赤子を差し出してきた。
 やっと出会えた。
 その事が何よりも嬉しくて。顔を真っ赤にして泣き出す赤子を、優しくあやす。
 彼がほっとした表情を向けてくれる。
 それも嬉しくて。
 だから、彼女は、愛する我が子に、愛する娘に、そっと語りかけた。
「覚えていて」
 かすれた声で、それでもしっかりとした意を乗せて、彼女は娘に語り続ける。
「あなたは、愛されて生まれてきたのだと」
 優しくあやしているからか、優しい声音で語っているからか、娘の泣き声が小さくなる。
「あなたは、皆に望まれて生まれてきたのだと」
 職場の部下達も、折に触れては顔を見せて見舞いを持ってきてくれた。
 両親も彼の親も、共に祝ってくれた。
 だから、そう。
 きっと、望まれて、祝福されて、娘は生まれてきたのだと、そう言い切れる。
「ねえ、大きくなったら、何になりたい? なんにでもならせてあげる。どんな道でも作ってあげる」
 とくん、とくんと、腕の中にある小さな鼓動。
 生まれたばかりの我が子が、本当に腕の中にあるのだと、そう言い切れることが嬉しくて。
 きっと、娘は幸せに育ってくれる。自分と彼と娘、きっと幸せな家庭を築いていける。
 そう確信を持って言えることが嬉しくて。
「ねえ、アリシア。あなたは、全てに祝福されて生まれてきたのよ。誰よりも幸せになれるのよ。愛しているわ」
 そう呟いて、プレシアは、アリシアを優しく抱き締めた。


著者:暗愚丸

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