第伍話
第伍話：ノラ、心のむこうに / Nora ��
唐沢JAPANの面々はコンビニに向かっていた。
難易度6★のニッポンチャレンジ制覇の祝勝会をしようという提案がクニからあったからだ。もちろん全員が二つ返事で提案を受け入れ、クニの愛車ビートルに乗り込んだ。
「俺、生ハムチーズ作っちゃうよね」（クニ）
「俺、シャンメリー10本くらい買っちゃうよね」（トモハル）
「エスイーエックス、セックス！！」（ノラガラス）
「あーらーしを、おーこして、ボーインを、ボーインボイン！（※）」（ケーブン）（※嵐の素顔/工藤静香）
祝勝会に向けて全員のテンションが上がっていた。ボルテージは最高潮といったところだ。
「よーし、テンションも上がってきたところでしりとりでもやりますかぁ？」
しりとり……何と楽しげな響きだろう。このクニ提案をトモハル、ノラガラス、ケーブンの三人は当たり前のように快諾。しりとりは提案者のクニからスタートし、続けてノラガラス、トモハル、ケーブンという順番に決まった。
「じゃあ最初は、今日は何試合もしてかなり汗かいたから、汗！」
「セックス！」
「す、かぁ。え〜っと、スラローム飛行のとんぼ！」
「ボイン！」
「ん、かぁ。ん、ん、ん……ん？…ん〜？ケーブン、ん、で終わっちゃったじゃん。ダメだよ〜、ん、で終わっちゃ〜」
「ボイーン(´・ω・`)」
こうして第一回唐沢JAPANしりとり大会は終わった。そして、これ以降、しりとり大会が開催されることは二度となかった。
♪泣かな〜いで〜♪泣かな〜いで〜♪泣かな〜いで〜♪泣かな〜いで〜♪
突如、ビートルの中に名曲「泣かないで/舘ひろし」が鳴り響いた。
「こんな時に仕事の電話か」
そう呟くとクニが携帯電話を開いた。どうやらクニの着信音だったようだ。
「もしもし、クニだ。………………うん、大丈夫だ。で、どうした？……………なにっ、殺し！！で、現場は？……………ふむ、旧美山町のローソンだな。わかった、現場に急行する。」
クニは現職の警察官である。
出ハント事件や見た事件、マイミク拒否事件等々、数々の難事件を解決に導いてきた。そして、その実績と貢献度が高く評価され、ノンキャリアでありながら異例の試験なしでの警部昇任を果たし、現在は福井県警察本部刑事部捜査一課課長補佐として現場を指揮している。明晰な頭脳と高い判断力、そして何よりも熱い情熱で事件に向かう姿勢は上司からの信頼も厚い。また朗らかな人柄と面倒見の良さで人望も厚く、若手からは「クニさん」の愛称で親しまれている。
電話は部下からで、殺人事件が発生したので現場に向かって欲しい、という内容だった。
クニは電話を切ると、三人に申し訳なさそうに切り出した。
「ごめん、殺人事件が起こったみたいなんだ。俺はすぐに現場に行かなきゃいけない。祝勝会やろうって言い出したの俺なのに、本当ごめん。祝勝会は三人でやっててもらえないかな」
間髪入れずトモハルが答える。
「バッキャロー！俺たちは、俺たちは、、、俺たちは4人で唐沢JAPANだろ！クニ抜きで祝勝会なんてできるわけねーだろ！」
「セックスセックス」
「ボインボイン」
トモハルの言葉にノラガラスとケーブンも同調した。
「みんな……みんな、ありがとう。俺はみんなとチームメイトであること、心から嬉しく思うよ。こんなに厚い友情を感じたのは生まれて初めてだ。本当うれしい。じゃあ、今回はみんなの気持ちに甘えさせてもらって、祝勝会は延期ってことにさせてもらうね。そして、どうだろう。俺はみんなとまだ一緒にいたい。こんなに厚い友情で繋がったみんなと離れたくないんだ。だから、みんなで現場に行かないか？」
四人の思いは同じだった。さすがはニッポンチャレンジを制覇したチームである。全員がみんなと離れたくないと思っていた。この意思の疏通こそが「横浜の奇跡」を実現させたと言っても過言ではない。前半終了時点で王国ブラジル相手に2点のビハインド、そして一人少ないという絶望的な状況を乗り越え逆転勝利をおさめることができたのは、世界最高のチームワークがあったからこそ。そして、その世界最高のチームワークこそが唐沢JAPANの最大の武器であった。この時、全員の気持ちが同じだったというのは当たり前のことだったのかもしれない。
みんなの気持ちを確認したクニはビートルを旧美山町へと走らせた。
2006年2月、旧清水町、旧美山町、旧越廼村が編入し新たなスタートを切った福井市は、旧福井市の足羽川以北、足羽川以南、旧美山町エリア、そして海沿いとなる西部の4つのエリアで区分され、4つのエリアはそれぞれ開発区域名として第1新福井市、第2新福井市、第3新福井市、第4新福井市と呼ばれていた。そして第1新福井市は商業エリアとして、第2新福井市は商業・居住エリアとして、第3新福井市は居住エリアとして、第4新福井市は軍事エリアとして主に開発が進められることになった。第4新福井市の開発は福井県との共同業務として行われ、軍事施設を地下に構築し、その上を人口の湖「御堀湖」で覆い、そして「御堀湖」の中央に県庁と市役所を移転するという開発計画が発表された。この開発計画には「自然への冒涜だ！」として「福井の自然を守る会」が大反発し大規模な反対運動を起こしたが、会長の緑川守氏の不審死をきっかけに運動は沈静化していくことになった。
「ここか」
現場は旧美山町・第3新福井市のローソン、つまりビューティーマウンソンだった。
クニ警部が現場に到着した時には既に周辺は野次馬でごった返していた。
「中に入ろう」
そう言ってクニ警部は3人を連れ野次馬を掻き分け店内に入って行った。
「あっ、クニさん、お疲れさまです」
若い刑事がクニ警部に挨拶をしてきた。
「おぅ、青島、お疲れ。で、仏さんはどこだい？」
「あっ、こっちです」
青島というらしい若い刑事に案内されクニ警部と3人はバックヤードの方へと向かった。しかし、ノラガラスだけは「うんこしたい」と言ってトイレに向かった。
「こいつぁ、ひでぇな」
被害者を見るなりクニ警部は思わず呟いていた。
バックヤード横、店内から見ると冷蔵庫の裏のスペースに被害者は横たわったていた。ジュースを補充する時のために儲けられたスペースなのだろう、棚にはジュースの入ったダンボールが並んでいた。床一面が血の海となり、壁面にも被害者のものであろう血しぶきが大量についていた。それを証明するかのように、被害者の体には大小無数の切り刻まれた跡が残されていた。おそらく絶命後も幾度となく犯人は被害者に刃物を向けたはずだ。とても正気とは思えない。そして、さらに犯人が正気と思えない状況が被害者にはあった。
―――被害者には両手首から先が無かったのだ。
「何てことしやがるんでい！」
クニ警部は犯人への怒りを隠そうとしなかった。ちょうどその時、「めっちゃでた〜」と言いながらノラガラスがトイレから戻ってきた。そして、怒りに震えるクニ警部の肩越しに被害者を見て愕然とした。驚きは室内の状況のせいだけではなかった。
ノラガラスは被害者のことを知っていた。
「ニ、ニ、、、ニッシーの友達」
2007年05月14日(月) 11:22:25 Modified by ID:dlMcI4QE1Q