シンイの真意
最終更新：ID:Gt6cMs96FA 2017年06月05日(月) 01:09:23履歴
いつ終わるとも知れない戦い。
次々に変わっていく景色と世界の法則。
長い旅路を経て、ついにここまでやってきた。
幾度となく挫けそうになった。
もう駄目だと、何度も諦めそうになった。
そしてその度に、傍らにいる盟友が勇気づけてくれた。
ついには創世の霊核を手に入れた創造神マデサゴーラを倒し、この世界に平和が訪れたはずだった。
これまでのことを思うと、胸に伝わってくる感慨もひとしおだった。
それは決して楽な道ではなかった。
痛みもあった。 苦悩もあった。
兄をはじめ、あまりにも多くの人の命を失ってしまった。
未熟な自分はその運命から逃げ出し、虚構の世界へと閉じこもることを選びもした。
何一つ守れず、何一つ成しとげることもできず。
そんな自分にはもう勇者の資格などないと。
盟友がこの手を取り、目を覚まさせてくれなければいつまでもあの安寧の日々にいたであろう。
確かに、あそこには温もりがあった。
戻りたい気持ちがまるでない訳でもない。
穏やかな日々の中で、黄金の小麦畑の広がるメルサンディ村で幸せに暮らしていけたかもしれない。
しかし、それは許さなかった。
ある日現れた盟友が、そして記憶を失いながらも、記憶を取り戻すことを選んだ自分自身がだ。
それは安易な逃げだと、きっと自分でも自覚していたのだろう。
そして、アンルシアは勇者として覚醒を果たした。
もうあのメルサンディ村へと戻ることはないのだ。
だが、あの日々が全て無駄だったかと聞かれたら、そうでもない。
兄を守りたいと思い、盟友となる道を選んだ。
そう、初めは憧れだった。 実に子供らしい憧憬。
勇者と盟友の紡ぐ物語に魅せられ、それになろうとした。
勇者トーマと盟友アンルシア、二人でならどんな強敵だろうと倒せると思ってた。
成長するにつれて、周りのことを考える余裕もできてきた。
兄だけじゃない、父も母も守らねばと。
それだけではなく、慕ってくれる城内の人々、初めてできた友達も守りたいと思うようになった。
城下町の人々の暮らしを見て、まだまだ自分の知らない人がたくさんいるということに気付いた。
最初はたった一人。
そして家族。
家族以外の周りの人。
城の中にいるみんな。
お城の外で暮らす人々。
グランゼドーラにいるすべての人々。
少しずつ、アンルシアの世界は広がっていく。
それにつれて、守りたいと思う対象も増えていった。
メルサンディで生きた日々は、アンルシアの守る対象をまた増やした。
勇者でもお姫様でもなく、ただ一人の普通の村娘として生きた日々。
その記憶は今のアンルシアを構成する大切な要素の一つだ。
あの日々があるからこそ、ここまでこれたのだとアンルシアは胸を張って言える。
ミシュアとして生きた日々は何ももたらさなかったなどとは、口が裂けても言えない。
あの日がなければ、アンルシアはきっと悠久の回廊での誘惑に負けて、自分の世界を閉ざしてしまっただろう。
そこに生きる人々の笑顔を思い出すだけで、胸が温かくなるのを感じた。
勇者として、必ず魔王を倒して見せると、アンルシアはまたひとつ思いを深めるのだった。
そしてレンダーシアの人たちを、アストルティアに生きる全ての人々の思いを背負って、アンルシアは勝利したのだ。
そして思った。
自分の勇者としての役目は終わった、と。
これからはきっと、たまにモンスター討伐に赴くことはあっても平和な日々を暮らしていけるんだと。
天馬ファルシオンの背中に乗って風を浴びながら。
勇者アンルシアは何の疑いもなく、そう思っていた。
少なくともその時だけは。
◆ ◆ ◆
「りゅう、おう……？」
出会うなり助力を請うオルテガに、ティアが反応を見せた。
聞けば、竜王なる人物に敗北したオルテガは囚われの姫君を助けるべく、仲間を探しているというのだ。
そして、竜王の方からはこれを使える奴を連れて来い、とロトの剣まで渡された。
「恥を忍んでお頼み申す。どうか手伝ってほしい」
腰を直角に曲げ、深々と頭を下げるオルテガ。
その体にはできて間もない傷が散見される。
一戦交えての敗北、そして敗走なのだろう。
自分の子供とそう変わらないような年齢の集団に大事なことを頼むということ、そこには大なり小なり葛藤があるだろう。
オルテガの事情を慮ったキーファは、オルテガの願いを承諾した。
「それにしても、この剣ってそんなにすごいのか？」
これを使える奴、というからにはこの剣の使い手か、この剣自体が竜王を倒す可能性を秘めているということだろう。
キーファがロトの剣を手に取り、鞘から抜いて刀身を拝もうとする。
だが、まるで鞘と刀身が溶接されているかのように、抜くことはできなかった。
「何っだこれ固ってぇ！」
鼻息を荒くして顔を真っ赤にするまで力んでみるものの、やはり成果は見られない。
酸欠一歩手前になるところまで試してみたが、諦めるしかなかった。
「自分にも抜けなかった。まるで拒絶されているかのようにだ」
そう語るのはオルテガ。
優れた武器は使い手を選ぶというのは、おとぎ話でもよくあることだ。
キーファがレックへとロトの剣を渡すが、やはりレックにも抜けない。
「なるほどね」
自分がそういった武器の使い手だったことおあって、レックの理解は早かった。
抜けないと分かると、すぐさま隣のフォズに手渡す。
いつの間にか、誰がこの剣を抜けるのか、という趣旨にすり替わっていた。
「私もちょっとこれは……」
キーファとレックが抜けないものが自分に抜ける訳がない。
また、そういった血筋とか素質といったものに心当たりもない。
フォズは試すことすらせずに、アンルシアに渡した。
「んっ……！ ……ダメね」
とにかく、この剣がすごいものなのは分かった。
というのがここにいる全員の意見である。
さて、あとはこの剣を使える人物を探すとこから始まる。
アンルシアがオルテガにロトの剣を返そうとしたところ、意外な方向から手が上がった。
「はい！ アンルシアお姉ちゃん私も私も！」
元気いっぱいのティアだった。
この中で最も剣という物体が似つかわしくない人物だ。
「はい、危ないから気を付けてね」
苦笑しながら、アンルシアがティアに剣を渡した。
そうだな、仲間外れはよくないよな。
ティアちゃんもやってみたいよね。
そして剣が抜けないことに腹を立てて、アンルシアやキーファが宥めるのだろう。
そんな微笑ましいやり取りを誰もが予想していた。
「やった！」
だがしかし、大方の予想を裏切り、ティアは剣を抜いてみせたのだ。
歴戦の戦士からダーマの大神官、そして勇者も居並ぶこのメンツの中で、唯一だ。
誰もがこの光景には目を疑わずにはいられない。」
刀身にはルーン文字が刻まれ、何かが描かれている。
しかし、それ以上にこの剣には吸い込まれるような何かがある。
なるほどこの剣は確かに普通のものではなさそうだと、誰もが思った。
「じゃあティアちゃんが、竜王が連れて来いって言ってた人間……？」
半信半疑でレックが口にする。
いやないだろ……と誰もが言いたいところだが、こうして目の前に証拠がある以上反論はできない。
しかも、ティアはこの剣にまるで重量がないかのように片手で振り回してるのだ。
剣に選ばれし者、ということに間違いない。
この剣を装備したティアが、竜王の前に立ち塞がってある姿をオルテガが思い浮かべてる。
やはりアンバランスというか、どうやっても納得できない。
「ふっふーん」
そんな五人を尻目に、ティアは浮かれていた。
「これはね、お兄ちゃんの剣なんだから！」
そしてティアは語る。
自身がロトと呼ばれる勇者の血を引いた末裔であることを。
自分にはトンヌラという兄がいて、その兄の剣としてこれが使われたのだと。
兄に冒険の旅に連れて行ってくれとせがんだが、お前はまだ早いと言われたことを。
竜王も、遠いご先祖様が倒したはずの存在だと。
「だからね、お兄ちゃんならきっと倒せるよ」
そこまで聞いて、ティア以外の五人は胸をなでおろした。
なるほど謎は全て解けたというか、こういうからくりだったのかと。
これでロトの剣を持たせたティアを竜王の前に立たせる、という事態にはならずに済んだのだ。
ティアの兄、トンヌラを探してこの剣を渡せば、問題の半分は解決する。
そう、半分だけは。
「いや、竜王はこうも言っていた。 ワシは気が短いと。
ティア君の兄がどこにいるかも分からぬ以上、悠長に探してる暇はない」
殺人を犯すことを誰憚ることなく公言する魔族を放っておくことなど、オルテガには耐えられない行為なのだ。
しかし、腕に覚えのある自分でさえも歯が立たなかった相手だ。
もう一度挑むことが自殺行為なのは分かっている。
だが、それでも行かずにはいられないのがオルテガという男なのだ。
「その剣のこと、確かに頼んだ。必ず兄君の下へ届けてくれ」
「いや、待てよオルテガさん！」
背を向けるオルテガへ、キーファが声をかけた。
「水臭いこというなよ。俺も手伝うからよ」
「いや、だがしかし……」
「まあ、こういうのは俺も行くべきなんだろうな」
レックもキーファに続いた。
ここでメンバーを分けることをフォズが提案した。
まず、オルテガは竜王追跡へと向かう。
ティアはロトの剣をトンヌラに渡すという目的がある。
そして、戦う力はないので竜王と対峙することは絶対にさせられない。
この二つは大前提だ。
あとはこの二つのメンバーにどういう振り分けをするべきかだ。
話し合った結果、綺麗に男性メンバーと女性メンバーに別れた。
竜王討伐隊はオルテガを筆頭にキーファとレック。
ティア曰く、竜王には真の姿があるとのことなので、三人いるからと無理はしないように。
竜王の強さによっては討伐を諦め、とりあえずミーティアの奪還だけに切り替える。
そして、ロトの剣を届ける役割はティアを守るようにフォズとアンルシア。
同性同士なら色々と気を使わなくても済む場面もあるだろう、とのことでこの振り分けに決まった。
まだ出会ってほんのひととき。
それでも、それなりの仲間意識は芽生えつつある彼らは言葉を交わしていた。
ある者は別行動するパーティーの無事を願い、またある者は必ず生きてまた会おうと、再開を誓い。
それぞれに別れを惜しんで、それぞれの道を歩き始める。
「クロウズ、もしくはシンイという人物について知ってることはないか、竜王に聞いてください」
最後に、アンルシアがオルテガに伝言を頼んだ。
それは、アンルシアが竜王という名を聞いた瞬間に思った疑問なのだから。
◆ ◆ ◆
本当は、私も竜王なる人物に会ってみたかった。
彼が本当に竜族ならば、竜の王と名乗る人物とも関係があるのかもしれないから。
レンダーシアの中央に浮かぶエテーネの島。
そこにあるもっとも高い山の頂上に、光の神殿はあった。
悠久の回廊を潜り抜け、多くの誘惑を払いのけ、ついに大魔王マデサゴーラとの対決が始まった。
だが、大魔王マデサゴーラを倒した直後に訪れたのは安堵ではなく、困惑だった。
創世の霊核があるという奈落の門の向こう側。
そこから多くのドラゴンが出現してきたのだから。
ドラクロン山地の飛竜とは明らかに違う種が、先を争うように奈落の門の奥からアストルティアに出てくる。
奈落の門の上空を、正体不明の竜族で覆い尽くされる。
この門の向こうには一体何があるのか、そもそも創世の霊核とはなんなのか、それを知ることなく門は再び閉ざされた。
クロウズと呼ばれる人物によって。
飄々としており、どこか掴みどころがない人物だった。
それでも、ブレイブストーンや竜笛の件など、幾度に渡ってジャンボや私の助けになってくれたのだ。
感謝こそすれど、疑いの目など向けたことはない。
しかし、彼の口から放たれた言葉はあまりにも衝撃的だった。
すべては大魔王を排除し、安全に門の向こう側へと行くためだと。
今までの協力は、すべてそのためのものだったのだ。
そして彼はついにその正体を現した。
クロウズとはジャンボと同じく、エテーネの村の民。
そして、冥王ネルゲルの襲撃によって命を落とし新たに竜族として生まれ変わった青年。
それがシンイ。
ジャンボと共にテンスの花を手に入れる役目を任された男。
竜族――壁画や文献でのみ、その存在を示唆されていた伝説の種族。
それが何らかの目的を持ち、奈落の門へと行こうとしているのだ。
竜化したクロウズは、奈落の門より現れた竜を全滅させ、自らもまた奈落の門の向こうへと突入していった。
そして、奈落の門に封印を施し、二度とこの門が開くことのないようにしたのだ。
無理な改変を続けられた奈落の門を取り巻く空間が、崩壊を始めた。
これ以上そこに留まることはもう無理だと判断した私たちは、空間を脱出した。
大魔王は倒れた。
それは間違いない。
でも、これですべては終わったのだろうか。
私の疑問は尽きなかった。
グランゼドーラに凱旋し、父アリオス王と母ユリア妃による祝福と抱擁。
勇者の盟友ジャンボへ寄せられた惜しみない称賛。
国中を挙げて行われた夜を徹してのパレード。
少なくとも、その一日だけは浮かれていた。
だが、その後はどうしても判然としない日々が続いた。
ジャンボは、あれから考え込む時間が多くなった。
それも当然だ。
死んだと思っていた友人が生きていて、しかも自分を除け者にして何かをしようとしているのだ。
これに落ち着いていられるわけがない。
クロウズ――シンイの目的が良いことにせよ悪いことにせよ、追いかけたい気持ちでいっぱいのはずだ。
ただ、行き方が分からないため、何もできないでいる日々が続いた。
目的地は分かっている。ただ、そこに辿り着くための船もチケットもないようなものだ。
散々ジャンボに助けられておきながら、何もできない自分が歯痒かった。
また、私は私で他の問題への対処にも追われていた。
レンダーシア大陸を包む魔の瘴気、魔瘴がいつまで経っても晴れないのだ。
冥王ネルゲルによって生み出されしこの特大の魔瘴は、当初ネルゲルさえ倒せば消滅すると思われていた。
少なくとも古より民を守ってきた賢者の集団、叡智の冠の一員である放浪の賢者ホーローの見解ではそうだった。
それが、ネルゲルはおろかマデサゴーラを倒した後でさえ、一向に薄れる気配がないのだ。
魔瘴研究の第一人者、カミハルムイのハネツキ博士の知恵を以てしても原因は不明。
この魔瘴が薄れないことには、レンダーシア大陸と五大陸の交易は正常に復帰しない。
グランドタイタス号などの限られた手段のみになってしまう。
そして、この魔瘴のおかげで存在できている二つのレンダーシア問題。
現状を述べると、魔瘴という器の中に、二つのレンダーシアを無理やり詰め込んでいるようなものだ。
大魔王マデサゴーラが戯れに造りだした偽りのレンダーシアは、今も確と存在しているのだ。
このレンダーシアを包む魔瘴が晴れた時、この矛盾の塊はどうなってしまうのか。
自然に魔瘴が薄れるのを待つよりも、この問題を解決して人為的な手段で魔瘴を晴らすべきではないのか、というのが識者の意見だ。
更に、最近になって出現し始めた六聖陣の存在も疑問に拍車をかけた。
古来より大いなる闇の根源と戦い続けている集団。
闘戦聖母、魔封剣姫、名前こそ明言されているが未だに姿を見せない聖光教主。
六聖陣の内、すでに三人がアストルティアに現れた
彼らもしくは彼女らはアストルティアの冒険者に試練を課し、更なる高みに届かせている。
いったい、何と戦うためなのか、六聖陣はいまだその口から語ることはしない。
今はまだその時ではない、と。
奈落の門の向こうには新たな戦いがあると言ったクロウズ。
未だにレンダーシア大陸を包む魔瘴が維持されている理由への推測。
そして現れ始めた六聖陣の存在。
これらはすべて、ある一つの可能性に集約されている。
即ち――マデサゴーラよりさらに上の存在がいるのではないか、ということだ。
100年後に現れる敵の為に、六聖陣が現代の冒険者を鍛える理由はない。
つまり、六聖陣の語る脅威もすぐそこに迫っている可能性があるのだ。
敵はもうすぐそこまで来ているのかもしれない。
そして、今回の殺し合いもそうだ。
明らかに、私の周りでは何かが起きようとしている。
この胸騒ぎが、何時までも私の中に問いかけてくる。
早急な決断を迫るように、何度となく。
本当に私の役目は終わったの？
答えは今も分からない。
でも、ジャンボなら、きっと答えを教えてくれる。
世界にとっての勇者が私だとしたら、私にとっての勇者が彼なのだから。
【D-7/山地/朝】
【オルテガ＠DQ3】
[状態]：HP3/5 MP消費 打撲痕
[装備]：鋼の剣
[道具]：支給品一式 不明支給品0〜2個
[思考]：竜王退治もしくはミーティアの奪還
※ティアから竜王の真の姿のことを聞いてます。
【キーファ@DQ7】
[状態]：健康
[装備]：はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]：支給品一式 道具1〜2個
[思考]：仲間たちと再会したい。ティアの仲間たちも探してやる。
【レック@DQ6（主人公）】
[状態]：健康
[装備]：
[道具]：支給品一式 道具1〜3個
[思考]：仲間たちとターニアを探すため、荒野を脱出する。
【D-7/荒野/1日目 午前】
【ティア@DQ2（サマルトリアの王女）】
[状態]：健康 挫いた足（治療済）
[装備]：氷柱の杖（残５）@ﾄﾙﾈｺ3 ようせいのくつ@DQ9
[道具]：支給品一式 道具0〜1個 脱いだ靴 ロトの剣
[思考]：兄とその仲間たちを探すため、荒野を脱出する。兄にロトの剣を渡す
【勇者姫アンルシア＠DQ10】
[状態]：健康
[装備]：とつげき丸＠DQ10
[道具]：支給品一式 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]：フォズとティアを守る
彼に会いたい
彼を守りたい
彼の隣に居たい
【フォズ＠DQ7】
[状態]：健康
[装備]：ルーンスタッフ@DQ8 ようせいのうでわ@DQ9
[道具]：支給品一式 不明支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]：仲間を集める。
そのためにトロデーン城へ向かう
次々に変わっていく景色と世界の法則。
長い旅路を経て、ついにここまでやってきた。
幾度となく挫けそうになった。
もう駄目だと、何度も諦めそうになった。
そしてその度に、傍らにいる盟友が勇気づけてくれた。
ついには創世の霊核を手に入れた創造神マデサゴーラを倒し、この世界に平和が訪れたはずだった。
これまでのことを思うと、胸に伝わってくる感慨もひとしおだった。
それは決して楽な道ではなかった。
痛みもあった。 苦悩もあった。
兄をはじめ、あまりにも多くの人の命を失ってしまった。
未熟な自分はその運命から逃げ出し、虚構の世界へと閉じこもることを選びもした。
何一つ守れず、何一つ成しとげることもできず。
そんな自分にはもう勇者の資格などないと。
盟友がこの手を取り、目を覚まさせてくれなければいつまでもあの安寧の日々にいたであろう。
確かに、あそこには温もりがあった。
戻りたい気持ちがまるでない訳でもない。
穏やかな日々の中で、黄金の小麦畑の広がるメルサンディ村で幸せに暮らしていけたかもしれない。
しかし、それは許さなかった。
ある日現れた盟友が、そして記憶を失いながらも、記憶を取り戻すことを選んだ自分自身がだ。
それは安易な逃げだと、きっと自分でも自覚していたのだろう。
そして、アンルシアは勇者として覚醒を果たした。
もうあのメルサンディ村へと戻ることはないのだ。
だが、あの日々が全て無駄だったかと聞かれたら、そうでもない。
兄を守りたいと思い、盟友となる道を選んだ。
そう、初めは憧れだった。 実に子供らしい憧憬。
勇者と盟友の紡ぐ物語に魅せられ、それになろうとした。
勇者トーマと盟友アンルシア、二人でならどんな強敵だろうと倒せると思ってた。
成長するにつれて、周りのことを考える余裕もできてきた。
兄だけじゃない、父も母も守らねばと。
それだけではなく、慕ってくれる城内の人々、初めてできた友達も守りたいと思うようになった。
城下町の人々の暮らしを見て、まだまだ自分の知らない人がたくさんいるということに気付いた。
最初はたった一人。
そして家族。
家族以外の周りの人。
城の中にいるみんな。
お城の外で暮らす人々。
グランゼドーラにいるすべての人々。
少しずつ、アンルシアの世界は広がっていく。
それにつれて、守りたいと思う対象も増えていった。
メルサンディで生きた日々は、アンルシアの守る対象をまた増やした。
勇者でもお姫様でもなく、ただ一人の普通の村娘として生きた日々。
その記憶は今のアンルシアを構成する大切な要素の一つだ。
あの日々があるからこそ、ここまでこれたのだとアンルシアは胸を張って言える。
ミシュアとして生きた日々は何ももたらさなかったなどとは、口が裂けても言えない。
あの日がなければ、アンルシアはきっと悠久の回廊での誘惑に負けて、自分の世界を閉ざしてしまっただろう。
そこに生きる人々の笑顔を思い出すだけで、胸が温かくなるのを感じた。
勇者として、必ず魔王を倒して見せると、アンルシアはまたひとつ思いを深めるのだった。
そしてレンダーシアの人たちを、アストルティアに生きる全ての人々の思いを背負って、アンルシアは勝利したのだ。
そして思った。
自分の勇者としての役目は終わった、と。
これからはきっと、たまにモンスター討伐に赴くことはあっても平和な日々を暮らしていけるんだと。
天馬ファルシオンの背中に乗って風を浴びながら。
勇者アンルシアは何の疑いもなく、そう思っていた。
少なくともその時だけは。
◆ ◆ ◆
「りゅう、おう……？」
出会うなり助力を請うオルテガに、ティアが反応を見せた。
聞けば、竜王なる人物に敗北したオルテガは囚われの姫君を助けるべく、仲間を探しているというのだ。
そして、竜王の方からはこれを使える奴を連れて来い、とロトの剣まで渡された。
「恥を忍んでお頼み申す。どうか手伝ってほしい」
腰を直角に曲げ、深々と頭を下げるオルテガ。
その体にはできて間もない傷が散見される。
一戦交えての敗北、そして敗走なのだろう。
自分の子供とそう変わらないような年齢の集団に大事なことを頼むということ、そこには大なり小なり葛藤があるだろう。
オルテガの事情を慮ったキーファは、オルテガの願いを承諾した。
「それにしても、この剣ってそんなにすごいのか？」
これを使える奴、というからにはこの剣の使い手か、この剣自体が竜王を倒す可能性を秘めているということだろう。
キーファがロトの剣を手に取り、鞘から抜いて刀身を拝もうとする。
だが、まるで鞘と刀身が溶接されているかのように、抜くことはできなかった。
「何っだこれ固ってぇ！」
鼻息を荒くして顔を真っ赤にするまで力んでみるものの、やはり成果は見られない。
酸欠一歩手前になるところまで試してみたが、諦めるしかなかった。
「自分にも抜けなかった。まるで拒絶されているかのようにだ」
そう語るのはオルテガ。
優れた武器は使い手を選ぶというのは、おとぎ話でもよくあることだ。
キーファがレックへとロトの剣を渡すが、やはりレックにも抜けない。
「なるほどね」
自分がそういった武器の使い手だったことおあって、レックの理解は早かった。
抜けないと分かると、すぐさま隣のフォズに手渡す。
いつの間にか、誰がこの剣を抜けるのか、という趣旨にすり替わっていた。
「私もちょっとこれは……」
キーファとレックが抜けないものが自分に抜ける訳がない。
また、そういった血筋とか素質といったものに心当たりもない。
フォズは試すことすらせずに、アンルシアに渡した。
「んっ……！ ……ダメね」
とにかく、この剣がすごいものなのは分かった。
というのがここにいる全員の意見である。
さて、あとはこの剣を使える人物を探すとこから始まる。
アンルシアがオルテガにロトの剣を返そうとしたところ、意外な方向から手が上がった。
「はい！ アンルシアお姉ちゃん私も私も！」
元気いっぱいのティアだった。
この中で最も剣という物体が似つかわしくない人物だ。
「はい、危ないから気を付けてね」
苦笑しながら、アンルシアがティアに剣を渡した。
そうだな、仲間外れはよくないよな。
ティアちゃんもやってみたいよね。
そして剣が抜けないことに腹を立てて、アンルシアやキーファが宥めるのだろう。
そんな微笑ましいやり取りを誰もが予想していた。
「やった！」
だがしかし、大方の予想を裏切り、ティアは剣を抜いてみせたのだ。
歴戦の戦士からダーマの大神官、そして勇者も居並ぶこのメンツの中で、唯一だ。
誰もがこの光景には目を疑わずにはいられない。」
刀身にはルーン文字が刻まれ、何かが描かれている。
しかし、それ以上にこの剣には吸い込まれるような何かがある。
なるほどこの剣は確かに普通のものではなさそうだと、誰もが思った。
「じゃあティアちゃんが、竜王が連れて来いって言ってた人間……？」
半信半疑でレックが口にする。
いやないだろ……と誰もが言いたいところだが、こうして目の前に証拠がある以上反論はできない。
しかも、ティアはこの剣にまるで重量がないかのように片手で振り回してるのだ。
剣に選ばれし者、ということに間違いない。
この剣を装備したティアが、竜王の前に立ち塞がってある姿をオルテガが思い浮かべてる。
やはりアンバランスというか、どうやっても納得できない。
「ふっふーん」
そんな五人を尻目に、ティアは浮かれていた。
「これはね、お兄ちゃんの剣なんだから！」
そしてティアは語る。
自身がロトと呼ばれる勇者の血を引いた末裔であることを。
自分にはトンヌラという兄がいて、その兄の剣としてこれが使われたのだと。
兄に冒険の旅に連れて行ってくれとせがんだが、お前はまだ早いと言われたことを。
竜王も、遠いご先祖様が倒したはずの存在だと。
「だからね、お兄ちゃんならきっと倒せるよ」
そこまで聞いて、ティア以外の五人は胸をなでおろした。
なるほど謎は全て解けたというか、こういうからくりだったのかと。
これでロトの剣を持たせたティアを竜王の前に立たせる、という事態にはならずに済んだのだ。
ティアの兄、トンヌラを探してこの剣を渡せば、問題の半分は解決する。
そう、半分だけは。
「いや、竜王はこうも言っていた。 ワシは気が短いと。
ティア君の兄がどこにいるかも分からぬ以上、悠長に探してる暇はない」
殺人を犯すことを誰憚ることなく公言する魔族を放っておくことなど、オルテガには耐えられない行為なのだ。
しかし、腕に覚えのある自分でさえも歯が立たなかった相手だ。
もう一度挑むことが自殺行為なのは分かっている。
だが、それでも行かずにはいられないのがオルテガという男なのだ。
「その剣のこと、確かに頼んだ。必ず兄君の下へ届けてくれ」
「いや、待てよオルテガさん！」
背を向けるオルテガへ、キーファが声をかけた。
「水臭いこというなよ。俺も手伝うからよ」
「いや、だがしかし……」
「まあ、こういうのは俺も行くべきなんだろうな」
レックもキーファに続いた。
ここでメンバーを分けることをフォズが提案した。
まず、オルテガは竜王追跡へと向かう。
ティアはロトの剣をトンヌラに渡すという目的がある。
そして、戦う力はないので竜王と対峙することは絶対にさせられない。
この二つは大前提だ。
あとはこの二つのメンバーにどういう振り分けをするべきかだ。
話し合った結果、綺麗に男性メンバーと女性メンバーに別れた。
竜王討伐隊はオルテガを筆頭にキーファとレック。
ティア曰く、竜王には真の姿があるとのことなので、三人いるからと無理はしないように。
竜王の強さによっては討伐を諦め、とりあえずミーティアの奪還だけに切り替える。
そして、ロトの剣を届ける役割はティアを守るようにフォズとアンルシア。
同性同士なら色々と気を使わなくても済む場面もあるだろう、とのことでこの振り分けに決まった。
まだ出会ってほんのひととき。
それでも、それなりの仲間意識は芽生えつつある彼らは言葉を交わしていた。
ある者は別行動するパーティーの無事を願い、またある者は必ず生きてまた会おうと、再開を誓い。
それぞれに別れを惜しんで、それぞれの道を歩き始める。
「クロウズ、もしくはシンイという人物について知ってることはないか、竜王に聞いてください」
最後に、アンルシアがオルテガに伝言を頼んだ。
それは、アンルシアが竜王という名を聞いた瞬間に思った疑問なのだから。
◆ ◆ ◆
本当は、私も竜王なる人物に会ってみたかった。
彼が本当に竜族ならば、竜の王と名乗る人物とも関係があるのかもしれないから。
レンダーシアの中央に浮かぶエテーネの島。
そこにあるもっとも高い山の頂上に、光の神殿はあった。
悠久の回廊を潜り抜け、多くの誘惑を払いのけ、ついに大魔王マデサゴーラとの対決が始まった。
だが、大魔王マデサゴーラを倒した直後に訪れたのは安堵ではなく、困惑だった。
創世の霊核があるという奈落の門の向こう側。
そこから多くのドラゴンが出現してきたのだから。
ドラクロン山地の飛竜とは明らかに違う種が、先を争うように奈落の門の奥からアストルティアに出てくる。
奈落の門の上空を、正体不明の竜族で覆い尽くされる。
この門の向こうには一体何があるのか、そもそも創世の霊核とはなんなのか、それを知ることなく門は再び閉ざされた。
クロウズと呼ばれる人物によって。
飄々としており、どこか掴みどころがない人物だった。
それでも、ブレイブストーンや竜笛の件など、幾度に渡ってジャンボや私の助けになってくれたのだ。
感謝こそすれど、疑いの目など向けたことはない。
しかし、彼の口から放たれた言葉はあまりにも衝撃的だった。
すべては大魔王を排除し、安全に門の向こう側へと行くためだと。
今までの協力は、すべてそのためのものだったのだ。
そして彼はついにその正体を現した。
クロウズとはジャンボと同じく、エテーネの村の民。
そして、冥王ネルゲルの襲撃によって命を落とし新たに竜族として生まれ変わった青年。
それがシンイ。
ジャンボと共にテンスの花を手に入れる役目を任された男。
竜族――壁画や文献でのみ、その存在を示唆されていた伝説の種族。
それが何らかの目的を持ち、奈落の門へと行こうとしているのだ。
竜化したクロウズは、奈落の門より現れた竜を全滅させ、自らもまた奈落の門の向こうへと突入していった。
そして、奈落の門に封印を施し、二度とこの門が開くことのないようにしたのだ。
無理な改変を続けられた奈落の門を取り巻く空間が、崩壊を始めた。
これ以上そこに留まることはもう無理だと判断した私たちは、空間を脱出した。
大魔王は倒れた。
それは間違いない。
でも、これですべては終わったのだろうか。
私の疑問は尽きなかった。
グランゼドーラに凱旋し、父アリオス王と母ユリア妃による祝福と抱擁。
勇者の盟友ジャンボへ寄せられた惜しみない称賛。
国中を挙げて行われた夜を徹してのパレード。
少なくとも、その一日だけは浮かれていた。
だが、その後はどうしても判然としない日々が続いた。
ジャンボは、あれから考え込む時間が多くなった。
それも当然だ。
死んだと思っていた友人が生きていて、しかも自分を除け者にして何かをしようとしているのだ。
これに落ち着いていられるわけがない。
クロウズ――シンイの目的が良いことにせよ悪いことにせよ、追いかけたい気持ちでいっぱいのはずだ。
ただ、行き方が分からないため、何もできないでいる日々が続いた。
目的地は分かっている。ただ、そこに辿り着くための船もチケットもないようなものだ。
散々ジャンボに助けられておきながら、何もできない自分が歯痒かった。
また、私は私で他の問題への対処にも追われていた。
レンダーシア大陸を包む魔の瘴気、魔瘴がいつまで経っても晴れないのだ。
冥王ネルゲルによって生み出されしこの特大の魔瘴は、当初ネルゲルさえ倒せば消滅すると思われていた。
少なくとも古より民を守ってきた賢者の集団、叡智の冠の一員である放浪の賢者ホーローの見解ではそうだった。
それが、ネルゲルはおろかマデサゴーラを倒した後でさえ、一向に薄れる気配がないのだ。
魔瘴研究の第一人者、カミハルムイのハネツキ博士の知恵を以てしても原因は不明。
この魔瘴が薄れないことには、レンダーシア大陸と五大陸の交易は正常に復帰しない。
グランドタイタス号などの限られた手段のみになってしまう。
そして、この魔瘴のおかげで存在できている二つのレンダーシア問題。
現状を述べると、魔瘴という器の中に、二つのレンダーシアを無理やり詰め込んでいるようなものだ。
大魔王マデサゴーラが戯れに造りだした偽りのレンダーシアは、今も確と存在しているのだ。
このレンダーシアを包む魔瘴が晴れた時、この矛盾の塊はどうなってしまうのか。
自然に魔瘴が薄れるのを待つよりも、この問題を解決して人為的な手段で魔瘴を晴らすべきではないのか、というのが識者の意見だ。
更に、最近になって出現し始めた六聖陣の存在も疑問に拍車をかけた。
古来より大いなる闇の根源と戦い続けている集団。
闘戦聖母、魔封剣姫、名前こそ明言されているが未だに姿を見せない聖光教主。
六聖陣の内、すでに三人がアストルティアに現れた
彼らもしくは彼女らはアストルティアの冒険者に試練を課し、更なる高みに届かせている。
いったい、何と戦うためなのか、六聖陣はいまだその口から語ることはしない。
今はまだその時ではない、と。
奈落の門の向こうには新たな戦いがあると言ったクロウズ。
未だにレンダーシア大陸を包む魔瘴が維持されている理由への推測。
そして現れ始めた六聖陣の存在。
これらはすべて、ある一つの可能性に集約されている。
即ち――マデサゴーラよりさらに上の存在がいるのではないか、ということだ。
100年後に現れる敵の為に、六聖陣が現代の冒険者を鍛える理由はない。
つまり、六聖陣の語る脅威もすぐそこに迫っている可能性があるのだ。
敵はもうすぐそこまで来ているのかもしれない。
そして、今回の殺し合いもそうだ。
明らかに、私の周りでは何かが起きようとしている。
この胸騒ぎが、何時までも私の中に問いかけてくる。
早急な決断を迫るように、何度となく。
本当に私の役目は終わったの？
答えは今も分からない。
でも、ジャンボなら、きっと答えを教えてくれる。
世界にとっての勇者が私だとしたら、私にとっての勇者が彼なのだから。
【D-7/山地/朝】
【オルテガ＠DQ3】
[状態]：HP3/5 MP消費 打撲痕
[装備]：鋼の剣
[道具]：支給品一式 不明支給品0〜2個
[思考]：竜王退治もしくはミーティアの奪還
※ティアから竜王の真の姿のことを聞いてます。
【キーファ@DQ7】
[状態]：健康
[装備]：はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]：支給品一式 道具1〜2個
[思考]：仲間たちと再会したい。ティアの仲間たちも探してやる。
【レック@DQ6（主人公）】
[状態]：健康
[装備]：
[道具]：支給品一式 道具1〜3個
[思考]：仲間たちとターニアを探すため、荒野を脱出する。
【D-7/荒野/1日目 午前】
【ティア@DQ2（サマルトリアの王女）】
[状態]：健康 挫いた足（治療済）
[装備]：氷柱の杖（残５）@ﾄﾙﾈｺ3 ようせいのくつ@DQ9
[道具]：支給品一式 道具0〜1個 脱いだ靴 ロトの剣
[思考]：兄とその仲間たちを探すため、荒野を脱出する。兄にロトの剣を渡す
【勇者姫アンルシア＠DQ10】
[状態]：健康
[装備]：とつげき丸＠DQ10
[道具]：支給品一式 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]：フォズとティアを守る
彼に会いたい
彼を守りたい
彼の隣に居たい
【フォズ＠DQ7】
[状態]：健康
[装備]：ルーンスタッフ@DQ8 ようせいのうでわ@DQ9
[道具]：支給品一式 不明支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]：仲間を集める。
そのためにトロデーン城へ向かう
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