決別 - ドラゴンクエスト・バトルロワイアルIII

私の人生はずっと我慢の連続だった。
物心ついたときには父親に連れられていて我儘を言えるような旅路ではなかった。
幼馴染らしい少女や生意気な妖精や我儘な王子に振り回され挙句が奴隷生活。
10年の月日がたち脱走に成功するも第二の故郷であったサンタローズは既に滅ぼされていた。
過酷な旅路が始まる。
私は我慢した。
良き人間であれ、と父親パパスや従者のサンチョから教育されていたからだ。
それが正しいことであると信じていた。
友となったヘンリーとラインハットを解放し、父の願いである勇者を探す日々が続く。
その道中で生涯を共にする妻を得、父の故郷グランバニアへとたどり着く。
父が王であったと知り、その子である自分が王位を継承することとなった。

幸せになれる。
その時はそう思った。
正しいことをしていればやはり幸せになれるのだと。

だがその期待は裏切られる。
魔物の襲撃により石となった私の時間は8年もの間静止した。
いや正確には意識は静止しなかった。

それがより地獄だった。

そんな私を解放してくれたのは私の双子の子供たちだった。
息子が天空の勇者であると知り、父の悲願も果たすことができた。
その時は黒く蝕まれた心がわずかに癒されたと思う。
私は再び立ち上がり、残された妻と母の行方を追って子供たちと共に旅を再開した。

母の故郷にて母の行方の手がかりを得、マスタードラゴンと天空城を復活させる。
二年の歳月をかけて忌まわしき大神殿にて妻を解放することができた。

今度こそ何もかもうまくいくのでは……そう淡い期待を抱いた私を誰が責められよう。

母は死んだ。
私の目の前で。

手の届く場所にいながらにして間に合わなかった。

確かに世界は救った。
魔王を倒した。

だがそれがなんだというのか。
私は正しいことをしたのではなかったのか。
妻も子供たちも哀しんでいる。
私を励ましてくれる。

だが……本当に私は正しかったのか。

結論は出た。

私は間違っていたのだ。
今この殺し合いの世界に放り込まれて確信に至った。

結局は力を持つ者が幸せを得るのだ。
魔王ミルドラースはただの力が足りなかっただけ。
あのエビルプリーストと名乗る新たな魔王が行ったこのバトルロワイアル。
力さえあればこのような理不尽をたやすく行えるのだ。

私の求める幸せとはその先にあるのだ。

ならば力を求めよう。
間違いだらけだった今までの自分と決別しよう。
過去の自分を取り巻くその全てと。
心の中に封じられていた黒い闇が解放されたような気がした。

◆

我が名はキングレオ。
ピサロ様の忠実なる僕……だった筈だが今やしがない使いッパシリである。
力こそ全てが我が信条。
だからこそあの忌々しいエビルプリーストにも嫌々ながらも従っているのだ。
ピサロ様もお強いが今のあのエビルプリースト……ああ長い！
あんな奴エビでいい！　エビで！　どうせ奴に聞かれているわけでもない。
声に出さなければいいだろう。
そう、ピサロ様でもあのエビには勝てまい。
バルザックがもたらし、ピサロ様が研究していた進化の秘法の成果を掠め取り力を得たらしいが
そこまでならばまだピサロ様はなんとかされただろうと思う。
だが今のエビは異常だ。
神と嘯いているがそれもあながち的外れではないと思えるほどの圧力を感じている。
力こそ全て。
だからこそヘルバトラーやギガデーモンら我よりも格上の魔物たちも奴に従っている。
心からではないだろうがな。
我も進化の秘法の一端に触れた者としてエビから力を受け取っている。
使える呪文もパワーアップし、全体的に強化されている。
奴の力は本物だ。
どうやって奴があの力を手にしたのか……知ることが出来れば出し抜けるだろうか？
いや奴の箱庭に落とされたことでその機会はないだろう。
このバトルロワイアルという宴が終われば奴は真なる神として覚醒するという。
あんな奴が神になったら人間どもはいいとして魔族の世も終わりだと思うがどうしようもあるまい。
おそらく心から服従してないことに気づいているだろうエビはご丁寧に我らにまで首輪をつけた。
ダミーだと言っていたが信用していない。奴が我を信用していないように。
我は奴に逆らうつもりはもはやない。
力こそ全て。
それが全て。
奴は強く、我はそれよりも弱い。
だから従う。それだけのことだ。
一度は死したこの身だ。
再びの死が訪れようともうどうにでもなれという気分である。
だが……もしこの地でピサロ様と出会ったら我はどうすればいいのだろう。
いや、やはり戦わねばなるまい。
それが膝を屈した者の宿命だ。

我は沈鬱な気分に酔いそうになる。

キングレオ……か。

何が王か。

そう自嘲しながらトボトボと歩いていると前方に人影が見えた。
今の我は人型をしている。王の装束を纏った男の姿だ。
魔物と化す前のキングレオ王子だった我の姿を模したものであるな。
だからそう警戒されることもあるまい。
我はその人影の方へ近づいて行った。
モチベーションは最低であるが、見つけたからには仕事を遂行しないわけにもいくまい。
『契約には誠実に』も生前からの我のモットーである。

近づく人影は二つ。
紫のターバンとマントを纏った旅人風の男と緑の軽鎧を装備した槍をもつ兵士風の男。
我はなるべくさりげなく声をかける。

「お主たち、待たれよ」
「はい、何か？」

ターバンを巻いた男は特に警戒した風もなくこちらに答える。

む？
いかに我が武器持たぬ人型とはいえ無警戒過ぎる気がする。
この状況が解ってないのか、気が触れたか。
隣の兵士は無表情で何を考えているのかサッパリ解らぬ。
だが強者のオーラはとんと感じない。
これは探りを入れるまでもなくとっとと殺してしまっても良かろう。
そう思ったこの時の我を後にぶん殴りたくなったが今はいっても仕方ない。
とにかくこの時我の野生の勘は全く機能していなかった。

「いやなに……大したことではないよ、ただ――ここで死ね」

我は魔獣の本性を現し、四本の腕の爪を2人に向けて繰り出した。
だがそれは途中で止められることになる。
ターバンの男の持つ剣と兵士の肩から突き出したハンマーによって。

「な、何ぃ！」

「ジンガー、殺れ」
「イエス、マスター」

驚愕に動きが止まった我をすまし顔で見ながらターバンが兵士に命令を下す。
すると兵士だった「入れ物」は引き裂かれ、中から機械仕掛けの魔物が姿を現した。
右手には巨大なハンマー。左手には火炎をまとう灼熱の剣。
下腹部は球体となっており、地から離れて浮遊している。
尾と思わしき部分にはボウガンが備わっており矢がこちらを向いていた。
これは伝承にきくキラーマシン！？　
しかもその装備と色から考えてコイツはその上位種……

「キラーマジンガだと！？」

「正解だよ」

男が肯定し、キラーマジンガは怒涛の連撃を我に向かって繰り出してくる。
我は4本の腕でなんとか凌ぐが凄まじい攻撃になんとか距離を取ろうと
至近距離から奴に向かってベギラマを放った。
だがベギラマななんと奴に届く前に光の壁に反射され我を襲ったのだ。

「ぐぉおおおおおおおおおお」

まさかマホカンタを知らぬ間に展開していたとは。
だが思わぬダメージを受けたが反射された呪文の爆圧によって
我の思惑どおり距離をとることができた。
ここから凍気のブレスによって凍らせたあと粉微塵に砕いてくれる！
そう意気込んで起き上がった我を待っていたのは奴の尾から発射されるボウガンの矢であった。

「ぎゃおっ！」

間一髪で回避するが、あと一瞬かわすのが遅れていたら片目を失っていただろう。

横っ跳びで地に伏せた我の首筋に刃が突きつけられる。
生半可な武器で我の皮膚を貫くことはできないが、その刃は異常な怨念の気配を放っていた。
一見して呪われていると解るほどに。
だがこの男の挙動に呪いを受けたようなぎこちなさがなかった。
ただの人間が呪われずにこの剣を扱うことができるのだろうか？

「な、何故呪われずに振るうことが出来る？」
「この剣は破壊の剣。破壊衝動に飲み込まれまいと足掻く人間なら
　呪いに抗うためにその動きを止めざるを得ないでしょう」

男はニッコリと笑う。

「ですがその衝動に身を任せればこの身を縛る呪いなどあってなきがごとし、ということですよ
　さて、チェックメイトですね」

「……そのようだ」

この男は呪いの剣の破壊衝動にその身をゆだねているというのか。
その飄々とした姿の中にどれだけの闇を抱え込んでいるというのか。
キラーマジンガはもうこちらに対して攻撃を仕掛けてきていない。
マスターたるターバンの男が制止しているのだろう。

「我はキングレオ。お主の名をききたい」
「アベル」

我の問いに短く男は……アベルは答えた。
もしも我が油断なく我が全霊を賭けて戦えばもっと良い勝負が出来ていただろう。

「フフ」

今となっては詮無いことだ。
我には力がなかった。戦いに賭ける情熱を失っていた。
だがほんの一瞬だけだが先ほどの戦いでその熱を僅かに取り戻せたように思う。
願わくばもっと感じていたい。

わかっている。敗者にそのような権利はない。
力こそ全て。
我は敗した。
ならば甘んじて受け入れよう。無念も、死も、その全てを。

「殺れ」
「断る」

何？　今こやつは何と言った？

「我を愚弄するか？　それとも嬲るつもりか？」
「どれも違う。キングレオ、私は全ての破壊を望む。その野望に力を貸してくれ」
「我を従えようというのか？」

アベルは笑った。
それは全てを飲み込むような微笑みだった。
知らずその深い闇のような瞳に吸い込まれるように見つめる。

ピサロ様ともまた違う闇のカリスマを感じる。
我のような紛い物ではなく、本物の王が目の前にいた。
そう、感じられた。

エビルプリーストの命令はこのバトルロワイアルを加速させること。
その命令とは矛盾しまい。
そんな言い訳を思い浮かべながら、それが建前でしかないことはすでに自覚していた。

「我に名を授けよ。それにて契約としよう」
「獅子の王よ。これより君はリオウと名乗れ」
「承った」

アベル、いや我が主は我の首に突き付けていた剣を引く。
よく破壊衝動を抑え込めたと思ったが、おそらくそれは違うのだと思い至った。
我を下僕にすること。それを含めて破壊行動と認識しているのだ主様は。
全てを壊すために。

我は立ち上がり、人間形態へと戻った。
ふとキラーマジンガの方を見やると奴もまた兵士への擬態を終えていた。

「貴様はなぜ主さまに従うのだ？」
「ワタシハスベテノこまんどヲりせっとサレタ状態デココヘ転移シタ。
　マスターハワタシニ新タナこまんどヲいんぷっとシテクレタノダ」
「そうか、ならば……今度ともよろしく、な」
「イエス、リオウ。我ガ名ハ、ジンガー。コンゴトモ、ヨロシク」

我は主さまの方を向く。ジンガーもまた同じく。

「さぁ行こうかジンガー、リオウ。過去の全てと決別するために」

そう言って主さまは進む。
振り返ることなく。
我は付き従う。
契約には誠実に。それが生前からの我のモットーなのだ。

【F-5/平原/朝】

　【アベル@DQ5主人公】
　[状態]：健康
　[装備]：破壊の剣
　[道具]：支給品一式　道具0～2個
　[思考]：過去と決別する為に戦う

　【リオウ@DQ4キングレオ】
　[状態]：HP9/10　人型（王様の姿）
　[装備]：なし
　[道具]：支給品一式　道具1～3個（ジョーカー特権でアイテムに優遇措置を受けている可能性があります）
　[思考]：アベルに従う
　※エビルプリーストによってヘルバトラーやギガデーモンに近い位階にまでパワーアップしています。

　【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
　[状態]：オールグリーン　人型（海底宝物庫の兵士風の姿）
　[装備]：灼熱剣エンマ@DQS　メガトンハンマー@DQ8　ビッグボウガン@DQ5
　[道具]：支給品一式
　[思考]：アベルに従う

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