Scissorman in the Rizas

「エビルプリーストか……」

ハーゴンは自分をこの世界へと誘った魔族に思いを馳せる。
プリースト――自分と同じ神官でありながら神への領域へと至った者。
自分には至れなかった高みに立つ者。

「だが小物にしか見えんな」

なんというか、ハーゴンには彼が力を手に入れて
はしゃいでいる子供にしか見えなかった。
奴が神の領域に足を踏み入れたというよりも、
何者かに引き上げられたと考えた方が自然に思える。

「奴が信仰していた神、それが解れば……」

何か手がかりが掴めるかもしれない。
確かあの広間には奴を知る男がいた。名簿を確認するとピサロという名前らしい。

「コヤツならば何かを知っているだろう」

当面の目的をピサロ探しに決定する。
ハーゴンは目的の為に殺しを厭うことはない。
その為なら国でも世界でも滅ぼすことにためらいはない。
しかしここで相手の思惑に乗って殺し合いに乗ることは
得策ではない、とハーゴンは考えていた。

確かに神の如きあの力ならあらゆる願いを叶えることができるかもしれない。
だがあのエビルプリーストがそれをするとはとても信じられなかった。
この殺し合いは奴の愉悦であると同時に何かしらの儀式なのだと推測する。
そしてその儀式が完成し、奴がその目的を果たしたその時――果たして優勝者に奴は頓着するだろうか？
ハーゴンの考えではそれは否だ。
ならばなんとか隙をついてこの儀式を妨害し、脱出するしかない。
そう決めてハーゴンは己に支給された袋の中を漁った。
まずは自分の戦力の確認だ。
あの伝説にうたわれし大魔王ゾーマをあっさりと殺すあの力。
自分も魔法使いとしての腕はかなりのものと自負しているが、到底及ぶべくもない。
そしてゾーマクラスはそうそういないと思うが、それに近い者たちは何人かいるだろう。
もしもそれらと戦闘になった場合のことを考えると強力な武器が欲しい所であった。
まず最初に出てきたのは闇の衣だった。
ゾーマがその身にまとっていた闇の力ではなく、闇色の外套だ。
下手な鎧よりも頑丈な造りになっていて、しかも回避率向上の特殊効果もあるらしい。

「素晴らしい」

ハーゴンはやみのころもをそうびした。

次に手に取ったのは武器だ。
それも大きな鋏。腕に取り付け、持ち手のレバーで鋏の刃を開閉する仕組みらしい。
呪文だけでなく、直接戦闘にも心得のあるハーゴンゆえ何とか扱える。
これで相手の首を挟み込み斬り飛ばすのだろう。彼好みのなかなかエグい武器だった。

「まぁまぁだな」

ハーゴンはおおばさみをそうびした。

.

そして最後に出てきたのは凄まじく歪んだ怒りの形相をした仮面。
目の部分に穴が開いていて視界は一応開けているようだが、とても戦闘向きには思えない。
演劇用かとも思ったが付属していた説明書によると装備すれば
面の加護によって防御力がとてつもなく上昇するらしい。

「ふむ……」

彼は般若の面を装備――しなかった。

何故ならそれに呪いがかかっていそうな気配を感じたからだ。
だがそれと同時に装備としての格を感じているのか、凄みのようなものがあった。
そしてふしぎな魅力も。

自分は誰だ。自分は破壊神シドーを信奉する大神官ハーゴン。

その名は伊達ではなく、呪いには精通している。
ムーンブルグの王女を犬に変化させ、サマルトリアの王子に病をふりかけた。
当然世間一般では遺失呪文扱いの解呪の呪文も習得している。

「例え呪われてしまっても解呪すればいい、な」

生存を主目的とするハーゴンにとって般若の面の力は試さずに放置するには惜し過ぎた。
ハーゴンは知らなかったのだ。その面がもたらす呪いがどういうものか。
彼の知る呪いの装備は動きを阻害するものばかりだったから。

――逡巡していたのは僅かな間だった。

ハーゴンははんにゃのめんをそうびした。

なんとはんにゃのめんはのろわれていた。ハーゴンはのろわれてしまった！

＊

アイラは走っていた。
無人の村の中を駆け抜けていく。
その顔は恐怖に染まっている。

頭の中はパニックそのものだ。
後ろを振り返り、ヤツとの距離を確認する。

姿は見えない。

そのかわりに足音と、金属を擦り付ける音が聞こえてきていた。

しゃきーん、しゃきーん

先ほどよりも足音が近いことを感じとり、アイラは焦った。
平原の街道で出会った異様な風体の男。
黒い外套で全身をすっぽりと覆い隠し、巨大な鋏を手にし、恐ろしい形相の面を被っている。
それが見た目からは想像もつかないほどの健脚で追ってくるのだ。
アイラにも戦闘の心得はある。
いや、仲間とともに魔王を倒し世界を救った経験がある、世界有数の戦闘技巧者である。
しかし彼女に襲い掛かってきたその変質者は生理的嫌悪感を抱かせ、
アイラに即座に逃走を選択させていた。

逃げる途中、沸き上がる恐怖心を抑え込み、振り向きざまに何度か攻撃を仕掛けても見た。
彼女に支給された武器。説明書によるとショットガンというらしい未知の道具。
クロスボウのように構えて矢ではなく鉛玉を散弾で撃つらしい。
この世界に降り立った時すでに何度か試射していたが、
まさかこんなにもすぐ実戦投入する羽目になるとは思いもしなかった。
だがこの武器ならば走りながらの不安定な姿勢でも近づくことなく命中させられる。
そう考え、実行したアイラだったが結果は絶望的なものだった。

このショットガンの威力は森の木をえぐりとるほどの威力を持っていて
無防備なところに当てれば人間ならば簡単に殺せてしまう。
鋼鉄の鎧を着ていればなんとか生き延びることもできようが、その衝撃は大きなダメージとなるだろう。

しかし――アイラの放った銃弾は全てヤツの纏う漆黒のオーラに弾かれてしまった。

あの身にまとう黒い外套の効果なのか、アイラの知らない魔法によるものかは解らない。
だが普通の生物ならば負傷必至の攻撃が全く通じなかったのだ。

これがアイラの恐怖を助長した。
支援職であるスーパースターの職業を極めた自分は絡め手ならば数多の手段を持っている。
だが直接的な攻撃は不得意であった。ショットガンの他の攻撃手段は乏しい。
近づくのは自殺行為と判断できる現状、使用できる特技といえば火柱くらいしかない。
しかし一度試してみたもののあっさりと回避され、その隙をついて距離を縮められてしまった。

みかわし脚を発動して鋏男の鋏攻撃を回避し、隙を付いて突き飛ばして必死に逃げる。

タカの目で近くに村があることを知り、誰かの助けを期待してその村へと逃げ込んだ。
しかしアイラの期待に背き、村は無人であり彼女の助けとなりそうなものはない。
近づいてくる鋏音にアイラは急かされ、村の奥の一番大きな屋敷へと逃げ込んだ。

玄関ホールを走り抜け、階段を駆け上がり、手近な部屋へと駆け込み扉を閉める。
部屋を見回し、クローゼットを見つけるとその中へと身を滑り込ませた。
クローゼットを内側から閉めると完全に中は暗闇となる。

その中でアイラはあの鋏男が自分を見失ってくれることを願った。
静かに、ぎゅっと目を閉じ、息を殺し、心臓の音が外に聴こえやしないかと怯える。

しゃきーん、しゃきーん

しばらくすると、例の鋏音が聞こえてきた。
思わず漏れそうになるうめき声を口を押えて必死に押しとどめる。
心臓が破裂しそうなほどに大音響を奏で、アイラを追い詰める。

ガチャリ

部屋の扉が開かれ、ヤツが中へと侵入してきた。

全身から脂汗が噴き出す。

片手を口に、片手を心臓に。
必至に音を漏らすまいと手を押さえつける。
瞬きの音すら殺すように目をギュッとつぶった。

しばらく鋏音を鳴らしながら、うろうろと部屋内を移動していたようだが
やがて――

ガチャリ

その音でアイラは奴が外に出て行ってくれたのかと思った。
しかし目を開けたアイラの視界には暗闇に射す光とクローゼットを開ける鋏男の――

　アイラに出来ることは絶望の叫びをあげることだけだった。

【I-5/リーザス村アルバート家ゼシカの部屋/朝】
　
【ハーゴン@DQ2】
　[状態]：混乱？　般若の面により防御力超上昇　闇の衣により回避率上昇
　[装備]：般若の面@DQ3　闇の衣@DQ8　大鋏@DQ3
　[道具]：支給品一式
　[思考]：？？？（呪いの影響により方針不明）　
　　　　　正気の時の行動方針
　　　　　1：主催に反抗し、脱出する
　　　　　2：ピサロという男を探す

【アイラ@DQ7　死亡】
【残り76名】

※アイラの道具はその場に放置されています
　（支給品一式　ショットガン　その他道具0～2個）

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