ドラゴンクエスト・バトルロワイアルIII - あなたの一番になりたい
それはまだ、アークたちと出会い旅をする前のこと。
当時武闘家だったあたし、ポーラはウォルロという名の村に身を寄せていました。
といっても村の人と交流を育むことなんてせず、村の近くの森なんかでひたすら修行に明け暮れてたんだけど。
当初はそんなに長く滞在するつもりはなかったけど、大地震による土砂崩れでセントシュタイン方面へ戻る道が塞がれてしまって、予定外に長くとどまることになった。

そうして何日かたって、セントシュタインへの道の開通の目途が経った頃。
いつもの修業から夜遅く帰った私は、一人の少年と出会うこととなった。

(あの人、この前の地震の後この村に流れ着いたっていう…?こんな時間に出歩いて、何してるんだろ)

あたしはなんとなく気になって、彼の後をつけました。
そうして彼がやってきたのは、この村の宿屋を切り盛りする少女、リッカの家。
そういえば、彼女の家に居候していると聞いたような気がする。
しかし彼は、家の中に入ることはせず、家の中を覗き込んでいた幽霊に声をかけ…


(って!ええ!?)


ポーラは目の前の光景に目を見開いた。
あそこに度々幽霊が現れていたのはポーラも知っていた。
しかし彼女は存在を認知しながらもスルーしていたし、村の人々は気づきさえしていなかった。
その幽霊に対して今、目の前の少年は会話をしている。

(信じられない…私と同じ人がいるなんて)

続けて現れたガングロの妖精(?)と話をしている少年を、ポーラは食い入るように見つめていた。
ずっと、孤独だった。
他の人には見えないものを見えてしまう自分は、周りの人々からは奇異の目で見られてしまう。
だからそんな自分の体質を極力隠して生きてきたために、人と深くかかわることも減っていった。
その寂しさを埋めるために、ひたすら身体を鍛え続けて。
きっと自分はこれからもずっと一人で生きていくんだと、そう思っていた。

(でも…あの人なら)

胸が高鳴る。
冷え切っていた心に、暖かく優しい風が流れ込んでくる。
人と触れ合う。友達を作る。
ずっと諦めていたそれを、この人となら。

(叶えることが…できるのかな?)



そうして数日後、ウォルロ村を発ったその人を追いかけて、私はセントシュタインへ向かった。
村にいる間に声をかければよかったのだろうが、生来引っ込み思案で、なおかつ長く人との交流を避けてきた彼女にとって、自分から声をかけるというのはとても勇気のいることだったのだ。
道中には以前には見かけなかった列車みたいなものがあったけど、気に留めなかった。
そして、セントシュタインの酒場にて再び見つけた彼に対して、私は勇気を振り絞って言いました。


「あ、あたしと、友達になってください!」


その後、腕の立つ冒険者を探しているという彼――アークに対し、腕っぷしには自信があるからと同行を申し出て。
そうして私は、初めての友達を作ることができたんだ。

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それからは、毎日が不思議なことの連続で。
アークが実は天使であるという事を知ったり。
せっかく集めた女神の果実を、アークの師匠だという天使イザヤールに奪われたり。
魔物化したガナン帝国と戦ったり。
その帝国の背後にいた、堕天使エルギオスを倒したり。
数えきれないほどの経験を、旅の中ですることとなった。
自分以外にアークについてきたスクルドやコニファーとも、それなりの信頼関係を築くことができて。
辛いことや悲しいこともあったけど、毎日が充実していた。

だけど、そんな日々もやがて終わりを迎えた。
堕天使エルギオスを倒し、女神セレシアが復活して。
天使たちが星となってしまったことで。

世界に天使たちが消えてしまったという事実に対して、仲間達のショックは大きくて。
スクルドは精神を衰弱させてパーティを離脱し、やがてコニファーも別れを告げた。
私はというと、やはりショックで顔に絶望を貼りつけたアークに、付き従っていた。
天使がいなくなってしまったことについては、正直に言えばみんなほどあたしはショックを受けていなかった。
だって、あたしにはアークがいたから。
たとえ天使の力を失ってあたしのように【見える人】じゃなくなったとしても、彼がかけがえのない友達であることに変わりはないから。
彼さえいれば、どこでだって生きていける。
あたしにとっての救世主は、会ったこともない天使なんかじゃなく、アークだったから。
あたしにとっては、天使が星になって以来元気を取り戻してくれないアークのことの方が気がかりだった。

あたしは、アークの笑顔が好きだった。
特別明るいって感じの笑い方じゃなくて、とっても穏やかで優しい笑顔を見せてくれる。
それに、友達の悲しい顔を見るのは、辛い。
だからあたしは、アークの笑顔を取り戻そうと、彼を励まし続けた。
だけど彼は、無理やり作ったような微笑を浮かべるだけで。
笑顔を取り戻せないまま、時は過ぎていった。



そんな日々が続いたある日。
あたしとアークは、かつての旅で出会った少女、オリガの依頼で海の守り神【ぬしさま】を探すことになった。
そうして、以前も訪れたひみつのいわばにて寝ぼけたぬしさまをおとなしくさせた。
これで依頼は達成…と思ってたら、ぬしさまはとんでもないものを置いていった。
女神の果実。
かつてあたし達が探し求めていたものであり、同時に散々迷惑をかけられたもの。
オリガから果実を渡されたアークは、しばらく果実を見つめると。
天使の身体を捨てたあの時のように、黄金に輝くその果実を口にした。
その瞬間。

「やっほ〜!アーク、ポーラ!おっひさ〜!」

見知ったガングロ妖精が、どこからともなく姿を出してきた。

「サンディ!?」

あたしは、思わず叫んだ。
エルギオスを倒して、天使たちが星になった後別れた妖精。
その彼女が、目の前にいるのだ。

「サンディ…!」

隣にいるアークも、目を見開いて驚いた顔をしてました。
しかし、その表情はすぐに喜びのものに変わり…


「ずっと、会いたかった…!」


そう、とびっきりの笑顔で言いました。


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そうして現在。
バトルロワイアルに巻き込まれたポーラは、山を南に下っていた。
険しい山岳地帯なので、結構時間がかかったが、ようやく南の大陸に降り立った。

(あの時のアーク…いい笑顔だったな)

山を下りながらポーラは、ここに連れてくる前の出来事を思い返していた。
あの時のアークの笑顔は、思わず見とれてしまうほどに、今までに見たことがないほどに輝いていた。
アークが笑顔を見せてくれたことはポーラにとっても嬉しい…はずなのだが。

(アークにとって…サンディは、あんな笑顔を見せるほどに大切な存在なんだよね)

あたしには向けられたことがない笑顔。
あたしではどれだけ頑張っても取り戻すことができなかった笑顔。
それをあの子は…サンディは、あっさりと引き出した。

(悔しいな…)

あたしにとってアークは、唯一無二の、一番の友達だ。
だけど、アークにとってあたしは、一番なんかじゃなくて。
それがとてつもなくもどかしいというか、嫌というか、悔しいというか。

自分にとっての一番が、相手にとってもそうであってほしいと願うのは、人として自然なことだ。
その感情の正体が友情なのか、愛情なのかはポーラ本人にもよく分かっていないのだが。
ともかく、だからこそポーラは、あの時のアークの笑顔を思い出すと、辛くなるのだ。
いやがおうにも、サンディへの敗北感と嫉妬に駆られてしまうから。

(あー、やめやめ!こんなことウダウダと考えてる場合じゃない!)

頭をぶんぶんと振って、ポーラは思考を切り替える。
ともかく今は、余計なことは考えずアークを探すことが先決だ。
アークの一番が誰であろうと、彼が自分にとっての大切な友であることに変わりはないのだから。
もしも彼の身に何かあったら…いろんな意味で、自分を抑えられる自信がなかった。

「アーク、無事でいてよね。何があろうとあなたはあたしが…絶対に守るから」

胸に宿る陰鬱とした想いを封じ込め、ポーラは荒野を歩き始めた。

【D-6/荒野/昼】
【ポーラ(バトルマスター♀)@DQ9】
 [状態]:HP3/4、足にダメージ(中)
 [装備]:炎の剣@DQ6
 [道具]:支給品一式、道具0〜2
 [思考]:
基本方針:アークを探す。他人は信じたいが正直信じられない。

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