ドラゴンクエスト・バトルロワイアルIII - とある勇者の始まり
それは今からちょうど10年前の話。

アリアハンという、小さな町の出来事。


その日は町中で、大騒ぎが起こっていた。

「オイ!!誰か助けに行け!!」
「イヤだよ!!なんでオレが行かなきゃなんねえんだ!!」
「誰かがどうにかしねえと、大変なことになるのが、わかんねえのか?」


髭もじゃの男が、空き家の2階から顔を出し、一人の少女を見せつけながら叫ぶ。


「このガキを返してほしけりゃ、今日中に838861ゴールド用意しろ!!」

デフレが進み、一番高い品でも500ゴールドに満たない物価安のアリアハンに、そんな大金があるわけない。


アリアハンは、犯罪件数が異常な程少ない。
虫メガネを使えれば探偵の資格を得ることが出来るのも、犯罪捜査をすること自体がほとんどないからだ。
よって珍しいもの見たさに、町中の群衆が集まってきたのだ。


助けに行きたいのはやまやまだが、私はまだ、8歳の少女だった。

それに私は、8歳にして才能を見出され、『アリンピック強化合宿』へ向かわなければいけなかった。


合宿所へ向かっている途中、一人の女性が私の道を塞いだ。

「どいてください!!急いでいるんです!!」
「ん、グッドなおねーさんの私から言わせるとねえ。今焦るのはあなたのためにならないさね。」
「何を言ってるんですか!!早くいかないと!えぇ!?」


突然、その空き家から凄い音と悲鳴が聞こえ、「何か」大きいものが吹っ飛んできた。
グッドなおねーさん?とやらが止めてくれなかったら、私は下敷きになっていただろう。


何が起こったのかは、すぐ気が付いた。
少女が誘拐犯の男の腕をへし折り、拘束が解けるや否やそのまま私の近くに投げ飛ばしたのだ。

助かった少女のもとに、やじ馬たちがケガはないかと一斉に走っていく。

私よりも幼く、相手は大の大人。
それでも容易に投げ飛ばせたことには、確かな理由がある。



誘拐された少女が、勇者だからだ。


彼女が後の勇者であることを知っているから、そんな大金を吹っ掛けたわけではない。
運命のいたずらか、それが偶々勇者だったというだけのこと。


男がこのようなことになったのは、空き家の二階から足を滑らせたことにされた。

「あの……ありがとうございます。声をかけてくれなかったら………。
本当に助かりました!!『アリアハン検定3級』のこの私に、お礼をさせてください!!」

「嬢ちゃん、誰に話しているのだ?」
その女性はもう消えていた。

でも、その女性がどこへ行ったかよりもっと重要なことがある。

この地面に埋まっている男も、ゴールド欲しさとは言え、愚かなことをしたものだ。



私が近づこうとするも、アスナは群衆に囲まれて、姿を見ることさえなかった。


やがて、アスナの母親が血相変えて走ってくる。


その誘拐事件はそれっきりに終わった。
人の噂も七十五日、というが、多くのアリアハンの住人が初めて見たであろう誘拐事件の話も、3日経たずに噂されなくなった。

しかし、私だけは彼女のことが気になり、合間を縫ってアスナの家に顔を出した。
門前払いかと思いきや、意外とアスナの家族は話をしてくれた。

何度かアスナの母と話をしているうちに、いくつか分かったことがあった。
近所には内緒にしているが、アスナは英雄オルテガの娘で、勇者として世界を救う人物になるという

だが、それに関する問題が出来てしまった。

アスナの母親曰く、娘はあの時のショックで、知らない人を兎に角怖がっている、らしい。
誘拐されたことよりも、自分の力をコントロールできずに、人を傷つけてしまったことにショックを受けている、らしい。
元々内気な性格を治そうと、一人でおつかいに行かせてみたのだが、今回の事件で逆に引っ込み思案が加速してしまったとか。


その後も何度かアスナの家を訪ねてみたが、ついぞアスナに会うことは出来なかった。

そもそも私はあの事件では、ただの野次馬の一人でしかなかった。
誘拐された少女の年が私と近いから、というわけでもない。
誰に頼まれたわけでもないのに、何故か私はやっていた。

思えば、私の様々な資格は、色んな大人が自分の才能を褒めたたえ、努力を強制させたことの結果だ。



取った資格は両手でも数えきれないほどあれど、自分の意思で挙げた成果は、片手で数え切れるほどもない。


結局、アスナの顔を初めて見たのは、10年後。
彼女には初対面であるかのように、自己紹介をした。

当然のことではあるが、アスナは私を知ってはいなかった。



――――――――――――――――そして、10年後。現在


私は、これまでで最大の危機を目の当たりにしていた。

この戦いに巻き込まれてから、自分の予想をもはるかに上回る敵相手に生き延びてきた。
だが、最大の危機とは、今目の前にいる敵の強さだけではない。

自分達の手札が、ほとんど残されていないこと。

アスナのギガデイン
私のグランドネビュラ
使うための魔力は、もう残ってない。
そして、コニファーさんが持っている矢も、底を尽きている。


反面、敵は幾分かダメージを受けている様子だが、戦いに差し支えるほどではなさそうだ。
加えて持っている剣。
それから、とてつもないほどのオーラを感じる。
まさしく、私が読んだ創世記に出てくる、巨大な剣を持ち、邪魔する者全てを葬り去ろうという魔王のようだった。


「逃げるぞ!!おまえら!!オオカミアタック!!」
「何!?」

二頭のオオカミが、魔王に襲い掛かる。

先手を取ったコニファーさんが、すぐに私とアスナを引っ張る形で、城の中へ入っていく。

「とりあえず、第一作戦、成功ってトコか………。」
逃げた先は図書館の内部。

魔王は既にオオカミを斬り裂き、追いかけてきている。


「まだここがゴールじゃねえんだ。もっと奥へ行くぞ!!」
「「はい!!」」

コニファーさんの指示に従って、さらに進む。


私は改めて感心した。
コニファーさんという人間の頭の良さに。

攻める目的、逃げる目的で同じ技でも使い分け、状況が不利なら、有利になるまで逃げる。
加えて私たちは城内の構造をよく知っているが、相手は知らない可能性が高い。

逃げる先は図書館から食堂、食堂から玉座の間へ。


「玉座の間まで逃げるぞ。
そしたらフアナは柱の裏、アスナは玉座の裏に隠れろ。
そしてアイツが攻撃の動作に入ったらフアナ、ヤツに飛び掛かれ。オトリは俺がやる。」
「え!?逆にやられたら……私……。」
突拍子もない作戦に、私は冷や汗をかく。

「大丈夫だ。フアナはオトリのオトリってやつだ。
敵がフアナに意識を向けた瞬間こそ、アスナ、一気に斬りかかれ。」


確かにコニファーさんの作戦は納得のいくものだった。
どんなスポーツでも戦いでも、少ない力で相手を破るなら、カウンター攻撃が一番だ。
そしてオトリや陽動作戦は、戦場において手を変え品を変え、取り入れられている。

だが、私はそれが不安でならなかった。

本当に相手に通用するのか。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

2頭のオオカミが私に襲い掛かる。
初めて見た攻撃に一瞬戸惑うも、すぐに一頭目を斬り裂き、返す刀で二頭目も両断する。
しかし、相手が企んでいたのは、オオカミで自分を倒すことではないようだ。

既に相手は城の中へ逃げていた。
(なるほど、考えましたね……。)

だが、どこへ逃げても無駄だ。
ジゴスラッシュで、城ごと薙ぎ払ってやろう。


懐から剣の秘伝書を取り出そうとしたところ、急に考えを改める。
もしや、奴等の狙いはそれではないだろうか。

ジゴスラッシュを打たせようとして、その隙をついて反撃を仕掛ける。
現に、奴等は一度私のジゴスラッシュを見ている。

ジゴスラッシュに頼るという考え方は、どうやら悪手になりそうだ。


それと、奴等の逃げ方、明らかに思い切りが良い。
恐らく、この城の構造を私よりも知っているだろう。

大方、奴らは残り体力こそ劣っているが、ステージは有利だ。

そう思っているのだろう。


その考えの失敗は、私自身が王だということ。
王にとって、城とは切っても切れない縁にある。


城の外見さえ見れば、王であり、世界中の城を見てきた私にとって、城の中身を見抜くなどどうということはない。

私は同じように図書館から入る、ようなことはせず、正面玄関から入る。
鬼ごっこにわざわざ付き合う必要はない。
入り口は茨が覆っていたが、破壊の剣で扉ごと突き破る。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

コニファーは食堂から、玉座の間へ向かう際に、急にうすら寒いものを感じた。


アベルが追ってくる様子も、ザンクローネを殺したあのギガブレイクのような技を使う素振りもない。

それどころか、まず姿さえも見えないではないか。

自分達が焦りすぎたあまり、振り切ってしまったのかとも思った。
だが、もう遅い。

この食堂は図書館から入ると、玉座の間への道一本しかない。
もう片方の入り口は、茨と瓦礫で封鎖されている。

作戦は変更せずに、このまま先へ進むことにしよう。


「「「!!」」」

三人の目の前で、破壊の剣を持ったアベルが襲い掛かる。

「フアナ!!コニファーさん!!今のうちです!!」
剣が振り下ろされる前に、アスナのゴディアスの剣が、止めに入った。

「どうしました?剣筋が乱れていますよ。」
しかし、その剣は破壊の剣で弾き返される。

「アスナ!!」
「無理だ!!逃げろ!!」

言われた通り、アスナは踵を返してコニファー達の所に逃げる。


アスナとアベルの鍔迫り合いで出来た僅かな時間を利用し、フアナとコニファーは既に玉座の間の後方へ離れていた。


あの体勢から逃れることが出来るなんて、反射神経も、流石勇者だなとコニファーは思う。
だが、そのアスナの体力でさえ、もう限界に近い。

魔英雄との戦いでの消耗が、明確に表れ始めている。

作戦の手順は決まったが、どうやらゴーサインを出すまでの猶予は、あまり残されていない。


玉座の間の奥の通路を走る。
右へ行けば、行き止まりなので、左の2階へ続く道を選択する。

幸いなことに、その先にあるのは螺旋階段。
段差と見晴らしの悪さは、逃走者の方に有利な設計だ。


そのまま2階へ3階へと上に登っていく。

しかし2階は、登ってすぐの通路が瓦礫で塞がれている。
3階には、屋上の出口しかない。

「屋上まで行くぞ。走れるか?」
「「はい!!」」


コニファーは仲間の安否を気遣いながら、作戦を練っていく。
またしても奴は自分を追いかけるのをやめて、先回りしてくるかと推測したが、下から聞こえてくる足音からそうでもないようだ。



アベルより早く屋上へ着き、三人は敵がやってくる瞬間を待つ。
作戦は大体玉座の間の時と変わらない。


コニファーが目の前に出て、アベルの攻撃をしようとした瞬間、アスナが斬りかかる。


魔英雄との戦い、そして1度目の作戦の失敗で、相手に手の内をある程度読まれてしまった。
だが、もう手札が残されていない以上は、ここで手札を切るしかない。

自分を信じろとフアナに言った自分が、ここで仲間を信じられなくてどうするとコニファーは自分に言い聞かせる。


「失敗した時の脱出経路なら任せてください!!
実はあのせくしいぎゃるの本以外に、こんなのも支給されてたんですよ!!」

フアナが得意げに、先端にフックが付いている頑丈そうなロープを見せる。
いざとなれば、ここからこれで中庭まで降りろというわけか。

「だからアレはそんなものじゃねえって……」
コニファーは呆れながらも、フアナの諦めない心に励まされる。


「よし、頼むぜ、アスナ!!」

そろそろ時間だ。
コニファーが屋上の出口の前に構え、アスナとフアナは瓦礫と茨の陰に隠れる。
本当なら、フアナだけでも先に逃げるべきだったが、自分一人で逃げたくはないとそれを拒否する。
いざとなれば、いつでもロープを使って降りろと命令する。


亡き天使であった友に、そして今も酒場を経営している旧友に願をかけ、コニファーは屋上の扉の前に構える。


「随分、手間をかけさせてくれましたね。」
アベルも遅れて、屋上に到着した。

「ああ、でも一つだけ聞きてえ。アンタ、ゲレゲレの主人だろ?なんでこんなことしてんだ?」

「知った所で、どうなりますか?これから死ぬあなた方が。」


アベルは直にコニファーに斬りかかるわけでも、ジゴスラッシュを打つわけでもなかった。


「バギクロス!!」
「なっ………!!」

使ったのは、彼が元いた世界で使っていた最強の魔法


(それはちょっと予想外だったな。だがアスナ、今だ!!今しかねえ!!)

竜巻が飛ばされると同時に、アスナが瓦礫の裏から脚に全力を籠め、カウンターの準備を始める。

斬撃にしろ、バギクロスにしろ、ジゴスラッシュにしろ、攻撃後にはスキが生まれる。

斬撃ならば、コニファーが躱した直後の隙をついて攻撃。
ジゴスラッシュなら、構えに入ってから打たれる前に攻撃。

しかし、斬撃より攻撃範囲が広く、なおかつジゴスラッシュよりラグが短いバギクロスは予想外だった。

コニファーは敵の攻撃手段がジゴスラッシュか斬撃しか考慮に入れておかなかったことを後悔する。

しかし、バギクロスは外れ、明後日の方向に飛んで行った。
ある程度のダメージは覚悟していたが、コニファーは自分の運の良さに感謝するしかなかった。


もう邪魔なものはない。
アスナの動体視力と膂力、腕力ならこの瞬間、コイツを斬り付けることが出来る。
コニファーはそう確信した。






「え!?どうして!?ああああああ!!」

コニファーの後ろから聞こえたのは、フアナの悲鳴。

見れば、フアナが隠れていた辺りの場所に、城の屋根の一部が、落ちてこようとしていた。


((しまった!!))

ようやく気付いた。
アベルのバギクロスはコニファーを狙っていたのではなく、城の屋根を狙ったということ。

その瓦礫で、徒手空拳のレンジャーではなく他の二人を優先して圧死させようとしたのだ。
アスナは既に瓦礫の落下地点からは逃れられていたが、フアナは完全に逃げ遅れた。
「フアナ!!間に合っ……!!」

アスナは方向を変えて、ゴディアスの剣をバットのように振り回して、瓦礫を打ち飛ばす。





「そんな…………。」

小さい礫がフアナの体に降り注ぐが、致命傷にはならない。
しかし、そんなこととは比べ物にならない程、絶望的な光景がフアナの目の前に広がっていた。

アスナが方向を変える隙、そしてフアナを助けるために瓦礫を破壊する隙を、アベルは決して逃さなかった。

「ぐ………あっ………。」

アスナの心臓から、破壊の剣の刃が生えていた。
「これで、終わりですよ。」

残酷にも、剣は引き抜かれる。
勇者と言えども、心臓を貫かれては生きることは出来ない。

出血量から見て、フアナは分かった。何よりも分かりたくなかったが。
自分の魔力ではどうにもならないし、そもそも今は魔法が使えない。

フアナの目の前が、白黒になった。

「ダメ………とど……け……。ラ……い………でい……ん。」

アスナは事切れる瞬間、残された最後の魔力で、ライデインを唱えた。
空から雷が、アベルの邪悪な心を焼き焦がさんとする。

しかし、避雷針となる相手は待ってましたとばかりの得意げな顔を見せた。
アベルは避けるどころか、剣をまっすぐに構えた。




「いいじゃないですか。あなた方もあの勇者の向こうへ行けるのですから。」

剣に落ちた聖なる雷が、真っ黒な地獄の雷へと姿を変える。

(何だよ………アレ……。ふざけんなよ!!)

その瞬間は、聖なる力を持った天使が、人間の絶望に飲み込まれ、堕天使と化したかのように思えた。

――――――斬り裂け、ジゴスラッシュ。

闇を纏った一撃が、二人を呑み込む。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ここは………?

気が付くと、私はよく知らない場所にいた。

それはどこかで見た、どこにもない街だった。

とりあえず辺りを探ってみる。アリアハンの地図を町全体を歩破することで作った私だからやれることだ。

「おーい!!フアナ!!どうしたんだよ!!」
歩き始めてすぐに、目の前に現れたのは、浅黒い肌と、白髪が印象的な少年。

「え!?ホープくん……ですよね?」

思いがけない再会に、私は目を丸くしてホープを見つめる。
「そうだよ。買い物済ませたし、これから宿屋にいるアスナを迎えに行こうとしてるんじゃん。」
「!?」
イマイチ状況が飲み込めず、戸惑う私に、後ろから賢者の男が声をかけた。

「おいおい。何ボンヤリしてんだよ〜。そーゆーのは僕の役目なのに。」

「サヴィオ!?無事だったのですか!?」
ヘルバトラーとの戦い以来の再開だ。

「は!?僕がキミを庇って死んだ?やめてよね。フアナのガラでもないでしょ。」


「ええ〜。フアナ、泣いてるよ。確かにズレてる所あったけど、そんなキャラだっけ?」

ホープも何事もなかったかのように私をからかう。
よかった。もう二度と話せないと思っていたのに、嬉しかった。
我慢できずに、涙がとめどもなくあふれてきた。

もう、絶対に離さない。
アリアハンにいた時は、自分の事はすべて自分で出来ていたと思っていたが、私は寂しがり屋で、どうしようもなく弱い人間だった。

それから宿屋へ行き、アスナの部屋に入る。

「おーい!!アスナ〜。食べ物と武器と防具買って来たよ〜。」

「あ、いつもいつも、ありがとうございます。」
アスナは部屋の隅から私たちの姿を確認すると、ようやく出てくる。

「いやいやいいよ別に。人には人の向き不向きってのあるし。」
それをホープが謙遜する。

「ところでさあ、フアナ。その首輪、何?」
「そ………それは……ですね…。」


昔から、サヴィオは妙なところで勘が働くのだ。

はっきりと覚えている。戦いが始まってからずっとつけられた、生殺与奪を握る装置。
本当は、忘れたふりをしていただけかも。


やっぱりあれは、夢じゃなかったのだ。

いや、ひょっとして今いるこの世界は。

「え!?私、死んじゃったんですか?」
「大丈夫です。フアナ、あなたは生きてますよ。」


アスナは私「は」と言った。
やっぱり、アスナはあの時死んでしまったのだろう。

「でも、私なんかが残っても、出来ることなんかないですよ!!
どうやってあんな恐ろしい人と戦えるんですか!?」

「そんなことない!!フアナは、色んな事が出来た!!わたしよりも、ずっと!!」

アスナがそれを否定する。
彼女は、ただ強かっただけじゃなかった。

私達三人が持っていた弱い部分を、受け入れてくれた。
私達がマイナス思考に陥った時、励ましてくれた。
私達が傷ついた時、敵を倒すより先に傷を癒してくれた。


アスナは、そんな意味でも勇者だったのだ。

「わたし、フアナのこと、昔から知っていた。色んなコンテストで優勝し続ける、凄い人がいたって。」

でも、そんな経歴、この戦いでは通用しなかった。
結局悪戯に仲間を死なせてしまい、挙句の果てにアスナまで犠牲になった。

「そんなの、勇者の力には、足元にも及びませんよ!!」

「力ってのは、強い弱いじゃなくて、どう使うかだと思うな。
盗賊の使い方だって、人の為になるってみんなとの冒険で分かったから。」

ホープが私を元気づけようとする。

「今まではさ、色んな人に言われて色んな事をやってきたんじゃん。
でも、その時間はもう終わり。これからは、自分自身の為に、その力を使ってよ。」

「へえ、サヴィオにしては、良いこと言うね。」
「サヴィオにしては、は余計だ!!」


いつものようなやり取りをしているホープとサヴィオ。
でも、その姿は段々と消えていく。


「分かりました。やるだけやって見せます。」

「やるだけ、じゃダメだよ。いつものフアナらしく、やってやるって言わなきゃ。」

最後にアスナがVサインを送り、消えていく。




「おい!!大丈夫か?」

代わって、聞こえてきたのは、別の人の声。
アスナとは別の方向から、私を励ましてくれた人の声だ。


「コニファーさん!?」
突然視界が、元のトロデーン城に戻る。

どういうわけか、服のあちこちに葉っぱやら雑草が付いている。

よく見ればトロデーン城の中庭に広がっている茂みだった。

「危なかったぜ。さっきあいつがギガブレイクもどきを打つ瞬間、おまえを引っ張ってロープで降りたんだ。
途中であいつがロープを斬りやがったけど、下が茂みで助かったぜ。」

「コニファーさん……。無事でよかったです。」

「そうでもねえな。さっき、不時着した時、足をくじいたらしい。ちょっとキツイかもな。」

よく見ればコニファーさんの脚に、枝が刺さっていた。

「俺のケガなんか心配している暇はねえ。上を見ろ!!」


上を見ると、屋上が一部崩壊している。
さっきターバンの男が放った技のすさまじさを物語っていた。


そしてさらにもう一つ、フアナが驚いたのは。
上からロープも使わずに、落ちてくる男の姿だ。


しかし地面に叩きつけられる瞬間、地面に風の魔法を打ち、衝撃を緩和させる。

風の魔法は自分でも得意としていたが、相手の方が1枚も2枚も上手だった。

「まだ生きていたのですか……いいかげん楽になってくださいよ。」


最早魔力の残っていない僧侶と、片目で、脚を負傷したレンジャー。
敵は未だカードを使いきっていない魔王。

勝てない。
アスナが私を庇わなければ。
五体満足の状態で戦えれば。

そんなことを考える暇もないのに、考えてしまう。


「おらぁ!!」

「何っ!?」
「へへっ、ちょっとだけ格闘スキル、積んどいてよかったぜ。」
魔王が剣を構えた所、コニファーさんが殴り掛かった。
予想外の反撃に、さしもの魔王も怯む。

「何終わったかのような顔してんだ!!『おまえの』逃避行はまだ終わってねえんだよ!!」


そうだった。
私は魔力はないけど、手足も付いてるし、命に関わるほどの傷も負ってない。

この戦いは、負けだ。
惨敗だ。
けれど、私はまだ生きている。

生きて、必ずアスナの仇を打つ。


コニファーさんの支給品を受け取ると、すぐに私は立ちあがり、走り出した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


私はあの女僧侶の気持ちは、よくわかった。
どんなに絶望しても、いや、どんなに絶望してるからこそ、何よりも純粋に希望を追い求めたくなる。
それはかつての私と同じだから。

だからそれを、丁寧にぐちゃぐちゃにしてやろうと思った。
だが、最早何も残されていないはずの狩人が、素手で歯向かってくるとは。


よく見れば狩人は脚を怪我している。
だから狙うのは、五体満足な女僧侶の方だ。

「逃がしませんよ。」

だが、急に狙いを定めていた片手が、急に上がらなくなる。

「オマエの相手はオレだ。それとも、五体満足な相手じゃ、楽しくないのか?」

狩人が地面に散らばっていた、折れた矢を私の腕に突き刺していた。
毒があるらしく、僅かに虚脱感が襲う。

こんなもの、キアリーでどうにでもなる。
だが、三人全員を殺すチャンスはもう失われた。


「邪魔をするなあ!!」
破壊の剣を一振り。

狩人の腹と口から、どっと鮮血が迸る。
立ち上がろうとするが、もう立てる肌の色はしていない。
狩人の男の浅黒い肌からも、その状態が見える。
もう、立って歩けるような状態ではないだろう。


しかし、狩人の顔は、思ったより安らかだった。

「なんだよ……魔王かと思ったら、よく見りゃオレと同じくらいの年じゃねえか。」
「それがどうしました?これからの世界は、若いことも年老いたことも関係ありません。力が全てですよ。」

「まだ、希望とか、あるだろ?好きな人……とか、子供……とかよお。」
「すべて私が捨てた物ですね。」

私は力を手に入れた。
勇者だって殺したし、魔王だって殺した。
この世界の人間もこの戦いを開いた魔物も必ず殺す。

「持ってるモノを託すことが出来ねえ命に、価値なんてねえんだよ。
力なんて、やがて無くなるモノに縋ってどうするんだ。」


捨てようとしたはずの怒りが、戻ってきた。
「愛や友情の方が、すぐに無くなるものだって、なぜ分からない?」

幻想にしか縋れない男の、寝言などはもう聞き飽きた。

刺された矢の毒を治癒する方が先だ。

勇者は殺した。
そして私の世界の勇者はもういない。
勇者の雷も手に入れた。

あとはどこかで生き残っているはずのジンガーを取り戻し、残された人間をせん滅するだけだ。

出血多量だし、回復手段も持ち合わせていないようでは、助からないはずだが、最後に心臓に一太刀入れ、最後の炎を吹き消した。


だが、この満足そうな顔は何故だ。
絶望的な戦いに投じられて、仲間は次々に倒れていき。

あんな無力な女一人残せただけで、満足しているというのか?

服に付いたインクのように消えない疑念は、早く払ってしまおう。
もっと強い色で塗りつぶせば、消えてしまうはずだ。

力への欲求と言う、強い色で。

D-3/トロデーン城入口/2日目 黎明】

【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/10 MP 0
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜1(本人確認済み) かりうどの弓@DQ9 カマエル@DQ9
[思考]:自分だけが出来ることを探す。
:最後まで、生きる
※バーバラの死因を怪しく思っています。


【D-3/トロデーン城外/2日目 黎明】

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/3 手に軽い火傷 MP ほぼ0
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪 支給品一式 アスナの支給品0〜2 サヴィオの支給品一式 道具0〜1個バレットハンマー@DQ10  ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:過去と決別するために戦う 全てを破壊する

※トロデーン城の屋上が一部分崩壊しました。
また茨で覆っている城の正面玄関が開かれています。

【アスナ@DQ3 死亡】
【コニファー@DQ9 死亡】

【残り19人】

Back←
173
→Next
時系列順
174:愛さえも、夢さえも
投下順
166:救い難き英雄録
アベル
174:愛さえも、夢さえも
アスナ
あなたは しにました
フアナ
177:そっちへ行ってたの?
コニファー
あなたは しにました