ドラゴンクエスト・バトルロワイアルIII - 救い難き英雄録
ヘルバトラーの頃の自分を打ち倒したアスナの姿を見つけた魔英雄は、ふてぶてしさなど残っていないどこまでも醜悪な笑みを浮かべている。
獲物を狙う蛇の目。
3対1のこの状況においても危機感を覚えている様子などは一切見受けられない。

「お前ら、気をつけろ!コイツの斬撃は呪文そのものだ!ヘルバトラーが体内から操ってて剣と呪文を同時に撃ってくるんだ!」

アスナとフアナの回復呪文を受けながら、コニファーが見破った情報を簡潔にアスナとフアナに説明する。

「わ、私だって!右手で絵を描きながら左手で字を書けますよ!」

「ヘルバトラー……私が、ちゃんと倒してれば……」

仲間というのは頼もしいものだ。
先程まであれだけ絶望的な状況で、今もなお相手に戦局は傾いているままであるというのに、そこに仲間が居てくれるだけでどんな強敵でも打ち倒せるような気がしてくる。

「よし……行くぞお前ら!俺たちは負けねえ!」

「救いを受け入れぬ…か。いいだろう!」

ザンクローネが剣に呪文を纏う。再び先程の竜巻を起こして一網打尽にするつもりだ。

「させるかよ!」

竜巻を作る時間を稼がせないよう、コニファーが敵に向かって駆け出す。その後に続きアスナもフアナも走る。
射手のコニファーが最前列に立っていることに疑問を覚えながらも、真空斬りでコニファーを狙う。


「守りの霧!」

飛ばされた風の刃はコニファーにも、後続の2人にも届くことなく消え去る。
そしてコニファーは立ち止まり、矢を放つ。ザンクローネは太刀で矢を弾し、さらに左腕に激しい炎を纏わせて接近するアスナに熱波を飛ばす。

「させません!フバーハ!」

超高温の気体がアスナの身体を包み込むも、フアナの呪文によってそのダメージの大部分は防がれる。
そのままザンクローネの眼前に辿り着いたアスナが剣を振るうも、ザンクローネは難なく太刀で弾き返す。
弾き返され着地したアスナに向けて、ザンクローネの左の掌が向けられる。そのまま魔女の呪文による攻撃を行うつもりだ。

しかしそれを見越したコニファーが掌に向けて矢を放ち、呪文の発動を阻止する。
一度に出来る攻撃を撃ち尽くしたザンクローネに向けて、フアナが胸に蹴りを入れようと走り込む。
慌ててザンクローネは胸部を防御し、フアナの蹴りはザンクローネの腕を蹴飛ばすのみに留まり、振り払われてしまった。

(やっぱり弱点は心臓か…)

女僧侶のただの蹴りなど、魔英雄の再生力をもってすれば躱すまでも防御するまでもない一撃。
それをわざわざ腕で受け止める必要があったのは、先ほど一瞬正気に戻ったザンクローネの言っていた通り心臓が弱点であり、心臓に衝撃を与えるのを少しでも防ぐためなのだろうとコニファーは推察する。

「アスナ、フアナ。心臓を狙え。それがアイツの弱点だ」

「は、はい!」

「分かりました!」

そう、これが仲間の頼もしさだ。
それぞれが役割を持って戦うからこそ、安心して自分の役割に専念できる。
そして自分は偵察役として先立って敵と戦っており、2人よりも多くの敵の情報を掴んでいるのだ。
頭より先に体が動くタイプの2人を的確に導けるのは自分しかいない。


「攻め込むぜ……オオカミアタック!」

アスナの剣による強撃や雷呪文。そういった大ダメージを心臓にぶつけ、再生する暇もないように即死させるという方針を定める。
そのために、囮となる弾数を増やせる特技で狙い撃つ。
2匹のオオカミが2つの弧を描き、ザンクローネに飛びかかった。

「霧散しろ!」

太刀をぶん回し、イオナズンを斬撃として撃ち出されてオオカミたちは消し飛ばされた。
辺り一面に爆発が巻き起こり、爆風がトロデーン城の庭を包み込んだ。

「バギ!」

爆風をフアナは真空呪文で払い飛ばす。そうして開けた活路を突っ切ったアスナが斬り掛かる。

「ぐ……!!」

アスナの斬撃は逸れて躱そうとしたザンクローネの心臓を貫くことこそなかったものの、横腹に深い傷を残す。
その隙を逃すことなく、コニファーが追撃のさみだれ撃ちを放つ。
アスナと距離を取ろうとしたザンクローネを妨害するように、移動先を見越して心臓を狙う4本の矢がザンクローネの移動を封じる。

アスナが距離を詰め、今度こそ心臓に向けて刺突を繰り出した。

「おのれ……極氷フリーズブレード!」

しかしザンクローネもやられっぱなしではない。
右手で持った太刀を天に向けて突き上げ、魔女の氷呪文をザンクローネの両手剣の特技に載せた大技で、辺りに氷のフィールドを作り上げアスナの接近を妨害する。

「いいえ、まだです!天なる雷よ!悪を討て!!」

「勇者の雷など……消し去ってくれる!!地獄の雷撃よ!我に宿れ!!」

接近を封じられて呪文による攻撃を試みるアスナと、それを見抜いたザンクローネ。両者がほぼ同時に詠唱を終える。
しかし、それよりも先に―――

「悪しき者よ、沈黙せよ――マホトーン!!」
「なっ……!」

――詠唱を終えていたフアナがザンクローネの呪文を封じ込めた。


「いっけえええ!!ギガデイーーーン!!」

アスナの放った雷が真っ直ぐにザンクローネに伸び、その胸に直撃する。

「ぎああああああ!!!」

ザンクローネのものとも、魔物のものとも、魔女のものとも分からない悲鳴がこだまする。
土埃が舞い上がり、煙まで立ち昇っていて姿はハッキリと見えないが、あの威力の雷を心臓に受けて生きているはずはないだろう。

「はぁ……はぁ……やりました……」

「さっすがアスナです!第2回アリアハン未来予想大会優勝の私にはこのビジョンが見えていましたよ!」

「うっし……誰も……死んでねえな?」

誰もが勝利を喜んでいたその瞬間――――



―――クククッ!勇者の雷、その程度か……

「「「なっ!!」」」

魔英雄ザンクローネの言葉が響き渡り、そしてその次の瞬間、空から"何か"が降り注いだ。

突然の攻撃を受けてコニファーは吹き飛ばされる。隣ではフアナも同じように攻撃を受けていた。

(馬鹿な……あんなのまるで………)

土埃や煙が消え、ようやく見えたザンクローネの姿。
その身体には、真っ黒な羽根が生えていた。
魔女グレイツェルの魔力を発現させて羽根を生やし、身を包むことで先程のギガデインから心臓を守ったのだ。

(「堕天使」じゃ…ねえか…!!)

ザンクローネは倒れたコニファーたちに向けて追撃をぶつけるため、攻撃の姿勢を取る。

しかし、アスナが立ち塞がる。不意をついてコニファーとフアナを吹き飛ばした「フェザースコール」を、アスナだけはオーガシールドで防いでいたのだ。

「やはり……貴様と俺は戦う運命なのだろうな、勇者よ」

「フアナも、コニファーさんも、まもる。そう誓った……だから……手出しは、させない!!」


次の瞬間、弾かれたようにアスナはザンクローネの眼前に飛び込み、オーガシールドを胸に叩きつける。

「ぐ………!」

剣を振りかぶるという動作すら必要としない最速の攻撃に怯むザンクローネと対照的に、アスナは今度こそ剣を引いて追撃の準備をする。

ざくり。
鋭い音がするも、ザンクローネの心臓には届かない。
太刀での防御は咄嗟に出来ないため、左手でアスナの刺突を受けていた。
ザンクローネは背中の羽根を羽ばたかせながら後方へバックし、一旦距離を置こうと試みる。しかし羽根が起こす風圧をものともせず、アスナが再び飛び込んでいく。

アスナは時々、危機的な状況で爆発的な戦闘能力の増加を見せることがあった。
しかし大きな問題がひとつ。
これまでアスナは極度の緊張のせいでその力を制御することが出来なかった。

しかし今のアスナは、仲間を守ることしか考えていない。
引っ込み思案という性格ゆえに抱く、他者に真っ向から立ち向かうことへの恐怖や緊張、そういったものをすっかり忘れている。

よってアスナの爆発的な能力上昇――別の世界では"ゾーン突入"とも呼ばれている現象――を100%コントロールすることが出来ているのである。



「ぐ……痛え………」

フェザースコールを受け、地面に這いつくばることとなったコニファーは何とか起き上がる。
少し離れたところにはフアナも倒れている。
結構な隙を晒したはずだが、アスナが戦ってくれているため敵の追撃が飛んでくることはなかったらしい。

「おいフアナ、大丈夫か――――ん?」

フアナの方へ向かいながら、フアナの支給品袋から何かがはみ出ているのに気付く。

「これは……おい、フアナ!一体どこでこれを……いや、そんなこたぁどうでもいい」

「コニファーさん!それ知ってるんですか?せくしぃぎゃるの本じゃないですよ?」

フアナの怪我はコニファーよりも軽かったらしく、難なく起き上がった。

「これはパラディンの秘伝書って書物だ。俺の世界にあった道具なんだけどよ………最高だ。逆転の星、掴んだかもしれねえぜ」

「ってことは、コニファーさんはそれを使えるんですね!いっちょやっちゃってください!」

フアナの期待の目を横目にコニファーは首を横に振る。

「駄目だ、フアナ。お前がやるんだ」

「え………?私……ですか?」

「俺じゃあアイツを倒せねえ。この技は僧侶が撃つのがいちばん強えんだ」

輝く星雲を炸裂させて敵を撃つパラディンの奥義、グランドネビュラ。
その力の源は癒しの魔力であるため、最も使いこなせるのは僧侶の職に就く者なのである。

フアナは言っていた。
回復呪文の制限されたこの世界において、僧侶は無力な存在だと。
しかしここでは、僧侶であっても――否、僧侶であるからこそ為せる役割がある。
フアナにとっても無力感を払拭する、またとない機会のはずだ。しかし――


「――無理ですよ」

そんなフアナの口から弱い言葉が零れ落ちた。

「そんなの、私には出来ない……ですよ……」

「フア…ナ……?」

コニファーは驚き、フアナの眼を見つめる。

「コニファーさん、その本のこと知ってるんですよね?だったら……」

そしてふと、何かに気付いたようにコニファーは唇を噛んだ。

(そうか、フアナは………)

聖職者でありながら、誰よりも元気に戦場を駆け回っていたこの少女は。

守られてばかりの自分から変わりたいと言ったこの少女は。

みえっぱりで、いつも自分を大きく見せようとしていたこの少女は。

(本当は誰よりも、自分ってモンに自信がねえんだ……)

成功体験―――それだけがフアナが自分を肯定出来る材料であった。
それは時には権力者に化けた魔物から街を救ったことであったり、時には自前の技能を駆使して大会で功績を残したことだったりもした。

「…やっぱり私よりも、コニファーさんの方が向いてるんじゃ……」

だが、そんな鎧はここでは何の意味も成さなかったのだ。
かつて人々を癒し、仲間を救ってきた回復呪文は制限を受けてしまった。
かつて様々な功績を残してきた器用さだけでは到底敵を倒すことは出来なかった。

失敗の連続。
それがフアナに一抹の不安を植え付けてしまっているのだ。


(くっ……)

ザンクローネの再生力を突破するには一瞬の最高火力を放つしかない。自分の放つグランドネビュラでは難しいだろう。
アークの繊細さとポーラの荒々しさを兼ね備えたかのようなアスナの剣技も敵を追い詰めは出来るかもしれないものの、あの圧倒的な再生力の前には突破力に欠ける。

(説得するしかない、か…)

緊張でガチガチになった状態では特技を放つことに集中出来ず、真価を発揮できない。
まずはフアナの緊張を解くほかに敵を倒す手段はないのだ。

「フアナ、簡単な質問をするぜ。お前は何で僧侶になったんだ?」

「えっ…?」

どうして今?とでも言わんばかりにフアナが面食らった顔でコニファーの瞳を見つめた。
もちろんコニファーとて話をする時間は惜しい。
しかし、パラディンの秘伝書とて使いこなせるであろうフアナの実力と、あのザンクローネを相手にも時間をバッチリ稼いでくれるであろうアスナの実力を信じているからこそ、こうするのが最善手だと判断した。

「俺にはさ、惚れた女が居たんだ」

まだキョトンとしているフアナを横目に話を続ける。

「本当は自分が誰よりも冒険に行きたいくせに、冒険者たちのために酒場を開いてるような不器用な女さ。

冒険の中で彼女と同じ職業、盗賊を極めて、そして彼女の仕事を代わってやれるくらい冒険について分かった時、彼女を思うままの冒険に送り出してやりたかったんだ。……そいつが俺の冒険の始まりだった。

ま、途中でもっと強大な使命みたいなもん背負っちまったもんで、職業も変えて冒険の目的もだんだん変わっちまったんだけどよ。

俺が盗賊の職に就いた理由はこんなちっぽけな理由さ。
だけど世界に絶望するような出来事が起こっても、その始まりの記憶は俺を支えてくれた。

じゃあフアナ、お前が僧侶になった理由は何だ?」


「私……は……」

(――隣の村が魔物に襲われたらしいわよ)

(――大変だ!子供が崖から落ちて、怪我を……!)

(――誰か、誰か助けてくれ!)

思い出す。
子供の頃の記憶。
やるせなさや無力感を噛み締めていたあの頃の自分を。

「そう、私は…………救い…たかったんです……苦しんでる人たちを……何も出来ないのが悔しくって……」

コニファーは黙って頷いた。
人の想いがとてつもない力になることを、彼は知っている。

「コニファーさんは、こんな私を信じられるんですか?ズーボーさんも、ゼシカさんも、サヴィオも、私は救えなかったんですよ…?」

「俺が信じてるのは、失敗したお前じゃねえ。成功したお前でもねえ。誰かを救いたい
――そう言ったお前の想いを信じてる。そのためにひたむきに特訓し続けてきた、1人の僧侶のお前を信じてる」

言葉と共に、秘伝書をフアナに投げ渡す。

天使たちが星に変わったあの夜に、完全に途切れてしまった仲間の輪。
あの夜、自分のかける言葉によっては、アークの絶望も払い除けてもう一度やり直せていたのではないか
――――そんな想いが、どこか心の中に燻っていたのだろうか。
この戦いとは関係無しに、何となくフアナには前を向いて欲しいと思った。

「そっか………私にもあったんだ。誰にも譲れない、私だけのものが………。コニファーさん、私……やってみます!」

何かから解き放たれたような気分で、フアナは秘伝書を開く。
今度こそ、仲間を守りたい。
今度こそ、誰かを救いたい。
胸にそれだけ、想いを宿して。


何度も何度もぶつかり合う剣と太刀。
勇者と英雄。本来であれば背を預け合う者同士であってもおかしくない2人がこの場では全力を以て殺し合っている。

「絶対に、まもる!」

片や、仲間を守るために。

「貴様には誰も救えない!」

片や、歪んだ救いをもたらすために。

「たああああああ!!」
「うおおおおおお!!」

両者ともに雄叫びを上げ、正面から剣と太刀が鍔競り合う。

鍔競り合いを制したのは英雄の側であった。
ザンクローネは鍔競り合うアスナを剣ごと振り払い、吹っ飛ばした。
元より、1人の人間の少女に対して3体の魔物やそれに近い存在の集合体が相手である。
さらにはアスナは元々大怪我を負っており、ザンクローネはほとんど無傷であった。勝てないのが当然の相手。
むしろこれだけ食い下がれたのは勇者アスナの実力が規格外であることを充分に示しているとさえ言える。

「焼き落せ――メラガイアー!」

アスナが飛ばされた先の大地を着弾点として、火球が天から地へと落とされる。

しかしアスナもまだ殺されるわけにはいかない。
身体が地面に落ちる瞬間、手で大地を思い切り叩き、それをバネに横に逸れて火球を躱す。

「ククク………俺を圧倒した、闘う者の眼をした時のお前でさえ今の俺には叶わない………失望したぞ、勇者よ」

「はあ…………はあ…………」

命こそ助かったものの、既にアスナの体力は限界に近い。
これ以上1人で戦えば、死んでしまうのは言うまでもない。

「待たせたな、アスナ!」

「ごめんなさい、遅くなりました!」

ただし、このまま1人で戦えばの話だ。彼女には信頼出来る仲間が居るのだ。

「そういえば私、この世界に来てからずっとあなたと戦ってるんですよ。だから……じゃないですけど、あなたは私が倒します」

「虫けらが何人増えたところで同じことだ!今度こそ地獄に送ってやろうぞ!」


ザンクローネはイオナズンの呪文を太刀に纏う。全ての世界のヘルバトラーの可能性が集約した最大級の爆発呪文が込められた太刀が、3人に襲い掛かる。

(アーク。俺は新しい仲間たちを守りたい。だから……手を貸してくれ。この一撃に全てを込めて――――)

「――天使の矢!」

「ぐっ……!」

ザックに残っていたたった1本の毒矢がザンクローネへと飛んでいく。普通の攻撃と威力は変わらないはずのたった1本の矢。それは運命に導かれたように毒をザンクローネの体中に巡らせる。そしてたった一瞬、ザンクローネの動きを止めることに成功した。

「今だ!!行け、フアナ!!」

「おのれ、舐めるな!!」

対してザンクローネは、3人の中心でイオナズンを炸裂されることを諦める。
その代わりにイオナズンの呪文を一点に集中し、そのエネルギーを太刀から撃ち出す。凝縮されたイオナズンがコニファーただ1人に迫る。

「させません!ギガデイン!!」

それを後方のアスナが撃ち返す。
イオナズンとギガデインの応酬――――数時間前にも繰り広げられた光景がトロデーンに再現される。

そして前回はイオナズンが上回ったこれらの衝突は――――

「な……押され……!」

――――仲間を守りたい、そんなアスナの決意が上回った。
イオナズンの魔力は完全に霧散する。

「遥かなる星空よ………仲間を守る、力を――――」

「氷塊よ!我が盾に――――」

ザンクローネはフアナの放つ技に対し、グレイツェルの操る氷呪文で応戦しようと詠唱を始める。
しかし、間に合わない。第14回アリアハン早口言葉大会で優勝したフアナの詠唱速度に追いつくことが出来ない。

「輝け――グランドネビュラ!!」

ザンクローネを輝く星雲が取り囲み、そして炸裂した。


「ぐおおおおおおおおおおオオオオオオオオ!!!!何故だ………完全な肉体を手に入れた俺は……無敵のはず………!」

地獄の闘士が断末魔の叫びを上げる。魔瘴石と結合したザンクローネの心臓に亀裂が入る。

「認めない………こんなの、認めないわ……!」

魔女が断末魔の叫びを上げる。魔女の恨みや呪いを宿したザンクローネの心臓にさらに亀裂が入る。

輝く星雲に包まれて、ザンクローネの心臓が完全に砕けるその直前。
"魔英雄"は最期の足掻きを見せた。斬夜の太刀を地に突き刺す。

「まだだ………終われぬ……魔蝕ビッグバン!」

「なっ……!アイツ、まだ……!」

「ククク………刮目せよ、愚かな英雄の物語の終曲を!貴様らも地獄に道連れだ!!」

その言葉を最後に、魔英雄ザンクローネは命を散らした。
その身体から、死をもたらす魔瘴を散らしながら。

「ちくしょう……これで…終わりだってのか?人間の力は…!」

コニファーの目の前に魔瘴が目の前に迫ってくる。フアナもアスナも逃げるのは難しいだろう。


「ううん、ちがう」

それでも、それでもだ。
守りたい仲間が居る。
死なせたくない仲間が居る。
そしてその想いは、3人ともが同じだ。

「コニファーさん、アスナ。大丈夫です。言いましたよね、私たちは無敵だって」

そうだった。
コニファーは知っているのだ。
独りでは乗り越えられない壁も、仲間が集まれば乗り越えられることがあるということを。
そう、その方法は―――

「ああ……そうだったな」
「わたしも、信じてる」
「手、借りますよ。3人で輪を作るんです!」



―――それは、"超必殺技"。



「「「精霊の守り!!!」」」



3人を魔瘴が包み込むが、それは身体を蝕むことなく消えていく。
ザンクローネの討伐と、仲間の全員生還。それは理想的な形で達成された。

ところで、超必殺技は仲間4人が集まって初めて発動出来る必殺技。
3人しか居ないのに発動出来たのが何故なのかは分からない。
しかし、元の世界ではパラディンの秘伝書を使いこなすようになる過程で、アークに1匹の精霊が取り憑いていたのをコニファーは思い出した。
もしかしたらその精霊が、この世界でも秘伝書を扱うフアナを見守ってくれていたのだろうか。
まあその精霊の名前すら、姿を見れなかったコニファーは忘れてしまったのだが。



「終わった……な」

「終わり…ましたね」

「つかれました……」

魔瘴が消え、精霊の守りも消え、全員がその場に座り込む。
今まででいちばんの強敵を倒した達成感から、今すぐにでもふかふかのベッドで横になりたい気分だ。

まだ殺し合いは終わっていない。
だけど今は、今だけは。
守り抜いた仲間たちと、掴み取った一時の平和を噛み締めていたい。


なあ。お願いだ。
この生きているって感覚を、もう少し――――。



「お疲れ様でした、皆さん」



―――そんな感慨の中。
ふと、前方を見ると。



「――――そして、さようなら」

「「「なっ……!!」」」


ドス黒い雷を纏った"死"が迫ってきていた。


「ジゴ……スラッシュ!!」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ずっと一網打尽に出来る隙を伺っていた。
勇者の雷の使い手がもう1人居るのを見ても心を乱されることなく、僧侶と思われる女が強力な爆発を引き起こしても冷静に。
まさかザンクローネ(名簿とは微妙に姿が異なるようだが)が負けるとは思っていなかったが、そこですぐさま飛び込まなかったおかげで魔瘴とかいうものを被弾することもなくやり過ごすことが出来た。
ザンクローネを仲間に引き込む計画は失敗のようだが、3人もの参加者を死ぬ寸前まで追い詰めてくれたのでそれで充分だ。

やはり冷静に立ち回れるようになってからは調子が良い。
魔王アベルは、ニッコリと微笑んだ。
今こそ、全てに破壊を――――

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


今度こそ終わった。
隙を突かれ、対抗する術も持たなかったアスナ、フアナ、コニファーの3人はそう感じた。



剣に纏われた雷が命を焼く鋭い音がトロデーンに鳴り響く。


「……?」


しかし、その雷はアスナには届かなかった。
アスナは立ち上がり、おそるおそる前を見る。

そして、その雷はフアナにも届かなかった。
フアナは立ち上がり、おそるおそる前を見る。



「悪…かったな……お前ら……」

掠れた声が聞こえた。



「お、お前は……」

何とその雷は、最も前方にいたコニファーにさえ届いていなかった。

3人の前に、ひとつの影が立ち塞がっていたのだ。


「お前は………ザンクローネ!!」


その影は、ついさっきまで3人と戦っていた男、ザンクローネ。
しかしその身体からは、全身を包む黒いオーラも醜悪な笑みも消え、代わりに紅い鎧を身に纏い、ふてぶてしく笑っていた。

「俺は、いつでも、駆け付ける………お前らの声が、枯れない限り、な………」

そもそも、ザンクローネが生きる活力は"願い"である。
心臓を失ったからといって生命活動が即座に停止することはない。

「だが、すまねえ…。どうやら、俺は、ここまで…みてえだ…」

それでも心臓を失ったダメージは決して小さいものではなく、その上さらに魔王のジゴスラッシュまでもをその一身に受けたのだ。とっくに身体の限界など超えている。

「ちっ………余計なことを………!死ね!!」

アベルが横薙ぎにザンクローネの身体を引き裂く。

「くっ……くくくく……」

英雄はふてぶてしく笑いながら崩れ落ちる。

魔英雄ザンクローネのヘルバトラーとグレイツェルの意識は、周囲の者たちを視覚ではなく魔力で感知していたため、アベルの存在にコニファーたちと戦っている時からずっと気付いていた。
魔英雄は自分に牙を向くことが無かったため無視していたのだが、ヘルバトラーやグレイツェルの思念が消えたことで守るべき対象が変わったのだ。

(どうやら……間に合ったみてえだな……)

闇に堕ち、正義を志す者たちを襲うことになったのは本当に残念だ。
それでも、命を奪うことなくギリギリで"救う"ことが出来た。

(ありがとう……俺を"救って"くれて………)

魔英雄ではなく英雄として散れたこと。
それだけが、ザンクローネにとっての"救い"であった。


「ザンクローネ…お前はやっぱり英雄だったぜ……」

「か、彼はどうして助けてくれたんでしょうね?コニファーさんには分かるんですか?」

「何にしても……あの人に救われた命、無駄にはしたくない…です…」

魔英雄ザンクローネとの戦いは、3人の内の誰も死なないまま乗り切ることが出来た。

「命拾いしたようですが、結果は変わりません。……………すぐに皆殺しにして差し上げますよ」

しかしトロデーン城の戦いはまだまだ終わらない。
光が死なないとしても、闇もまた死なないものなのだ。



【D-3/トロデーン城外/2日目 黎明】

【フアナ(女僧侶)@DQ3】
[状態]:HP1/10 MP 0
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 パラディンの秘伝書 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:自分だけが出来ることを探す。
:コニファーとアスナを守る
※バーバラの死因を怪しく思っています。

【アスナ(女勇者)@DQ3】
[状態]:HP1/12 MP1/20
性格「ひっこみじあん」
助骨骨折、内臓一部損傷
[装備]:ゴディアスの剣@DQ7  オーガシールド@DQ5
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)  サヴィオの支給品一式 道具0〜1個バレットハンマー@DQ10  ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:エビルプリーストを倒す。
:ひっこみじあんを克服したい。
[備考]:不明支給品の中に性格を変える効果を持った本や装飾品は入ってません。
トロデーン城の地理を把握しています。

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]HP1/20 MP1/20 片目喪失  ピサロへの疑惑 攻撃力・防御力・ブレス耐性上昇
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢0本 
[道具]支給品一式 カマエル
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。仲間を探す。
[備考]:

【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/3 手に軽い火傷 MP1/10
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪
[思考]:過去と決別するために戦う 全てを破壊する

【ヘルバトラー@JOKER 死亡】
【ザンクローネ@DQ10 死亡】
【残り23人】


※次の放送でヘルバトラーの名前は呼ばれません。
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時系列順
168:その声は届かない
投下順
167:希望を求めて
アベル
173:とある勇者の始まり
アスナ
フアナ
コニファー
ザンクローネ
あなたは しにました
ヘルバトラー