乙女の取った行動は、生暖かく溶解させるような愛ではない。
それはあまりに激しく、脆く、血と痛みを伴う恐ろしいものであったが、それほどに痛烈な「恋」に突き動かされたものであった。
―――それは、今のセイバーも同じだった。汚染に塗り潰されて尚も胸に響く、ただ彼を想うばかりの恋の痛み。
故に、セイバーは自身と彼女が悲劇で別れた乙女と騎士ではなく、同じ恋の葛藤を抱いた乙女同士なのだと気付いた。
ならばこれは、愛に打ち勝つ乙女の恋の戦いだったのだろう。
どれだけ霊基が変質しても、原初へと溶けていっても。愛が恋を穢すことは叶わなかった。
そして、視点は現実に戻る。自身を殺し、その先に進むために、犠牲を払い戦いを挑む典河を目前にして、
セイバーは泥に冒された自分自身に抵抗しながら、まるで自ら敗北を望むように自滅的な行動を選んでいく。
神罰の攻撃は呪いと見做され、ただ彼の内臓を植物が裂くばかり。異常な強度を得た霊基よりも、選定の剣が先に折れ、
それを契機として彼の内より新たな剣が生まれる。対して結界を解いたセイバーは金糸の剣を抜き、互いに刃を交える。
そして――――――
セイバーを殺す
「―――――――――」
「―――泣かないで」
「あなたは、立派だ――――――」
そう、既にどうにもならないのだから。
あなたが先に進むには、私を殺すしかないのだから。
だから、私の胸に刃を突き立てて。
あなたの胸に、傷を刻み付けて。
あなたが私を、永遠に忘れないように。
セイバーを殺さない
「…………何故、躊躇ったんだ。テンカ」
「………………」
「………あぁ。私も――――――」
私も、あなたを愛している。
やがて世界は終わる。―――だけど、あなたを愛に奪わせはしない。
あなたの冷たい体を抱き締める。たとえ全てが溶け崩れても、たとえ世界が終わっても、絶対に離さない。
いつまでも、
どこまでも、
私はあなたを、永遠に忘れない。