アブラハム三宗教に伝わる、神に仇なして滅ぼされる蛮族。あるいは、ヨーロッパの伝説に登場する、この蛮族の名を冠した巨人。
ユダヤ教では、旧約聖書エゼキエル書に、周辺諸国の兵を束ねてイスラエルに攻め込もうとするも神の降した災厄によって全滅させられるマゴグの地の王ゴグとして記され、
キリスト教では、ヨハネの黙示録に、サタンに惑わされて千年王国を包囲するが天からの火に焼き尽くされるまつろわぬ諸国の民ゴグとマゴグとして登場する。
イスラム教では、大地の敵、人食いの蛮族ヤージュージュとマージュージュとして登場し、ズルカルナイン(双角王、イスカンダルのこととされる)と、彼に救いを求めた現地民によって築かれた防壁で封じられるが、この壁は終末の訪れと共に崩壊することが約束されている。
終末に際しては、ついに防壁から解放されて偽救世主ダッジャールの兵となり、再臨したイーサー(イエス・キリスト)と信徒たちを大軍勢で包囲して苦しめるが、アッラーが遣わした虫に首を抉られて一夜のうちに全滅させられる。
また、書物によっては、偶像崇拝者の地獄ジャヒーム(火の竈地獄)が、ヤージュージュとマージュージュの領域として記されることもある。
巨人としては、ブリタニア列王史にてはアルビオン島(後のブリテン)に住まう巨人の長ゴグマゴグ(あるいはゴーモト)として登場し、トロイのブルータス(
アイネイアスの曾孫)率いる植民団と戦うが配下は全員返り討ちにあい、ゴグマゴグ自身も副将軍コリネウスとの一騎討ちに敗れて絶命する。
一方でロンドンの伝承では、ローマ皇帝ディオクレティアヌスの流罪になった娘と悪魔の間にできた30体の巨人のうちの双子ゴグとマゴグとして記され、コリネウスに破れた後も捕虜となって生存し、長くロンドンの守護者を務めたとされる。
また、フランソワ・ラブレーの『ガルガンチュワとパンタグリュエル』ではアルチュス王(アーサー王)に敵対する巨人ゴーとマゴーとして登場し、王の臣下となった主人公巨人ガルガンチュワに打倒されている。
まったくの余談ながら、ガルガンチュワは、魔術師メルラン(マーリン)が牡鯨の骨とランスロ(ランスロット)の血から創った雄巨人と牝鯨の骨とジュニエーヴル(グィネヴィア)の爪屑から創った雌巨人の間の息子である。
型月的には、巨人というより巨大ホムンクルスといった感じか。
エゼキエル書におけるマゴグのゴグ、黙示録における諸国の民ゴグとマゴグ、コーランにおけるヤージュージュとマージュージュ、これらすべてがそれぞれ史実上の様々な民族として仮託されており、実際にどれが正しいゴグマゴグであるかは判然としない。
結局のところ、汝はゴグマゴグと呼ばれて断罪された者たち全てがゴグマゴグであるのかもしれない。