枢木楡が召喚した弓兵のサーヴァント。狩人トリストラム。
召喚時は狩衣を、以後は≪TSUCHIKA≫で入手したらしい黒のブラウスに朱色のジャケットを好んで着用する。ボトムはパンツスタイル。
防御力に乏しい装備であるが彼女は軽々と攻撃を避け、鎧や近接兵装の類を身に着けることはない。
ちなみに昼間は趣味でアクセサリーなどの小物を自作している。良い値で売れているようだ。
※オフの姿
- 枢木楡
- マスター。不格好な女。
円卓の席を蹴ったことを主張するトリストラムに対して、それを鼻で笑うような態度から仲が良くない。
戦闘中はともかく、非戦闘時は楡の言うことにつっけんどんな態度で返し、彼女の意向を無視して勝手に話を進めることもある。
ついでに生活面では、効率主義が行き過ぎて衣食住に華がないことを地味ながら深く不満に感じている。拠点を穴熊の巣に改造するのはやめろ。
彼女の望みに対しても良い感情は抱いていない。というより、過去に縛られて苦しみ藻掻いている彼女の姿が透けて見えるところがあり、
楡がその目標に執着する度に、その在り方が不格好であると強い不快を感じている。
しかし、それを表立って否定することや反抗することはなく、戦闘時は自己判断を交えつつも彼女のサーヴァントとして振る舞う。
妖精眼は、ヒトが内に秘める感情の色を見せる。
トリストラムから見た枢木楡という人物の色は、不満と怒りを煮詰めたような黒々しい色合いで、
喜びも楽しみも一切無く、あまり見ていられるものではなかった。
そんなマスターの色に変化が訪れたのは、楡が水無月サクヤと戦い終えた後。
負の感情で塗り固められた彼女の色に、微かに綻びが見えるようになった。
サクヤや彼のセイバーと話をしている時、その時間が楡の心の奥にある何かを解きほぐし、プラスに向かわせているように感じられた。
自分には不可能だっただろう。感情の色が見えたところで、それを改善はできなかったし、しようとも思わなかった。
言葉が零れる。なんの感慨もなく。
「ああ、セイバー。いっそ貴女がマスターのサーヴァントなら良かったのだけれど」
暗い工房に少女が1人。
何かを捏ねくり回す、一心不乱にその作業に集中する。微かに光が灯る。
出来上がった何かをうんと背の高い大人に見せる。そして、
成果物は叩き落とされて、床に散らばった。
また失敗だ。これで何度目だ。何故求めた通りに仕上げられない。掃除をしろ。やり直せ。
一通り言い終わって、大きく咳き込んだ大人が踵を返す。
ごめんなさい。お父様。頑張ります。ごめんなさい。片付けます。やり直します。
一通り言い零して、涙を溢れさせた少女が床を這う。
ずっとこのリプレイを繰り返す。
数えるのは途中から辞めた。ただ、大人と少女が同じ動作を繰り返して―――細かな変化まで見る気にもなれなかった。
どうせ内容はずっと同じ。過大な要求を突きつけられて、懸命に努力して、けれどもさらに釣り上げられた目標には届かない。
懸命に、懸命に懸命に懸命に。それだけを行う機械になった少女に重苦しい声が染み込んでいく。
正しく呪いだ。故も知らぬ執念が少女を融かして、鋳型に流し込んで、一方的に満足のいく造形に加工されていく。
呪いを放つ大人もまた、執念を浪費するほどに寿命が擦り減る。やがて消えゆくことを知ってるのか、更なる呪いを吐き出していく。
して、この悪趣味な映画はいつまで続くのやら。
チャンネルを切り替えれば、何も感じることはない。たとえ眼前にどんな地獄が広がっていようと。
やめろ。この外道が。この子が何をした。何故肉親がこのような仕打ちをできる。
そんな風に意味もなく喚き散らすこともない。
ただ―――長かった。呪いが尽きた大人が息を止めるまでの幾億秒。退屈なほど、最低な光景だった。
ああ、終わった終わった。
エンドロールに目もくれず立ち上がる。早く帰ろう、すぐに忘れた方がいい。
そうしたかったのだけれど。
幕が降りない。
誰もいなくなった暗い工房に少女が1人。
何かを捏ねくり回す、一心不乱にその作業に集中する。微かに光が灯る。
出来上がった何かをじっと見つめて、
床に落とした。
―――心の底から、うんざりした顔をスクリーンに向けていたと思う。
どうせ気が触れたのだろう。そんなことどうでもいい。いい加減に終わらせろ。
チャンネルを戻す。
客席を乗り越えて、スクリーンの奥に手を伸ばして、すぐに肉体の知覚は工房の中に戻った。
少女は何も変わらなかった。
身の丈に合わない何かに手をつけて、失敗して、既にいない大人に泣きながら謝っている。
もうやめろ。
ただ、それだけの光景。その退屈な描写がいやに癪に触る。
あんな人間に何故謝る。痛みを憎めばいい、死を喜べばいい。お前はどうしていつまでも嘆いている。
自制も聞かず、勝手に動いた喉が少女を罵る。
そんな生き方の先に何がある。こんな重荷を背負ってなんのためになる。貴女は―――
―――だって、まだ何も応えられていないから。
――――――。
白紙に帰った。私と少女だけがいて、まっすぐに私を見つめ返していた。
言葉が出ない。
息が詰まる。
憎悪の欠片もなく、ただやさしい色だけが一つ。
最初から、全て知っていたんだ。
その努力に報いるものが無いと知っていた。褒めてくれる者がいないと知っていた。認められるモノはないと知っていたんだ。
ただ、それでも優しいから、本当に、ただ底抜けに優しかったから。全部背負って歩き続けた。
こんなに傷だらけなのに、こんなに涙で濡れているのに。
ああ、だからか。
だから私は―――貴女のことが、嫌いなのよ。
知っている。
どうしようもない荷物を背負って、誰に縋ることもなく、何を求めることもなく歩み続けた人のことを。
忘れるはずがない。だって私は、それを直視できずに逃げ出した女なのだから。
光が目に滲む。もう見たくない。あなたの進む様はどこまでも愚かで痛々しい。
けれど、
けれど、目を逸らしたら、私はまた―――
「―――マスター」
「なんでもないわ。少し、夢を見ていただけ」
「少し……いえ、すぐに動けます。それだけ」
「そう」
「別に。貴女の評価なんて聞いても何も嬉しくないわ」
「私はいつも通り、ただ狩るべき獲物を仕留めるだけ。貴女が望むならば、どのような相手でも射抜きましょう」
- サクヤのセイバー
- 8人目の参加者が召喚したイレギュラー。あり得ざる剣を手にした騎士。
召喚直後に接敵したものの、その異質な印象に僅かに戸惑っていた。
身体的特徴から、彼女が生前の知人、アーサー王の騎士の1人グリフレットであることは目星がついていたが、
彼女自身と彼女が持つ得物、見えない剣が頭の中で結びつかず、本当にグリフレット本人なのかは長らく保留としていた。
確信が持てたのは、そもそも彼女が見えない剣、聖剣と共にある存在であると知った後になる。
彼女個人については少し腰の据わりが足りないと思うが、主人に忠実ながらも時に諌める良き従者であると感じている。
そして彼女のマスターのサクヤと共に、自分以上に自分のマスターの理解者になりつつあることを受け止めている。
余談だが、自作しているアクセサリーは≪TSUCHIKA≫内の通貨があれば販売する。≪クオリア≫の22世紀通貨は不可。
- バーサーカー
- 生前にも因縁深い騎士。色々と暑苦しい男。
力量は間違いなく「騎士だった頃の」自分と同等。現状においては弓兵と狂戦士というクラスの差から、
力押しを通されれば敗北は避けられない、極力相手をするべきでない敵に変貌している。
狂戦士として荒ぶる彼に対しては、しつこく決着を迫ってきた執念深い男としてのイメージを強く想起して嫌悪を表す。
同じく苦手とするモルガンを絡めたトークも気味が悪くて閉口しがち。総じて(バーサーカー時は)アーチャーの趣味ではない。
初見で挑発をかけられたが、今更生前の話を蒸し返されて痛む腹もなし―――と眼のチャンネルを切り替え、返答に矢を放った。
実力的には、狩人である限りはあと一歩及ばない。
いくら躱そうとしても、追おうとしても、バーサーカーは獣ではなく、円卓第三に数えられる騎士の誇りをその身に宿している。
だからこそ、単騎にて彼に立ち向かわせた楡の指示は正しく捨て駒であることに代わりはなかった。彼女を除いて「捨てられる」駒は他になかったのだから。
だが、
ここで倒してしまっても、構わないだろう。
私の誇りにかけて。