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1-5:第175次大戦編〜前編〜

初公開:2014/04/09

【K.N.C 175年 会議所 室内教練所】

791「じゃあ、もう一度始めから」

オニロ「はい!」

きのこる先生「?」

オニロは目を閉じて、全神経を目の前のきのこる先生に集中させる。

オニロ「ッ!」

拳を握った両手を上げると、目の前のきのこる先生はオニロの動きに釣られるようにふんわりと宙に浮いた。

オニロ「ッ!!」

そして、オニロが拳を前に突き出すと、きのこる先生は宙に浮いたまま、
壁に吸い込まれるかのように垂直に引っ張られていった。

きのこる先生「!」

ボコ、と小気味良い音が室内に響き、きのこる先生は高速で壁に当たった反動で気を失った。
崩れ落ちて地面でうずくまっているその姿は、萎びたきのこそのものである。

791「おお。なかなかいいね。“念動”の精度、スピードともに上昇している」

オニロ「ありがとうございます!」

黒砂糖「なかなか悪趣味な練習だけどな」

苦笑しながら、黒砂糖は自ら具現化したきのこる先生を消し去った。

791「大戦も近いからね。打倒きのこ軍の練習方法としては、こうやってきのこる先生を相手にするのが一番だよ!」

791「やっぱり魔法はスピードとパワーだよ。それを忘れてはいけないよオニロ君」

オニロ「はい師匠」

791「それじゃあ今度は複数の敵兵に囲まれた場合を想定して訓練をしよう。黒砂糖さん、頼むよ」

黒砂糖「はいはい」

黒砂糖は一つ溜息をつき、手に持つスケッチブックに流れるような筆さばきで絵を書き始める。
そして、仕上げに、描き終わった用紙を筆でトンと一つ叩いた。
その瞬間、スケッチブックからニョキニョキと大小様々なきのこる先生が次々とオニロたちの前に
姿を現し始めた。総勢10体程度のきのこる先生がオニロを取り囲む。

791「では始めよう。実践訓練だ。オニロ君、その窮地を乗り越えてみせてよ」

開始の合図に、791はパンと両手を叩くと、それまで辺りを見回していたきのこる先生は一斉にオニロへ向き直る。
今にもオニロに襲いかからんと、オニロとの間合いをジリジリと詰めている。

オニロ「ッ!!」

オニロの動きは素早かった。自身が得意とする念動魔法で、一体のきのこる先生をすぐさま宙に浮かせる。
動揺して一瞬足を止めた他のきのこる先生の隙を見逃さず、宙に浮かせたきのこる先生を自身の死角と
なっている後方に投げ飛ばす。
完全に足を止めたきのこる先生を尻目に、オニロは、自身が作った包囲網の隙間に向かって突進する。
横にいるきのこる先生に念動をかけて、動きを止めることも忘れない。この間僅か数秒で、
オニロは包囲網を突破することができたのである。

しかし、きのこる先生の動きも俊敏であった。オニロの手によって足を止められた数匹を除いて、
残りはすぐにオニロの動きを察知し、襲いかかる。

オニロ「『モンポケフラッシュ』!!」

オニロの持つ杖の先から、眩い光が発せられる。きのこる先生は一瞬顔を顰め、オニロから目を逸らし態勢を崩す。
オニロにとって好機。想定通りの展開運びだった。

オニロ「『マルチブルランチャー』!!」

光を溜めこんだ杖先から放たれるホーミング弾が的確にきのこる先生を捉え、爆発する。
目標とする敵が多ければ多いほど威力が上がるこの魔法は、今のオニロの状況には最適な攻撃手段だった。

791「おーけー!それぐらいでいいよオニロ君」

手を叩きながら、791はオニロに声をかける。

黒砂糖「この短期間で連続魔法を取得できているとは。いや、恐れいったな」

791の隣にいる黒砂糖は目の前の出来事に目を丸くしている。

791「本人の素質もあるけど、一番は師の教えがいいからかな?」

黒砂糖「ハハッ、違いない」

笑いながら黒砂糖は残ったきのこる先生を消し去る。

791「目眩まし魔法からマルチブルランチャーへ繋ぐコンボは非常にいい選択だね。
ただ、念動魔法で包囲網を突破するのはちょっと強引かな。
今回は成功したけど、場合によっては不発となる可能性がある」

オニロ「はい、念動魔法で先手を取れるとは限らないということですね」

791は冷静に、今のオニロの行動を分析しコメントしている。その791のフィードバックを一言も聞き漏らさずに
全て吸収しようと、オニロは791の一挙一動に頷いて、納得がいかなければ質問や意見を791に投げかけたりしている。

オニロ「ご指摘いただいた点は理解しました。では、師匠でしたら、あのような場面ではどうするんでしょう?」

791「ん〜私?私ならなあ…」

791はそう言葉を切って、黒砂糖をチラリと見る。791の意図を察した黒砂糖は、一つ溜息をつき、
再びスケッチブックにきのこる先生を描き始めた。

あっという間に791をきのこる先生が取り囲む。

791「私の場合だったら、こうするかなあ」

791は茶目っ気たっぷりに、チョコンと人差し指を突き立てる。そのまま数秒、特に変化はない。
痺れを切らし、きのこる先生が791に襲いかかろうとした、その時。

オニロ「!?」

791「『ネギ流星群』」

791「『ネギ流星群』」

頭上を幾多のネギが覆い、そしてきのこる先生に一斉に降りかかる。
降り注がれたネギはその場で粉塵爆発を起こし、連鎖的に他のネギも巻き込んで起爆させる。
爆ぜる音が止むことなく、きのこる先生は逃げる暇もなく、火の海に巻き込まれていく。
気がつけば、爆発によって発生した炎の渦は791を取り囲むような円になり、
当然そこにいたはずのきのこる先生たちの姿はない。

791「まあお手本程度にね」

オニロ「…師匠のほうがよっぽど強引だと思うんだけどなあ」



【K.N.C 175年 会議所 年末 第175次きのこたけのこ大戦開始直前】

集計班「えー。では指定の時間が近づいてきました。皆さん、大戦場に移動しましょう」

会議所に留まる兵士たちは、集計班の号令で一斉に大戦場に移動を開始した。
会議所の正門を出て西に位置する大戦場は、既にきのこの山やたけのこの里で生活をする一般兵士で賑い、
大戦の開始を今か今かと待ちわびているという。アイムが最初に意識を取り戻した場所でもある。

アイム「おい、オニロ」

アイムは会議所の門の前でオニロに声をかける。アイムがオニロに話しかけることは至極珍しい。
思わずオニロは嬉しくなり、人懐っこい笑みでアイムの言葉に応えた。

オニロ「なにかな?」

アイム「…今日の大戦に関してだけど」

オニロが近寄ってくるので、一定の距離を保つべく下がりながらアイムは言葉を続ける。

アイム「オレと一緒に撃破数を公開しないか?」

オニロ「公開?」

アイム「撃破数を会議所内で大々的に公開するんだよ。大戦の撃破数で」

大戦の参加者は、自らの手で倒した敵兵を撃破数としてカウントして、大戦終了時にそれぞれの軍本部に報告する。
撃破数が大戦における兵士の活躍ぶりや強さを示す直接のバロメータであり、大戦に精を出す兵士ほど撃破数に強いこだわりを見せる。
仲間内に自身の強さとしての撃破数を誇示したり、大戦の安定した撃破数の多さで社会的地位を築いている兵士もいる程である。
撃破数の申告は強制ではないが、今や大戦参加者にとっては欠かせない要素となっていた。

アイム「俺たち二人は、今次大戦でデビューする、あのインチキ占い師の言葉を借りるところの
“期待の新人”だ。会議所内外からの注目の的であるところは疑いようもない」

アイム「二人の成果をお互いに提示しあうことで、きのこ軍とたけのこ軍の希望の星として、
大戦の士気向上に貢献するのさ。それができる」

アイムは一気にまくし立てる。嘘をつくときは間を持たせずに、歯切れよく喋ることが、
自分にとって疑いを持たせにくいコツであることをアイムは理解していた。
一方で、そんなアイムの心情など露知らず、オニロはアイムの言葉に胸を打たれ、体を震わせている。

オニロ「すごいよアイム!自分のことばかりじゃなくて、軍全体のことも考えているなんて、
ボクは感動したよッ!!」

アイム「おうそうか。それで撃破数の話はどうだ?」

オニロ「もちろんその話を受けるよッ!何も撃破でお互いを競うんじゃない。
撃破数で軍全体を元気にするんだよね!ありがとうアイム!」

オニロは感激しながらアイムの両手を握り、たけのこ軍の隊列に戻るために走ってアイムの下を去っていった。

そのオニロを、似合わない爽やかな笑顔で見送っていたアイムだが、オニロの姿が見えなくなった途端、
一つ悪態をつき元の無愛想な表情に戻した。

アイム「誰が軍のためなんかにやるかよ…」

先ほどの爽やかな笑顔は一転して、不敵な笑みをこぼしながら、アイムはギラギラとした目つきで
たけのこ軍の隊列を睨むように見つめる。

アイム「きのこ軍、たけのこ軍。この際、今はどちらでもいい。
オニロ、オレはお前なんかのあまちゃんには負けない。負けてたまるかよ…」

アイムは先ほどオニロに握られた拳を固く握りしめる。拳は何重にもテーピングが巻かれ、
いかに激しい鍛錬をこなしてきたか物語っていた。

アイム「見ていろよ。大戦後に、誰が一番強いのか思い知らせてやるッ…
魔法でヌクヌク練習していたお前を、オレが思い知らせてやるよ…」

静かで物騒な闘志がアイムを支配しつつあった。



【K.N.C 175年 第175次大戦 大戦場】

会議所から歩いて数十分、生い茂ったきのこたけのこの森を抜けると、そこは一面の荒野だった。
草さえ生えぬ荒れ果てた褐色の土地は、長きにわたる勝負が行われたことを物語っていた。
広大な戦場の入り口付近では、白色のジャンパーを着た兵士が、入場待ちをしている兵士の周りを
慌ただしく走り回っている。

アイム「あれはなんだ?」

¢「大戦の運営を補佐する係さ。通常は会議所から係を立てて、大戦の進行をスムーズにしているのさ」

確かに、見覚えのある顔が何人か走り回っている。

アイム「ふーん。それで、いつになったら入場できるんだ?」

アイムたちを始めとしたきのこ軍兵士たちは、長蛇の列を形成して大戦場への入場を待っていた。

¢「係員が階級章を配っているんだ。今夜は階級制ルールだからね」

アイム「そういえば階級てのは、自分の意志では決定できないのか?」

参謀「せやな。まあどの階級になるかは運試しちゅうところやね」

数人の係員でこの長蛇の列を捌ききれるのかアイムは不安に感じていたが、
以外にも列の消化は早かった。
さすがに何百回も大戦を経験していると、嫌でも体が覚えてしまうのだろうか。
最後尾に並んでいたアイムたちも数分後には大戦場の入口まで動くことができた。

係員「はい、どうぞ。お、アイムか。期待しているぜ」

そういって力強くアイムに階級章を渡す係員は、紛れもないきのこ軍兵士だった。

参謀「あーワイは軍曹¶か。まあまあやな」

アイム「一等兵〓か」

参謀「まあ新人としては十分の階級やね」

もらった階級章を胸に付け、アイムは二度目の大戦場へ足を踏み入れた。

【K.N.C 175年 第175次大戦 大戦場 きのこ軍陣営】

大戦場は東西にそれぞれの軍陣営が本部を設置している。
大戦では、敵陣営を攻め落とすか、敵軍の戦力を全滅させるかで勝敗が決する。
互いに死力を尽くす戦いではあるが、兵士は生き死にを賭けた戦闘を行うわけではない。

山本『大戦場は不思議な魔法結界が貼られていて、たとえ致死量のダメージを負っても死ぬことはない』
山本『一定以上の傷を負った兵士は戦闘不能とみなされ、自動的に魔法陣で軍陣営まで転送される。
転送後は傷の深さによって戦闘を継続するか、戦闘不能とするかは兵士や軍の裁量に委ねられるんだ』

酷くしごかれた鬼教官の顔を思い出し、アイムは苦虫をすり潰したような顔になった。

アイムがいるきのこ軍陣営では、兵士がおのおの自分で使う武器の手入れや
地図を広げ作戦の確認を行っていたりと戦闘前の準備に勤しんでいる。

手持ち無沙汰になり、辺りを暫く見回していたアイムだが、ふと疑問に思ったことがあり、近くにいた
先輩のsomeoneに声をかける。

アイム「そういえば、大戦の勝敗って誰が判断してんだ?」

someone「集計係、大戦の勝敗を判断していますよ」

someoneはそう言って、遠くにある小高い丘を指さした。
小高い丘の頂上部には、集計班が双眼鏡で戦場を見渡しているとともに、
その横には「本日の集計係」と書かれた蛍光色のノボリが風にたなびいている。

アイム「…あれが集計係だな。実にわかりやすい」

someone「集計さんを挟んでノボリとは対極の位置に、機材が置いてあるの見えるかい?
あれが集計を行う機械みたいだよ」

目をこらして見ると、ビデオカメラのような小型機材を、集計班の背の高さほどの三脚が支えている。

someone「あれが集計ツールと呼ばれるもので、今はあの機械が戦況を瞬時に把握しているようです」

機材のレンズは冷たく戦場を見下ろしているように見えた。

アイム「へ〜、それは優れ物だな。じゃあ、その横にいる集計さんいらないんじゃねえの?」

someone「…確かにそうですね」

¢「集計ツールは誰かがスタートボタンを押さないと起動しないんよ」

アイムたちの横で自分の武器を手入れしていた¢が話に入りこむ。

¢「一昔前には、集計係は双眼鏡片手に自力で戦況を把握していたからな。
それに比べれば大きな進歩なんよ」

アイム「機械が自動で戦況を判断するなんて、相当高度な技術だな。
そのうち、機械自身が勝手に集計を始めたりしてな」

someone「自我を持った機械かあ。あれ、そういえば、自動で動き回る機械というのが昔存在したような…?」

アイム「そうなのか?」

¢「…」

『ぶお〜〜〜』


その時、まるで3人の会話を遮るように、気の抜けたような大法螺の音色が、
乾いた戦場の空気を震わせた。丘を見ると、どこから取り出したのか集計班がドヤ顔で大法螺を吹いている。

『お待たせいたしました。これより第175次きのこたけのこ大戦を開始いたします』

集計班の声が戦場中に響き渡る。マイク等の音声増幅器を用いていないことから、
これも魔法の力なのだろう。

『では、合図とともに始めます』

会議の時と同じく抑揚のない集計班の声が戦場中に響く。
どうも緊張感にイマイチ欠ける印象を持つが、今自分が戦場にいることを思い返し、
アイムは徐々に緊張感と高揚感が高まっていくのを感じていた。

雑話で賑わっていた戦場が、波をうったように静まり返る。
剣の柄を持つ手に自然と力が入る。


『ファイエルッ!!!』

地鳴りのようなきのこ軍兵士の咆哮の大合唱が起こり、大戦の火蓋が切って落とされた。

【K.N.C 175年 第175次大戦 大戦場 たけのこ軍陣営】


『ファイエルッ!!!』


山本「それでは作戦を開始するッ!!」

円陣を組むでも大声を上げるわけでもなく、たけのこ軍兵士は淡々と一斉に行動を開始した。
オニロも前線部隊としての任務を全うすべく、支給用の銃火器を手にとった。

791「オニロ君!」

オニロの背後から、791の言葉が降りかかる。

791「いざとなったらその武器は捨てて構わないよ。戦場ではスピードこそ命だ。君の持つ魔法のスピードと、
身のこなしのスピードを優先しなさい」

オニロは師の言葉に緊張気味に何度も頷き、静かに移動を開始した。


791「霧が出ているね…無事だといいけど」


【K.N.C 175年 第175次大戦 大戦場 中央地点付近】

きのこ軍 ゴダン大佐▽「やけに静かだな…」

アイムたちの部隊は前線の主力部隊として、自陣と敵陣の中間地点付近まで侵攻していた。

アイム一等兵〓「…」

今のところ敵軍との遭遇はない。それどころか、他部隊が敵軍と交戦している様子すらない。
不気味なほどに戦場は静まりかえっている。

アイム一等兵〓「…」

開始直後から立ち込めている霧で、自分の部隊以外の状況が全く見えない中で、
アイムは静かに待ち構えている。戦果を流行る気持ちをおさえ塹壕に身を潜めながら、
ただ戦闘が来る時をじっと待っていた。

きのこ軍兵士A「うおおおおおもう待てねえぞ!!」

沈黙に耐え切れなくなったのか、一人のきのこ軍兵士が塹壕から立ち上がり雄叫びを上げる。
それに呼応したように、何人かの腕っぷしが強いきのこ軍兵士も立ち上がる。

ゴダン大佐▽「待て!まだ本部から突撃命令は下っていないぞッ!」

きのこ軍兵士A「もう待てねえ!俺はいくぜ!!!」

塹壕から飛び出し、数人のきのこ軍兵士は敵陣営へ向かって突撃を開始した。
そして、その命取りな行動が皮肉にも戦闘開始の号砲となった。

きのこ軍兵士A「ぐはあッ!!」

乾いたスナイパーライフルの銃声とともに、飛び出したきのこ軍兵士はその場で倒れる。
致死量のダメージだったのか、その場で魔法陣が展開し、その兵士はすぐに転送されてしまった。

きのこ軍兵士B「なんてこった!この霧でも正確に撃ちぬいてくるてことは、敵は近くにいるぞ!!」

ゴダン大佐▽「みんな落ち着くんだッ!!ここは一回態勢を立てなおして…」

ゴダン大佐▽の命令は、血気盛んなきのこ軍兵士に届くことはなかった。
目の前の武勲を求めて、多くのきのこ軍兵士が塹壕を飛び出し闇雲に敵陣に向かって駆け出した。

アイム一等兵〓「無駄だよ大佐。脳筋の奴等には、あんたの命令なんてわかりっこないって」

アイムは目の前の指揮官にいくらか同情したが、すぐに目の前の戦場に視線を移した。
目の前に置かれている餌に食いついて罠にかかってはいけないのだ。部隊が崩壊寸前の状況にあっても、
アイムは泰然自若の構えで眼前の戦場に目を凝らす。

勇猛果敢で無謀な兵士は、立ち込める霧でその後ろ姿をかろうじて捉えられる程度だ。
この霧の深さでは5m先の標的は狙い撃つことはできないだろう。自軍兵が狙撃された地点から
半径5m以内に敵部隊は潜んでいる。アイムは確信した。

間髪をいれずに、アイムは敵部隊についても考察する。
敵部隊の規模は、おそらく主力を含んだ本隊か斥候部隊のいずれか。
もし、遭遇した部隊が斥候部隊だった場合、敵軍に自軍部隊の情報が筒抜けとなり、
戦況はきのこ軍にとってかなり不利となる。戦線を維持するためには、即断即決で
敵軍斥候部隊を排除するしかない。ただし、斥候部隊との交戦に時間をかければかけるほど
相手軍に熟慮する時間を与えてしまうことになる。

もし、主力部隊と遭遇した場合は、斥候部隊と遭遇するよりか幾分か気は楽になる。
単純な数的優位差で勝敗が決する場合があるが、この場合は間髪入れずに強襲して
相手軍に考える暇を与えないのが正解だろう。

つまり、差し迫った現在の戦況下では、思慮深い賢者よりも猪突猛進な愚者としての行動が正しいのである。
アイムはそう結論づけた。

アイム「そうだとしたら、話は早い」

アイムはすっくと立ち上がり、命令を背いて敵軍に迫る仲間の後を追った。
心なしか、仲間たちの背中は先程より大きく見えるが、アイムにとっては相手からの攻撃を守る盾でもあるのだ。

アイム「助けられるものは助けるさ。だが、同時に利用する価値があるものへの投資は惜しまない」

アイムは自身の実力の限界を理解していた。そして、仲間を利用する場合によっては小狡い考えは、
結果的に良い結果へと傾いた。


【K.N.C 175年 第175次大戦 大戦場】

『ぶお〜〜〜 現在の兵力は85:90でたけのこ軍が有利です』

定期的に気の抜けた大法螺の音とともに、戦場中に戦況が伝えられていた。
オニロ有するたけのこ軍少数精鋭部隊は、雪中行軍ならぬ霧中行軍を敢行していた。

オニロ曹長†「たけのこ軍の兵力が減っている、ということは
どこかの部隊がきのこ軍と戦闘状態にあるということですね?」

スティーブ大尉‡「そういうことだな。情報が伝わってきてはいないが、
どこかの部隊に敵軍が“引っかかって”くれたんだろう」

オニロ曹長†「先程出くわした敵軍部隊は、敵の主力部隊なんでしょうか?」

スティーブ大尉‡「いや、あいつらはおそらく偵察兵、斥候部隊だろうな。しかし、見事な殲滅戦だった。
お前のポイフルバーストがなけりゃあ偵察兵を取り逃して大変なことになっていたな」

オニロ曹長†「いえ、大尉の的確な迎撃があってこそです」

恥ずかしそうに、オニロは鼻をかいた。

斑虎二等兵=「しかし、この霧にはどこか親しみを感じるな…鴎、霧」

ヒノキ曹長†「先を急ぎましょう。グズグズしていると作戦が失敗してしまいます」


【K.N.C 175年 第175次大戦 大戦場 中央地点付近】

アイム軍曹¶「オラァ!!これで8撃破目ェ!」

丸腰のたけのこ軍兵士を斬り伏せる。
アイムの獅子奮迅の活躍で、数名の暴走によって危機的状況に陥った
きのこ軍主力部隊も、完全に態勢を立てなおしていた。

¢大尉‡「どうやら斥候部隊ではなかったようだ。奴さんには瞬発力がてんでない」

二丁拳銃で的確に敵兵の頭を撃ち抜いた¢は、仰向けで転送される敵兵を眺めながら首を傾げた。

ゴダン大佐▽「アイム君昇進おめでとう。素晴らしい活躍だったよ」

アイム「それほどでもあるな」

アイムの中では控えめな表現で、鼻をかいた。

¢大尉‡「さて、どうする。このまま前進するか」

アイム軍曹¶「前進あるのみだな。電撃戦術で敵軍を撹乱させてやろうぜ」

ゴダン大佐▽「そうだね。こちらの斥候部隊から何の連絡もないのは気になるけど
…部隊の損害は少ない。このまま敵本陣を目指そう!」

指揮官の発奮興起な言葉に、血気盛んなきのこ軍兵はにわかに活気だった。


『ぶお〜〜〜 現在の兵力は82:70できのこ軍が有利です』

さらに集計係からの戦況報告で、部隊の士気はいよいよ最高潮となった。


【K.N.C 175年 第175次大戦 大戦場 たけのこ軍陣営付近】

アイム擁するきのこ軍主力部隊の快進撃は止まらなかった。

向かってくるたけのこ軍兵に、アイムは躊躇なく剣を振りぬく。
アイムの剣筋には迷いがない。
戦闘では少しでも迷いを持った者が敗者となる。
今は敵同士となっている鬼教官の教えを頭のなかで反芻しながら、アイムは進撃を続ける。


【K.N.C 175年 第175次大戦 大戦場】

ヒノキ曹長†「報告によると、敵軍主力部隊は“鉄のスカート(ペティコート)”にハマったようです」

スティーブ大尉‡「予定通りだな」

歩みを一時止め、指揮官スティーブは双眼鏡で目的地を確認しようとする。

オニロ曹長†「目的地は近いのでしょうか?」

スティーブ大尉‡「おそらくな。てか、双眼鏡だと真っ白だなやっぱり」

双眼鏡を放り投げ、スティーブは朧げになっている隊員を見回す。

スティーブ大尉‡「現在二一○○時。我々“たけのこ軍主力部隊”は本部より
北東地点3kmに到達。作戦実行の条件が満たされるまで待機する」

全員「了解」

『ぶお〜〜〜 現在の兵力は74:55できのこ軍が有利です』


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