プリンセスティアーズ第2禁書庫 - 迷宮と奇蟲4

迷宮と奇蟲4

作者:rima

プロット元に依頼して書いていただきました。




【生体実験区画を探索。】
【何かの薬品の製造機材がある部屋。】
【嫌な予感がする。】
【端末を調べてみる。どうやら、活性剤の製造ラインらしい。製造機材はチューブで天井に繋がっており、製造された薬品はどこかへ向かうようだ。】
【更に説明を見ると、上の層で使った活性剤だけではなく、改良型活性剤も製造できるらしい。実験体に予測不可能な遺伝子変異を与えるという説明。】


(い、いや…っ。もうやめて…これ以上こんなこと…)
 
 声にならない叫びが脳内で反響する。認めがたい現実を脳が拒絶し、あたしは狼狽を隠せない。

 この施設で何者かが異常な繁殖実験を繰り返していたのみならず、予測不能なレベルでの遺伝子変異を強制的に引き起こしていた。同じ人間がしていたとは思えない所業の数々。想像するだけでも、胃の奥から強い吐き気が込み上げてくる。

(絶対に許せない! ここまで最低な施設だったなんて!)

 拳を強く握り、奥歯を強く噛み締めた。
 専門的な知識などなくても、ここで行われていたのが結果として生物を救うための実験や研究ではないことは想像に難くない。むしろ、生命を冒涜し、女性の身体に異常な怪物を孕ませるための施設に思えてならない。

(さっきの巨大幼虫みたいな実験体がいて…もし、もっと強力な薬品が注がれたら…)

 先程出くわした奇蟲を脳裏に浮かべ、背筋がゾっと凍る。
 通常の活性剤だけでも異常に成長した肉器官。あれの改良型を投与することが何を意味しているのかは明白だった。

(ぜ、絶対にダメ…。こんな実験どうかしてるわよ…)

 端末に目を向けると、製造停止中の表示の傍で、製造再開のパネルが怪しく光っている。
 こんなパネル一つで最悪の薬品を製造できてしまうのだ。

改良活性薬で遺伝子変異を起こした実験体がもし暴れ出したら…さっきのように襲われて、今度は助からないかもしれなくて…。

(そんな…どうしてまた…!)

 燃えるような熱に全身が嫌な火照りを帯び始めた。じゅわっと股布に生温かい湿りを感じる。

“改良活性剤の製造を再開する“

(だ、ダメ…危険だって分かってるのに! いやっっ、どうして…)

 危険信号を明滅させる意思とは裏腹に、あたしは製造再開のパネルに触れてしまった。

 ガコンっ、という一際大きな音がフロアに鳴り響く。

「ヒッ、な、なに…!」

 ビクンッと過剰に反応してしまい、羞恥で頬が熱くなった。周囲を確かめたが、何かが現れた様子はない。
 どうやら久しく動いていなかったせいで、装置が唸り声をあげただけらしい。

(あっ、ダメよ! どんどん薬品が作られてく…! ダメなのに…)

 あたしが狼狽えているうちに、不快な金属音と共に製造が開始されてしまった。今、製造を停止すれば被害は少ないかもしれない。なのにあたしは…。

(で、でも薬品を作るだけなら何も起きないはず。自動で薬品が投与される訳ではないし)

 先程の巨大芋虫のことを再び思い出し、あたしは勝手に自分を納得させた。
 薬品と実験体はしっかり区分けされている。今のところ、人の手がなければ薬品が投与される危険は少ないはずだ、と。

(あぁ、なのにどうしてこんなに…お腹が切なくなっちゃうの…)

 次々と製造されていく薬品を前に、子宮が異常な脈動を繰り返す。全身へと伝播した熱が頬まで届いて、顔が羞恥に染まる。

(ん、くぅ…ここにいても仕方ないわね。他の場所を調べましょう)

 あたしは下腹部を押さえて平静を取り繕い、製造場所を後にした。






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