ダヴァンが熊魔獣を救った逸話で、彼が空艇でどこに行き、何をしたのかは、残念ながらオルダーナ帝国の記録では記されていない。
だがブレイズ側の記録により、その時のダヴァンの行動を知ることができる。
ダヴァンが空艇で向かった場所…それはなんとブレイズ本拠地であった。
当時ブレイズ本拠地を警護していた戦士
ディルモードは、回顧録に次のように書いている。
「オルダーナ帝国の空艇がこの拠点に接近したとの報告を受け、周囲に緊張が走った。
当然であろう。我がブレイズは日々軍事力の増強を図っているが、まだ世界帝国であるオルダーナに勝てるほどの力はない。
私もすぐに警戒態勢の強化と、拠点周辺への偵察を部下に命じた。
そんな時であった…あの男が単身この拠点に現れたのは。
ダヴァンと名乗ったその男は何も武器を携えずに私たちの前に現れ、自分がオルダーナの騎士であると告げた。
そして、ただ「話を聞いて欲しい」とだけ言った。
オルダーナの騎士が現れたことに、部下たちは殺気立ったが、私はそれを制止した。
相手にとってもこちらは敵対組織の本拠地だ。そこに単身で乗り込んできたということは、尋常でない覚悟と目的を持っているに違いない。
私は部下たちを下がらせ、直に彼の話を聞くことにした。
男の話によれば、オルダーナ大陸にいる熊魔獣が呪いに苛まれて苦しんでいるので、それを癒やす霊薬が欲しいとのことであった。
その話が嘘偽りなどではないことは、男の目を見ればすぐに分かった。
確かにその霊薬はブレイズが所有しており、私の権限で渡すこともできなくはない。
そして、遠く離れた場所で苦しんでいる魔獣のためである。拒む理由もない。
だが霊薬を渡す前に、私は気になっていたことを彼に尋ねた。
帝国騎士であるお前が、なぜ魔獣のためにそこまでやるのだ?…と。
すると男はこう言った。
「あの魔獣は自分を殺してくれと言った。魔獣だろうが人だろうが、そんなヤツを殺せるものかよ。
少なくとも俺は御免こうむる。だったら、救うしかない。それだけの話さ」
その答えに、私は不思議と納得をした。そして霊薬をこの者に授けることに決めた。
霊薬を手にした男は「騒がせて悪かったな」とだけ言い、このブレイズ本拠地から去っていった。
おそらくは、近くに停めてある空艇に戻っていったのであろう。
私はこれまでオルダーナ帝国など大したことはないと思っていた。
無論、相手は現在グランゼリアを支配している国家である。正面から当たれば、ブレイズに勝ち目はない。
だが、魔獣を迫害し、偏った思想のもとでの統治が続いたならば、いずれ必ず綻びが生じ、打倒できると考えていた。
しかし、帝国の騎士の中にあのような男がいるのならば、侮ることはできない。
いずれ、帝国と戦う時が来るであろう。その時は心してかからねば…」
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