“魔導”の一つであり、“金” “貨幣”の持つ魔術的価値を魔力に変換する禁術。

 魔術の世界において「古いモノには力が宿る/宿りやすい」という原則がある。同様に「人の手で長く使い込まれたモノにも力が宿りやすい」と言われる。たとえただの人間であっても、常に微弱な魔力を帯びるこの世界では、長い年月をかけて物品に刷り込まれた力が不可思議な現象を引き起こすのだ。

「古いモノほど力を宿しやすい」、「人の手で使い込まれた物は力を宿す」 この二つの魔術的現象に着目し、「とある物」に対して新たなる魔術的価値を見出した人物が存在した。その“とある物”こそが金――金銭的価値である。いわば銭闘術とは、金銭的価値と魔力的価値を等価交換する術なのだ。

 貨幣経済は《古竜戦争》より遥か以前、《王国》が全盛を迎えるよりも前から存在してきた。故に「金」もまた古く、流通するが故に星の数ほどの人間の手に触れてきた。そして「金」に蓄えられた魔力を利用し、通常より遥かに大規模な魔術を発動せしめるこの特殊銭闘術式を、開発者は《見えざる手(インビジブル・ハンド)》と名付けた。その利点は、「金」の質次第ではあるが極めて少量の魔力で術式を起動できること。欠点は、まるで見えない手に毟り取られるかのように金が減る事。

 この術式はかつて《学院》に持ち込まれ、一時は大いに隆盛を誇ったが、現代の《学院》では使用・研究共に硬く禁じられている。理由は金銭のトラブルが爆発的に増加し、かつ妙な詐欺行為が学院内で横行した為だ。この魔術に用いる価値の高い金は「魔札」と通称されていた為、この術式に手を出して身を持ち崩す事を「魔札(カード)破産」などと呼んだりもした。しかし魔導の本場たる《学院》に禁止されても、人は「金」が持つ魔性の魅惑には抗い難い。故に未だその秘儀は耐える事無く、ガトリング共和国の商人らを中心にごく一部の者達の間でのみ継承と研究が続けられている。
 この余りに愚かな、されども恐るべき金の魔術師達を、人は畏怖と敬意を込めてこう呼びならわす。

 ――《闘資家ダメージディーラー》と――

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