今は亡き耳かきコリッの避難所

耳エステ

「いらっしゃいませ。」
店員の声がすがすがしい。

私は肩こりに悩まされている。
パソコンで連日連夜作業しているOLの私の肩は
しびれるような熱を持ちいつも硬い。
右の腕は常に脱力感があり、
目の奥の神経がピリピリと尖っている。
あまりに肩が凝ってくると後頭部と顔がしびれてくる。

今日、私は初めてエステに来た。
日ごろ鬱積したストレスと凝りを解消するために。

「肩こりを解消するコースですか…?
ここは耳エステなのです。」

…そういえば看板に「耳」エステとあった。
私は普通のエステかと思って入店したようだ。
「いいですよ、耳と肩のコースがあります。
それでよろしければ?」
「はい、おねがいします。」

「耳のお手入れをすることで、
ストレス解消にもなるんですよ。
それに、肩の神経がピリピリしているのも
緩和されるんです。」

そういえば、私は耳かきをあまりしない。
耳かきがストレス解消になるのだろうか?
「私、耳垢が溜まっているかもしれませんけど…」
「かまいませんよ。」

「横になってください。」
白い浴衣を着てから肩だけを出して、
歯医者で使うようなゆったりした椅子に
私は後ろ向きにねそべった。

部屋は薄い緑色をしていた。
小さな音でクラシックが流れている。
桃のようなかすかに甘い香りがする。
店員は若い女性で、うす桃色の服を着ている。

店員は蒸しタオルを肩と耳の上にのせた。
少し熱いかと思いきや、すぐちょうどいい温度になった。
肩と耳がポーッとあったかくなる。

何分かした後、タオルをのけた。

肩にジェルをつけて振動する筒状のマッサージ器で
ジェルを伸ばしていく。
筋や神経に沿ってマッサージ器を動かす。
ジリジリと気持ちよさが背筋に伝わってくる。

そうしているうちにもう一人店員が来た。
店員は銀の細い棒を取り出した。
銀の棒は先がまるまっている。
「耳ツボを押します。痛かったら言ってくださいね。」
「はい。」
ツボをキュッと押した。
…痛くはないが気持ちよさもない。
どうってことないなと思った。
「最初は何も感じませんが、そのうち気持ちよくなりますよ。」
とのこと。

肩をもまれつつも、耳のツボを押されるという状況だった。

マッサージによって肩がやんわりとしてくるのがわかる。
腕がだるくなり、目の底がジーンとしている。
後ろ頭がピリピリする快感と同時に
頬にジリジリと快感が沸いてくる。
「肩は終了です。耳はこれからです。」

店員は耳のいろいろなツボを熟知しているらしく、
点々と刺激していく。
…耳の穴のあたりが痒くなってきた。
耳の穴の中に汗をかいたようだ。
耳の穴を中心として耳全体があたたかくなっている。
「あのーまだ耳垢を取ってもらえないんでしょうか?」
「もうすこしの我慢ですよ。」
とは、いうものの。
耳の穴の中が痒くてたまらない。

「終わりました、これから耳垢を掻き出します。」
象牙の耳かきを使うという。
優美な曲線の白いぬめりの光をはなっている。

コリ.....コリ.コリ.........コリ.......コリコリコリ......コリコリ......
...........繊細な動きで少しずつ掻き出す。
.コリ.コリ.........コリ....コリ.コリ.........コリ.......コリコリ
コリ......コリコリ.........コリコリコリ......コリコリ.....

人の爪で掻かれているような感覚だ。

綿棒に耳洗潔液という特製の液をひたす。
クリッ.......クリッ.....クリッ......クリッ...クリッ..
耳の穴の皮膚の表面にこびりついた
古い角質がはがれていく……
白い綿棒があっという間に、茶色く変わる。
クリッ.......クリッ....クリッ.......クリッ.....クリッ.....
.クリッ...クリッ...クリッ......クリッ...クリッ..

最後に耳専用のオイルを綿棒に含ませ
耳の穴に塗る。

店員がフフッと笑った。
耳垢がやまのようにたくさん出ていたからである。
それは四角い紙に乗せてあった。

私はうとうとと寝てしまっていた

このページへのコメント

思い違いで入った場所が良い所だと通い詰めちゃいそう…
この女性も週1で耳エステに行きそうですね…

0
Posted by 風継 2014年09月14日(日) 15:40:41 返信

いいわよね
このエステどこにあるの?

0
Posted by ゆうか 2012年06月04日(月) 01:11:01 返信

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