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111.匿名ぶろーにんぐ - 18/04/16 21:18:57 - ID:Q19az+cjCw
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爽やかな春の風が頬を撫でる。新緑がそよ風に踊り、木漏れ日の調べが彼女を包む。
とある何処かの静かな高原、ゆっくりと散歩する午前10時。
「しばらくぶりですね…」
ふと呟いて空を見上げると、青空が赤い眼に染み渡る。
「今日は絶好の"お散歩"日和ですね。」
いつもの道を軽やかな気分で歩き、やがて小高い崖にたどり着いた。
「やっと着きました。まったくも、この場所がいいなんてあなたが言うから…」
そう言うと彼女は少し笑いながら、ぐっと背伸びをして全身の筋肉をほぐす動きをした。
アンドロイドだから余り意味はないけれど、誰かさんの真似っ子だった。
崖の上から見渡せば、そこに広がるのは一面の花畑。
咲き誇るのはネモフィラという花だ。
美しき青色を讃えし花びらが、空と丘の境界線を曖昧にしている。
彼女らのお気に入りの光景は、いつも変わらずここにあった。
「よいしょっと…」
レジャーシートを展開しおもむろに腰掛けると、彼女は肩にかけた鞄を漁った。
取り出されたのは水筒と、おそろいの古ぼけたマグカップ。
水筒には白濁した琥珀色の液体、そっと揺らすと仄かな甘い香りが漂った。
「いつものミルクティーですよ。はいここに置きますね。」
彼女は優しい微笑みを讃えると語り出す。
「急に思い出したことがあるんです。あなたがここを買い占めた時の話…覚えてますよね?
嬉しそうな顔をして私をお散歩に誘ったかと思えば、この場所に連れて来てくれました。
あのときは本当に驚きましたけど…」
彼女が"あなた"に対して目配せすると、やっぱり顔をほころばせる。
「いつもこんなことばっかり…ふふっ。あれですね。ここは私達だけの場所、今までもこれからも。」
ひときわ強い風が吹いた。
「そうですね。今日もたくさんお話しましょうね。」
どれ程時間が立っただろう。気が付けば、花畑が朱色に染まり昼間とは違う顔を見せていた。
「この景色も綺麗ですよね。やっぱり、ここには晴れの日に来たいです。」
そっと"あなた"を見詰めると。
「でも夕方はなんだか寂しいです。駄目ですね…もう泣かないと決めたのに。」
"あなた"にそっと触れると、手を回して抱きしめた。
「いいですよね?少しだけこのまま…」
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