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122.稲瀬りぜる - 18/06/03 02:28:49 - ID:P3LwpPUQ9A
※のらちゃんの登場は、ほんのラストのみになります
のらちゃんを想うねずみさん視点です
ふいと、空を見上げる。どれくらいの時間が経ったか…と、ぽつりと呟いて。星は、誰が特に目立つでもなく、単に静かに光るのみ。誰が居るでもないこの場所では、ただ一人の私が異物なのだろう。何せ、ここに来た理由すらイレギュラーなのだから。星から目を下ろし、ため息をつく。歩かないことには始まらないのだ、どちらにせよ。横を見れば、海かと見紛う程に広がる湖が何を語るでもなく佇んでいる。嘲笑されてるみたい…錯覚か。
水面を見ても、語りかけても、何も答えてはくれない。ただひたすら、静寂が広がる。帰り道は長くなりそうだ。時間を見れば、もう深夜。どれだけ移動したか知らないが、正直、一休みしたくもなるのも頷ける。水辺に座り込むと、そのまま湖面を見つめる。いや、見つめると言うのは正しくないか。無心でただ眺めるだけの瞳。頬を、そして湖面を風が撫で、波は小さく躍り、リズムを音楽に、声にしているようで。そう聞こえるのは錯覚?
波の声を聞くうちにふと、心からも音が溢れた。やはり創作というのは、こういう時にふと心から沸き出すものなのだろう。月を地に湛えた湖と、猫の想い人と、迷える羊の自分。一つ、自分を試してみよう。水辺に腰かけたまま、小さく声を出す。通るのは車ぐらい、すれ違う人も居ない。誰が聞いている訳でも無いだろう。ただ、メロディを刻みたくなっただけかもしれない。想い人に届けるための曲を。言葉なき歌は、夜空に朗々と響く。
時折の車の声に掻き消されながら、一つのメロディを不恰好ながらに歌い終わった時には、月も先程見た位置を離れていた。誰に聴かれている訳でも無いだろう。そろそろ、休んでないでまた家を目指そう。あとどれ程かかるか。自嘲気味の笑みを張り付け、また足を動かし出した。…………とある湖畔。一人の少女が振り替える。月の光に銀色に輝く髪の少女が、小さく呟く。「この歌…あの人の…?」たった一人の、彼のギャラリー。
彼はきっと、自らの歌のギャラリーに、最後まで気付かなかったのだろう。そるでも、想い人に歌が届いて欲しいという願いだけは、月の見守る元で確かに叶っていた。〜end〜
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