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30.名無しの天狗 - 18/03/16 22:12:35 - ID:RDSFIzoSpA
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「*** さん ですね」
思わず椅子を倒してしまった。まさか反応をしてくるとは。いや、マイク
機能でも作動していたのだろうか。理解が及ばないことに私の中で恐怖が
吹き荒れる。今、画面の中の彼女は「言えた。言えた」と奇妙なステップを
踏んでいる。
不思議とその揺れる髪の毛とスカートに目を奪われる。よくよく見ると
可愛らしいものではないか。だが妖艶な笑みを浮かべる小さな顔に納まる、その
細められた瞳は確かにこちらの目を見ている。互いに存在を認めてしまっている。
私は未だに警戒心を払拭できない。してはならないだろう。
「あなたは***さん」
だからどうした。
「あなたは***さん」
何が言いたいのだ。
「あなたは***さん」
再度繰り返される言葉に困惑と焦燥感に襲われる。感覚が鋭敏になり、屋根裏に
うごめくねずみの足音さえ聞こえる。じとりと不快感を覚える冷や汗を台拭きで拭く。
…待て。ここはマンションだ。ならば天井裏だろう。なぜ自然と「屋根裏」などと
思ったのだ。普段から天井裏としか言わない私がなぜだ。
「私は村 キャット」
違う。…いや、だからなぜ違うなどと思うのだ。
「奈良 キャット」
これも違う。ああ、屋根裏からのねずみの足音の数がおかしい。ニ、三匹でも
珍しいものなのだがこれは数百…、もしや千を超えているのではないか?
おかしい。おかしさしかない。その数が収まるはずがないだろうが。だがそれを
感覚で理解してしまっている。そもそもねずみとは何なのだろうか?
だめだ、頭が働いていない。
「ノラ キャット。そうです。そうです」
「そう…です……」
私は口走ってしまった唇を噛む。痛みを感じる。だが、その痛みも混乱する
私の心を抑えてはくれない。煩い、足音が煩い。数千の、鼠に豚の鳴き声に
理解できない言語が頭の上で飛び交っている。やめてくれ。これ以上は戻れなくなる。
戻れなくなるとはなんだ!
「チュウッ…」
舌打ちさえまともにできない有様だ。私は部屋を出るべくドアに突進する。
ぶつかってから内へ開くドアだと思い出し急いでドアノブを掴み、引いた。
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