BellKnight - 第六話 聖夜の戦い
「取り出したるはポーションひとつ!
 ミキシング!トワイライトポーション!」

優しい光に包まれた混合師
エーデルワイスの傷が瞬く間に治っていく

「俺はしつこい女は嫌いだ」

優しさを感じさせないその冷たい瞳で
漆黒の魔王はエーデルワイスを睨みつける

「ジェットブラック」

漆黒の魔王が右手でパチンと指を鳴らすと
右手の周りから無数の漆黒の矢が現れた

「アロービリオン」

漆黒の弓矢がエーデルワイスを狙う

「その技、好きね」
エーデルワイスは素早く輝く石を取り出した
「攻撃のミキシング」
輝く石が魔力を帯びて青色に光り輝く
「メーアスプラッシュ!」
エーデルワイスが唱えた高等魔法
メーアスプラッシュによって発生した波が
襲い掛かる漆黒の矢を飲み込んでいく

「その技が通用しないのは
 もうよく分かったと思ってたけど」
「人にしつこい女って言うけど
 諦めが悪い男に言われたくはないわ」

「フン」
エーデルワイスの言葉に漆黒の魔王は鼻で笑う

「ダークネスソロウ」

漆黒の魔王から闇の魔力が展開される

「この魔力、まずいっ」
エーデルワイスの表情が一気に険しくなる

エーデルワイスはすぐに魔王から距離を置く
「反射のミキシング!」
「遅いっ!」

エーデルワイスが混合術を唱える前に
魔王はこちらに何かを放った

「漆黒のっ!?刃!!?」

凄まじい斬撃音と共にエーデルワイスが宙を舞う
上昇したエーデルワイスの体からは大量の血が乱れ飛んだ

「くっ!」

着地も出来ずに地面に叩きつけられたエーデルワイスは
受けたダメージの苦痛に顔から余裕が消える

「漆黒には誰も勝てない、
 お前じゃここが限界だ」

吐き捨てられた魔王の言葉に悔しさがこみ上げた

「ここまで漆黒獣を突破し
 一人で乗り込んできた事は賛美してやる」

「こいつ……、遊びのつもりで」

敵の実力は未知数、
世界をこんな状況に出来る相手なら
自分一人でどうなる相手じゃない

それくらいは充分分かっていたつもりだった

だがエーデルワイスは
実際に漆黒の魔王と戦い、
予想よりは良い勝負が出来た

そしてそこに油断した
甘かった、甘すぎた
敵はただ手を抜き遊んでいただけだった

エーデルワイスは確かに混合術の実力が高く
混合師の棲む区域、ヴァング大陸ベステン区域でも
現在トップの実力者と称される混合師だ
しかし彼女はあまりにもまだ若すぎた

「ジェットブラック」

漆黒の魔王は再び指を鳴らす

「この技が通用しない、
 さっき言っていたなお前」

生み出される漆黒の矢先がエーデルワイスに向く

「漆黒の中で眠れ、アロービリオン」

漆黒の矢が一斉にエーデルワイスを目指す

「あたし……」
エーデルワイスは地面を見つめた

「子供の頃から……、
 勉強もダメで運動もダメで
 音楽も苦手だし字も下手くそだった」
「でも混合術は……、
 ミキシングだけはっ!
 誰よりも好きだし頑張った」

エーデルワイスは顔を上げる

「風に吹かれてベステン区域、
 私は見習い混合師」

呟きながら輝く石を取り出すと混合術の体勢に入る

「無駄だ」

漆黒の魔王が放った無数の弓矢がエーデルワイスを貫いた

ドサッという鈍い音がフロアに響く

「これで闇はさらに深くなる」
魔王はゆっくりとエーデルワイスの所に向かう
まだ生きているなら確実にトドメを刺すために

しかしその場所に彼女は居ない

「どういうことだ」
背後に何かを感じた魔王が振り返った

「漆黒の魔王っ!」

月光の剣閃が魔王を狙う

「ルナの騎士かっ」

カサシスクの剣を魔王は紙一重で回避する
追撃を繰り出そうとするカサシスクに
魔王はエーデルワイスを仕留めたあの技を放った

「ダークネスソロウ!」

凄まじい斬撃音と共に今度はカサシスクが宙を舞う
手応えを感じた魔王はさらに攻撃を続ける

「ジェット……」

技を唱えようとした魔王の表情が
突如苦痛に歪んだのは
カサシスクが魔王をアメリィで一閃したからだ

「貴様、一体どうやって」

混乱しながらも魔王は
自分の放った技で吹き飛んだはずの
カサシスクのほうを振り返る

「さっきの奴と同じかっ」

魔王のアロービリオンによって
やられてしまったエーデルワイス
魔王のダークネスソロウによって
やられてしまったカサシスク

しかし二人が倒れたはずの場所に
あるはずの二人の姿は無かった

「幻術か?だが手応えはあった」

そう言いながらカサシスクを睨んだ魔王は
その背後に居る何者かに気が付く

エーデルワイスを抱きかかえながら無極が言った

「"身代わりの術"、
 ベコウ大陸でニンジャが扱う
 忍術の一つでござる」

「あなた達は……」
虚ろな瞳で問いかけるエーデルワイスに
カサシスクが静かに答える
「味方だ」

「月の女神からの命令で
 俺を消しに来たかルナの騎士」

「そうだ」

魔王の問いかけに凛々しい表情でカサシスクが答えた


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