「悔い改めよ!!」
フィーリアが持つ聖剣が神父に振り下ろされる。
神父の身体から吹き出た紫炎は真っ二つに切り裂かれ、光が部屋の中を包み込む。
窓から部屋の中を覗き込むカラスの瞳から送り出された情報は、ある男の元に伝達される。
(ヒ……ヒヒャハハ……全て、計画通りにコトが運んだ……!)
――彼の意志を汲んだように、カラスは嗤(ワラ)う。
鎮魂の街ソーンに産まれた男は、本が大好きな少年だった。
お世辞でも社交的とは言えない少年は、友達も持たず、街で一番本のある神父様の家で過ごす。
「クロウ?あまり遅くまで本を読んではいけませんよ。今日も家には帰らないのですか?」
夜は更け、人々は寝静まり闇に包まれた街の中、この家だけはロウソクの明かりが揺れる。
家の中に入ってきた神父は、本から目を離そうとしない少年を心配していたが、彼にはどうでもいい事だった。
一日中、本を手放さない少年の知識欲は他分野に渡り、魔法や歴史、魔物の本など、目につく物は片っ端から読み漁る。
周りの子どもが何を話していようが、耳を貸さない。
またバカ共が騒いでいると、いつしか見下すようにさえなっていた。
その考えが態度にまで出ていれば、イジメに発展していくのは仕方のないことだったかもしれない。
呼び出されては無視をし、神父の家に向かう途中に囲まれて、森の中に連れて行かれ殴られる日々。
少年はいつからか、痛みに耐え、力を求めるようになった。
魔導書を読み、自分にも魔法が扱えないものかと試行錯誤してみたりもしたが、本を読んだだけで習得できるようなものではなかった。
いつも思っていた。
力が欲しい。
あいつらを、一人で殺せるだけの力が……。
そんなある日、いつものように神父の家で一冊の本を読み終えた少年は、本棚にその本を戻すと辺りを見渡す。
目につく本は、見たことのあるタイトルばかり……ついにここにある本を全て読破してしまったようだ。
突然この世から全ての人が消え、ただ一人残されたような虚無感を覚える。
本棚に体重を預け、天井を眺める。
これからどうすればいいのか……。
その時、突然本棚が動いたかと思うと、体勢を崩して床に激突する。
「うわっ!!」
派手に頭を襲う衝撃に悶絶している所に、大量の本が追い打ちの様に少年の背中に降り注ぐ。
そして少年は見つける事になる。
本棚の裏に隠された一冊の古書。
全ての始まりは、この時だった。
クロウはこの本に魅了された。
昔の文字なのか、殆ど読めない。
諦めずに、以前読んだ考古学の本の中にある一枚の挿絵に似た文字が刻まれていた事を思い出し、その1ページを鍵にして解読していく。
しかし、読めば読むほど、この本は恐ろしいものだった。
神父に見つからないように、古書を解読し続けること数年。
見えてきたものは、教会に隠された秘密。
このソーンの街が信仰しているカラス。
そのカラス達と密接に関わる闇の炎。
教会の地下に隠された紫炎は、神父だけに受け継がれる……。
継承する際の儀式に必要なものは、人間の生贄……。
闇の炎に誓約を結ぶと、闇の力とカラスの加護を受けられる。
カラスの加護とは、その人間が寿命以外では……
――死ぬ事がなくなる。
「これは……また随分と黒いですね……教会というのは……」
神父は毎日同じ時刻に帰ると、深夜に一度教会へ行く。
その時間何をしているのか、人の行動に興味がなかったクロウは考えた事もなかった。
しかし、この古書を読み解いている今では話は違う。
「最近はその本ばかり読んでいますね。古い文字に興味を持ったのですか?あまり夜更かししないようにしてくださいね」
神父は笑顔を向けてくる。
神父の前で古書を読むことは直感が許さなかった。
その日も一言だけ声を掛けると、深い闇の街へ消えていく。
ドアが閉まる音がした数十秒後、クロウは立ち上がり神父の後を追う。
教会のすぐ横にある離れの小屋。
そこに辿り着いた神父は、いつになく険しい目つきで辺りを見渡してから静かにドアを開けた。
クロウは小屋に近付き中の様子を見ようとするが、この建物には窓がついていない。
聞き耳を立てるが、中からは物音一つなく、ただただレンガ造りの壁が耳を冷やした。
(ドアを開けるべきか……いや見つかればそれまで……)
唾を飲み込み、緊張を和らげようとするものの、心臓の音が邪魔をする。
次の瞬間、何か大きな物が動く音と振動が走ると、足音が聞こえてきた。
とっさに小屋の横に身を潜め、神父が出て来るのを待つ。
そして、ドアが開いたかと思うと神父は鍵をかけてその場を後にした。
神父が遠のくと、クロウは止めていた息を一気に吐き出す。
ドアには頑丈そうな南京鍵が外側からかけられ、鍵が無ければ入れそうにない。
神父が家に戻る前に先回りをして家に戻ったクロウは、次の日の計画を立てていた。
――翌日
日中、神父の机の引き出しから小屋の鍵を見つけあの小屋に向かう。
この時間であれば、神父は教会で仕事をしている。
幸い小屋の周りに人影はなく、思っていたよりもあっさりと中に入ることができた。
中は物置だろうか、光の入らない暗い建物には沢山の物が置かれている。
昨日聞いた大きな物音は、何かを引き摺るような音。
目星をつけたのは大きな本棚だった。
「秘密にするのに、同じ仕掛けを2つも使うんですか〜?」
何か興冷めするように肩を落としてから本棚の横を見ると、明らかに引き摺った後がある。
体重を乗せて本棚を押すと、さっぱりとした木の扉。
扉の奥には、地下に通じる階段が広がっていた。
「地下室……教会の地下に通じている?なるほど。あの本の内容はやはり本当のようですね」
心を踊らせながらランプを揺らし、地中深くに続く階段を降りていく。
そしてそこには、あの、闇の炎が揺れていた。
禍々しく揺れる紫炎。
まさしく本に書いてある通りの見た目に、クロウの口元が緩む。
触ろうと手を伸ばすも、その炎は火傷で済まないと想像させる何かを発している。
「俺が生贄をこいつに捧げたら、どうなるっていうんだ?」
クロウの歯が紫炎に照らされて不気味に浮かび上がった。
――翌日
「俺に用事ってなんだてめぇ?また殴られてぇのか!?」
顔を合わせれば暴力を振るうガキ大将のドーク。
クロウから呼び出したのはこれが初めてだった。
いつもの取り巻き4人がついてこないように、わざわざドークの家の前で待ち伏せた。
「俺は本当はお前達の仲間になりたいと思ってたんだ。その友情の証って事で、贈り物をしたい。こっちについてきてくれますか?」
淡々と話すクロウに満足そうに笑うドークは、クロウの一歩後を歩きながら森の中を進んでいく。
「あの木の上を見てくれる?」
周りに生えている中で一際大きな木をクロウは指差し、ドークが見上げる。
その瞬間に、隠していたナイフで首元を切り裂いた。
「思ったよりも、簡単に死ぬのですね」
クロウは動かなくなったドークを見下ろして笑顔を作る。
大きな袋に入れて荷車に乗せ、街の近くまで運ぶ。
クロウにとっては初めての重労働だったが、苦に感じることはなかった。
その日の夜。
神父が紫炎の小屋から戻ってきてから、そっと鍵を盗んで外に抜け出した。
胸の高鳴りを抑えながらドークの死体を地下まで運ぶ。
紫炎の前に辿り着くと、ドークを炎の中へと投げ込んだ。
「さぁ!!紫炎よ!!俺に力を!!!」
炎は勢いを増す。
手の中に溢れる力を、クロウは確かに掴み取った。
力を入れると手の平から闇の炎が吹き出し、その熱を感じる。
「ヒャハハハハ!!これで俺も不死身になったのか!?」
ナイフで自分の手を思いっきり斬ってみると、鮮血が飛び散り、痛みを感じた。
「なぜだ!!?なぜあの書の通りにならない!?」
クロウは顎に手を当てて考える。
あの本にあった通り闇の炎の力を扱えるようになったが、まだ足りないものがあるのだろうか。
その日は一度戻り、傷の手当をしてからまた古書を読むことにした。
更に古書を解読していくも、今まで得た情報以上の事は書いていない。
ならば考えられる事は一つ。
既に神父が闇の炎の力を持っているからだろう。
あの神父を消せば……
しかし、神父は寿命でしか死ぬことがない。
事故に見せかけて殺す事が出来ないなら、神父の寿命を待つしかないのか。
不死の力について書かれている箇所の解読を進めるが、外傷を与える事が出来ないとしか書いていなかった。
しかし、闇の炎について書かれた箇所に、気になる一節を見つける。
『闇の力を制御する聖騎士の祈り。其の聖なる力は闇と共存する為に不可欠であり、闇の暴走を止められる唯一の手立て』
クロウは思案する。
確かに、聖騎士は毎週教会で祈りを捧げなければいけないという掟があり、祈りは聖騎士の役目となっている。
闇の力が制御できるように抑えているという事か……?
神父が闇の炎の力を悪用しようとした時には、聖騎士がその力を抑えられる……
ならば……
クロウは笑う。
「思ったよりも面倒ですが……寿命を待つよりは遥かに早くコトを進められそうですね〜……」
その時、クロウの視界に空が広がった。
「なんだ!?」
眼下に広がる街並みは、ソーンの街だった。
「これは……鳥の視点……?カラス??」
カラスの群れが見えた時に、クロウは古書に書かれた事を思い出す。
闇の炎とカラスは密接に関わっている。
ソーンの信仰対象となっているカラス……。
「なるほど……こうしてカラスの視界を得る事で、ソーンの街を外敵から守っているのですか……」
意識を集中すると、カラスの飛ぶ方向を右へ左へと動かすこともできる。
ソーンにいるカラス達全てがクロウの視界となった瞬間だった。
「これは……面白いですね〜……ククク……」
クロウはそれから数週間をかけて、カラスをより精確に操れるように毎日訓練をする。
同時に、聖騎士に神父を殺させる計画を立てていった。
何か一つでも間違えば全てが終わってしまう、失敗の許されない計画。
難しいかもしれないが、これを成功させれば完全なる闇の炎がクロウのものになるならば、一切隙のない完璧な計画を立てる必要があった。
「あの力が……あの力があれば俺は…………」
クロウは笑う。
――数ヶ月後
新たな教会騎士が選出される時期になり、クロウは教会騎士へと志願した。
体力は他の人間よりもないクロウだったが、諜報部なら役に立てると神父に打診する事で、無事に教会騎士へと任命される。
しかし、その直後からクロウの闇の炎の力に異変が現れ始めた。
闇の炎の力が確実に衰え始めている。
手から出す事の出来る闇の炎は、決まって週に一度、聖騎士の祈りの日に小さくなっていく。
このままでは計画に支障をきたすと考え、対策を打つ事を余儀なくされた。
聖騎士の祈りで闇の炎が沈静化されているのであれば、さらに生贄を投げ込み、その力を増幅させる必要があると考えた。
しかし、一人で定期的に生贄を用意するのはあまりにもリスクが大きい。
必要なのは協力者だった。
昔ドークの取り巻きとしてクロウに暴力を振るっていた4人に目をつける。
この4人ならば裏切らない協力者にすることが可能だと考えた。
「みんな、よく集まってくれましたね。エイムス、ゴイル、グレゴに、チャーズ」
数年ぶりに会話をする4人は、何か気まずそうだ。
いじめていた張本人に招集されれば無理もないだろう。
「クロウ……元気そうだな。お前も教会騎士になったんだよな?昔は色々あったけど、これからは仲良くやろうな」
チャーズがバツの悪そうな顔をしながら話す。
クロウは笑顔で返した。
「はい、そうですね。私もそう考えていました」
クロウの声で、4人に安堵の表情が浮かぶ。
しかし、次の一言でその顔は凍りつく事となった。
「実は、皆さんに伝えなくてはならない事がありまして……。お友達だったドークを覚えていますよね?ドークを殺したのは私なんですよ」
「まて!!なんだそれ!?ドークは行方不明のまま……森の中で魔物に襲われたっていう事になって……」
クロウは笑う。
「死体が見つからなかったらそうなるでしょうね。でも実際は私が殺しました。皆さんも彼と同じ所に行きますか?」
そう口を切ると手から闇の炎を見せた。
「それはなんだ!?本当にお前がドークを………」
クロウは笑顔のまま答え、本題に入った。
「信じる信じないは勝手だと思いますが、これを誰かに話せば皆さんもドークと同じ場所に行くことになるのは覚えておいてくださいね。そして、皆さんには私の仕事を手伝って貰おうと思ってます」
「し、仕事?」
「はい。そう難しくはない力仕事ですよ。ほら、私はあまり体力がないもので、皆さんに手伝って欲しいんですよ」
4人は顔を見合わせると、ゴイルが口を開いた。
「少し考えさせてくれないか……」
「いいですよ。ただし、このことは他言無用でお願いしますね」
その日は解散して、各々教会騎士の宿舎に戻る。
夜になると、クロウは4人の中の一人、チャーズの部屋に出向いた。
「チャーズ。クロウです。少しお話をしてもいいですか?コーヒーをお持ちしました」
部屋に招き入れられたクロウは、他愛のない話を続ける。
ドークの隣の家に住んでいたチャーズを一番警戒するのは当たり前の事だった。
この計画で肝となっているチャーズに対し、最後の仕込みを入れる。
「おっと、長居してしまいましたね。そろそろ私は戻ります」
クロウは空になったコーヒーカップを持って自室へ戻った。
翌日、また4人を集めたクロウは、人気のない森の中へ歩いた。
「おい、クロウ……こんな森の中にいったいなにが……」
「まぁまぁ、力仕事があると言ったじゃないですか。ちょっと今日は手伝って貰おうと思いまして……」
チャーズ達は浮かない顔をしながらクロウについていく。
そして、ある木の下でクロウは立ち止まった。
「ここはですね、ドークを殺害した場所なんですよ」
4人の表情が一気に険しくなる。
「皆さんに頼みたいのはですね、死体を運んで貰いたいんです」
「死体!?一体誰の!?まさかドークの……!?」
「いえ、ドークの死体はその時に処理しました。今回運んで貰うのは、裏切り者の死体です」
クロウは笑みを浮かべながらチャーズの顔を見た。
チャーズは訳の分からないまま答える。
「裏切り者って……誰だよ……?」
クロウがパチンと指を鳴らすと、チャーズの身体が燃え上がる。
「うあぁああああああ!!!!」
3人は闇の炎に包まれるチャーズから飛び退き、その光景を傍観する事しかできない。
自分の手から出すことの出来る紫炎は、物に閉じ込めることもできると実験で分かった。
そして仕込んだ炎は自分の意図したタイミングで燃え上がらせる事ができる。
昨日仕込んだコーヒーに闇の炎をしっかりと入れ込んだ効果が出ている事に、クロウは満足気な表情を浮かべた。
倒れたチャーズを前に3人は息を呑む。
「それでは皆さん、死体が出来上がったので、この袋に詰めて運んでください。なぁに、チャーズは昨日の晩に私を売ろうとしたんですよ。ドークの件を許せなかったようですね。だから、彼と同じ所に行くんです。残りの皆さんはそんなバカげた行動は取らないと信じていますよ」
こうして、協力者を得たクロウは、3人にチャーズの死体を闇の炎へと投げ込ませた。
闇の力が強くなったのを確かめたクロウは笑う。
「聖騎士の祈りも、これで克服できました……。あとは……」
――数週間後
この日、計画の上で重要な仕込みをするクロウは、エイムス、ゴイル、グレゴの3人に最終確認をとっていた。
この3人と、クロウ、聖騎士との5人での任務。
神父を殺す為に、この日のミスは許されなかった。
神父から予め盗んでおいた弔い瓶(とむらいびん)。
弔い瓶はソーンに伝わる風習のひとつで、親しい人が亡くなった際、弔いの意味を込めて身に着ける装飾品。
この世に一つとして同じ物はない。
これが計画においてキーになるのだ。
そして、もう一つのキーは、聖騎士のフィーリアと同じ孤児院で育ったライベルという教会騎士の存在。
ライベルはこの日、別の隊として行動をする予定だ。
任務は簡単な魔物退治であったが、クロウは道中から任務中までカラスを操る事に意識の大半を割いていた。
ライベルを上空から確認して、隙を狙い続ける。
「たいしたことはなかったな。クロウ、大丈夫か?」
突然話しかけてくるフィーリアに邪魔されながらも、その場をうまくやり過ごす。
次の瞬間、ライベル達の隊も最後の魔物を倒し、ライベルに隙が生まれた。
(今だ!カラスよ!!!)
上空から滑空するカラスにライベルが気づく筈もなく、カラスのクチバシがライベルの胸元に掛かったペンダントを捉える。
「何だっ!?カラス!?悪い……みんな、大事なペンダントが今のカラスに持っていかれた。先に戻ってくれるか?」
ライベルのペンダントは、孤児院に入る前、ライベルが両親から貰った大事な形見。
彼の事であれば、一人でカラスを追うだろう。
クロウの読みは的中していた。
エイムス、ゴイル、グレゴの3人に合図を送ったクロウは、フィーリアと別行動を取る。
「それじゃあ…まあ、戻るとしましょうか?教会への報告は私の方で済ませておきますから、聖騎士殿はどうぞ先に帰って休んでくださいな」
聖騎士と距離を取ったクロウ達は、近くまでおびき寄せているライベルの元へと向かった。
カラスを木の上に止まらせ、ペンダントを枝に引っ掛けさせ、カラスを飛び立たせる。
ライベルはその木を必死に登ろうとしていた。
「じゃあ、皆さん、あの木に全力で攻撃して木を倒してください」
3人が魔力を込めた武器を持って一斉にライベルの登る木を攻撃すると、木は音を立てて倒れる。
「うわぁあああ!!」
何が起こったか想像もしていないであろうライベルに一瞬で近づき、喉元をナイフで斬る。
切り口からは闇の炎が吹き出して、ライベルは絶命した。
3人にライベルを教会の付近まで運ぶように指示すると、ライベルのペンダントを奪わせたカラスに神父の弔い瓶を咥えさせる。
「それじゃあ、お願いしましたよ」
ライベルが元々任務でいた場所の付近にカラスを飛ばすと、クロウは3人にその場を任せて街まで走る。
街ではライベルの隊が既に教会で報告をしていた。
「お疲れ様です。あれ?ライベルさんの姿が見えませんが……」
クロウは何食わぬ顔で状況を確かめる。
「それが……任務が終わった後無くし物をしたとかでまだ戻っていないんです」
「そうですか……。最近教会騎士の失踪事件も増えていますし……心配ですね……ライベルさんまでいなくなったら……」
「そんな筈は!ライベルに限ってそんな事はないですよ!」
「そうですか?では、チャーズは失踪してもおかしくなかったとでも言うのですか?」
押し黙る男を見て、クロウは心底おかしく思う。
目の前の男が一気に不安に掻き立てられて青ざめていく様子は、クロウからすれば滑稽でならなかった。
「ライベルの捜索を……みんな!ライベルを探すんだ!」
突然慌てるように言い始めた男。
これでいい。
後は、フィーリアにこの情報を渡せば……。
街の中は慌ただしい雰囲気に包まれた。
あちこちで教会騎士が地図を持ちながら声を上げている。
クロウはその様子を見ながら正門に身を隠していると、フィーリアがやってきた。
こんな時間に門から出る騎士達を不審に思っているのだろう、騎士に声を掛けようとするフィーリア。
「お、おい……」
(さてと、しっかり釣られてくださいよ?)
「おやおや?聖騎士殿。どうしたのですか?教会への報告なら私がもう済ませましたよ?」
クロウが声をかけると、フィーリアは険しい表情で振り向いた。
「クロウか。いや、この騒ぎはなんだ?何かあったのか?」
クロウの想定通りの質問をしてくるフィーリアに楽しさが抑えきれない。
「ン〜……どうやら、任務の途中で行方不明になった騎士がいるようで。いやぁ……最近多いみたいで怖いですよね?その騎士は確かライベルって名前で……」
そこまで話してフィーリアの顔を見ると、明らかに動揺をしている聖騎士にまた可笑しさがこみ上げてくる。
「おや?聖騎士殿?どうかされました?」
「クロウ!ライベルという名前で間違いないのか!?」
クロウの肩を掴み、フィーリアはものすごい剣幕でクロウに詰め寄る。
「え?ええ、間違いなくそう聞きましたよ。あれ?恋人とかだったんですか?」
冗談を混ぜないと可笑しくて吹き出してしまいそうだ。
少し感じ取られてしまったか、勘に触ったようだった。
「ライベルが最後に行った場所はどこだ!?私のとても大切な友人なんだ!今すぐ私が探しに行く!」
直ぐにでも場所を教えたい所だが、ここは少し演技をしなければ目論見がバレ兼ねない。
「ちょっ……落ち着いてくださいよ!今日はもう日が落ちますよ?聖騎士殿までいなくなったら……それに、捜索隊も結成するみたいですし……」
「頼む……知っているんだろ?……教えてくれ」
これでいい。そろそろ大丈夫だろう。
「あ〜もう!分かりましたよ!でも、必ず帰ってきてくださいよ?私もできる限り協力します」
ニッと笑って手を差し出す。
フィーリアはクロウの手を取り、両手で包み込んだ。
「本当か!?恩に着る……」
これで、問題はないだろう。
「ライベルが行方不明になったのは、私達が魔物と戦ったところから少し東の場所のようです。魔物討伐の任務を受けていたみたいですが、帰ってきた同じ隊の連中が言うには……魔物討伐を終えて教会へ戻ろうとしたらライベルが忽然と消えていたんだそうです」
フィーリアはそれを聞くと踵を返し、森の方角へ走っていった。
「さてと、約束通り、協力しないとですね……ヒヒヒ……」
カラスを操り、フィーリアを見張る。
あの弔い瓶を置いた場所にフィーリアが辿り着く事。
しかし、それよりも先に、ライベルの死体を生贄にする時間を作らなくてはならない。
幸い、教会騎士は皆ライベルの捜索に当っている為、教会の隣の小屋の付近に人影はなかった。
エイムス、ゴイル、グレゴと落ち合う予定の場所まで移動し、ライベルの死体を運ぶ。
闇の炎の前に辿り着くと、3人を宿舎へと戻し、一人闇の炎に手を当てながらライベルの死体を投げ込んだ。
「ククク……いいぞ……いいぞ……!もっと俺に力を!!」
炎は燃え上がり、漆黒の火柱が上がる。
クロウは確かな手応えを感じていた。
「さて、そろそろ頃合いだろうか」
フィーリアを追っていたカラスを鳴かせて、目的の場所に誘導する。
そして、カラスの目を通してフィーリアが弔い瓶を無事に見つける事を確認した。
「ヒヒャハハハ……!!これでまた一つ計画が進んだ!!」
額に手を当てて狂うように、クロウは笑う。
そして、神父が闇の炎を見にくる時間がやってくる。
クロウはその場から動かない。
次の仕込みは、神父に仕掛ける計画。
(さぁ……こいよ……)
数分後、階段を降りてくる足音が聞こえ、クロウは神父を出迎える準備を整えた。
「し、神父様!?これは一体なんなのですか!?」
クロウは闇の炎を指差しながら神父に問い詰める。
「クロウ……あなたは何故ここにいるのですか?」
驚いている神父に向けて、クロウは用意していた通りに話を進めた。
「教会騎士がいなくなっている。諜報部員として色々と調べていたら、夜な夜なこの辺りに人影を見ると話がありました。調べてみたら、小屋の奥にこんな物があるじゃないですか!そこに、あなたが来た……。どういう事か説明して貰えますか!?」
クロウは迫真の演技を続ける。
「もしかして……教会騎士が消えている事に関して、神父様が関係しているとでもいうのですか!?」
「クロウ……それは違います……」
後ずさりする神父。
この闇の炎のことは誰も知らない。
それがバレてしまった瞬間の今、変な疑いも掛けられて神父はパニック状態だろう。
「説明してもらえますか!?本当の事を話してください!!」
神父の肩を掴み、力強く身体を揺する。
その拍子に神父の胸元から、モノクルが落ちるのをクロウは見逃さなかった。
「わかりました……全てお話しますから……落ち着いてください」
クロウは目的の一つを果たし、神父の話に耳を傾ける。
「これは、闇の炎……この街、ソーンを守る存在なのです」
神父は炎をその手に出してクロウに見せる。
神父の話は本に書いてある通りだった。
ソーンの神父は代々、この闇の炎の力でカラスの瞳を手に入れ、街の平穏を保っていた事。
聖騎士の祈りによって闇の炎の力が抑制されている事。
そして、今回の教会騎士の失踪に関しては、神父は何も知らない事。
想像していた通り、神父は毎晩闇の炎へ出向き、そこでカラスの瞳を使っていた事。
何故いつでも使えるものを使わないのかと疑問に思っていたが…神父の掟にはカラスの瞳を悪用しない為にも決まった時間にのみ、この炎の前で行うという規定があるらしい。
神父が闇の炎に出向く時間はカラスの瞳を使わなかったのは正解だったようだ。
全ての話を聞き終えたクロウは、真剣な表情で神父を見ていた。
「わかりました。この事は私の心に留めておきましょう」
「本当ですか?」
「えぇ。神父様が教会騎士の失踪と絡んでないのであれば、その事件を解決する事が先決ですし……。それに今の話を聞いた所、神父様は事件解決の為にこの炎でカラスを使っていたという事ですよね?」
「えぇ……まぁそうですね」
「なら、やはり事件の解決を急ぎましょう。疑ってしまい、申し訳ありません」
クロウは話を続ける。
「聖騎士のフィーリアにも、事件解決の為に動いて貰ってもいいですか?彼女は優秀だ。きっと何か掴んでくれる筈です」
「実は、最近この炎の力が不安定になってきているのです。今回の事件と関係があるのかはまだ分かりませんが……。フィーリアには祈りを続けて貰わねばなりません」
「今日行方不明になった教会騎士……ライベルでしたか……聖騎士様にとって良いご友人だったかと。彼女を縛り続けるのは酷な話です。神父様の懸念も分かりますが、彼女の意思を尊重してあげてください」
「それも……そうですね。いや、クロウ。君には随分と助けられてしまうな……」
「いいのですよ。神父様は社会に馴染めなかった私を救って貰った恩人ですしね……。おっと、もし彼女がこの闇の炎に関して気が付いて神父様に問う事があれば、下手に隠さずに、今私に話したように全て話した方がいいですよ。変に隠そうとすると、それこそ話が拗れるでしょうし」
「わかりました。そうしましょう」
クロウの目的は全て果たされた。
これで神父側の準備は問題ない。
後は―――
――数日後
計画は最終段階に入った。
次は、フィーリアに自分の事を疑わせる必要がある。
クロウは、街中を歩くフィーリアに声を掛けた。
「おやおや、聖騎士殿。こんな所で奇遇ですね。鎧が直ったんですか?いやあ、あんなにボロボロのドロドロになるまで……ライベルを探すなんて中々無茶しますよねぇ。そういえばライベルの手がかりが全く掴めていないみたいじゃないですか?」
「クロウか……余計なお世話だ」
「聖騎士殿はつれないですね〜。教会騎士の間じゃこの事件を“夜の鍵”の仕業だとか、神隠しだとか……。そもそも神に仕える身で何を言っているんだか…ほんと、笑っちゃいますよね?」
「クロウ……私は忙しいんだ」
関心を持とうとしないフィーリアに、一つ目の罠を仕掛ける。
「この間消えたっていう二人も、“森”で一人で行動したから消えたって……まったく!迷子じゃあるまいし、ほんと聖騎士殿も気をつけてくださいよ」
「森……?クロウ、お前やけにこの件に詳しいじゃないか。一人で行動をしていたやつが行方不明になるのは知っているが、場所に関しての情報は表に出ていないはずだぞ?なぜお前がそれを知っているんだ?」
(ヒヒヒ……掛かった……。思ったよりも頭がキレますね〜。手間が省けて良いことです!)
「え?あ、いやあ……あれですよ。一緒にいた隊の騎士に聞いたんですよ」
「それは嘘だな。行方不明になった者が隊を組んでいたとは聞いていないぞ」
(確実に食いついている。いいぞ……いいぞ……)
「か、勘違いですかね〜?あ、それよりもその弔い瓶は……」
(話を誤魔化しているように見えるだろうか……?演技というのは難しいですね〜)
「この弔い瓶はライベルがいなくなった場所にあった。私の物でもライベルのものでもない。こいつは……お前のものじゃないのか?」
「弱りましたねぇ……私を疑うんですか?なんで行方不明になったのかもわからないのに、私を疑うなんてあんまりですよ!それに私は弔い瓶なんて持っていませんし……」
(さぁ!来い!もっと食いつけ!!)
「……すまんな、気がどうかしていたよ。忘れてくれ」
急に頭に手を当てて、フィーリアは今までの会話を忘れるように首を振る。
(おい!急にどうした!?もっと疑えよ!俺は怪しいだろう!?)
フィーリアの様子から、これ以上は話したくないという空気を感じ取り、クロウは苦肉の策を取る。
「待ってください!…疑われたままでは私の名誉に関わりますよ。今日一日私を監視してみてはいかがですか?身の潔白くらい証明させてくださいよぉ。あ、それに今日は任務もないので手がかりを探すお手伝いもできますよ」
「そうか。わかった」
少し危なかったが、なんとか自分の部屋にフィーリアを招き入れる事ができた。
これで作戦の最終段階は整った。
後は、勝手にフィーリアが動く筈。
クロウは他愛のない話をした後、自分のベッドに潜り込んで“その時”が来るのを待った。
――その日の深夜
窓の外のカラスの目から自室の様子を伺ってみる。
フィーリアが寝ていれば鳴かせて注意を引きつける予定だったのだが、フィーリアは窓際で起きているようだった。
予定通り、エイムス、ゴイル、グレゴにカラスを使って合図を送り、墓荒らしに出かけさせる。
通るルートは自室の窓から見える道を選んだ。
フィーリアはこの3人を見つける筈だ。
「ん?あれは、エイムスにゴイルにグレゴじゃないか。こんな時間に何をしているんだ?」
フィーリアはクロウの部屋から出ていく。
計画通り事が進み、クロウは枕で笑い声を抑えていた。
3人が墓荒らしをしている現場をフィーリアは見納め、そのまま教会横の小屋まで3人を追う。
その場で声を掛ける事もあるだろうと踏んで次の手を用意しておいたが、思ったよりもフィーリアは慎重なようだ。
無事に小屋まで誘導する事が出来た。
カラスの瞳から小屋の様子を伺う。
フィーリアは小屋の中に入り、辺りを物色しているようだった。
闇の炎に死体を投げ入れ終わった3人が、隠し扉から出てくる。
予定通り、フィーリアと鉢合わせた。
「貴様らが一連の失踪事件の犯人だったのだな!吐け!その先には何がある!?とぼけても無駄だ……この小屋に死体を運び込むのを見ていた!さぁ吐け!貴様らがしたことを一つ残らずだ!この先には一体何がある!」
怒声を上げるフィーリア。
クロウはその様子を、半空きになった小屋の入り口に配置したカラスの瞳から眺めている。
「こ、殺さないでくれ!俺達は、なんにも知らねぇんだ!脅されててよ…やるしかなかったんだよ!」
エイムスのなんとも滑稽な態度にクロウは吹き出した。
「わ、分かった、正直に話す!だから、命だけは!」
(頃合いだな。お前ら、よく働いたご褒美だ)
クロウはパチンと指を鳴らす。
予め3人に飲ませたコーヒーに仕込んでおいた闇の炎が燃え上がり、身体の内側から燃えていく。
「ぐぉおおおおおああああああ!!!」
(さぁ、後一手で、チェックメイトですね)
クロウは笑う。
朝になり、教会の側で身を潜めていたフィーリアに声を掛ける。
「おやおや聖騎士殿。昨晩は突然どちらに行かれたんですか?朝起きたら聖騎士殿はいないし、親しい仲間が三人も亡くなってしまって…そしてこの騒ぎですよ」
小屋の外で一晩を明かしたフィーリアには流石に疲れが見て取れる。
3人の焼死体はシスターが発見し、既に小屋の周りには人だかりが出来ていた。
その中には神父の姿もある。
「クロウ!どういうことだ?私を疑っているのか!?私が奴らを殺したと」
「えぇ…まぁ普通に考えたらまずあなたを疑うでしょうね。あなたが突然いなくなって朝まで帰ってこない。そして死体が三つも見つかる…十分じゃないですか?」
「クロウ。彼らは臓腑を炎で焼かれたと聞いたが……私には炎の魔素は扱えない」
頭を悩ませているフィーリアに、最後の一手を用意しようと、クロウはフィーリアに別れを告げて小屋に向かう。
「この小屋の調査は教会騎士の諜報部が行います。皆さん、速やかに撤収してください。神父様も、それでいいですね?」
神父に目配せで、闇の炎は私が守りますと伝えると、神父は首を縦に振った。
「現場はクロウに任せて、皆さんは3名の葬儀の準備を急いでください」
慌ただしい現場は一旦クロウに任せられて、他の者は散り散りになった。
その時、フィーリアがクロウに近づいてくる。
「聖騎士様、どうされました?まだなにか……」
クロウは構える。
ここでミスがあれば全てが水の泡になってしまう。
フィーリアは手に何かを乗せてクロウに見せてきた。
「クロウ。あの小屋には得体の知れない禍々しい炎が隠されていたんだ。私はそこでこれを拾った」
クロウは目を丸くする。
それは、最後の一手だと用意しておいた神父のモノクル。
現場検証の際に自分が見つけてフィーリアへと渡すつもりだったがクロウにとっては、嬉しい誤算だった。
笑いを隠すのが難しい。
「ゴホッゴホッ……失礼。ほう……これは……何かのレンズですかね?若干度が入っているように見受けられます」
必死に笑いを咳払いで誤魔化し、確信に迫る。
最後の一手を打ち切った。
(さぁ、チェックメイトです)
フィーリアが去ったのを見届け、クロウは笑う。
あのレンズが神父のモノクルだという事は感づいただろう。
そして、あの弔い瓶も神父のものだとフィーリアは気がついている。
神父にその話をすれば、クロウの助言通り神父は事実をフィーリアに話す。
そして闇の炎を神父が手から出すのを見せれば、その時が神父の死ぬ時。
全て、計画通りにコトが運ぶ……。
そして――――
カラスの瞳を使い、神父の部屋の窓を眺めるクロウ。
やってきたフィーリアは、クロウの台本通りのやり取りをしていく。
「悔い改めよ!!」
倒れ込む神父。
崩れ落ちるフィーリア。
(ヒ……ヒヒャハハ……全て、計画通りにコトが運んだ……!)
フィーリアのいる部屋に足を運ぶクロウ。
最後にフィーリアを励ますような言葉を吐いて穏便に終わる。
そうすれば、闇の炎はクロウのものになる。
全て計画が上手くいったのだ……最後まで成し遂げよう。
「今の音は一体どうしたんです!大丈夫ですか神父様!!……な、なんと!?せ、聖騎士殿これは一体……何があったんですか?」
「神父様が……ライベルや他の騎士達を!私は、許せなかった!育ての親であっても間違いは正さなければ……」
笑いがこみ上げる。
我慢……ここで我慢しなければ……。
「一人で抱えないでくださいよ、聖騎士殿。私もお力になりますから。あ!胸を貸しましょうか?いくらでもこの胸で泣いていただいてかまいませんよ!」
(ダメだ……堪えきれない……)
口元が緩むクロウ。
目の前にいるフィーリアは、今まで信頼してきた神父を騙されて殺して……そしてその騙された男に恩を感じている……こんなに滑稽な事があっていいのだろうか……
「今は……お前のその適当な感じに救われる」
「ン〜、私は至って真面目なつもりなんですがねぇ」
「フフフッ……それはすまなかったな」
(もう……限界だ……)
「フフフ……フフハハハ……ヒヒャハハハハ!!!」
どうしようもなかった。
こんなにも面白い事が世の中にあっていいのだろうか。
「クロウ!?どうした!?」
「どうしたもこうしたもあるか!!これが笑わずにいろってのが無理な話だろうが!!ヒャハハハ……」
全てが上手くいった。
それが途方もなく可笑しい。
クロウは笑う。
その時、外から物凄い音が聞こえてきた。
ソーンの街に、帝国軍が進行した瞬間だった。
混乱する人々の声、崩れる建物の音。
フィーリアはとっさに外に飛び出した。
クロウは笑いをまだ抑える事が出来ない。
「今度は……なんだってんだ……ヒャハハハ!!」
――数刻後
クロウが教会から出ると、目の前に戦場が広がっていた。
その最前線にフィーリアが見えるが、どうやら押されているようだ。
腹を抱えてクロウは笑う。
「助けてやろうか!?聖騎士様よぉ……!!ヒャハハハ……!!」
全てを悟ったフィーリアは、クロウを睨みつける。
「貴様の助けなどいらん!この裏切り者が!!!」
その怒りさえ、クロウには堪らない。
「ヒャハハハ!!お前は街を守りたい!俺は帝国に炎の秘密を知られたくない!動機は違うが、目的は一致してるじゃねぇか!!俺が一緒に戦ってやるよ!ヒヒャハッハハハハ!!!!」
フィーリアが持つ聖剣が神父に振り下ろされる。
神父の身体から吹き出た紫炎は真っ二つに切り裂かれ、光が部屋の中を包み込む。
窓から部屋の中を覗き込むカラスの瞳から送り出された情報は、ある男の元に伝達される。
(ヒ……ヒヒャハハ……全て、計画通りにコトが運んだ……!)
――彼の意志を汲んだように、カラスは嗤(ワラ)う。
鎮魂の街ソーンに産まれた男は、本が大好きな少年だった。
お世辞でも社交的とは言えない少年は、友達も持たず、街で一番本のある神父様の家で過ごす。
「クロウ?あまり遅くまで本を読んではいけませんよ。今日も家には帰らないのですか?」
夜は更け、人々は寝静まり闇に包まれた街の中、この家だけはロウソクの明かりが揺れる。
家の中に入ってきた神父は、本から目を離そうとしない少年を心配していたが、彼にはどうでもいい事だった。
一日中、本を手放さない少年の知識欲は他分野に渡り、魔法や歴史、魔物の本など、目につく物は片っ端から読み漁る。
周りの子どもが何を話していようが、耳を貸さない。
またバカ共が騒いでいると、いつしか見下すようにさえなっていた。
その考えが態度にまで出ていれば、イジメに発展していくのは仕方のないことだったかもしれない。
呼び出されては無視をし、神父の家に向かう途中に囲まれて、森の中に連れて行かれ殴られる日々。
少年はいつからか、痛みに耐え、力を求めるようになった。
魔導書を読み、自分にも魔法が扱えないものかと試行錯誤してみたりもしたが、本を読んだだけで習得できるようなものではなかった。
いつも思っていた。
力が欲しい。
あいつらを、一人で殺せるだけの力が……。
そんなある日、いつものように神父の家で一冊の本を読み終えた少年は、本棚にその本を戻すと辺りを見渡す。
目につく本は、見たことのあるタイトルばかり……ついにここにある本を全て読破してしまったようだ。
突然この世から全ての人が消え、ただ一人残されたような虚無感を覚える。
本棚に体重を預け、天井を眺める。
これからどうすればいいのか……。
その時、突然本棚が動いたかと思うと、体勢を崩して床に激突する。
「うわっ!!」
派手に頭を襲う衝撃に悶絶している所に、大量の本が追い打ちの様に少年の背中に降り注ぐ。
そして少年は見つける事になる。
本棚の裏に隠された一冊の古書。
全ての始まりは、この時だった。
クロウはこの本に魅了された。
昔の文字なのか、殆ど読めない。
諦めずに、以前読んだ考古学の本の中にある一枚の挿絵に似た文字が刻まれていた事を思い出し、その1ページを鍵にして解読していく。
しかし、読めば読むほど、この本は恐ろしいものだった。
神父に見つからないように、古書を解読し続けること数年。
見えてきたものは、教会に隠された秘密。
このソーンの街が信仰しているカラス。
そのカラス達と密接に関わる闇の炎。
教会の地下に隠された紫炎は、神父だけに受け継がれる……。
継承する際の儀式に必要なものは、人間の生贄……。
闇の炎に誓約を結ぶと、闇の力とカラスの加護を受けられる。
カラスの加護とは、その人間が寿命以外では……
――死ぬ事がなくなる。
「これは……また随分と黒いですね……教会というのは……」
神父は毎日同じ時刻に帰ると、深夜に一度教会へ行く。
その時間何をしているのか、人の行動に興味がなかったクロウは考えた事もなかった。
しかし、この古書を読み解いている今では話は違う。
「最近はその本ばかり読んでいますね。古い文字に興味を持ったのですか?あまり夜更かししないようにしてくださいね」
神父は笑顔を向けてくる。
神父の前で古書を読むことは直感が許さなかった。
その日も一言だけ声を掛けると、深い闇の街へ消えていく。
ドアが閉まる音がした数十秒後、クロウは立ち上がり神父の後を追う。
教会のすぐ横にある離れの小屋。
そこに辿り着いた神父は、いつになく険しい目つきで辺りを見渡してから静かにドアを開けた。
クロウは小屋に近付き中の様子を見ようとするが、この建物には窓がついていない。
聞き耳を立てるが、中からは物音一つなく、ただただレンガ造りの壁が耳を冷やした。
(ドアを開けるべきか……いや見つかればそれまで……)
唾を飲み込み、緊張を和らげようとするものの、心臓の音が邪魔をする。
次の瞬間、何か大きな物が動く音と振動が走ると、足音が聞こえてきた。
とっさに小屋の横に身を潜め、神父が出て来るのを待つ。
そして、ドアが開いたかと思うと神父は鍵をかけてその場を後にした。
神父が遠のくと、クロウは止めていた息を一気に吐き出す。
ドアには頑丈そうな南京鍵が外側からかけられ、鍵が無ければ入れそうにない。
神父が家に戻る前に先回りをして家に戻ったクロウは、次の日の計画を立てていた。
――翌日
日中、神父の机の引き出しから小屋の鍵を見つけあの小屋に向かう。
この時間であれば、神父は教会で仕事をしている。
幸い小屋の周りに人影はなく、思っていたよりもあっさりと中に入ることができた。
中は物置だろうか、光の入らない暗い建物には沢山の物が置かれている。
昨日聞いた大きな物音は、何かを引き摺るような音。
目星をつけたのは大きな本棚だった。
「秘密にするのに、同じ仕掛けを2つも使うんですか〜?」
何か興冷めするように肩を落としてから本棚の横を見ると、明らかに引き摺った後がある。
体重を乗せて本棚を押すと、さっぱりとした木の扉。
扉の奥には、地下に通じる階段が広がっていた。
「地下室……教会の地下に通じている?なるほど。あの本の内容はやはり本当のようですね」
心を踊らせながらランプを揺らし、地中深くに続く階段を降りていく。
そしてそこには、あの、闇の炎が揺れていた。
禍々しく揺れる紫炎。
まさしく本に書いてある通りの見た目に、クロウの口元が緩む。
触ろうと手を伸ばすも、その炎は火傷で済まないと想像させる何かを発している。
「俺が生贄をこいつに捧げたら、どうなるっていうんだ?」
クロウの歯が紫炎に照らされて不気味に浮かび上がった。
――翌日
「俺に用事ってなんだてめぇ?また殴られてぇのか!?」
顔を合わせれば暴力を振るうガキ大将のドーク。
クロウから呼び出したのはこれが初めてだった。
いつもの取り巻き4人がついてこないように、わざわざドークの家の前で待ち伏せた。
「俺は本当はお前達の仲間になりたいと思ってたんだ。その友情の証って事で、贈り物をしたい。こっちについてきてくれますか?」
淡々と話すクロウに満足そうに笑うドークは、クロウの一歩後を歩きながら森の中を進んでいく。
「あの木の上を見てくれる?」
周りに生えている中で一際大きな木をクロウは指差し、ドークが見上げる。
その瞬間に、隠していたナイフで首元を切り裂いた。
「思ったよりも、簡単に死ぬのですね」
クロウは動かなくなったドークを見下ろして笑顔を作る。
大きな袋に入れて荷車に乗せ、街の近くまで運ぶ。
クロウにとっては初めての重労働だったが、苦に感じることはなかった。
その日の夜。
神父が紫炎の小屋から戻ってきてから、そっと鍵を盗んで外に抜け出した。
胸の高鳴りを抑えながらドークの死体を地下まで運ぶ。
紫炎の前に辿り着くと、ドークを炎の中へと投げ込んだ。
「さぁ!!紫炎よ!!俺に力を!!!」
炎は勢いを増す。
手の中に溢れる力を、クロウは確かに掴み取った。
力を入れると手の平から闇の炎が吹き出し、その熱を感じる。
「ヒャハハハハ!!これで俺も不死身になったのか!?」
ナイフで自分の手を思いっきり斬ってみると、鮮血が飛び散り、痛みを感じた。
「なぜだ!!?なぜあの書の通りにならない!?」
クロウは顎に手を当てて考える。
あの本にあった通り闇の炎の力を扱えるようになったが、まだ足りないものがあるのだろうか。
その日は一度戻り、傷の手当をしてからまた古書を読むことにした。
更に古書を解読していくも、今まで得た情報以上の事は書いていない。
ならば考えられる事は一つ。
既に神父が闇の炎の力を持っているからだろう。
あの神父を消せば……
しかし、神父は寿命でしか死ぬことがない。
事故に見せかけて殺す事が出来ないなら、神父の寿命を待つしかないのか。
不死の力について書かれている箇所の解読を進めるが、外傷を与える事が出来ないとしか書いていなかった。
しかし、闇の炎について書かれた箇所に、気になる一節を見つける。
『闇の力を制御する聖騎士の祈り。其の聖なる力は闇と共存する為に不可欠であり、闇の暴走を止められる唯一の手立て』
クロウは思案する。
確かに、聖騎士は毎週教会で祈りを捧げなければいけないという掟があり、祈りは聖騎士の役目となっている。
闇の力が制御できるように抑えているという事か……?
神父が闇の炎の力を悪用しようとした時には、聖騎士がその力を抑えられる……
ならば……
クロウは笑う。
「思ったよりも面倒ですが……寿命を待つよりは遥かに早くコトを進められそうですね〜……」
その時、クロウの視界に空が広がった。
「なんだ!?」
眼下に広がる街並みは、ソーンの街だった。
「これは……鳥の視点……?カラス??」
カラスの群れが見えた時に、クロウは古書に書かれた事を思い出す。
闇の炎とカラスは密接に関わっている。
ソーンの信仰対象となっているカラス……。
「なるほど……こうしてカラスの視界を得る事で、ソーンの街を外敵から守っているのですか……」
意識を集中すると、カラスの飛ぶ方向を右へ左へと動かすこともできる。
ソーンにいるカラス達全てがクロウの視界となった瞬間だった。
「これは……面白いですね〜……ククク……」
クロウはそれから数週間をかけて、カラスをより精確に操れるように毎日訓練をする。
同時に、聖騎士に神父を殺させる計画を立てていった。
何か一つでも間違えば全てが終わってしまう、失敗の許されない計画。
難しいかもしれないが、これを成功させれば完全なる闇の炎がクロウのものになるならば、一切隙のない完璧な計画を立てる必要があった。
「あの力が……あの力があれば俺は…………」
クロウは笑う。
――数ヶ月後
新たな教会騎士が選出される時期になり、クロウは教会騎士へと志願した。
体力は他の人間よりもないクロウだったが、諜報部なら役に立てると神父に打診する事で、無事に教会騎士へと任命される。
しかし、その直後からクロウの闇の炎の力に異変が現れ始めた。
闇の炎の力が確実に衰え始めている。
手から出す事の出来る闇の炎は、決まって週に一度、聖騎士の祈りの日に小さくなっていく。
このままでは計画に支障をきたすと考え、対策を打つ事を余儀なくされた。
聖騎士の祈りで闇の炎が沈静化されているのであれば、さらに生贄を投げ込み、その力を増幅させる必要があると考えた。
しかし、一人で定期的に生贄を用意するのはあまりにもリスクが大きい。
必要なのは協力者だった。
昔ドークの取り巻きとしてクロウに暴力を振るっていた4人に目をつける。
この4人ならば裏切らない協力者にすることが可能だと考えた。
「みんな、よく集まってくれましたね。エイムス、ゴイル、グレゴに、チャーズ」
数年ぶりに会話をする4人は、何か気まずそうだ。
いじめていた張本人に招集されれば無理もないだろう。
「クロウ……元気そうだな。お前も教会騎士になったんだよな?昔は色々あったけど、これからは仲良くやろうな」
チャーズがバツの悪そうな顔をしながら話す。
クロウは笑顔で返した。
「はい、そうですね。私もそう考えていました」
クロウの声で、4人に安堵の表情が浮かぶ。
しかし、次の一言でその顔は凍りつく事となった。
「実は、皆さんに伝えなくてはならない事がありまして……。お友達だったドークを覚えていますよね?ドークを殺したのは私なんですよ」
「まて!!なんだそれ!?ドークは行方不明のまま……森の中で魔物に襲われたっていう事になって……」
クロウは笑う。
「死体が見つからなかったらそうなるでしょうね。でも実際は私が殺しました。皆さんも彼と同じ所に行きますか?」
そう口を切ると手から闇の炎を見せた。
「それはなんだ!?本当にお前がドークを………」
クロウは笑顔のまま答え、本題に入った。
「信じる信じないは勝手だと思いますが、これを誰かに話せば皆さんもドークと同じ場所に行くことになるのは覚えておいてくださいね。そして、皆さんには私の仕事を手伝って貰おうと思ってます」
「し、仕事?」
「はい。そう難しくはない力仕事ですよ。ほら、私はあまり体力がないもので、皆さんに手伝って欲しいんですよ」
4人は顔を見合わせると、ゴイルが口を開いた。
「少し考えさせてくれないか……」
「いいですよ。ただし、このことは他言無用でお願いしますね」
その日は解散して、各々教会騎士の宿舎に戻る。
夜になると、クロウは4人の中の一人、チャーズの部屋に出向いた。
「チャーズ。クロウです。少しお話をしてもいいですか?コーヒーをお持ちしました」
部屋に招き入れられたクロウは、他愛のない話を続ける。
ドークの隣の家に住んでいたチャーズを一番警戒するのは当たり前の事だった。
この計画で肝となっているチャーズに対し、最後の仕込みを入れる。
「おっと、長居してしまいましたね。そろそろ私は戻ります」
クロウは空になったコーヒーカップを持って自室へ戻った。
翌日、また4人を集めたクロウは、人気のない森の中へ歩いた。
「おい、クロウ……こんな森の中にいったいなにが……」
「まぁまぁ、力仕事があると言ったじゃないですか。ちょっと今日は手伝って貰おうと思いまして……」
チャーズ達は浮かない顔をしながらクロウについていく。
そして、ある木の下でクロウは立ち止まった。
「ここはですね、ドークを殺害した場所なんですよ」
4人の表情が一気に険しくなる。
「皆さんに頼みたいのはですね、死体を運んで貰いたいんです」
「死体!?一体誰の!?まさかドークの……!?」
「いえ、ドークの死体はその時に処理しました。今回運んで貰うのは、裏切り者の死体です」
クロウは笑みを浮かべながらチャーズの顔を見た。
チャーズは訳の分からないまま答える。
「裏切り者って……誰だよ……?」
クロウがパチンと指を鳴らすと、チャーズの身体が燃え上がる。
「うあぁああああああ!!!!」
3人は闇の炎に包まれるチャーズから飛び退き、その光景を傍観する事しかできない。
自分の手から出すことの出来る紫炎は、物に閉じ込めることもできると実験で分かった。
そして仕込んだ炎は自分の意図したタイミングで燃え上がらせる事ができる。
昨日仕込んだコーヒーに闇の炎をしっかりと入れ込んだ効果が出ている事に、クロウは満足気な表情を浮かべた。
倒れたチャーズを前に3人は息を呑む。
「それでは皆さん、死体が出来上がったので、この袋に詰めて運んでください。なぁに、チャーズは昨日の晩に私を売ろうとしたんですよ。ドークの件を許せなかったようですね。だから、彼と同じ所に行くんです。残りの皆さんはそんなバカげた行動は取らないと信じていますよ」
こうして、協力者を得たクロウは、3人にチャーズの死体を闇の炎へと投げ込ませた。
闇の力が強くなったのを確かめたクロウは笑う。
「聖騎士の祈りも、これで克服できました……。あとは……」
――数週間後
この日、計画の上で重要な仕込みをするクロウは、エイムス、ゴイル、グレゴの3人に最終確認をとっていた。
この3人と、クロウ、聖騎士との5人での任務。
神父を殺す為に、この日のミスは許されなかった。
神父から予め盗んでおいた弔い瓶(とむらいびん)。
弔い瓶はソーンに伝わる風習のひとつで、親しい人が亡くなった際、弔いの意味を込めて身に着ける装飾品。
この世に一つとして同じ物はない。
これが計画においてキーになるのだ。
そして、もう一つのキーは、聖騎士のフィーリアと同じ孤児院で育ったライベルという教会騎士の存在。
ライベルはこの日、別の隊として行動をする予定だ。
任務は簡単な魔物退治であったが、クロウは道中から任務中までカラスを操る事に意識の大半を割いていた。
ライベルを上空から確認して、隙を狙い続ける。
「たいしたことはなかったな。クロウ、大丈夫か?」
突然話しかけてくるフィーリアに邪魔されながらも、その場をうまくやり過ごす。
次の瞬間、ライベル達の隊も最後の魔物を倒し、ライベルに隙が生まれた。
(今だ!カラスよ!!!)
上空から滑空するカラスにライベルが気づく筈もなく、カラスのクチバシがライベルの胸元に掛かったペンダントを捉える。
「何だっ!?カラス!?悪い……みんな、大事なペンダントが今のカラスに持っていかれた。先に戻ってくれるか?」
ライベルのペンダントは、孤児院に入る前、ライベルが両親から貰った大事な形見。
彼の事であれば、一人でカラスを追うだろう。
クロウの読みは的中していた。
エイムス、ゴイル、グレゴの3人に合図を送ったクロウは、フィーリアと別行動を取る。
「それじゃあ…まあ、戻るとしましょうか?教会への報告は私の方で済ませておきますから、聖騎士殿はどうぞ先に帰って休んでくださいな」
聖騎士と距離を取ったクロウ達は、近くまでおびき寄せているライベルの元へと向かった。
カラスを木の上に止まらせ、ペンダントを枝に引っ掛けさせ、カラスを飛び立たせる。
ライベルはその木を必死に登ろうとしていた。
「じゃあ、皆さん、あの木に全力で攻撃して木を倒してください」
3人が魔力を込めた武器を持って一斉にライベルの登る木を攻撃すると、木は音を立てて倒れる。
「うわぁあああ!!」
何が起こったか想像もしていないであろうライベルに一瞬で近づき、喉元をナイフで斬る。
切り口からは闇の炎が吹き出して、ライベルは絶命した。
3人にライベルを教会の付近まで運ぶように指示すると、ライベルのペンダントを奪わせたカラスに神父の弔い瓶を咥えさせる。
「それじゃあ、お願いしましたよ」
ライベルが元々任務でいた場所の付近にカラスを飛ばすと、クロウは3人にその場を任せて街まで走る。
街ではライベルの隊が既に教会で報告をしていた。
「お疲れ様です。あれ?ライベルさんの姿が見えませんが……」
クロウは何食わぬ顔で状況を確かめる。
「それが……任務が終わった後無くし物をしたとかでまだ戻っていないんです」
「そうですか……。最近教会騎士の失踪事件も増えていますし……心配ですね……ライベルさんまでいなくなったら……」
「そんな筈は!ライベルに限ってそんな事はないですよ!」
「そうですか?では、チャーズは失踪してもおかしくなかったとでも言うのですか?」
押し黙る男を見て、クロウは心底おかしく思う。
目の前の男が一気に不安に掻き立てられて青ざめていく様子は、クロウからすれば滑稽でならなかった。
「ライベルの捜索を……みんな!ライベルを探すんだ!」
突然慌てるように言い始めた男。
これでいい。
後は、フィーリアにこの情報を渡せば……。
街の中は慌ただしい雰囲気に包まれた。
あちこちで教会騎士が地図を持ちながら声を上げている。
クロウはその様子を見ながら正門に身を隠していると、フィーリアがやってきた。
こんな時間に門から出る騎士達を不審に思っているのだろう、騎士に声を掛けようとするフィーリア。
「お、おい……」
(さてと、しっかり釣られてくださいよ?)
「おやおや?聖騎士殿。どうしたのですか?教会への報告なら私がもう済ませましたよ?」
クロウが声をかけると、フィーリアは険しい表情で振り向いた。
「クロウか。いや、この騒ぎはなんだ?何かあったのか?」
クロウの想定通りの質問をしてくるフィーリアに楽しさが抑えきれない。
「ン〜……どうやら、任務の途中で行方不明になった騎士がいるようで。いやぁ……最近多いみたいで怖いですよね?その騎士は確かライベルって名前で……」
そこまで話してフィーリアの顔を見ると、明らかに動揺をしている聖騎士にまた可笑しさがこみ上げてくる。
「おや?聖騎士殿?どうかされました?」
「クロウ!ライベルという名前で間違いないのか!?」
クロウの肩を掴み、フィーリアはものすごい剣幕でクロウに詰め寄る。
「え?ええ、間違いなくそう聞きましたよ。あれ?恋人とかだったんですか?」
冗談を混ぜないと可笑しくて吹き出してしまいそうだ。
少し感じ取られてしまったか、勘に触ったようだった。
「ライベルが最後に行った場所はどこだ!?私のとても大切な友人なんだ!今すぐ私が探しに行く!」
直ぐにでも場所を教えたい所だが、ここは少し演技をしなければ目論見がバレ兼ねない。
「ちょっ……落ち着いてくださいよ!今日はもう日が落ちますよ?聖騎士殿までいなくなったら……それに、捜索隊も結成するみたいですし……」
「頼む……知っているんだろ?……教えてくれ」
これでいい。そろそろ大丈夫だろう。
「あ〜もう!分かりましたよ!でも、必ず帰ってきてくださいよ?私もできる限り協力します」
ニッと笑って手を差し出す。
フィーリアはクロウの手を取り、両手で包み込んだ。
「本当か!?恩に着る……」
これで、問題はないだろう。
「ライベルが行方不明になったのは、私達が魔物と戦ったところから少し東の場所のようです。魔物討伐の任務を受けていたみたいですが、帰ってきた同じ隊の連中が言うには……魔物討伐を終えて教会へ戻ろうとしたらライベルが忽然と消えていたんだそうです」
フィーリアはそれを聞くと踵を返し、森の方角へ走っていった。
「さてと、約束通り、協力しないとですね……ヒヒヒ……」
カラスを操り、フィーリアを見張る。
あの弔い瓶を置いた場所にフィーリアが辿り着く事。
しかし、それよりも先に、ライベルの死体を生贄にする時間を作らなくてはならない。
幸い、教会騎士は皆ライベルの捜索に当っている為、教会の隣の小屋の付近に人影はなかった。
エイムス、ゴイル、グレゴと落ち合う予定の場所まで移動し、ライベルの死体を運ぶ。
闇の炎の前に辿り着くと、3人を宿舎へと戻し、一人闇の炎に手を当てながらライベルの死体を投げ込んだ。
「ククク……いいぞ……いいぞ……!もっと俺に力を!!」
炎は燃え上がり、漆黒の火柱が上がる。
クロウは確かな手応えを感じていた。
「さて、そろそろ頃合いだろうか」
フィーリアを追っていたカラスを鳴かせて、目的の場所に誘導する。
そして、カラスの目を通してフィーリアが弔い瓶を無事に見つける事を確認した。
「ヒヒャハハハ……!!これでまた一つ計画が進んだ!!」
額に手を当てて狂うように、クロウは笑う。
そして、神父が闇の炎を見にくる時間がやってくる。
クロウはその場から動かない。
次の仕込みは、神父に仕掛ける計画。
(さぁ……こいよ……)
数分後、階段を降りてくる足音が聞こえ、クロウは神父を出迎える準備を整えた。
「し、神父様!?これは一体なんなのですか!?」
クロウは闇の炎を指差しながら神父に問い詰める。
「クロウ……あなたは何故ここにいるのですか?」
驚いている神父に向けて、クロウは用意していた通りに話を進めた。
「教会騎士がいなくなっている。諜報部員として色々と調べていたら、夜な夜なこの辺りに人影を見ると話がありました。調べてみたら、小屋の奥にこんな物があるじゃないですか!そこに、あなたが来た……。どういう事か説明して貰えますか!?」
クロウは迫真の演技を続ける。
「もしかして……教会騎士が消えている事に関して、神父様が関係しているとでもいうのですか!?」
「クロウ……それは違います……」
後ずさりする神父。
この闇の炎のことは誰も知らない。
それがバレてしまった瞬間の今、変な疑いも掛けられて神父はパニック状態だろう。
「説明してもらえますか!?本当の事を話してください!!」
神父の肩を掴み、力強く身体を揺する。
その拍子に神父の胸元から、モノクルが落ちるのをクロウは見逃さなかった。
「わかりました……全てお話しますから……落ち着いてください」
クロウは目的の一つを果たし、神父の話に耳を傾ける。
「これは、闇の炎……この街、ソーンを守る存在なのです」
神父は炎をその手に出してクロウに見せる。
神父の話は本に書いてある通りだった。
ソーンの神父は代々、この闇の炎の力でカラスの瞳を手に入れ、街の平穏を保っていた事。
聖騎士の祈りによって闇の炎の力が抑制されている事。
そして、今回の教会騎士の失踪に関しては、神父は何も知らない事。
想像していた通り、神父は毎晩闇の炎へ出向き、そこでカラスの瞳を使っていた事。
何故いつでも使えるものを使わないのかと疑問に思っていたが…神父の掟にはカラスの瞳を悪用しない為にも決まった時間にのみ、この炎の前で行うという規定があるらしい。
神父が闇の炎に出向く時間はカラスの瞳を使わなかったのは正解だったようだ。
全ての話を聞き終えたクロウは、真剣な表情で神父を見ていた。
「わかりました。この事は私の心に留めておきましょう」
「本当ですか?」
「えぇ。神父様が教会騎士の失踪と絡んでないのであれば、その事件を解決する事が先決ですし……。それに今の話を聞いた所、神父様は事件解決の為にこの炎でカラスを使っていたという事ですよね?」
「えぇ……まぁそうですね」
「なら、やはり事件の解決を急ぎましょう。疑ってしまい、申し訳ありません」
クロウは話を続ける。
「聖騎士のフィーリアにも、事件解決の為に動いて貰ってもいいですか?彼女は優秀だ。きっと何か掴んでくれる筈です」
「実は、最近この炎の力が不安定になってきているのです。今回の事件と関係があるのかはまだ分かりませんが……。フィーリアには祈りを続けて貰わねばなりません」
「今日行方不明になった教会騎士……ライベルでしたか……聖騎士様にとって良いご友人だったかと。彼女を縛り続けるのは酷な話です。神父様の懸念も分かりますが、彼女の意思を尊重してあげてください」
「それも……そうですね。いや、クロウ。君には随分と助けられてしまうな……」
「いいのですよ。神父様は社会に馴染めなかった私を救って貰った恩人ですしね……。おっと、もし彼女がこの闇の炎に関して気が付いて神父様に問う事があれば、下手に隠さずに、今私に話したように全て話した方がいいですよ。変に隠そうとすると、それこそ話が拗れるでしょうし」
「わかりました。そうしましょう」
クロウの目的は全て果たされた。
これで神父側の準備は問題ない。
後は―――
――数日後
計画は最終段階に入った。
次は、フィーリアに自分の事を疑わせる必要がある。
クロウは、街中を歩くフィーリアに声を掛けた。
「おやおや、聖騎士殿。こんな所で奇遇ですね。鎧が直ったんですか?いやあ、あんなにボロボロのドロドロになるまで……ライベルを探すなんて中々無茶しますよねぇ。そういえばライベルの手がかりが全く掴めていないみたいじゃないですか?」
「クロウか……余計なお世話だ」
「聖騎士殿はつれないですね〜。教会騎士の間じゃこの事件を“夜の鍵”の仕業だとか、神隠しだとか……。そもそも神に仕える身で何を言っているんだか…ほんと、笑っちゃいますよね?」
「クロウ……私は忙しいんだ」
関心を持とうとしないフィーリアに、一つ目の罠を仕掛ける。
「この間消えたっていう二人も、“森”で一人で行動したから消えたって……まったく!迷子じゃあるまいし、ほんと聖騎士殿も気をつけてくださいよ」
「森……?クロウ、お前やけにこの件に詳しいじゃないか。一人で行動をしていたやつが行方不明になるのは知っているが、場所に関しての情報は表に出ていないはずだぞ?なぜお前がそれを知っているんだ?」
(ヒヒヒ……掛かった……。思ったよりも頭がキレますね〜。手間が省けて良いことです!)
「え?あ、いやあ……あれですよ。一緒にいた隊の騎士に聞いたんですよ」
「それは嘘だな。行方不明になった者が隊を組んでいたとは聞いていないぞ」
(確実に食いついている。いいぞ……いいぞ……)
「か、勘違いですかね〜?あ、それよりもその弔い瓶は……」
(話を誤魔化しているように見えるだろうか……?演技というのは難しいですね〜)
「この弔い瓶はライベルがいなくなった場所にあった。私の物でもライベルのものでもない。こいつは……お前のものじゃないのか?」
「弱りましたねぇ……私を疑うんですか?なんで行方不明になったのかもわからないのに、私を疑うなんてあんまりですよ!それに私は弔い瓶なんて持っていませんし……」
(さぁ!来い!もっと食いつけ!!)
「……すまんな、気がどうかしていたよ。忘れてくれ」
急に頭に手を当てて、フィーリアは今までの会話を忘れるように首を振る。
(おい!急にどうした!?もっと疑えよ!俺は怪しいだろう!?)
フィーリアの様子から、これ以上は話したくないという空気を感じ取り、クロウは苦肉の策を取る。
「待ってください!…疑われたままでは私の名誉に関わりますよ。今日一日私を監視してみてはいかがですか?身の潔白くらい証明させてくださいよぉ。あ、それに今日は任務もないので手がかりを探すお手伝いもできますよ」
「そうか。わかった」
少し危なかったが、なんとか自分の部屋にフィーリアを招き入れる事ができた。
これで作戦の最終段階は整った。
後は、勝手にフィーリアが動く筈。
クロウは他愛のない話をした後、自分のベッドに潜り込んで“その時”が来るのを待った。
――その日の深夜
窓の外のカラスの目から自室の様子を伺ってみる。
フィーリアが寝ていれば鳴かせて注意を引きつける予定だったのだが、フィーリアは窓際で起きているようだった。
予定通り、エイムス、ゴイル、グレゴにカラスを使って合図を送り、墓荒らしに出かけさせる。
通るルートは自室の窓から見える道を選んだ。
フィーリアはこの3人を見つける筈だ。
「ん?あれは、エイムスにゴイルにグレゴじゃないか。こんな時間に何をしているんだ?」
フィーリアはクロウの部屋から出ていく。
計画通り事が進み、クロウは枕で笑い声を抑えていた。
3人が墓荒らしをしている現場をフィーリアは見納め、そのまま教会横の小屋まで3人を追う。
その場で声を掛ける事もあるだろうと踏んで次の手を用意しておいたが、思ったよりもフィーリアは慎重なようだ。
無事に小屋まで誘導する事が出来た。
カラスの瞳から小屋の様子を伺う。
フィーリアは小屋の中に入り、辺りを物色しているようだった。
闇の炎に死体を投げ入れ終わった3人が、隠し扉から出てくる。
予定通り、フィーリアと鉢合わせた。
「貴様らが一連の失踪事件の犯人だったのだな!吐け!その先には何がある!?とぼけても無駄だ……この小屋に死体を運び込むのを見ていた!さぁ吐け!貴様らがしたことを一つ残らずだ!この先には一体何がある!」
怒声を上げるフィーリア。
クロウはその様子を、半空きになった小屋の入り口に配置したカラスの瞳から眺めている。
「こ、殺さないでくれ!俺達は、なんにも知らねぇんだ!脅されててよ…やるしかなかったんだよ!」
エイムスのなんとも滑稽な態度にクロウは吹き出した。
「わ、分かった、正直に話す!だから、命だけは!」
(頃合いだな。お前ら、よく働いたご褒美だ)
クロウはパチンと指を鳴らす。
予め3人に飲ませたコーヒーに仕込んでおいた闇の炎が燃え上がり、身体の内側から燃えていく。
「ぐぉおおおおおああああああ!!!」
(さぁ、後一手で、チェックメイトですね)
クロウは笑う。
朝になり、教会の側で身を潜めていたフィーリアに声を掛ける。
「おやおや聖騎士殿。昨晩は突然どちらに行かれたんですか?朝起きたら聖騎士殿はいないし、親しい仲間が三人も亡くなってしまって…そしてこの騒ぎですよ」
小屋の外で一晩を明かしたフィーリアには流石に疲れが見て取れる。
3人の焼死体はシスターが発見し、既に小屋の周りには人だかりが出来ていた。
その中には神父の姿もある。
「クロウ!どういうことだ?私を疑っているのか!?私が奴らを殺したと」
「えぇ…まぁ普通に考えたらまずあなたを疑うでしょうね。あなたが突然いなくなって朝まで帰ってこない。そして死体が三つも見つかる…十分じゃないですか?」
「クロウ。彼らは臓腑を炎で焼かれたと聞いたが……私には炎の魔素は扱えない」
頭を悩ませているフィーリアに、最後の一手を用意しようと、クロウはフィーリアに別れを告げて小屋に向かう。
「この小屋の調査は教会騎士の諜報部が行います。皆さん、速やかに撤収してください。神父様も、それでいいですね?」
神父に目配せで、闇の炎は私が守りますと伝えると、神父は首を縦に振った。
「現場はクロウに任せて、皆さんは3名の葬儀の準備を急いでください」
慌ただしい現場は一旦クロウに任せられて、他の者は散り散りになった。
その時、フィーリアがクロウに近づいてくる。
「聖騎士様、どうされました?まだなにか……」
クロウは構える。
ここでミスがあれば全てが水の泡になってしまう。
フィーリアは手に何かを乗せてクロウに見せてきた。
「クロウ。あの小屋には得体の知れない禍々しい炎が隠されていたんだ。私はそこでこれを拾った」
クロウは目を丸くする。
それは、最後の一手だと用意しておいた神父のモノクル。
現場検証の際に自分が見つけてフィーリアへと渡すつもりだったがクロウにとっては、嬉しい誤算だった。
笑いを隠すのが難しい。
「ゴホッゴホッ……失礼。ほう……これは……何かのレンズですかね?若干度が入っているように見受けられます」
必死に笑いを咳払いで誤魔化し、確信に迫る。
最後の一手を打ち切った。
(さぁ、チェックメイトです)
フィーリアが去ったのを見届け、クロウは笑う。
あのレンズが神父のモノクルだという事は感づいただろう。
そして、あの弔い瓶も神父のものだとフィーリアは気がついている。
神父にその話をすれば、クロウの助言通り神父は事実をフィーリアに話す。
そして闇の炎を神父が手から出すのを見せれば、その時が神父の死ぬ時。
全て、計画通りにコトが運ぶ……。
そして――――
カラスの瞳を使い、神父の部屋の窓を眺めるクロウ。
やってきたフィーリアは、クロウの台本通りのやり取りをしていく。
「悔い改めよ!!」
倒れ込む神父。
崩れ落ちるフィーリア。
(ヒ……ヒヒャハハ……全て、計画通りにコトが運んだ……!)
フィーリアのいる部屋に足を運ぶクロウ。
最後にフィーリアを励ますような言葉を吐いて穏便に終わる。
そうすれば、闇の炎はクロウのものになる。
全て計画が上手くいったのだ……最後まで成し遂げよう。
「今の音は一体どうしたんです!大丈夫ですか神父様!!……な、なんと!?せ、聖騎士殿これは一体……何があったんですか?」
「神父様が……ライベルや他の騎士達を!私は、許せなかった!育ての親であっても間違いは正さなければ……」
笑いがこみ上げる。
我慢……ここで我慢しなければ……。
「一人で抱えないでくださいよ、聖騎士殿。私もお力になりますから。あ!胸を貸しましょうか?いくらでもこの胸で泣いていただいてかまいませんよ!」
(ダメだ……堪えきれない……)
口元が緩むクロウ。
目の前にいるフィーリアは、今まで信頼してきた神父を騙されて殺して……そしてその騙された男に恩を感じている……こんなに滑稽な事があっていいのだろうか……
「今は……お前のその適当な感じに救われる」
「ン〜、私は至って真面目なつもりなんですがねぇ」
「フフフッ……それはすまなかったな」
(もう……限界だ……)
「フフフ……フフハハハ……ヒヒャハハハハ!!!」
どうしようもなかった。
こんなにも面白い事が世の中にあっていいのだろうか。
「クロウ!?どうした!?」
「どうしたもこうしたもあるか!!これが笑わずにいろってのが無理な話だろうが!!ヒャハハハ……」
全てが上手くいった。
それが途方もなく可笑しい。
クロウは笑う。
その時、外から物凄い音が聞こえてきた。
ソーンの街に、帝国軍が進行した瞬間だった。
混乱する人々の声、崩れる建物の音。
フィーリアはとっさに外に飛び出した。
クロウは笑いをまだ抑える事が出来ない。
「今度は……なんだってんだ……ヒャハハハ!!」
――数刻後
クロウが教会から出ると、目の前に戦場が広がっていた。
その最前線にフィーリアが見えるが、どうやら押されているようだ。
腹を抱えてクロウは笑う。
「助けてやろうか!?聖騎士様よぉ……!!ヒャハハハ……!!」
全てを悟ったフィーリアは、クロウを睨みつける。
「貴様の助けなどいらん!この裏切り者が!!!」
その怒りさえ、クロウには堪らない。
「ヒャハハハ!!お前は街を守りたい!俺は帝国に炎の秘密を知られたくない!動機は違うが、目的は一致してるじゃねぇか!!俺が一緒に戦ってやるよ!ヒヒャハッハハハハ!!!!」
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