蒼空のリベラシオン(ソクリベ)【iOS/Android対応のスマートフォン向け協力アクションRPG】の非公式攻略wikiです。有志によって運営されているファンサイトで、ソクリベに関する情報を収集しています。

 大陸で数少ない信仰を持つ街ソーン。
 ソーンではカラスが生と死を見守る存在として信仰されている為、街に沢山ある教会にはカラスを模した彫刻が設置されていた。

 教会には親のいない子供達の為に孤児院が存在していた。
 孤児院は神父達により運営されており、戦や魔物との戦い、病などで両親を失った子供達の為に生活の面倒や教育を施していた。

 ある日、フィーリアという幼い少女が神父に連れられてやってくる。
 両親を早くに亡くし、身寄りがなかった彼女は孤児院へと引き取られることとなった。

 泣きじゃくり、神父に手を引かれながら初めて施設を訪れたフィーリア。
 周囲をぐるりと子供達が囲んではフィーリアを物珍しそうに見ている。

 フィーリアはこの場をすぐにでも逃げ出したかった。
 優しい両親を失って間もなく、さらには自分を取り囲む環境が目まぐるしく動いては変化していく。
 いっその事、パパやママの元へ行けたら…楽になるのかな…?
 フィーリアの頭の中では両親との思い出が走馬灯のように蘇る。

「おいっ!おいってば!」

 呼びかけられたフィーリアは現実に戻される。

「は、はい!…な、なぁに?」

 声をかけてきたのはフィーリアより背が高く、施設では年長者であろう男の子だった。
 満面の笑みで顔を近づけてはジロジロと興味をフィーリアにぶつける。

「俺の名前はライベル!お前は何て名前なんだ?……フィーリア?ふーん、いい名前だな!」

 ライベルの勢いに圧倒されつつ、小さな声で自分の名前を名乗るフィーリア。

「今日からここで暮らすんだろ?よろしくな。ああ、そうだ。いいものやるよ」

 ライベルはポケットから袋を取り出し、中身をフィーリアの手の上に出す。
 袋からは鮮やかな色をした星型の砂糖菓子が落ちてくる。

「ほら、食ってみろよ。すげぇ甘いんだぞ?それ食ったら元気が出るぞ!」

 フィーリアは砂糖菓子の一粒を口の中に含む。

「んむ…あ、あまぁい!」

 パァァッと自分の顔がほころぶのがわかった。

「だろ?へへ。向こうにみんないるんだ。ほら、行こうぜ」

「う、うん…!」

 ライベルに差し出された手を握り、皆の輪に入っていくフィーリアを見て神父はにこやかに頷いていた。
 そして、施設へ入りたてのフィーリアの面倒はライベルが見ることとなる。
 ライベルは施設の子供達の兄のような存在でみんなから慕われていた。
 最初は馴染めなかった孤児院の空気も、ライベルのおかげですぐに溶け込んでいくことができた。


 ――歳月は流れ
 施設で育った孤児達は厚い信仰心から皆、教会への恩を返す為に教会騎士となっていく。
 教会ではそんな彼らの為に教会騎士の訓練を行っていた。
 そして、子供達は基礎訓練を終えて16歳になると教会騎士団へ正式に入団する。

 今日はライベルの教会騎士団への入団式の日。
 年長者であるライベルはフィーリア達の孤児院では、誰よりも先に教会騎士となった。

 教会騎士は教会を守り、ソーンの街を護る騎士団である。
 そして、入団者には信仰の対象となっているカラスを意識した黒い装束と、教会関係者の証であるカラスの羽のアクセサリーが与えられる。

 入団式にはフィーリア達も先輩の晴れ姿を見る為に参列した。
 孤児院ではライベルが抜けたことで、フィーリアが一番の年長者となる。

 厳かな雰囲気で執り行われた式で、ライベルはとても凛々しくて勇ましく見え、真っ黒な教会騎士の装いをした姿にフィーリアは感動と憧れを覚えた。
 そして、自分もいつか、ライベルのような素敵な騎士になりたいと心に誓い、訓練と教会での祈りに邁進していく。


 ――さらに歳月は流れ
 フィーリアも16歳となり、正式に教会騎士団への入団が認められる。
 入団を明日に控えたフィーリアは、大聖堂で祈りを捧げていた。

「フィーリア、ちょっといいですか?」

 不意にフィーリアに声をかけてくる者がいた。
 それは、宝冠を被り荘厳な雰囲気を漂わせる神父様であった。

「これは神父様!如何なさいましたか?」

 神父は一つ咳払いをしてから話を始める。

「入団式がついに明日になりましたね。まずは、おめでとうと言わせてください。あなたの信心は素晴らしいものです。正義の心と人を愛する心、そして何よりも教会への忠誠心も強い」

「そ、そんな…もったいないお言葉です」

 神父から贈られる賛辞にフィーリアは照れる。
 その表情を微笑ましく見つつ、神父はフィーリアに頼みがあると言う。

「フィーリア、あなたに聖騎士の称号を授けます。受け取って頂けますね?」

 一瞬、神父様が何を言っているのか分からなかった。
 聖騎士?まだ入団式も済ませていない私が…?

 神父はフィーリアの心情を悟ったかのように言葉を続ける。

「前任の聖騎士が病に倒れ、亡くなられたのはご存じですね?聖騎士は教会騎士団の象徴でもあります。その席を空位のままにすることはできません。それに…強い信仰心を持つ者でなければ聖騎士の証でもある十字の聖剣を扱うことができません」

 フィーリアは迷っていた。
 神父様の言うことは間違いない。
 聖騎士が空席のままでは…教会騎士団の面子に関わる。

「し、神父様、ですが…」

 神父はフィーリアの言葉を遮り、話を続ける。

「前任の聖騎士は私ととても親しい方でした。まさか先立たれてしまうとは想像もしていませんでした。こうして遺灰を弔い瓶(とむらいビン)につめる日が来ようとは……」

 神父様は悲しそうな顔を浮かべながら、首からネックレスのように下げている7つの弔い瓶の1つを撫でる。
 弔い瓶はソーンに伝わる風習のひとつで、親しい人が亡くなった際、弔いの意味を込めて身に着ける装飾品である。

「私は毎日祈りを捧げているあなたの姿を見てきました。この教会には聖騎士が必要なのです。私にはあなた以外に適任者がいるとは思えません。フィーリア…お願いできますか?」

 あの神父様にここまで頼まれれば断れるわけがない…。
 意を決し、フィーリアはゆっくりと膝を落として、神父へ向けて跪いて誓いを立てる。

「身に余る光栄です…未熟ながら、このフィーリアは親愛なる神父様と教会の為に、聖騎士の称号を頂き、精一杯努めて御恩をお返したいと思います」

 翌日、教会騎士団の入団式と併せて、すべての教会騎士、神職に就くものが大聖堂へ集められ、聖騎士就任の儀が執り行われた。

 神父様は壇上で聖典を開きモノクルを眼窩にはめる。
 祝辞が読み上げられ、聖歌隊が聖騎士へ捧げる詩を歌い始める。
 フィーリアは聖騎士の象徴である純白の鎧に身を包み十字の聖剣を受け取った。
 そして、教会騎士達に向けて十字の聖剣を掲げると一斉に敬礼が行われる。

 その中には、先に教会騎士になっていたライベルの姿もあった。
 フィーリアがライベルの姿を見つけて目が合うと、ライベルは優しい笑顔をしながら力強く敬礼をした。
 今日をもって、フィーリアは教会騎士団の聖騎士となった。

 ――
 晴れて、聖騎士としての称号を受け取り教会騎士となったフィーリアは、任務に就くこととなる。
 聖騎士といっても教会騎士であることに変わりはなく、他の教会騎士と共に街の人からの依頼や、街の警備、葬儀の執り行い、街周辺に現れた魔物の討伐などが主な任務となっている。
 他の騎士達と違う所といえば、週に1度の祈りの儀があること。
 身と剣を清める為、大聖堂で聖歌隊の詩と神父様の祝詞を聴き、祈りを捧げる。

 その日、祈りを終えて大聖堂を出ると、次の任務を共にする教会騎士達が待っていた。

「どうも〜聖騎士殿。私はクロウと言うものです」

 ひょうひょうとした笑顔でその男はクロウと名乗った。
 クロウの着ている教会騎士の黒い軽鎧は、フィーリアの純白の鎧とは対照的に漆黒に染まっている。

「あぁ、よろしく。それと聖騎士殿と呼ばれるのは堅苦しい。フィーリアでいい」

「いやいや、そんな名前でなんて呼べませんよぉ…聖騎士殿と呼ばせてください」

 クロウはその笑顔を絶やさないままフィーリアに軽く敬礼し、任務の内容を読み上げた。

「今日はですねぇ…近隣の森に現れた魔物達の討伐みたいです。最近、魔物の活動も活発ですしね。あ、本隊は聖騎士殿と私、エイムス、ゴイル、グレゴの5人ですよ。なんか…隊の人数が少なくないですか?ほんとに、人使い荒いですよねぇ〜。まぁ、ちゃっちゃと終わらせますか」

 ヘラヘラしながら面倒だと言わんばかりのクロウにフィーリアは注意をする。

「クロウ、戦いの前だ。万が一と言うこともある。気を緩めるな」

「は〜い。了解しました!」

 間延びをした返事を返すクロウ。
 このクロウという男、バカなのか?自信のあらわれなのか?これから魔物と戦いに行くというのに緊張感がまったくない…フィーリアは真意のまったく読めないクロウを訝(いぶか)しがった。

 フィーリアの隊が任務で指定された場所へ着くと大量の魔物がうごめいていた。
 こいつは…一筋縄ではいかないな。
 フィーリアの隊は五人、圧倒的な数的不利は目に見えている。
 どうするか…?フィーリアは考える。

「クロウ、私と共に奇襲をかけるぞ!エイムス、ゴイル、グレゴは魔法で援護してくれ」

「え?聖騎士殿が私をご指名ですか?でも…戦うのは得意じゃないんですよねぇ…」

「けっこうな場数を踏んでいるだろう?身のこなしでわかる。謙遜しなくていい」

 クロウの口元にかすかな笑みがこぼれた。

「まいりましたね…買いかぶりじゃないですか?でも、せっかくのご指名ですし…やりましょう!あなた達頼みましたよ?」

 他の三人にそう告げるとクロウは短剣を抜く。

「クロウ!遅れるなよ!」

 フィーリアとクロウは魔物達に向かって駆け出す。
 そして、近くにいた魔物から十字の聖剣で一気に薙ぎ払う。
 魔物にとってフィーリア達の出現は予想外だったらしく、突然の奇襲に右往左往とし混乱を極める。
 フィーリアの剣を運よく避けてもクロウの短剣が魔物の急所を的確に貫いていく。
 また、後衛に配置された三人の援護もよく機能し、逃げ惑う魔物を仕留めていった。

 半刻程の戦闘で魔物達は一掃され、辺りにはその屍が転がる。

「たいしたことはなかったな。クロウ、大丈夫か?」

 フィーリアは傍らで短剣の汚れを落としていたクロウに声をかける。

「ええ、大丈夫ですよ〜。怪我もありませんし。他の3人も無事ですかぁ?」

 後衛にいた三人組は頷く。

「それにしても見事な腕前ですね〜。聖騎士殿は一体どこで剣を学んだんですか?」

「お世辞はいい。私の剣は、ほとんどこの聖剣のおかげだ」

 クロウの問いにツンとした返事をするフィーリア。
 後衛の三人組は息を切らしていた……だが、クロウに呼吸の乱れはなかった。
 自分と一緒に前衛で戦っていたのに、こいつは一体何者だ?フィーリアが思考を巡らせていると、クロウが口を開く。

「それじゃあ…まあ、戻るとしましょうか?教会への報告は私の方で済ませておきますから、聖騎士殿はどうぞ先に帰って休んでくださいな」

 クロウはそう言うと同時に教会へと向かって駆け出していた。
続いて三人組が遅れまいと後を追う。

 ――
 フィーリアは一人、大聖堂に向かい魔物の冥福を祈っていた。

「……」

 魔物と言えど、命に変わりはない…その命を奪った禊(みそぎ)としていつも祈りを捧げている。
 祈りを終え外に出ると、大聖堂を取り囲むように沢山のカラスが鳴いていた。
 どこか少し不穏な空気を感じながら兵舎へと向かう。


 途中、教会の近くに差し掛かったところで、正門の方から言い争う声が聞こえてくる。
 フィーリアが様子を見ようと教会へ足を延ばすと、そこでは騎士達が揉めていた。

「お、おい……」

 フィーリアが近づいて声をかけようとすると、どこからかクロウが現れた。

「おやおや?聖騎士殿。どうしたのですか?教会への報告なら私がもう済ませましたよ?」

「クロウか。いや、この騒ぎはなんだ?何かあったのか?」

クロウは少し困った表情をしながらも、笑みを絶やさずに話す。

「ン〜…どうやら、任務の途中で行方不明になった騎士がいるようで。いやぁ…最近多いみたいで怖いですよね?その騎士は確かライベルって名前で……おや?聖騎士殿?どうかされました?」

 フィーリアの顔からさっと血の気が引いていく…ライベルだと?そんなまさか!

「クロウ!ライベルという名前で間違いないのか!?」

「え?ええ、間違いなくそう聞きましたよ。あれ?恋人とかだったんですか?」

 フィーリアはクロウの胸倉を強く掴んで声を荒げる。

「ライベルが最後に行った場所はどこだ!?私のとても大切な友人なんだ!今すぐ私が探しに行く!」

「ちょっ…落ち着いてくださいよ!今日はもう日が落ちますよ?聖騎士殿までいなくなったら…それに、捜索隊も結成するみたいですし…」

 フィーリアは必死の形相で頼み込む。

「頼む…知っているんだろ?…教えてくれ」

「あ〜もう!分かりましたよ!でも、必ず帰ってきてくださいよ?私もできる限り協力します。」

 フィーリアはクロウの手を取り、両手で包み込む。

「本当か!?恩に着る…」

「ライベルが行方不明になったのは、私達が魔物と戦ったところから少し東の場所のようです。魔物討伐の任務を受けていたみたいですが、帰ってきた同じ隊の連中が言うには…魔物討伐を終えて教会へ戻ろうとしたらライベルが忽然と消えていたんだそうです」

 それを聞くと、考えるよりも先に足が動き出していた。

 ライベルの消えた場所へ着く頃には、空に月が出ていた。
 暗がりの中、松明の明かりだけを頼りに森の中でライベルの名前を叫び探す。

「ライベルッ!ライベルどこだー!?」

 人を拒むかのような深い森の中を、フィーリアは強行軍で進んでいく。
 マントは木の枝に刺さっては破れ、純白の鎧も突き出た岩にぶつかっては形を変えていく。

 木々をかき分け、やっとのことで少し開けた場所へとたどり着いたフィーリア。
 煌々と輝く月が、夜空に蠢く何者かの影を森の広間に映し出す。
 フワリと眼前を横切る黒い羽根、空にはカラスたちが集まっていた。
 フィーリアの頭上でカーカーと鳴くカラスたち。

 ライベルの痕跡すら掴めず、闇の中で彷徨うフィーリアは
 本来、信仰の対象であるカラスたちの声を、まるで嘲笑われているかのように感じていた。

「どこだ!どこにいるんだ!ライベル!私を置いていなくならないでくれ!!」

 フィーリアは松明を投げ、その場に両膝をついた。
 幼少の頃、ライベルと共に遊んだことを思い浮かべる。
 親も身寄りもなく、孤児院を通して同じ境遇で育った家族じゃないか…なんで、なんでこんなことに…。

 投げ出された松明は静かに転がっていく。
 するとその松明に照らし出されたように、淡く紫色に輝く光があった。

「あ、あれは…」

 フィーリアが急いでその光に近づくと、そこには弔い瓶が転がっていた。
 弔い瓶は聖火によって清められており、遺灰は特殊な魔素を含んでいる為、炎に反応しては淡く紫色に光り輝く。
 フィーリアは、弔い瓶を拾い上げ、強く握りしめた。


 ――翌朝
 フィーリアはボロボロの姿で教会へと戻ってくる。
 ドロドロの破れたマントとボロボロの鎧の修復を騎士団の鍛冶師に頼み、フィーリアは鎧の代わりに白装束へと着替えて神父様の元へと急いで向かった。

 フィーリアは神父様の私室の前までくると呼吸を整え、ドアを数度ノックする。

「神父様、フィーリアです。ご相談に参りました」

「どうぞ。ドアは開いていますよ」

 フィーリアが中に入ると、神父は新しい教本をシスターのアメリに読ませていた。
 それを見たフィーリアは、少し違和感を覚えて不思議に思ったがそのまま神父様に向かい合う。

「神父様!ライベルの件をお聞きになりましたか!?」

 神父はアメリに読むのを止めるように言うと、フィーリアに顔を向ける。

「ええ、聞きました。教会騎士達にはライベルを探すように任務をだしています」

 フィーリアはその言葉を聞くと、神父の前で片膝をつく。

「私もその捜索隊に入れてください!最近は教会騎士の行方不明者が多いと聞いております。きっとお役に立てると思います!」

 神父は眉間を押さえ、ため息をついた。

「フィーリア…あなたにはあなたのやるべきことがあるでしょう」

「し、しかし…神父様!」

「あとのことは捜索隊に任せるのです」

「私がライベルと同じ孤児院で育った事もご存知ですよね!?」

「はぁ…わかりました。どうしてもと言うのなら…自分の任務に支障がない範囲でお願いしますよ。さあ、もうお行きなさい」

「し、神父様…まだお話が…」

 神父はフィーリアに背を向けると、アメリに教本の続きを読ませる。
 フィーリアはその姿を見て仕方なく部屋を後にした。


 ――数日が経ち
 ライベル失踪から数日、フィーリアは弔い瓶以外、何の手がかりも得ることができなかった。
 あれからさらに二人の行方不明者が出ており、教会騎士達は、次は自分の番かもしれないと不安の色を見せている。

 フィーリアは鍛冶師から修復完了の報告を受け、鎧を受け取りにきていた。

「どうだ!ピカピカになっただろう?せっかくの純白の鎧だ。傷も塞いで、きれいに磨きあげといたぜ!大事に着てくれよな!」

「すまないな。次からは気を付ける」

「そうそう、鎧に弔い瓶がついたままだったぞ」

 鍛冶師はフィーリアに弔い瓶を手渡す。
 それは、ライベルを探していたときに見つけた弔い瓶だった。
 あの時は暗がりでよく分からなかったが、ライベルのつけていた弔い瓶とは違うものだった。
 なんだろう?どこかで見た事があるが…いま一つ思い出せない。
 フィーリアは何とか思い出そうと一所懸命に唸る。

「おやおや、聖騎士殿。こんな所で奇遇ですね。鎧が直ったんですか?いやあ、あんなにボロボロのドロドロになるまで…ライベルを探すなんて中々無茶しますよねぇ。そういえばライベルの手がかりが全く掴めていないみたいじゃないですか?」

「クロウか…余計なお世話だ。」

「聖騎士殿はつれないですね〜。教会騎士の間じゃこの事件を“夜の鍵”の仕業だとか、神隠しだとか…。そもそも神に仕える身で何を言っているんだか…ほんと、笑っちゃいますよね?」

「クロウ…私は忙しいんだ」

 だがそんなフィーリアにお構い無しにクロウはしゃべり続ける。

「この間消えたっていう二人も、森で一人で行動したから消えたって…まったく!迷子じゃあるまいし、ほんと聖騎士殿も気をつけてくださいよ」

「森…?クロウ、お前やけにこの件に詳しいじゃないか。一人で行動をしていたやつが行方不明になるのは知っているが、場所に関しての情報は表に出ていないはずだぞ?なぜお前がそれを知っているんだ?」

「え?あ、いやあ…あれですよ。一緒にいた隊の騎士に聞いたんですよ」

「それは嘘だな。行方不明になった者が隊を組んでいたとは聞いていないぞ」

 クロウは慌てて話の流れをきる。

「か、勘違いですかね〜?あ、それよりもその弔い瓶は…」

 クロウの言動に疑問を持つフィーリアは、クロウを疑いの目で睨む。

「この弔い瓶はライベルがいなくなった場所にあった。私の物でもライベルのものでもない。こいつは…お前のものじゃないのか?」

 クロウは驚いたような表情をし、すぐに弁解をした。

「弱りましたねぇ…私を疑うんですか?なんで行方不明になったのかもわからないのに、私を疑うなんてあんまりですよ!それに私は弔い瓶なんて持っていませんし…」

 フィーリアはライベルが見つからない焦燥感と仲間を疑っている自分に嫌気がさした。

「…すまんな、気がどうかしていたよ。忘れてくれ。」

 フィーリアはその場を立ち去ろうとしたが、クロウに呼び止められる。

「待ってください!…疑われたままでは私の名誉に関わりますよ。今日一日私を監視してみてはいかがですか?身の潔白くらい証明させてくださいよぉ。あ、それに今日は任務もないので手がかりを探すお手伝いもできますよ」

「そうか。わかった。」

 フィーリアは了承し、その日一日をクロウと共に行動する。
 聞き込みや目撃者探しなど…だが、手がかりは得られなかった。
 クロウも特に怪しいところなどなく、その日一日を終えて二人はクロウの私室に来ていた。

「どうです?中々の見晴らしでしょう?」

 フィーリアは窓の外を見ていた。
 クロウの私室は兵舎の四階にあり、窓からは兵舎の入り口や街の様子がよく見える。

「ああ、ここからなら街の様子がよく見えるな」

「それは良かった。私は疲れたので先に寝かせていただきますね」

 クロウはそそくさとベッドに潜り込み静かな寝息を立て始めた。

「なるほどな…」

 フィーリアはつぶやいた。
 ここからなら街を一望することができる。
 ソーンの街が見渡せることを聞いてクロウの部屋まで来た。
 この街で何かが起こっている…フィーリアはそのまま月明かりに照らされた街を見ていた。

 兵舎の入り口からだった。
 夜も深まってきた頃、三つの影が動き、月明かりに照らし出される。

「ん?あれは、エイムスにゴイルにグレゴじゃないか。こんな時間に何をしているんだ?」

 三人は手に大きな袋を持って森へと向かっていった。
 フィーリアはクロウを一瞥し、熟睡しているのを見ると剣を手に取り、一人で兵舎をでて三人の後をつける。

 バサバサと暗闇の中を飛び立つカラス達はフィーリアの頭上でカーカーと鳴いた。
 何か、不吉な暗示をしているかのように沢山のカラスが集まっては…嗤(ワラ)う。

 三人は森の奥深くへと入っていくと土を掘り始める。
 フィーリアは木の陰に身を隠して三人の様子を伺う。

 徐々に掘り出された土が小さな山になり、彼らが掲げている松明の明かりは、掘り返されたモノの正体を明らかにする。

 あれは……人の死体か!?

 フィーリアはとっさに自分の口を押える。
 フィーリアの声に死体を穴から持ち上げるエイムスがきょろきょろとあたりを見回す。

「エイムス、何しているんだ?さっさと袋に詰めちまおうぜ」

「ゴイル、グレゴ。今何か聞こえなかったか?」

 エイムスはあたりを見回しながら二人に言う。

「どうせ、魔物がコイツの死臭でおびき寄せられて集まってるんだろ?とっとと片づけようぜ」

 グレゴはその場に袋を広げた。
 三人は大きな袋に死体を詰めると重たそうに持ち上げ、街へと向かい始める。

「死体をどこへ運ぶつもりだ?とにかく奴らをつけて、白日の元にさらしあげてやる!」

 フィーリアは、さらに三人の後をつける。
 三人は教会のすぐ横にある離れの小屋へと入って行く。
 フィーリアも小屋へと近づき中の様子を伺うが、小屋に入ったはずの三人が見当たらない。

「な!?ど、どこに消えた」

 フィーリアは慌てて小屋へと侵入し辺りを見回す。
 三人があの死体を抱えて、この短時間で小屋から逃げ出せるとは思えない。
 フィーリアは剣を構えながら辺りを捜索する。

 しばらくすると、何かを引きずる音と共に本棚が動き始め、出てきたのは隠し扉だった。
 こざっぱりとした装飾が施された扉から出てきたのは、あの三人だった。

 フィーリアはその姿を確認するなり、聖剣を構えては三人に突きつける。

「貴様らが一連の失踪事件の犯人だったのだな!吐け!その先には何がある!?とぼけても無駄だ……この小屋に死体を運び込むのを見ていた!」

 この三人がライベルを殺した犯人だ…ライベルはこの奥にいる。
 自然と声には怒気が混ざっていた。

「さぁ吐け!貴様らがしたことを一つ残らずだ!この先には一体何がある!」

「こ、殺さないでくれ!俺達は、なんにも知らねぇんだ!脅されててよ…やるしかなかったんだよ!」

 エイムスは慌てながら答えた。

「他に仲間がいるのか?誰だ!一人残らず、教会に告発し罪を償ってもらう!」

「わ、分かった、正直に話す!だから、命だけは!……!?」

 エイムスが仲間の名前を言おうと口を開いた瞬間、彼の口から紫の炎が吹き出した。

「ぐぉおおおおおああああああ!!!」

 エイムスの叫びにつられるかのように、他の二人の口からも同時に、内側からすべてを焼き尽くすかのように紫の炎を吐き出していく。
 フィーリアは目を疑った。
 喉を抑えながら口から炎を吐き出し続ける三人がどのような状態なのか、検討もつかない。
 辺りは肉が焦げる匂いに包まれ、炎を吐き出しきった三人はその場に倒れた。

「おい!……ダメか……死んでいる」

 フィーリアが駆け寄ると三人はすでに息絶えていた。

「口を封じられたか…。莫迦者どもめ…。」

 黒煙を口から吐き出すエイムス達に、せめてもの情けだと三人のまぶたを優しく閉じさせる。

 そして、本棚の先から隠し扉へ近づくと地下へ続く階段を見つけた。

「この先には一体何があるんだ?ライベル……奥にいるのか?」

 フィーリアは地下へと続く階段を慎重に降りて行く。
 地下に近づくにつれ、徐々に怪しい紫色の光が揺れているのが見えてくる。
 降りきった先には大きな祭壇が広がっており、その中心では禍々しい闇の炎が揺れていた。

「どうしてこんなものが、教会の地下に……」

 フィーリアは地下を歩き回り、先ほどの死体を探す。
 祭壇の前まで来ると、パリッと何かを砕いた音が鳴り響く。
 フィーリアが足元を見ると、それは砕けたガラス片だった。
 手にとってみるが、それが何かは解らない。

 結局、その後も辺りを捜索したが、他に手がかりとなりそうな物は見つからなかった。

 フィーリアは、三人の言葉を思い出す。

『脅されててよ…やるしかなかったんだよ!』

 黒幕は確かにいる……だが、誰なのか分からない以上は教会へ告げる事すら危険だろう。
 告げる事が出来ない以上、三人の死体をどうすれば良い…?
 もし死体を見つけたと報告したとして、私が疑われてしまったらどうする…。
 それこそ黒幕の思う壺ではないか…!

 フィーリアは考えた末、苦渋の決断をする。

 ――
 翌朝、小屋に入る教会のシスターが悲鳴をあげる。

 すぐに人が駆けつけ、人だかりが出来たかと思うと、野次馬をかき分けるようにして、三人の死体が担架に乗せられて運ばれていった。

 彼らの焼けた匂いにつられてきたのか、小屋の上に集まった沢山のカラス達が鳴いている。
 フィーリアは小屋から少し離れた場所でその光景を見て、信仰対象であるはずのカラスをうとましいと感じていた。


 兵舎へ向かいとぼとぼと歩くフィーリア。
 周りからは教会騎士の三人が死んでいたという声で溢れている。
 これからどうしていいかも分からずに、ただただ歩を進めた。

「おやおや聖騎士殿。昨晩は突然どちらに行かれたんですか?朝起きたら聖騎士殿はいないし、親しい仲間が三人も亡くなってしまって…そしてこの騒ぎですよ」

 ふと前を見ると、クロウが慌てた表情でフィーリアを見ていた。

「クロウ!どういうことだ?私を疑っているのか!?私が奴らを殺したと」

「えぇ…まぁ普通に考えたらまずあなたを疑うでしょうね。あなたが突然いなくなって朝まで帰ってこない。そして死体が三つも見つかる…十分じゃないですか?」

 フィーリアは真実を告げるか思い悩んだ……しかし、この男は信用してはいけないと、直感が訴えている。

「クロウ。彼らは臓腑を炎で焼かれたと聞いたが……私には炎の魔素は扱えない」

 クロウは、少し考えたような顔をしてにやりと笑うと答えた。

「それもそうですねぇ……まぁでも死体があるということは葬儀ができるということです。
行方不明になった方々には悪いですが彼らはまだ幸運だったでしょう」
 フィーリアはその言葉に拳を握りしめる。

 ――
 大聖堂で三人の葬儀を執り行うことになった。
 シスター達は突然の葬儀の準備であわただしく動いていた。
 葬儀への参加者へ花を渡す列では、クロウが三人の遺族を慰めていた。
 三人の遺体は棺へと入れられ、参列者が花を並べていく。
 全員が彼らの冥福を祈り、シスターのアメリが神父様に聖火を渡す。

「彼らの魂は今清められ、我々を見守ってくれるでしょう」

 そう言って神父は棺にゆっくりと火をつける。
 聖火はまるで生きているかのように彼らの遺体を焼く
 魂が完全に抜け落ちる瞬間なのか、炎が激しく燃え上がった。

 神父の胸元から、6つの淡い紫色の光が放たれる。
 首に下げられた弔い瓶がその炎に照らされているようだ。

 火葬が終わると、神父様は、新しい小瓶を3つ取り出す。
 遺灰を集めると、それぞれの遺灰を分けて小瓶に入れていく。
 参列者もそれに続いて、親しかった死者の遺灰を集めて小瓶にいれる。
 フィーリアはその光景を見ながら、拳を握りしめていた。

 ――
 葬儀が終わり日も沈んだ頃、フィーリアは教会の長い廊下を歩いていた。

「認めたくはないが、奴が黒幕で間違いない。ライベル……今、仇を討つからな」

 フィーリアは扉の前に立ち、ゆっくりと中の様子を確かめるように扉を開ける。
 そして…いつものような笑顔で神父はフィーリアを迎え入れた。

「フィーリアではないですか。こんな夜遅くにどうしたのですか」

「神父様…先ほどの葬儀は、急だったのにも関わらずお疲れ様でした」

 神父は、驚いた様子で答える。

「ええ、私の義務ですからね」

 フィーリアは神父の首元にある弔い瓶を見る。

「神父様は、今日の葬儀でまた弔い瓶が増えたようですね」

 神父は弔い瓶を数えるように撫でると答える。

「ええ、悲しい事です……一度で三人も。全部で10個……長生きをすると乗り越えなければならない悲しみも増えていく一方です」

「……そうですね。葬儀の最中、聖火に照らされて神父様の弔い瓶が輝いていました」

 神父は優しい笑顔で答える。

「ええ、弔い瓶は炎を受けて紫色に淡く輝きますからね」

 フィーリアは神父へ一歩詰め寄る。

「今日見た光は6つ。神父様の胸の弔い瓶は7つあるはず……なぜ一つ輝かなかったのですか?」

 神父は不思議そうな顔で答える。

「おかしいですね……何かの見間違えではありませんか?」

 フィーリアは腰に下げていた弔い瓶を取り出す。

「神父様この弔い瓶に見覚えはありませんか?」

 神父は目を細めてフィーリアが持つ弔い瓶を見る。

「私の……モノに似ていますね。それがどうかしたのですか?」

 フィーリアは湧きあがる怒りを押し殺しながら答える。

「この弔い瓶はライベルが行方不明になった森に落ちていたモノです」

 神父は目を見開く。

「フィーリア…私を疑っているのですか?それは誤解です!」

 フィーリアは神父に小さな文字が書かれた教会の依頼書を差し出す。

「では、この紙に書かれた文字、読んでいただけますか?」

 神父は少し怒ったように答えた。

「フィーリア。私の目が悪いのは知っているでしょう。そんな小さい字は読めません。」

「いつも使ってらっしゃる片眼鏡……モノクルはどうされたのですか?」

 神父は淡々と答える。

「あいにく今は手元に無いもので……」

「私がライベルの捜索の許可を頂きに伺った時、神父様は新しい教本を自分ではお読みにならず、シスターに読ませておりましたね?あのモノクル……壊してしまわれたのではないですか?」

「えぇ、その通りです。もう年も年ですから、転んで壊してしまったのです」

「やはりそうですか」

 フィーリアはガラス片を取り出して神父に見せた。

「このガラス片、度が入っています。神父様のモノクルの破片ではないですか?」

「さ、さぁどうでしょうか?」

 神父は少し焦ったように答える。フィーリアはそれを見逃さずに畳みかけていく。

「神父様。今、明らかに顔色が変わりましたね……。この大聖堂に務めている方で眼鏡の類をつけているのは、神父様だけ。間違いありませんね?」

「だとしたら何だと言うのです?」

「このガラス片、教会の離れにある小屋の地下で見つけた物です」

「……。」

「激しく紫炎を巻き上げる、祭壇の前で」

 押し黙ったままの神父はしばらくして口を開いた

「……そうですか。あの炎を見てフィーリアはどう思いました?」

「お認めになるのですね……」

「フィーリア。それは違います。我々が信ずるカラスの神。その源があの巨大な紫炎なのです!」

 フィーリアは手に持っていたガラス片を投げ捨て、反論する。

「バカな!あんな瘴気を放つ禍々しい炎が、我々の神だとでもいうのですか……!!」

「その通りです。我ら教会の神父は代々紫炎の力を授かり、この地を護って来たのです」

 そう言って神父はもろ手を広げると、両手から紫炎を出した。

「その炎!やはり、貴様が!!……そんな禍々しい力を手に入れる為に……!!」

「フィーリア!誤解です!」

 怒りに駆り立てられたフィーリアは背負っていた“十字の聖剣”を抜く。

「まだ、言うか!貴様の罪、償ってもらう!!」

 そう言ってフィーリアは神父へと斬りかかる。

「フィーリア!止まりなさい!」

「はぁぁあああああ!!!」

「クッ、紫炎よ!」

 神父は両手から紫炎を噴き出しフィーリアを攻撃する。
 その時、フィーリアが持つ聖剣は強く輝き、紫炎を切り裂いた。

「悔い改めよ!!」

 聖剣を振り下ろす轟音と共に神父が首から下げていた弔い瓶が辺りに散らばる。
 フィーリアは床で倒れる神父様を眺めながら、両ひざをついた。

 何故こうなってしまったのか…。
 育ての親である…神父様を…この手で…殺めなければならないのか…。
 しばらくしてから、騒ぎを聞きつけたクロウが部屋へと駆けつけた。

「今の音は一体どうしたんです!大丈夫ですか神父様!!……な、なんと!?」

 部屋の惨状に驚くクロウ。
 そして糸が切れた人形のように座り込むフィーリアに気がついて声をかける。

「せ、聖騎士殿これは一体……何があったんですか?」

 フィーリアは泣き出しながら、クロウに説明をし始めた。

「神父様が……ライベルや他の騎士達を!私は、許せなかった!育ての親であっても間違いは正さなければ……」

 クロウはジッとフィーリアを見つめて言葉を発する。

「もし、それが本当であれば、聖騎士殿がやった事は間違いではありません。あなたが無事でよかった。神父様もその力に支配されていたのでしょうか……それとも……。どちらにせよ裁かれるべきでした。辛かったでしょう……」

 フィーリアの目から涙が溢れる。

「私は…私は、正しい行いをしたのだろうか?これで全て終わらせられたのか…?」

「はい…聖騎士殿は正しい道をちゃんと歩んでいますよ。何の心配もいりません」

「そうか…すまない……情けない所を見せた……聖騎士として私がこの教会を…支えていかねば…」

「一人で抱えないでくださいよ、聖騎士殿。私もお力になりますから。あ!胸を貸しましょうか?いくらでもこの胸で泣いていただいてかまいませんよ!」

 クロウは笑顔をつくる。
 そして、フィーリアは小さくクスッと笑った。

「今は…お前のその適当な感じに救われる」

「ン〜、私は至って真面目なつもりなんですがねぇ」

 クロウは少し困ったような顔をする。

「フフフッ…、それはすまなかったな」











































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 教会の外には無数のカラスが集まっていた。
 一羽、また一羽と教会の屋根で羽を休めるカラス達。
 その中の一羽が「カー!」と鳴くと、それにつられて他のカラス達も鳴き始める。
 カラスの声の大合唱は「カー!」という音が連なり、重なり、複雑に絡み合った不協和音を奏で始める。
 途切れる事を知らないその音は、ジッと聞いているとまるで笑い声のよう。
 未だ闇の中で足掻く者達を嘲笑うかのように…

 ――カラスは嗤(ワラ)う。

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