1

 夜の街は綺羅びやかなイルミネーションに彩られ、道行く人々を煌々と照らしていた。
 両親の手を引いて歩く男の子。煌めく町並みに目を輝かせ今にも走り出そうとする我が
子に、母親が苦笑いを浮かべている。と、その横を若いカップルが手を繋ぎながら通り過
ぎた。はしゃぐ子供を横目に、女の方が何かを呟いた。幸せそうな親子の姿に、自分たち
の未来を重ね合わせたのだろうか。男は顔を赤くして早口に返し、そっと女を抱き寄せた。
口下手だが誠実そうな青年だ。そんな初々しい様子を隣で見ていた老夫婦が、皺くちゃな
ニコニコ顔を見合わせる。長く連れ添った二人の間に、言葉は必要ないのかもしれない。
 十二月二十四日、クリスマス・イヴ。街は聖夜を迎えていた。

2

 安アパートの一室で、パソコンの前に座った男は気怠げな鼻歌を歌っていた。お世辞に
も上手いとは言えない、しかし物悲しげな音の響き。男が奏でる陰鬱なその曲は、『暗い
日曜日』だった。
「フンフフフフン、フフフンフーン」
 疲弊しきった顔から老けた印象を受けるが、年齢は三十代後半だろう。派手なパーティ
用の三角帽子をかぶった男は何故か全裸で、何かの液体に濡れた体にはクリスマスツリー
に飾るイルミネーションが巻き付いている。落ちないようにサージカルテープで固定され
たコードは、男の左胸とその背中側で被覆が捲れ、銅線の束が剥き出しになっていた。
「フフフン、フフフン、フフフン、フフフフーン」
 男の目の前にある大型のディスプレイには、ヴァイオリンを構えた金髪少女の画像が映
し出されている。白シャツの上にフリルの付きの黒いベスト、そして円錐の裾を折り曲げ
たような風変わりな帽子を身に付けた美少女を、男はただぼんやりと見つめていた。

3

「フフフン、フゥーン、フゥゥーン……」
 ディスプレイの隅に映る時計が午後九時を指した時、男の鼻歌も丁度終わる。男は徐ろ
に三角帽子を外すと、禿げ上がった頭頂部を晒しながらボソリと呟いた。
「クリスマスなのに。イヴの夜なのに。……性の六時間なのに、ルナサちゃんとちゅっち
ゅ出来てないぞ俺」
 手にした帽子をじっと見つめる、男の虚ろな目。曇った闇色の瞳は、何処か別の世界を
覗いているようだった。
 ふと、何かを思い出したように男はイルミネーションのスイッチを手に取った。
 男は小さく頷く。
「よし、死のう」
 男の動きには何の迷いもなかった。言うが早いか、パチリと軽い音を響かせ手にした電
飾のスイッチをオンにする。食塩水で濡れた男の裸体、そして心臓に百ボルトの電流が流
れ、飾り付けられた色とりどりの電球が男の死と共に暗い部屋を鮮やかに染め上げる、は
ずだった。

4

「……。あれ、おかしいな……」
 スイッチを入れて数秒後、男は不思議そうに首を傾げた。手元のスイッチを眺め、何度
かオンオフを繰り返すが何も起こらない。男は一瞬思案顔をすると、ゆっくりと自身の体
から伸びるコードを目で辿り始めた。
 男の淀んだ瞳は、コードを中程まで追った所でピタリと止まった。男の右隣。そこに、
いつの間にか半裸の金髪少女が倒れ込んでいたからだ。どうやらこれが、コンセントから
プラグを外した原因のようだ。
 次の瞬間、男の体がプルプルと小刻みに震え始めた。
「き、奇跡だ……」
 体の揺れが次第に大きくなる。生気が宿り始めた目で少女を見つめながら、男は続けた。
「奇跡だっ、ルナサちゃんが……裸Yシャツのルナサちゃんが俺の部屋に遊びに来たぞっ、
奇跡だあぁっ」
 歓喜に震える男の叫び。部屋を包んでいた静寂を掻き乱したその声に、少女はもぞもぞ
と身じろいだ。

5

「……んー、めるらん、うるさい……。だからぁ、もう、のめないって……」
 少女の僅かな動きに胸元を隠していたシャツがはらりと零れる落ちる。男は異様なテン
ションで少女に擦り寄り、揺さぶり始めた。
「ルナサちゃん……いや、ルナサっ。イヴの夜だよ、彼氏とラブラブエッチする時間だよ
っ。ほら起きよう、るーなさっ」
 興奮する男の毛深い手が少女……ルナサ・プリズムリバーの、程良く膨らんだ胸に覆い
被さる。
 ルナサが目を開いたのは、彼の手が柔らかな乳肉を揉みしだこうとした、その時だった。
「……。何、これ。夢、なのかしら……っひぅっ」
 頬ではなく薄紅色をした乳房の先端をつねられ、寝惚け眼で部屋を見渡していたルナサ
は可愛らしい悲鳴を上げた。反射的に男と距離を取るルナサの胸を追いかけるように、男
の中年太りした体がもそりと動き出す。
「えっ、やっ誰、何、えっあっ……」
「何も心配しなくてもいいんだよルナサ、俺に任せて、ねっ」

6

 混乱しながらも、迫る男から逃れるべく上体を起こして後ずさるルナサは必死の形相だ
った。ここまで来て漸く、彼女は自身の置かれている状況に気づいたらしい。
「ちょ、ちょっと待ってっ、なんで部屋に男の人が……! だ、だって私、イヴで皆と乾
杯して、それから……」
「今日のルナサは、イチャラブするために俺の部屋に来たんだぞ。発情しちゃって、ルナ
サったら悪い子なんだから」
 意味不明な台詞を続ける男を前に、ルナサは更に後退を続けていた。と、コツン、と彼
女の背に何かが当たった。
 壁。絶望に顔を歪めるルナサを余所に、男の手は彼女の股間へと伸びる。その指先が秘
裂に触れるか触れないかというところで、ルナサは慌てて身をひねった。
「……っもう、訳がわかんないっ、なんで壁抜け出来ないのっ、だ、大体この服は、っあ
ああああっ!」
 言葉半ばに、ルナサの華奢な体がビクンと跳ね上がった。男の爪が秘唇にちょんと触れ
ただけだというのに。彼女は信じられないという顔で男を睨みつけた。
「あ、あなた一体何をっ……どうして、こんな、び……敏感に……!」

7

「それはきっと、クリスマスの奇跡だぞ。よし、感度抜群なルナサのおまんこに、そろそ
ろ種付けしちゃうぞ」
「なっ、そんなご都合主義なことあるわけ……っつあっ、い、嫌ぁっ♥」
 少女の身体へ再び男の腕が伸びる。ルナサはどうにか背を向けてそれを避けようとする
が、壁があっては結局は同じことだった。部屋の隅を向いた状態で拘束され、肉付きの良
い尻に男の野太い指がむっちりとめり込む。たったそれだけのことで甘い声を漏らしなが
らルナサの秘所は湿り気を帯びていく。男の言う通り、それが聖夜の奇跡によるものなの
かどうかは分からないが。
「うわぁ、ルナサったら痩せてるのにお尻はムチムチなんだねぇ……それに後ろを向くな
んて、種付けプレスよりバックでガン突きされるのが好きなのかなぁ? でも、ルナサと
いっぱいおまんこして妊娠させるための体位は予め考えておいたんだ」
「や、やめなさいっ、冷静になってっ……! 妊娠なんて、ぜ、絶対駄目ぇ……!」

8

 少女の尻肉へ指を埋めたまま、男は壁から数歩後ずさった。ルナサは動くことも出来ず
ただズルズルと引き摺られ、男の用意したという子種を植え付けるための姿勢へと体を弄
ばれる。絨毯の上へうつ伏せになる騒霊の火照った裸体。
「ほぉら、寝バックだよ? そのためにホットカーペットも準備したんだ。ルナサが疲れ
ても、ずっとずっと子宮にザーメン注ぎ込んであげるからねぇ」
 猫撫で声で語りながら男はルナサの身体の上へ覆い被さっていく。勃起しきった赤黒い
男性器が雌肉の割れ目へと触れ、くちゅりと粘質な音を立てた。これから始まる激しい性
交を嫌でも予感させる、淫猥な響きが部屋の空気を震わせる。
「本当にだめっ、だめだからぁっ……! そんなのっ、あの子達になんて言えば……!」
 ルナサは侵略者を振り落とそうと必死に身をよじらせるが、既に身を沈め始めた男の体
重に阻まれそれが叶うことはなかった。いや、ルナサは既に本気で男を振り落とそうなど
と考えてはいないのかもしれない。発情済みの身体は本能的に雄の熱を求め始めていた。

9

「うん、そうだねぇ、リリカちゃん達にも恋人交尾しちゃいましたって孕ませ報告しない
とねぇ。よし、じゃあまずは勃起チンポ挿入しちゃうからね、ルナサっ」
「だめっ、こ、交尾なんてだ、っめえええええええええっ♥」
 言葉とは裏腹に、ルナサの割れ目はぷしゅぷしゅと愛液を吹き出しながら醜い芋虫のよ
うなペニスを貪欲に飲み込んでいく。男の汗ばんだ脂肪とルナサの尻肉がみっちりと密着
する。彼女の秘穴が雄の肉を甘く迎え入れるまでに、そう時間はかからなかった。
「あう……♥ おちんちん、ほんとに挿れられひゃったっ……。は、孕ませ交尾、されひ
ゃうぅ……♥」
 ルナサは何処かうっとりとした口調で呟いた。イブの神威が彼女の精神までをも変質さ
せてしまったのか、過度の快楽に心が屈してしまったのか。どちらにせよ、それが男を悦
ばす結果となっているのは間違いなかったが。
「お、ふぅ……。る、ルナサの中、あったかくて気持ちいよぉ……。エヘヘ、今からルナ
サお望みの孕ませ交尾、してあげるからねぇ」

10

 男の囁きに応じるようにルナサの肩が小さく跳ね上がった。同時に、少女の恥穴はとろ
りと欲望の雫を滴らせて雄との交接を自ら促してしまう。己の分身を通してそれを知った
のか、男はニヤニヤと笑いながら続けた。
「へへっ、ルナサのおまんこもこんなにおねだりしちゃって……ほら、本気ピストンっ、
いくよぉっ」
 脂太りした男の尻が持ち上げられた。肉に埋もれていた陰茎が卑猥な水音を立てて姿を
見せる。亀頭が見えるか見えないかというところまで引き摺り出された男根。と、限界ま
で掲げられたはずの尻が更にひょいと跳び上がった。
 次の瞬間、パジュン、と部屋中に湿った破裂音が響き渡った。そして、ほぼ同時に上が
るルナサの下品な嬌声。
「ひぅっ、おおうぅっ!♥ う、あ、な……何よこ、っれぇ……!」
「はーっ、やっぱり恋人同士で体の相性抜群なんだねぇ……じゃあ今度は連続で頑張るねっ」
「やっ、だめっ、それだめらからっ、お、ふおぁっ、ほおぉっ♥」

11

 蕩けた声で叫ぶルナサへ追い打ちを掛けるように男の尻がのし掛かった。つがいの腰同
士が、贅肉と尻肉がブルンブルンと揺れながらぶつかり合う。小気味良いリズムで刻まれ
るクラッピングへ更に少女の喘ぎが加わり、聖夜を彩る二重奏へと展開していく。
「んふっ、ほッ、ふンッ……! るっ、ルナサっ、どうだいっ、気持ちいいだろっ、おほぅっ」
「ぅん……っへああっ♥ きもひくなん、っ……て、ぇ、あぅっ! ひんっ、ぁ、らめっ、
つっ突かないれえっ♥」
 男の情熱的なピストン運動が続くにつれ、閉じていたルナサの両脚は次第に開いていく。
無意識の内に男へと身体を許していく。雄への服従の姿勢。理性を、常識を、そして何よ
り少女に眠るオンナそのものをドロドロに溶かし尽さんと男の腰はなおも執拗に上下を繰
り返す。
「んッんふふっ、おまんこガン突きされちゃうとっ、ルナサはどうなっちゃうンッ、のか
なぁっ? ンんぅ?」
「そっ、そんなの……っ、そんな、のぉ……っぉひああぁっ♥」
 口ごもるルナサの口を上下共に抉じ開ける勢いで男の動きが激しさを増した。

12

 有無を言わさぬ責めの連続に耐え切れるはずもなく、ルナサはあっという間に口を開い
てしまう。少女の心も肉体も、既に交合する雄へと完全な屈服を示していた。
「言うっ言うわっ、いっ言いますからやめっ、へぇっ♥」
「うんうんっ、ルナサがそんなに言うならしょうがないから聞いてあげるねっ」
「ちっ、ちんちんズポズポってっ、ぁふっ、そっそんなにされひゃ、ぁあんっ♥ あたまっ、
変にっ、へんになっひゃうんでうぅっ!」
「そっかぁっ、だからさっきからっ、ルナサったらアホな声ばっか出してるんだ、ねッ」
 蔑みの声と共に深々と肉間に突き刺さる男の槍。ルナサはあたかも酸欠の魚のように口
をぱくぱくと開閉させ、間の抜けただらしない声を漏らすことしか出来ない。
 やがて大振りに抽挿されていた男の腰の動きは、小さく、深いものへと変化していく。
勿論それが意味するのは男の疲弊ではなく、当然迎えるであろう生殖行為の一つの結末だ
った。
 ルナサの顔色がさっと変わった。絨毯に擦り付けられていた涎まみれの横顔に、焦燥と
期待の入り混じった困惑の表情が浮かぶ。

13

「ぁ……!? だ、っめぇ、それはっ、それだけはっぜったいだめえっ!」
「えヘッ、ルナサちゃん、よく言わなくても分かったねぇ……っ、ああ、おちんぽの膨ら
みで分かっちゃったかなぁ? よしっ、じゃあそろそろルナサに赤ちゃんの種っ、いっぱ
いご馳走してあげるからねえっ」
 男は膨れ上がった肉塊が押し付ける、いや、押し潰すように女の最奥を圧迫する。
 刻一刻とその時は近づいていることを男も、そしてルナサ自身も動物的に理解している
のだろう。意識せずとも自然と脚が閉じて膣内をきつく締め上げる。更にはその肉襞の一
本一本がオスへと絡み、子宮の口が竿の先端へちゅるりと吸い付いていく。洒落たカフェ
テラスで女子大生がストローへと口を添えるような、当たり前の動き。
 そう、雌が雄に孕まされるための動きだ。あまりに自然でありふれた動機によって鈴口を
覆った少女の口は、種の取りこぼしのないようにその瞬間に備える。全ては雄を迎合して
子を孕むために。
「お、くっ、うううぅっ……♥」
「ンッ、おまんこ締まってっ、おあっ、あっく、ルナサッ、イッ、イっくよおおおおっ!」

14

 やがてその勢いも小さくなっていき、男が再びぶるりと身震いしたのを最後にそれは完
全に途絶える。
 そして、一瞬の沈黙が落ちた。聖なる夜を淡く彩るのは、二人の息遣いだけだった。
 電熱で温まった絨毯から顔を上げて、ルナサは虚ろに呟いた。
「……お、おわった、の? これで、リリカ達と、また、会える……そう、冷静に、パー
ティしなきゃ……」
 時折身体をびくびくと痙攣させながらも、ルナサは男の下から這い出そうと懸命にもが
く。あまりにも頼りなげはその動きは生まれたての子鹿にもよく似ていた。
 そして、遂に男の太茎が抜けるか抜けないかというところで、彼女の動きはピタリと止
まった。いや、止められたのだ。彼女の尻を鷲掴みにする丸々とした十本の指。
「ぉ……おねがい、許して、もう、無理、これ以上は、だめ、なの……っ」
「いやあ、まだ、一回しただけじゃないかぁ。今日まで一ヶ月間オナ禁してきた精子で、
まだまだ何十発でも妊娠するまで受精交尾してあげるからねっ、るーなさっ」
「ぅ、あ、ひぅぅ……♥」
 床に伏せたルナサは泣きそうに、しかし何処か媚びるように顔を歪めた。

15

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 十二月二十五日、クリスマスの朝。うつ伏せに寝ていた男はあの人型クリスマスツリー
の装いのまま目を覚ます。起きてすぐに彼は辺りを見回したが、部屋にはいるのは彼一人
だった。
 昨晩男が一方的な愛をぶつけた少女の姿は、もうない。
「……来年のイヴまで生きる理由が出来てしまったぞ……きっと来年にもまたルナサに会
えるんだぞ俺。俺と、ルナサと、大五……じゃなくて二人の子供と過ごすイヴの夜……」
 男は電飾を剥がしながらぽつりと呟いた。
「あ痛っ、胸毛が抜けて痛たたたっ」
 クリスマスの朝。窓の外には雪がちらつき始めていた。

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