1

「あっ、いたいた。こんな境内の裏まで掃いてらしたんですか?」
温かいお茶を煎れて来てくれたのは、ここ守矢神社の風祝、早苗さんだった。
「今夜は冷えますよ。もうじきご飯が出来ますし、そろそろ切り上げてくださいね」
言われてみればもう真っ暗だ。分厚く垂れこめた暗雲からは、一条の月光も差さない。
「うふふ。これだけ綺麗な境内なら、神奈子様も諏訪子様もお喜びになりますよ」
そう、この念入りな境内の掃き掃除は、あのお二方に対する感謝の証だった。
何しろあのお二方は、僕たちに気を利かせて、一緒に出払ってくれたのだから。


外の世界の暦に従うのであれば、今夜はクリスマス・イヴだ。
思い返すのも忌々しい、街中の雑踏という雑踏が浮き足立ったあの空気。
家族で祝うのも億劫になり、部屋で独りゲームをしながら涙をこぼしたこともある。
だが、今年は。今年こそは、この夜こそは、そんな苦い思い出と決別するのだ。
僕はそんな決意とともに、もらったお茶を飲み干した。

2

ささやかなパーティーも終わり、早苗さんが紅茶を淹れてきてくれた。
「楽しいパーティーでしたね……」
普段から割と饒舌な早苗さんにしては簡素な、それでいて実感のこもった一言。
彼女の手作りのご馳走を頂き、プレゼント交換をして、ゲームをして、ただ話をした。
明日死んでも悔いはない。心からそう思えるほど、楽しいイヴだった。
「あ、それじゃあそろそろ、プレゼントを開けませんか?」
素直にこれに応じ、渡された包みを開ける。ガサガサという音が、しばし居間に響く。
「わあ……! これ、ストールですね。色も柄も落ち着いてて、大人っぽい……」
どうやら気に入ってくれたらしい。里でこっそり探した苦労も報われたというものだ。
……もう少し落ち着いた性格になって欲しい、という密かな願いは内緒にしておこう。
さて、一方の早苗さんは何をくれたのだろうか――
「えへへ……マフラーです。頑張って編んでみました!」
試しに巻いてみる。ほつれた糸で少しチクチクしたが、とても温かいマフラーだった。

3

――静かな、夜だった。
見れば曇りガラスの向こうは雪の山。この静謐は雪のためだったらしい。
「わあ……ホワイトクリスマスですね……」
早苗さんがうっとりと雪を眺める。僕も肩を並べて、一緒に白一面の境内を眺める。
「不思議ですね……雪なんて見慣れていたつもりなのに……」
――もし。もし、あえて自惚れたことを言わせてもらえるなら。
彼女にとって僕は、一緒に雪を眺めて、特別な気分に浸れる相手だということになる。
「……そうですよ」
きゅ、と手を握られる。彼女の手はやや冷たいが、不思議なぬくもりがあった。
「でも、別にクリスマスだからじゃないです。あなたがいるから……幸せなんです」
とん、と肩に頭を預けられる。女の子の香りが、嫌でも鼻腔をくすぐっていく。
肩を抱く。――微動だにしないということは、心構えが出来ているのだ。
ぎゅっ、と強めに抱きしめると、両脇から伸びた細腕が、僕の体を抱き返した。

4

「んむ……っ。は……ん、ちゅる、ちゅく……」
コタツをどけて敷いた布団の上、僕と早苗さんは夢中になって絡み合う。
指を絡め、脚を絡め、舌を絡めて――触れたところが溶け合うように気持ちいい。
「あん♪ おっぱい……そんなに吸ったら、また大きくなっちゃいますよぉ……」
つんと尖った乳首は、歳の割に豊満な乳房の上で、いやらしく自己主張している。
「ん、んっ! あん、んふ、ん、んぅ……っ♪」
指の腹でつまんで、しごいて、転がせば、その度に彼女は声にならない嬌声を漏らす。
「も、もう……やってくれましたね。お返しです!」
すでに赤熱しきっていた剛直を、がっちりと握り締められ、思わず変な声が出た。
「ふふっ、えっちな声ですね。でも……私だって負けてはいませんよ。ほら……」
空いた手に手を添えられ、誘導された先で、指先に、彼女の水源が触れた。
「ねえ……どっちがよりえっちなのか、くらべっこしてみませんか……?」
にゅるると呑み込まれていく指先を微妙に曲げると、それだけで彼女は軽く絶頂した。

5

「あ、ああああぁぁぁ……♪ こ、この格好……深いぃ……♪」
最初に正面から抱き合ったので、少し趣向を変えて、後ろから挿入する。
熱く湿った早苗さんの秘芯は、ゆるゆると――やがて根元まで僕を呑み込んでいた。
「あ、当たってます! 敏感なところ、吸い付いて……ジンジンって……♪」
よほど気持ちいいのだろう。彼女の中は、痙攣にも似た収縮を繰り返している。
動くよ、と耳元で囁いて、それから、ひと息に突き入れた。
「うあああっ♪ あ、ひ♪ いい、いいですっ♪ 奥えぐられるの、いいですっ♪」
この態勢がよほど気に入ったのか、彼女は枕に顔を埋めつつもしきりに喘ぐ。
「は、はやく、くださいっ♪ これ、だめっ♪ 病み付きに、なっちゃうからぁ♪」
初めて見るような彼女の痴態は、普段の姿とのギャップが、あまりにも大きくて。
「あああっ♪ あ、出たぁ……奥の方、じわじわ熱くなって、気持ちいい……♪」
とくん、とくんと、彼女の鼓動に合わせて、肉襞が蠕動を繰り返す。
その衝撃的なまでの快楽に、僕は続けてもう一度、そのまま中に射精していた。

6

「やぁ……。私、どこを触られても気持ちいいなんて……」
二度にわたる膣内射精が効いたのか、心身ともにすっかり発情しきっている。
満足させるのは骨が折れそうだが、僕にやれることなんてひとつしかない。
「あ、そこ……♪ こ、んどは……前から……♪」
がっちりと抱き合う形の正常位だ。早苗さんの可愛らしい吐息が、よく聞こえる。
「あ、あああ……♪ こ、この格好……うそぉ……子宮に、あたって……♪」
彼女のカカトを両肩に載せるようにして覆いかぶさると、挿入の深さが増していく。
正式名称は知らないが、種付けプレスなんて呼ばれている体位だったと思う。
「うああっ! ふあ……体重の乗った突きで、奥えぐられるの、しゅごいい……」
首の後ろで足を掛け合わされ、首っ玉に抱きつかれる。完全な、子種の受入態勢――
「い、イク、イクぅ! 奥が、射精で、しびれて……ひあああああああああぁぁっ♪」
蠕動と呼ぶのも生ぬるい、もはや咀嚼に等しい膣内の運動が、容赦なく搾り抜く。
最後にまったりと舌を絡め合って。僕たちは、気絶するように眠りに落ちた。

7

「……。あ、やっと起きましたね? もうお昼になりますよ」
上体を起こして頭を振る。……昨夜の出来事が、どんどん思い出されてくる。
「昨夜はすごかったですね……。あの勢いならもしかすると、もしかするかも……」
――できるのだろうか。守矢神社の跡取りが。
知らずに明るくなる僕とはうって変わって、早苗さんの表情はあまり明るくない。
「いえ……私、半分は神様じゃないですか? だから、その……できにくいそうです」
あれほど頑張ってもダメとなると、なかなか厳しいお役目かもしれない。
「なので、その……。よろしければ、なんですけど……」
彼女はおもむろに枕元にひざまずくと、恥ずかしそうに耳打ちしてきた
「できたって判るまで……これから毎晩、してください……」

早苗さんの肩には、昨夜あげたストール。
よく似合っていると僕が言って、彼女がにっこり微笑んで。
そんな幸せを実感した時、僕は過去の自分を想って、一粒だけ涙した。

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