Ep1. Banish |
ホタル | え……猫、さん? 貴方は…… だ、誰、ですか……? |
黒猫 | ふふっ。はじめまして。私は見ての通りの猫ですよ。カエデというの。よろしくお願いしますね。 |
ホタル | あ、わ、私は、ホタルといいます……よろしくお願いします…… |
カエデ | ホタルちゃんね。見たところ、天使さんかしら?こんな所で何を? |
ホタル | えっと……私、まだ見習い天使で……天界で仕事をしながら、正天使になるための勉強をしていて……。 |
カエデ | そう、見習いさんなの……。 |
ホタル | あ、でも……さっき天使長のトキコ様に「見習い以下」って言われて……天界からここへ落とされてしまって……。 |
カエデ | まぁ……何かしたの? |
ホタル | それは……あの、私……少し、悩んでて。 |
カエデ | よかったら聞かせてもらえるかしら? |
ホタル | は、はい……。あの、天使の役割の一つに、人間の祈りを聞くという仕事があって…… でも、私、みなさんの声を聞くのが苦しくて……。だって、聞くだけで……何もできないから……。 |
カエデ | ……。 |
ホタル | 祈りの間に届く、人々の声は、どれも澄んでいて……でも、時々すごく悲しそうで…… だけど私には、彼らを救う力はなくて……。私って、なんなんだろうって……。 |
カエデ | ……そう。ホタルちゃんはとても、心根が優しいのですね。 |
ホタル | 優しい……のかな。トキコ様は、私が逃げてるって……。 |
カエデ | 天使長様の立場としては、そう言うしかないのではないかしら? まぁあの天使長のことだから、少しキツめには言いそうよね。ふふっ♪ |
ホタル | え……? |
カエデ | それで…ここへ落とされてしまったのですね。この『境界』へ。 |
ホタル | そう……そうなんです。話には聞いていましたが、ここには本当に何もないんですね……。 鳥が歌い、花が咲く……美しい天界とは、何もかもが違う…………。 |
チヅル | そろそろお茶の時間にしようか。 |
ヤスハ | そうだね。いっぱい勉強したし、ひと休みしよう。 |
ノノ | 私は……へとへとです……。上官が……厳しくて……。 |
ホタル | 私も…………。でも、ここに来ると元気になれます……♪ |
ヤスハ | お花に囲まれてると、幸せな気持ちになるよね♪ |
チヅル | でも、ちゃんと勉強して、上官にも認められないと、正天使にはなれないし。……頑張ろ? |
ノノ | はい。私は出世して、家に引きこもっても誰にも何も言われない地位を……いつかきっと……。 |
ヤスハ | もう、ノノさんったら。ふふっ。 |
ホタル | ……。 |
ホタル | ……。 |
カエデ | ……大丈夫ですか? |
ホタル | え?あ、ご、ごめんなさい……。天界のことを思い出しちゃって……。 |
カエデ | 寂しいの?私が慰めてあげましょうか♪ |
ホタル | わっ、しっぽが……くすぐったい♪ |
カエデ | 撫でてもいいですよ?不安な時に猫を撫でると落ち着くでしょう?今だけ特別です♪ ……それにしても、これからどうするの?ここで無防備にぼうっとしてると、悪魔に魅入られちゃいますよ? |
ホタル | 悪魔……そうでした。悪魔もいるんですよね……。 そういえば、カエデさんはここで何を……? |
カエデ | 散歩です。猫ですから♪ |
ホタル | 散歩……あの、一緒についていってもいいですか……?独りは……怖くて……。 |
カエデ | 怖い……では、コホン。境界に行くのは、今日かい?なんて……♪ |
ホタル | えっ? |
カエデ | ふふっ♪肩の力は抜けたかしら?さあ、行きましょうか。 行き先を決めない、気ままなお散歩でよろしければ♪ |
ホタル | カエデさん……ありがとうございます。よかった……♪ |
カエデ | せっかくですから、境界を案内してあげますね。といっても、見ての通り何もありませんが。 |
ホタル | 助かりますっ!お願いします……! |
カエデ | では、一名様をご案内……♪ |