夢はごくありふれた生理現象であると同時に、まだまだわからないことの多い謎めいた分野でもある。本文でも書いたように筆者は、ひょんなことからその世界を現実のように体験し始め、最後には自由自在にコントロールするまでになってしまった。
夢見は、さまざまな神秘的行法の中では、わりにやさしいものの一つといえる。極端にいえば万人が大した準備なしにすぐにでもやれるトレーニングなのだ。またその効果も、他のものに比べ速くいちじるしい。本気でやれば筆者ぐらいの程度にはすぐなれるのである。筆者とて本文に書いたように仙道の修行をしていて、その副産物として、それこそ寝ながらマスターしてしまったのである。もちろん難しさもある。しかし、それはテクニックの面というより、心の持ち方といった全く別の点からの問題なのである。具体的にいえば、夢がどんなにリアルであっても、予知的、暗示的なものであっても、決してそれにとらわれてはいけないということである。そうしない限り、夢見は必ず恐ろしいものへと変わっていってしまう。夢見にとって最も大事なことは、夢を受身なものとして見るのではなく、能動的に働きかけ自分の思うとおりに変えていく点にあるのだ。
尚、この本で示したテクニックの一つ一つは、筆者が体験から導き出したものが多いが、なかには古来より伝わるものも混じっている。しかし一冊の本として初心者向きに、これだけ整理体系化したものは、今までない。もちろん心理分析の立場から夢のコントロールを書いたものは何冊か出ている。けれども純然たる神秘的行法の実践という面から現代人向きにそのコントロール法をこれだけ詳しく紹介した本は皆無なのである。
とはいっても、この本は、まだこうし分野のほんの先駆けに過ぎない。できればこの本に触発されて、チベット密教やインディアンなどの夢見の行をマスターされた方々が、より高くしかも深い段階のものを、その豊富な体験とともに紹介されることを願っている。
最後に、この本を制作するにあたって多大なお骨折りの労をとって戴いた共同著者の山梨賢一氏と編集長の太田雅男氏に感謝を述べたいと思う。